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これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第18回は、長年通い続けている千葉県八千代市の「京成バラ園」です。美しいバラの写真などとともに、撮影秘話をご紹介します。

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これまでの人生で一番通ったバラ園

京成バラ園のバラのアーチ

今月、ご紹介する「京成バラ園」は、僕の自宅からは車で約30分。原種のバラからオールドローズ、フロリバンダにハイブリッドティー、イングリッシュローズまで、あらゆるバラを見ることができる、僕が一番お世話になっているホームグラウンド的なバラ園です。そう、ちょうどこの記事が公開される頃は、春バラが見頃を迎えていることでしょう。

フロリバンダローズ‘ハンス・ゲーネバイン’。
ドイツ、タンタウ社作出のフロリバンダ‘ハンス・ゲーネバイン’。

僕が初めて京成バラ園に行ったのは、今から26年前。結婚して千葉に引っ越して最初の春のことでした。東京で一人暮らしをしている時は、特にバラに興味を持ったことはなかったのですが、千葉に住んでみると、近隣ではバラを植えている住宅が何軒もあって、春のシーズンになると一斉に咲き出すバラがとてもきれいに見えたものでした。

初めてバラ苗を購入した頃の思い出

京成バラ園

中でも、どの家でも咲いている赤い一重の、当時の僕にはとてもバラには見えなかった‘カクテル’という名前のバラに一目惚れ。週末に家内と連れ立ってバラを買いに行ったのが京成バラ園の初訪問でした。よくたとえで「バラといえば高島屋の包装紙」なんていいますが、当時の僕はまさにその程度の知識でしたから、初めて見るバラ園の色とりどりのバラにすっかり魅了されてしまいました。

バラ‘しののめ’。
京成バラ園芸作出の‘しののめ’。

そして、その場でバラを育てよう! と決心。早速、売り場に直行して、まずは‘カクテル’、次に、ピンクでコロっとした咲き方が可愛い‘アンジェラ’、さらには、家内が気に入った‘ローゼンドルフ・シュパリスホープ’を。他にも、とてもきれいな‘アビゲイル’という名の小さめのバラと、もう名前を忘れてしまった1株。合計5株を買って帰り、マンションの1階の小さなベランダでバラ栽培を始めることになりました。

思い出のバラは今も自宅で開花

がリカローズ‘オール’
僕の好みもずいぶん進化して、今ではガリカローズ好きに。写真は、1830年フヴィベール作出の‘オール’。

とはいうものの、バラどころか植物をまともに育てたこともない、つるバラもハイブリッドティーも分からない人間による“見よう見まねの園芸”。今振り返ると、よく枯らさなかったもんだと自分でも感心します。その時購入した‘カクテル’とフロリバンダの2株は友人に譲りましたが、‘アンジェラ’と‘ローゼンドルフ・シュパリスホープ’は、何度かのテッポウムシの攻撃にもめげず、今でも我が家で無事に咲いています。

書籍化のために数々の撮影を担当

京成バラ園
近年、宿根草のエリアが増えてバラ園の雰囲気が柔らかくなってきたようだ。

その後、何年かしてNHK『趣味の園芸』テキストの仕事をするようになってから、京成バラ園にはよく行ったのですが、バラ園の関係者に顔と名前を覚えてもらえたのは、2006年春に出版された『バラ大百科』(河合伸志・上田善弘著/NHK出版刊)の撮影以降のことでした。あの時は、河合さんにいただいた何ページもあるリストを抱え、何日もバラ園の中を歩き回ったものです。リストのバラを探し、時には栽培用のハウスの中にも入れてもらいました。バラを見つけてはシャッターを切る大変な撮影でしたが、そのお陰で顔と名前は覚えていただけたのだと思います。

京成バラ園のガーデン

その翌年、2007年秋には鈴木満男先生の『バラを美しく咲かせる とっておきの栽培テクニック』(鈴木満男著/NHK出版刊)という本でも撮影を担当させていただきました。その本は、タイトル通り栽培を解説する内容だったので、ライターのUさんと一緒に、実際にいろいろな栽培のテクニックを見せていただきながらの撮影が基本でした。また同時に、鈴木先生から「今井さん、ちょうど○○が咲いているから」と直接電話をもらって、急いでかけつけて撮影したり、栽培用のハウスのバラまで撮影許可をいただいたりしていました。あの本の撮影の時は、まるで京成バラ園のスタッフカメラマンのように自由に出入りさせてもらいました。

今、活躍するバラ専門家との出会い

京成バラ園のローズヒップ
2017年11月、村上さんから依頼されて撮影した紅葉のバラ園。‘シーガル’のローズヒップの実りが素晴らしい。

テレビ放送のNHK『趣味の園芸』や他のTV番組にも近年出演されている、京成バラ園芸所属の村上敏さんに初めてお会いしたのも、もう何年前か分からないくらい昔のことになります。ある園芸の先生から京成バラ園の職員さんを紹介していただいて、販売用のパンフレットか何かの打ち合わせにバラの写真を持参した時に、その担当者の上司だったのが村上さんでした。当時、写真はまだポジフィルムで20枚ずつ透明なシートに入れてお見せしましたが、村上さんは一枚ずつ丁寧に見てくださり「ミニバラの写真がとてもよいですね〜」と褒めてくれたのを今も覚えています。最近では写真展をさせていただいたり、著名な先生方とご一緒してガイドツアーまでさせていただいたりと、村上さんには本当にお世話になっています。

モス・ローズ‘スペル・エ・ノッタン’。
入谷さんが大好きな育種家、スーペル・エ・ノッティングに捧げられたモス・ローズ‘スーペル・エ・ノッティング’。

最後に登場するのは、今、僕たちオールドローズファンの仲間たちから絶大な人気の入谷伸一郎さんです。初めてお会いしたのは、鈴木先生の本を撮影している時でしたが、あの時は鈴木先生の部下として、真面目な口数の少ない男性……という印象でした。が、鈴木先生が「入谷は変わったバラのことが詳しくて、なかなか面白い奴なんです」とご紹介くださったように、今では僕たちの間ではオールドローズの「神」と呼ばれています。

ガリカローズ’アガサ・インカルナータ’
これも僕のお気に入りのガリカローズの一つ‘アガサ・インカルナータ’。

バラの最盛期には、早朝のバラ園のオールドローズエリアでよくお会いします。たいてい僕はガリカローズやモスローズを、そして、入谷さんは反対側にあるブルボンローズやティーローズを。お互い背を向け合って一生懸命撮影しているため、挨拶はいつも「咲きましたね〜」くらいです。特にバラの最盛期は入谷さんはとても忙しいでしょうから、僕も一通り撮影を済ませると「今日は○○に行きますので」と言って、慌ただしく帰ります。シーズンオフにお会いする機会があると、珍しいバラや入谷さんのお気に入りのバラの前で、ものすごーくマニアックなお話を聞かせてくれるのですが……。僕の好きなガリカやダマスクといった古いタイプのオールドローズは「ややこしいバラだから」と答える様子を見ると、入谷さんは、あまりお好きじゃないのかな? そこだけが残念でなりません。

京成バラ園の白バラ

余談ですが、京阪園芸の小山内健さんが「TVチャンピオン」でバラ園を走り回っていたあの日も僕は撮影に行っていましたが、よもやあの日のチャンピオンに、まさか10年後、こんなにお世話になるとは思ってもいませんでした。

今、こうしてバラを撮影するカメラマンをしていられるのも、京成バラ園とバラ園でお会いした先生方のお陰だとつくづく思います。今日、この原稿を書き終えたら「京成バラ園」のきれいなバラたちに会いに行こうと思います。

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