素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪25 埼玉「玄蕃ファーム」

ひと口に園芸店といっても、今やさまざまなスタイルのショップがあります。それぞれの個性が色濃く反映されたこだわりの空間は、ガーデニングのセンスを磨ける最高の場所。今回は、森の中の隠れ家的な存在のCAFE & GARDEN「玄蕃ファーム」を訪ねました。
目次
せわしない日常から
離れられる格好の場所
田園の中を走るまっすぐな道沿いに突如現れる、小さな雑木林を背に広がる玄蕃ファーム。うっかり通り過ぎてしまいそうな場所ですが、歩道に沿って植わる木々と花々の合間からのぞく看板が目印です。


ショップの入り口も木々に覆われ、まるでどこかの高原にでも来たような雰囲気。二股に分かれた園路のつくりを見るだけで、店主のセンスのよさが分かります。


ショップに入ってすぐの右側に広がる、宿根草や鉢物コーナー。葉色が美しい樹木やパーゴラなどの構造物で重層的な風景を描き、奥の庭への期待感を高めています。
イギリスの田園風景への憧れから
誕生したメルヘンな空間
スタジオジブリの映画のワンシーンのような風景が広がる玄蕃ファーム。この店は、オーナーである武正祐二郎さんが「ここを訪れる人たちに、豊かな田園生活を感じてほしい」という思いを込めて、約20年前にオープンさせた園芸店です。「玄蕃(げんばん)」とは、江戸時代にこの地(埼玉県加須市大越)に居を構えたご先祖様の名前からとったものだとか。代々大切に受け継がれてきたこの土地への愛情がうかがえます。

売り場ももともとは雑木林でしたが、ショップをオープンさせるために、祐二郎さんは、奥様と友人の力を借りながら約2年がかりで開墾し、庭らしく整えていきました。

ショップを始める前祐二郎さんは、なんと庭や植物とは関係のない会社勤めのサラリーマン。海外出張が多く、各国の美しい風景や人々の暮らしを積極的に見て回っていました。その中で最も強く心惹かれたのは、イギリス・湖水地方の田舎の風景と庭。おとぎ話に出てくるようなシーンが続く、イギリスの街並み。古い家に手を入れながら、大切に住み続けているイギリスの人々の暮らしは、忙しい日々を過ごしている祐二郎さんの、まさに理想とするものでした。

日本で同じような時間を過ごすには…と考えた結果、思い切って早期退職。自宅の前に広がる雑木林を利用して、ショップをオープンさせることに決めたのです。

一念発起してショップづくりに心血を注いだ祐二郎さん。子どもの頃から植物や生き物が大好きだったので、このような庭づくりは、自身にとって自然な流れでした。当時はまだ50代はじめだったので、友人の力を借り、自身も楽しみながら店・庭づくりに専念。おとぎ話が暮らしの中に溶け込んでいるイギリスのエッセンスを、日本の景色にバランスよく取り入れていきました。10年ほど前から、息子の純一さんの若い感性が加わり、多彩に進化し続けています。
【雑木のエリアでのあしらいにZoom Up】

左/小鳥のオーナメントと一緒に飾ったバードバス。陽光が水にキラキラと反射している。
中/自然石の園路の中央に石臼を据え、面白みを出して。苔むした水鉢が情趣を添えている。
右/下草の茂みの中に、ウサギやリスのオーナメントがちらり。ストーリー性が感じられる空間に。

左/トキワシノブとフウランを植え付けたボール状のヘゴ材から、トキワシノブを植えた小さな壺を下げて、2段仕立てに。
右/錆びた蹄鉄を2連、枝から吊して、フクシアのブラケットに。

半日楽しめる
回遊式のガーデン
玄蕃ファームは、時計のついた建物とガラスハウスを軸に、回遊できるようにデザインされています。雑木のゾーン以外は、陽がたっぷり注ぐ明るいガーデン。エリアによって、趣ががらりと異なります。


雑木のゾーンには日陰の植物の苗が並んでいますが、隣のエリアは緑陰を利用して、半日陰を好む、楚々とした季節の山野草類の売り場です。苗の横には鉢植えの見本鉢が配されています。「自分の手で見本鉢を育てることは、お客様にどのように育つのかを見ていただくだけでなく、自分にとっても勉強になるんです」と純一さん。「お客様に分かりやすい」が第一のモットーだそう。



遊び心満載の売り場には
心が喜ぶシーンがたくさん

回遊できるショップ内には、見どころが満載です。しっとりとした雰囲気の中にユニークな仕掛けが潜む雑木のエリア同様、素朴でほっこりとするシーンが随所に散りばめられています。



下左/雑草も絵になる素材として生かしている。
下右/古い瓦を小さな排水溝として活用し、ナチュラルな雰囲気をキープ。

自然な庭づくりに欠かせない樹木類も充実しています。依頼すれば、庭木1株から配達・植え込みサービスも行っています(エリア限定あり)。

店の奥のほうでは、のどかな風景づくりにひと役かっているマスコットアニマルたちに出合えます。大人気のヤギは3頭いて、みんな女の子。以前は雄もいましたが、「どんなに高い柵を作っても飛び越えてしまうなどあまりにも暴れん坊なので、譲ってくれた人にお返しして雌3頭を飼うことにしました」と純一さん。名前は ‘ラン’、‘ラッテ’、‘ハナ’。いつもは小屋の中でのんびりしていますが、ときどき店の裏手で草を食んでいます。

多肉植物を屋根に載せた飼育小屋の中には、つがいのチャボと5羽の子どもたちが、にぎやかに暮らしています。大人も子どもも心なごむ場所です。

フロントエリアは、構造物で仕切られた変化に富んだゾーン。木製パーゴラの先に腰高の大谷石の飾り壁を設けて視線をストップし、奥への期待感を高めています。石を積んだ空間まわりにも、仕掛けがたくさん。
【フロントエリアでのあしらいをZoom Up】

右/大谷石で囲まれた6畳ほどの空間には、華奢なベンチが。どこかアートな雰囲気が漂う。

中/古い刈払機の刃を花台にして、セダム‘ライムジンジャー’の鉢植えをディスプレイ。
右/木の柱に紐をジグザグに引っ掛けただけの、簡単シンプルフェンス。視線の邪魔をしない優れもの。



廃材で建てたカフェで
手づくりのピザを味わって
時計がついた建屋は、玄蕃ファームのシンボル的な存在。これも祐二郎さんが知人の手を借りて建てたものです。まるで廃校になった小学校のように古びて見えますが、じつは建ててからまだ20年ほどしか経っていません。この雰囲気は、使う材料を廃材にこだわった、祐二郎さんの感性によるもの。イギリスで見た風景を、日本に合うようにアレンジしながら再現しています。



時計のついた建物の中はカフェ。素朴で愛らしい内装は、森の中のペンションに来たようなしつらいです。ここでは、純一さん手づくりのピザやスイーツが楽しめます。


ピザ窯は、2011年の東日本大震災直前に親子で作ったもので、「震度5強という揺れでも壊れなかったんですよ」と話す純一さん。以前はまったく違う世界の仕事についていて、植物にはほとんど興味がなかったとか。ほんの軽い気持ちで10年ほど前に入社し、園芸の勉強を開始、植物・庭づくりの世界の想像以上の奥深さに驚いたといいます。そして、日々の努力と、雑木林と共に育った心の中にある原風景のおかげで、今では「玄蕃ファームのような庭をつくってほしい」と、お客様から引っ張りだこの人気ガーデナーに。祐二郎さんの右腕であり、店長として活躍しています。

イギリスの田園の雰囲気を感じさせるのどかな店「玄蕃ファーム」。遠くから訪れる人も多い、心なごむ空間です。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、東北自動車道・羽生ICから車で約5分。
【GARDEN DATA】
玄蕃ファーム
埼玉県加須市大越865
TEL 0480-69-1231
営業時間:10:00~17:00
カフェは、10:30~17:00(ランチタイム 11:00~13:00)
定休日:2021年春より当面の間は、
「GARDEN:月曜のみ定休 CAFE:月~木曜 定休(祝日はどちらも営業)」
夏季・年末年始に休業あり(詳細は更新情報に掲載)
Facebook:玄番ファーム
Instagram:junichitakemasa
Credit
写真&文/井上園子
ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
新着記事
-
ガーデン&ショップ
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園 【1月の様子】
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台に、いよいよスタートしました。2024年12月には、…
-
宿根草・多年草
豪華に咲く!人気の宿根草「ラナンキュラス・ラックス」2025年おすすめ品種ベスト5選PR
春の訪れを告げる植物の中でも、近年ガーデンに欠かせない花としてファンが急増中の「ラナンキュラス・ラックス」。咲き進むにつれさまざまな表情を見せてくれて、一度育てると誰しもが虜になる魅力的な花ですが、…
-
樹木
春の花木「モモ(桃)」の育て方 花の特徴や品種を徹底解説
桃の節句と呼ばれるひな祭りの頃、花の見頃を迎える桃の木は、春の訪れを感じさせてくれる人気の高い花木です。今回は、桃の花の特徴や品種、桃の花をひな祭りに飾る由来、家庭での育て方をご紹介します。この記事…