素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪28 神奈川「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」

ひと口に園芸店といっても、今やさまざまなスタイルのショップがあります。それぞれの個性が色濃く反映されたこだわりの空間は、ガーデニングのセンスを磨ける最高の場所。今回は、美しい小花たちに包まれた癒しの空間「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」を訪ねました。
目次
花と緑で包まれた
絵葉書のような美しいショップ
大きな公園や図書館など、緑が多い閑静な地域にある「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」。アメリカンスタイルハウスと、ファサードを覆うピンク×白の可憐なつるバラが目印です。その愛らしい佇まいは、まるで洋書の1ページのよう。


正面はリーフが美しい低木とつるバラの競演(写真は4月下旬撮影)。植物それぞれが、ほどよい存在感を放ちながら見事な調和を見せています。向かって左側はピンクのつるバラで、右側は白。ショップに入る前から、オーナーの杉山洋さんと真奈美さんご夫婦のセンスのよさがうかがえます。


二人三脚で叶えた
ショップ

1991年にオープンした「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」。センスのよさとご夫婦の人柄のよさは多くのガーデナーの憧れで、遠方からわざわざ来る人も少なくありません。
オーナーの杉山家はもともとナシ農家でしたが、後継ぎであるご主人の洋さんがシクラメン栽培をスタート。けれどそれだけでは飽き足らず、ハウスの一角にギャラリー風の苗売り場を設置しました。そして、次なる構想を練っている最中に真奈美さんと出会い、洋さんは力強いパートナーを得たのです。

しばらくすると、ギャラリー風のショップでは手狭となったため、新たなショップに建て替えを計画。夫婦でどんな建物がいいかなどの検討を重ねた結果、デザインとコストの兼ね合いで、このアメリカンスタイルに決定。「本当はグレーの倉庫のような男前の建物にしたかったんですけど、当時そのスタイルはちょっと早すぎましたね。でも、私は自然な草花が好きだから、それらになじみやすいアメリカンスタイルでも結果的にはよかったようです」と真奈美さん。柔軟な発想で、自身の世界観を見事に形にしていきます。

ナチュラルにバラが咲く
サンプルガーデン
建物脇のアーチ奥に広がる小さな空間は、ショップをオープンさせてから最初にしつらえたサンプルガーデン。リーフの緑とバラの白でまとめられた、瑞々しいスモールガーデンです。長方形の自然石が敷き詰められた床面にバラが絡むパーゴラで構成した空間は、ロンドンの中庭のような佇まい。パーゴラの下に置かれたチェアに座ると涼やかで、居心地がとてもよい場所。

はじめは園芸に興味がなく、洋さんの手伝いをしている程度だった真奈美さん。初歩的な草花の名前も分からないレベルだったとか。けれど、生命力あふれる植物の健気さや美しさに触れるにつれ、庭づくりの世界に強く引き込まれました。その頃ちょうど創刊されたガーデン雑誌の誌面を彩るイギリスの庭などに魅了されたこともあり、真奈美さんのガーデニング熱は一気に加速。今の「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」の基礎が形づくられていきました。



右上/淡いブルーの小花が清楚な、オンファロディス‘ニティダ’。比較的短命な宿根草。
左下/グリーンの植栽の中にしのばせたグレーのポット。この無造作感が◎。
右下/小さな花を下げる斑入り葉のナルコユリ。奥の花壇を涼やかに彩っている。
ナチュラルな庭づくりに
ぴったりな草花苗がたくさん
真奈美さんが夢中になって読んだ園芸雑誌や洋書などに出てくる花壇の花は、インパクトが強いものが多かったのですが、ショップで販売しているのは、楚々とした草姿やニュアンスのある透明感あふれる花がほとんど。生産農家だけに、苗の状態も抜群です。



ベランダなど小さな空間でも真似できそうなコーディネートが盛りだくさん。ブロカントとアジサイが印象的な北欧の庭を思わせるシーンは、シック好きなガーデナーにはたまらない組み合わせです。人気のアジサイは西洋種に加え、ヤマアジサイ、枝垂れる新品種など品揃えも豊富。

見どころ満載
多彩なシーンで構成された庭
敷地内のガーデンには、ぬくもりあふれる手づくりの構造物やあしらいが点在。見どころがたくさんあるので、近隣に住む人の散歩コースにもなっているのだとか。
「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」にこんなにも人が訪れるようになったのは、ブログやSNSを始めたことがきっかけで、他店の人や生産者、お客様など多くの人との交流が生まれたことが大きく影響しているそう。「たくさんの人たちと知り合えて、みなさんの力を借りながらショップは成長してきたように思います。感謝でいっぱいですね」と真奈美さん。庭の構造物などを作る際にもいろいろな仲間が関わっているため、ガーデンは多彩な表情を見せています。

下右/友人たちが作って、はるばる遠方から運んでくれた小屋。

下左/石畳のような園路は真奈美さんのDIY。
下中/ハウスで生産しているビオラ‘夜空のムコウ’の、庭での試し植え。
下右/こぼれ種で増えたシレネ・フロスククリ。


ギャラリーのような
落ち着きのある屋内売り場
アメリカンハウスの中は、色を抑えた雑貨類が並ぶシックな空間。照明の明るさにもこだわった落ち着いた雰囲気です。ここはまさに洋さんの目指していた、ギャラリーのような園芸店。暮らしのセンスアップにぴったりなアイテムが揃っています。




北欧の暮らしをヒントにした
花屋が2020年秋にオープン!
敷地の一角にオープンした、ガーデニングコーナーとは趣が異なる切り花の店「Lucy Gray botanisk」。botaniskとはスウェーデン語で「植物」を意味しますが、ここでは切り花のみならず「植物のある暮らし」を提案。店内に並ぶ花は、外の売り場と同様、ナチュラルなものでいっぱいです。



右/カウンターに並ぶおしゃれなビンは、伊豆のバラ園で作られたバラジャム。バラのシーズンにだけ販売している。



植物の力で心癒やされる
ショップを目指して
花がある心地よい生活をトータルで提案する「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」。「ここにいると癒やされるって言われることが一番嬉しいんです」と笑う真奈美さんの目指すところは“癒やしの場所であること”。以前、お母さまを看病していたときに感じた病院の殺風景さや、闘病している友人が植物から大きな力をもらっている様子を目の当たりにしたことで、「現在、緩和医療学の中にどう植物が取り入れられているか」に興味を持ち始めました。

大学に再度入学して日本の福祉とターミナルケアについて勉強した真奈美さん。卒論で緩和医療の現場における園芸療法の取り組みについて調べると、現場で植物を取り入れる難しさを目の当たりにしました。これを機に自分自身のショップを癒やしの場として提供することに強く意識を置くようになり、「植物で花好きな人々を元気に──」という思いで夫婦ふたり、ショップを日々進化させています。

右/水彩画家・杉本理江子さんによる手描きのコットンバッグ。いろいろな絵柄が揃う。
杉山さんのイチオシはコレ!
HAWSのジョウロ
杉山さんのおすすめは、人気の英国HAWS社のウォータリングカン。大きなサイズもありますが、屋内や小さなベランダにはこのコンパクトなものがぴったり。置きっぱなしでも飾っているように見えるのも◎。ステイホーム時だからこそジョウロにもこだわって、楽しく水やりをしてみませんか?


右/HAWSヘリテイジカン1L。
植物の瑞々しさとオーナー夫妻の飾らない人柄に魅せられ、多くの人々が訪れる「Lucy Gray(ルーシーグレイ)」。2021年9月現在、敷地の一角にエディブルプランツのポタジェなどの新しいコーナーを造作中です。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、小田急線・湘南台駅より徒歩約8分。
【GARDEN DATA】
Lucy Gray(ルーシーグレイ)
神奈川県藤沢市湘南台7-23-1
TEL:0466-45-6565
営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜日
http://www.lucygray.net/intro.html
Credit
写真&文/井上園子
ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
写真協力(※)/Lucy Gray
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