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「ローザンベリー多和田」の開園物語と庭づくり 〜お客さまが憧れる庭をかたちに

「ローザンベリー多和田」の開園物語と庭づくり 〜お客さまが憧れる庭をかたちに

今年で10周年を迎える滋賀県のローザンベリー多和田は、コロナ禍の2020年も年間20万人以上が来園したイングリッシュガーデンです。「お客さまが喜ぶ憧れの庭、風土に合う本物の庭」を目指して庭の植栽やデザインを手掛けるガーデナー大澤惠理子さんに、人の心を魅了する庭づくりについて伺いました。

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専業主婦が8年かけて採石場跡を開発

開拓当時の元採石場
開拓当時の元採石場

JR琵琶湖線「米原駅」から琵琶湖の北側に広がるのどかな田園風景の中、車で15分。四方を山々に囲まれたイングリッシュガーデン「ローザンベリー多和田」があります。

園内は、バラと宿根草の庭や英国建築の建物、羊の牧場、レストラン、バーベキュー場などがあり、四季を楽しみながら1日中過ごせます。開園から10周年を迎えた現在、メディアでも多く取り上げられる人気のガーデンに成長しました。

しかし、ここまで至るには何度も自然の脅威にさらされ、その都度庭づくりを見直し、風土にあった植栽にし直したり、来園者が楽しめる仕掛けを行ったりと、努力を積み重ねてきました。

「ここは元採石場で、見渡す限り雑草に覆われた場所でした。硬い岩盤だったので、ブルドーザーを使ったり、大型重機で土木工事をしたり、庭づくりというより“開拓”からのスタートだったんです」と、オーナーの大澤惠理子さんは当時を振り返ります。

「昔から子育てが一段落したら何かしたいと考えていました。家族に相談したら『今まで家のことをしてきてくれたから、これからは好きなことをしたらいいよ』と言ってくれました。何をしようと考えたときに、子どものころから父親の庭を手伝い、自然に囲まれた環境にいたので、土や花と触れ合いたいと思ったんです」

そして、専業主婦だった大澤さんが挑んだのは、東京ドーム2.5個分の荒れ果てた採石場跡を開発し、観光庭園を建設するという、もはや「子育て後の余暇」をはるかに超えた大プロジェクトでした。この大事業を成し遂げるまでに、どれほど起伏にみちたストーリーが展開されたかは想像に難くありませんが、「取材でよく苦労話を聞かせてくださいと言われますが、大変なことはたくさんあっても、苦労と思ったことはないです。花と土が相手じゃないですか。だから最高に幸せでしたね」と大澤さんは穏やかに微笑みます。

自分好みの庭から、徐々に憧れの庭へ

開園当時の山野草や宿根草をメインにした庭
開園当時の山野草や宿根草をメインにした庭

周りを囲む山々や広大な調整池、昔からある立派なヒマラヤスギやサクラ。庭づくりの見直しは何度も行ってきましたが、その土地の景色に調和した庭をつくりたいという思いは開発当初から変わっていません。

「日本の田舎にどんなに美しいイングリッシュガーデンをつくっても、城やイギリスの建築物があってのイングリッシュガーデンですから、本場には勝てません。イギリスと同じ庭をつくるのではなく、この土地に昔からあるヒマラヤスギやサクラ、雑木を生かして、日本の田舎の風景に合う山野草や宿根草を入れたガーデンをつくろうと思いました」

開園当時は、子ども会や地域の団体が参加できるような体験型観光農園からスタート。

「私はタンポポやホトケノザ、スミレなど、世間でいう雑草が好きで、オープン1年目はそれにプラスして山野草や宿根草を植えていました。シャクヤクも山シャクヤクのみで、とにかく地味な庭でした」

オープンは9月。山野草や宿根草ではほとんど花が咲いておらず、来園者から「お金を払って来ているのに、花がないとはどういうことなの」という声を受けました。「実からタネまで花の一生を見ることができる庭にしたかったけれど、当時は誰にも受け入れてもらえませんでしたね」と大澤さんは振り返ります。

2年目からは来園者の好みを反映し、とにかく華やかな雰囲気の園芸品種を植えて花を増やします。3年目はバラやクレマチス、西洋オダマキ、アナベルなど華やかな雰囲気の花に加え、素朴でかわいらしい小花が咲く山野草も植栽しました。

バラが好きな来園者も、山野草の庭を見て「こういうお花も素敵ね」と新鮮味を感じているようです。こうしてそれぞれの花の魅力が際立つ庭になり、その後も試行錯誤を重ね、コニファーガーデンやキッチンガーデン、果樹園、山野草と宿根草の庭、シャガの庭など徐々にガーデンの特徴が明確になり、それぞれにファンができる庭に発展しました。

台風による倒木が植栽を変えるきっかけに

ローズガーデン
ローズガーデン

庭の方向性も決まり、順調に思われた2018年秋。大型台風で、園内の13本の巨大なヒマラヤスギが根っこからごっそり倒れてしまいます。幸い建物の間に木が倒れて、建物やパーゴラ、ガゼボなどに被害は出ませんでした。

「古くからある大木のヒマラヤスギに魅せられてこの場所を決めたようなものなので、庭づくりの原点でもあった大木が倒れたことに衝撃はかなりありました」

ところが、これが転機となります。今までは大木で日陰だった場所に日が当たり、四季咲きのバラを植えられるようになったのです。イングリッシュガーデンに華やかさが加わり、バラの植栽が広がっていきました。

庭づくりの工夫を潜ませ、ヒントを見つけてもらう

ウィッチフォードの鉢が並ぶ庭
ウィッチフォードの鉢が並ぶ庭

現在ガーデンには、四季折々の花が植えられた、たくさんの巨大な鉢が置かれています。鉢の8割は英国製のウィッチフォードを使い、風景にはイギリス本場のロートアイアンのゲートと、アンティークレンガを使用。これら英国の資材は日本の植物にもよく似合い、しっとり落ち着いた雰囲気を演出してくれています。

「資材も植栽も妥協せずお客さまが憧れる庭をつくらないと、せっかくお金を払って見に来てくれているのですから」と大澤さん。

資材までこだわった庭ですが、実はあえて完璧にはつくっていません。例えばクレマチスを誘引する柵は庭木を剪定した時に出る枝を使うなど、一般家庭の庭にも取り入れやすいアイデアを各所に潜ませているのです。憧れをかき立てる演出の一方で、身近な物も使っているから、真似がしたくなる。それが、来園者が何度も訪れたくなる理由の一つになっています。

感性を磨く環境は、庭づくりに影響する

感性を磨く環境は、庭づくりに影響する

花はもちろん、おしゃれなベンチやオブジェ、「ひつじのショーン」に登場する牧場主の家を再現した『ひつじのショーンファームガーデン』などの数多くのフォトスポットが用意されていたり、意外な場所に寄せ植えが現れたりなど、広大なガーデンは歩くといくつもの発見があります。

「お客さまに感動し喜んでもらうには、庭のシーンづくりの工夫は必要だと思っています」と大澤さん。花を育てるための専門的な知識があるのと、そうした美しい風景づくりは別のスキル。そのため大澤さんは、美術館などを巡り、庭以外の美しいものや芸術に触れるようにしています。

「私が子どもの頃、半世紀以上前には、この辺りでバラを植える人はいませんでした。ところが、いわゆる『ハイカラ』であった父は、バラを植えたり、芝生の庭に出て家族でごはんを食べたり、抱えるほどの笹ユリを採ってきて玄関や書斎に生けて香りを楽しんだりしていたので、季節を身近に感じる暮らしが日常でした」

こうした古い物と新しい物をバランスよく取り入れる暮らしで感性が磨かれ、庭のデザインに生かされているようです。

スタッフ一丸で考える、ローザンベリーらしい植栽

センターガーデンの中庭
センターガーデンの中庭
ウォールのイラスト
ウォールのイラスト

ガーデン部門のスタッフは主に社員3人、パート10人の合計13人。バラの咲く時期は、ほぼ水やりと草取り、花がら摘みの繰り返しです。1年で一番忙しいのは実は冬で、パンジーやビオラの花がら詰みといった日常的なメンテナンスに加え、菜園や花壇の土壌改良、株分けや植え替え、バラは剪定や誘引、寒肥など12月~2月にかけて済ませなければいけない作業が満載です。

植栽計画やデザインは大澤さんが一人で決定しています。デザインを考えるときは、現場に立って風景や空気を感じながら、図面ではなくイラストを描きます。イラストで色などのイメージをスタッフに相談し、それに合う花苗をスタッフが探してきてくれます。

「庭のイメージは私が決めていますが、ありがたいことにスタッフの皆が『この花は社長喜んでくれるかな』『これは好きやろ』『これは嫌いやから仕入れたらあかん』と考えてくれるようになり、少しずつ私の個性が表れ、それが植栽イメージの基準となってきました」と大澤さん。

植物のセレクトは庭のイメージを大きく左右し、簡単にやり直しもできないため慎重になる場面ですが、スタッフとの信頼関係で、「ローザンベリー多和田」らしさが築き上げられています。「今後は、私がいつか引退したときのために、しっかりと引き継がないといけないと思います」と大澤さんは未来を見据えます。

植物の一生を風情として楽しむのが人気

大澤さんのイラスト
大澤さんのイラスト

10年前はガーデンに華やかさが求められていましたが、ここ5年ほどで来園者の興味が変化しているようです。タカサゴユリの咲いた後の花柄だけの姿や、花のない時期にバラの誘引を見に来る人や、ドライフラワーのように茶色くなるノリウツギやアナベルを見て「花が付いているのを最後まで見ることができて素敵」と感じる人など、花の移り変わりを楽しむ人が圧倒的に増えたといいます。

「園芸の雑誌などでは花が終わったら切るように説明していて、書いているとおりに育てると葉っぱだけが残り、タネを見る機会がありませんよね。だから、タネが翁の髭のようになるから『翁草』と呼ばれることや、サルスベリは冬になったら落葉してタネが弾けて、殻がついている姿がきれいだと説明すると喜ばれます」と大澤さんは嬉しそうに話します。

求められるシーンを想定する

ひつじのショーン ファームガーデン

2018年の年間来園者数は約8万人。2019年3月に『ひつじのショーン ファームガーデン』をオープンして、約24万人に急増しました

「どうしたらお客さまが喜んでくれるか考えるのは、観光庭園にとって不可欠です。庭が主役の観光庭園だからといって、植物やデザインにこだわるだけでは不十分です。『ひつじのショーン ファームガーデン』を始めたことで客層が広がり、子どもから家族連れ、カップル、若い女性グループなど今まで来なかった人たちが増えました。このエリアは庭や植物に興味がない方にも喜んでいただけるものをとつくった庭で、写真撮影したりベンチに座っておしゃべりをして楽しそうに過ごす様子を見ると本当に嬉しいですね」

さまざまな客層にフィットするよう庭のあり方や楽しみ方のバリエーションを柔軟に広げてきた成果が、来園者数に反映されています。

2020年はコロナ禍で4月~GWに閉園したにもかかわらず、来園者数が約20万人を超えました。「閉園中はパンジーやビオラが一番きれいな時期でした。再開した時にさびれた雰囲気にならないように、良い状態をキープしようとガーデンスタッフは全員出勤して、花がら摘みや植え替えなど、毎日花の世話をしていました」とコロナ禍を振り返ります。こうした人目に触れない地道な努力の積み重ねが、愛される所以ではないでしょうか。

お客さまが喜ぶ美しい庭を目指す

フォトスポットにもなるポップな装飾
フォトスポットにもなるポップな装飾

ローザンベリー多和田といえば、シックな緑やグレーを基調にデザインされた大人の庭のイメージがあります。しかし10年目の今年は、イギリスのガーデンショーの雰囲気を意識してショッキングピンクの看板にしたり、水色のミニクーパーに花を植えたり、ポップな色使いで来園者を楽しませています。

「花を植えた場所だけではなく、丘に自生するヤマツバキも美しく姿が見えるように手入れします。自然に溶け込んで成長してくものを植えたいですね。段取り良くすみずみまで気配りできる施設にしたいです。お客さまに、『こんなところまで花が植えられている』という発見をして、喜んでもらえる美しい庭にするのが目標です」と力をこめる大澤さん。

風土に合わせ、上質なエンターテイメントにこだわりつくられたイングリッシュガーデン。来園者の憧れの庭がどう進化していくのか、今後の展開が楽しみです。

花の庭巡りならここ! 自然の恵みを五感で楽しめる、充実の観光ガーデン「English Garden ローザンベリー多和田」の記事もご覧ください。

協力

ローザンベリー多和田

ローザンベリー多和田(オーナー 大澤惠理子さん)
URL https://www.rb-tawada.com

Credit

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執筆/株式会社グリーン情報

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