球根花が群れ咲く春の北海道ガーデン 〜上野ファーム〜
新緑が葉を広げ、バラや多年草の花が咲き始める5月上旬。北海道・旭川の「上野ファーム」と「大雪森のガーデン」に旅したのは、神奈川・横浜で庭づくりを楽しんでいる前田満見さんです。「関東の5月は初夏ですが、北海道は、まだ春が始まったばかり。初々しい木々の若葉と、可憐な春の球根花が競い合うように咲いていました」という前田さんが、今回は、上野ファームの感動の景色と見所をご案内します。
目次
射的山の斜面を彩る可憐な花々
じつは、上野ファームを訪れたのは、今回が2度目です。初めて訪れたのが6年前。バラやクレマチス、多年草が色鮮やかな7月半ばでした。その雄大なスケールと、咲き急ぐかのように溢れる花々に、言葉では言い尽くせないほど感動し、「いつか、また違う季節に訪れよう」と心に決めていました。
逸る気持ちを抑えながら、最初に向かったのが小高い射的山。山の麓に足を踏み入れると、芽吹いたばかりの落葉樹の足元で、クリスマスローズ、シラネアオイ、スイセン、ムスカリ、ニリンソウ、そして、滅多にお目にかかれない憧れのフリチラリアが群生していました。それぞれの花は、好きな居場所を得て、待ちわびた春を喜んでいるよう。何だか、秘密の野原に迷い込んだような気分でした。
可憐な花々に誘われるように、緩やかな山道を登ると、虹色の椅子が並ぶ山頂です。そこで目に飛び込んできたのは、360度見渡せる上川盆地の山々と、のどかな田園風景。鼻の奥をツンと刺激する冷気の清々しさに、思わず深呼吸をしたくなりました。あいにくの曇り空でしたが、一面に広がる田植え前の水を張った田んぼが水鏡のようにキラキラと輝き、とてもきれいでした。こんな景色が見られるのも、春だからこそですね。
スイセンが輝くノームの散歩道
射的山の山頂から来た道の反対側に山道を下ると、見えてくるノームの散歩道。前回訪れた時は造園中だったので、楽しみにしていました。
そこは、落葉樹の淡い黄緑色の若葉の木立に、緩やかに曲がりくねった一本の道が続いていました。道の両脇には、足元を照らすかのようにスイセンが群れ咲き、奥へと誘います。
時折射し込む柔らかな木漏れ日と、踏みしめる度に伝わる落ち葉のふんわりとした感触の何と心地よいこと。そのうえ、所々に愛嬌たっぷりのノーム(オーナメント)の姿も。そんな微笑ましい世界観に、夢を見ているようでした。こんな散歩道だったらどこまでも歩いて行けそうです。
絵本の世界が広がるノームの庭
ノームの散歩道を抜けると視界が開け、その先にひと際大きな西洋シロヤナギと、とんがり屋根の可愛らしい小屋が見えてきます。ここが、大人気のノームの庭です。
西洋シロヤナギは、別名黄金枝垂れヤナギともいわれ、かの有名なモネの「睡蓮」に描かれたヤナギだとか。上野ファームのホームページやインスタグラムで見る度に、いつか本物を見てみたいと思っていました。
西洋シロヤナギは、運よく芽吹きを迎えていて、長くしなやかな枝に小さな黄金色の若葉を纏い、輝いていました。その堂々たる佇まいは、まるでノームの庭の守り神のよう。ユッサユッサと春風にたゆたう様は、何とも優雅で神々しいほどでした。
そして、ガーデンを彩るチューリップやスイセンなどの可憐な球根花と、とんがり屋根のノーム小屋は、どこを切り取っても絵本の世界さながら。さらに、小屋を囲む池の水面に映った美しい光景は、一幅の絵画のようでした。
特に印象的だったのが、水面に映るスイセンの花。その姿は、まさに、スイセンの学名「Narcissus(ナルシサス)」の由来となったギリシャ神話に登場する美少年のナルシサス。初めて目にするスイセンの神秘的な姿に、暫し見惚れてしまいました。
清々しい色彩のミラーボーダー
真っ直ぐ伸びたレンガの道とブルーのガーデンチェアーが印象的なミラーボーダーは、前回訪れた7月の色鮮やかな景色が嘘のような静寂に包まれていました。
目に映る色彩は、ふかふかの絨毯のような土の色と白いチューリップ。そして、微かに見える白樺の若葉の黄緑だけ。たった2カ月でこんなに景色が違うとは…。短い花の季節に咲き急ぐ、北海道の草花の逞しさを目の当たりにしたような気がしました。
それにしても、広大なミラーボーダーに漂うひんやりした浅い春の空気と、清々しい色彩が調和し、何と心地よいのでしょう。きっと、これから次々と遅咲きのチューリップが咲き、芽吹き始めていた多年草の花が咲き始める頃は、また違った景色になっていることでしょう。何だか、想像するだけでワクワクします。
色とりどりの球根花が咲く白樺の小径
ミラーボーダーの奥にある白樺の小径では、色とりどりのチューリップやスイセン、ムスカリが競い合うように咲いていました。前回目にした景色は、白樺の新緑と下草の緑が爽やかな印象だったので、ちょっと驚きでした。聞けば、白樺の小径がこんなにも彩り豊かな表情を見せるのは、この時季だけだとか。
そう、春しか見られない特別な景色なのです。
白樺の黄緑色の若葉と白い幹に、色とりどりの球根花が映えて、何と美しいのでしょう。そのうえ、やさしい花の香りに包まれて夢のよう。「もし天国があるのなら、こんな場所がいいな」、そんなことを思いながら小径を歩きました。
春の球根花が一斉に咲き誇る上野ファームは、目に映る全てが、まるで夢の世界。またいつか、春にしか出合えない景色と感動を味わいに訪れたいと思います。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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