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庭好き、花好きが憧れる、海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。今回旅したのは、コッツウォルズ地方の北部に位置し、園芸家のローレンス・ジョンストンによってつくられた、世界中から年間17万人もが訪れる名園ヒドコートです。

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ヒドコートの庭は、20世紀前半に、園芸家のローレンス・ジョンストンによってつくられました。ジョンストンはアメリカの裕福な資産家に生まれ、フランスや英ケンブリッジ大学で教育を受けた人物。その後、軍役で赴いた南アフリカの植物に強く惹かれ、園芸に興味を持つようになったと言われます。ジョンストンは30代半ばにヒドコートに移り住むと、独学によって庭づくりを始めます。そして、ガーデナー達と力を合わせて、屋敷の周りに広がる農地を次々と、独創的な美しい庭に変えていきました。20世紀、そして、現代の庭づくりに大きな影響を与えたと言われるこの庭は、現在は英国ナショナル・トラストによって管理されています。

コッツウォルド地方を巡るガーデンツアーでは、ヒドコートと、ここから歩いて10分程の距離にあるキフツゲイトの2つの庭を、よくセットにして訪れます。ヒドコートの主人ジョンストンと、キフツゲイトの女主人ヘザー・ミュアは、実際に花友だちだったそうで、一世紀近くが経った今も2つの庭が美しく保たれているのは、嬉しいことです。

さて、今回の訪問は、7月の中旬。バラが咲き始め、色とりどりの宿根草も丈高く伸び始める季節でした。ヒドコートの庭には、庭づくりのヒントがたくさん。細かいところにも注目しながら、庭を巡っていきましょう。

エントランスの建物を抜けると、緑の生け垣で仕切られたメイプルガーデンとホワイトガーデンから庭散策がスタートします。

緑の生け垣がつくる背景に、白のカンパニュラや優しい色のバラが引き立つホワイトガーデン。庭はきっちりと刈り込まれた生け垣によって、部屋のように仕切られています。生け垣や構造物を使って庭園を部屋のような小さめの空間に仕切り、それらの小さな「部屋」をつなげていくというスタイルは、ここヒドコートで生み出されました。

ホワイトガーデンの奥へ進むと、次にあるのはオールドガーデン。蜂蜜色のコッツウォルドストーンで建てられた屋敷を背景に、愛らしいピンクのバラや花穂を伸ばすジギタリス、紫花のゲラニウムが元気に茂っています。

特に支柱もなくナチュラルに茂って咲くパステルカラーの花々の競演に、目を奪われます。柔らかな日差しを受けて、花色がとても美しく見えます。写真にも花色がきれいに再現され、カメラの腕が上がったようで嬉しくなります。庭巡りには絶好のお天気です。

フーシャガーデンとベイジングプールガーデンをつなぐ階段は、鳥のトピアリーで飾られています。石造りの階段の手すりにはつる性植物が這わせてあるため、石材が庭になじんで見えます。

この階段を降りると、目の前に大きく丸い池が現れて、鏡のように周囲の緑を映し出します。

左は、複数の花色が混ざり合って美しい調和を見せる、群植のコーナー。右は対照的に、黄色いユリという単一の植物が、背景の緑の中に美しく引き立つ例です。
歩を進めるたびに出合う花々の美しい姿に、思わずため息が出ます。

日本では、大型のポピーのほとんどは栽培禁止になっているので、この美しい大きな花を愛でることができるのは、イギリスならではの貴重な機会です。ポピーに限らず、日本では流通していない草花もたくさん植えてあって、初めて見る植物を前に、これはいったい何の仲間だろうと、新たな興味が広がります。

小径や階段といった構造物のデザインも、英国ガーデンを観賞するポイントです。シンプルな緑の生け垣や植え込みなどで、周囲をすっきりとまとめている場所では、その分、構造物のデザインが凝っています。小径の丸いペイビングや、小口積みの階段の石など、オリジナリティがあって、庭づくりの参考になりますね。

ヒドコートの中でも、特に有名なレッドボーダー。サルビア、ダリア、バーベナといった赤い花々や、銅葉の植物を集めたこの庭は、盛夏に見頃を迎えます。7月はまだメンテナンス中で、残念ながら入ることはできませんでした。入り口付近には柵が設けられ、来園客の侵入を防ぐスタッフの姿もあります。パーフェクトな植栽を目指す、ガーデナーたちの強い想いが感じられました

高山植物が集められた、アルパイン・テラス。石垣で縁取られたひな壇状の花壇に、繊細な植物の数々がコレクションされています。このようなひな壇状の花壇だと、小型の植物が大きな植物に埋もれることがなく、また、近づいてその繊細な姿をよく鑑賞することもできます。用土には砂利が混ざっているようで、水はけがよさそうです。

ジョンストンが生きた時代、英国では、富裕層の支援を受けたプラントハンターが世界中に出向いて、珍しい植物を集めていました。ジョンストン自身も植物の蒐集に熱心で、資金を提供するほか、自らもスイス・アルプスや中国などに植物採集の旅に出かけています。彼の庭づくりの資料はほとんど残されていないのですが、この庭には、彼のその手で採集された高山植物が、そのまま残されているのかもしれません。

木々がつくる木陰の中を抜ける小径。足元には、ピンクやブルーのゲラニウムやアストランティアがふわふわと咲いています。道幅は狭いものの、草丈が低い花壇なので、ゆったり歩けます。この先はピラーガーデンです。

背の高い、いくつもの柱状のトピアリーがリズミカルな雰囲気をつくっているピラーガーデン。そのトピアリーの間を、フクシアやピオニーなどが明るい花色で彩ります。整然としたトピアリーと、ナチュラルで軽やかな植栽がよいコントラストを見せる、ジョンストンの独創性が感じられる庭です。

人がやっとすれ違うくらいの細い小径と、対照的な広々とした空間が交互に現れる、ヒドコートの庭。それぞれの空間で、植物の持つ色合いや形、質感が異なっていて、飽きることがありません。夢中になって歩いていると、今どこにいるのか、どれだけ時間が経ったかも忘れてしまいます。

キッチンガーデンにある小屋の中。ドライフラワーが天井から下がり、摘んだばかりの花々が活けられていました。黒板には、今年のカッティングガーデンの草花リストが書かれています。このような広い庭では、雨や太陽を避けられる小屋があると、作業がはかどりそうです。

キッチンガーデンでは、枝や竹を組んださまざまなタイプの支柱があり、害獣からの防除の工夫も見られました。

ヒドコートは、本当に広いガーデンです。すべてのコーナーをじっくり見るには1日かけることをオススメします。今回、1時間半と限られた時間での見学でしたが、一番印象に残ったエリアは、ハイドランジア・コーナーの奥でした。腰丈ほどまで葉を伸ばすシダの間に、アストランティアが混ざり咲くという、初めて目にする光景。木々の間を抜ける風でふわふわと葉が揺れ、鳥の声がしたその瞬間、心がほどけました。

ヒドコートは、ガーデンショップも充実。ナショナル・トラストのマークが入ったガーデングッズをはじめ、書籍やお菓子、ウェアなど、自分のため、花友だちのためのお買い物が楽しめます。

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