憧れのイングリッシュガーデン、ヒドコートマナーガーデンを訪ねる
神奈川・横浜で30坪の庭を持ち、15年庭づくりをしてきた前田満見さんが、2016年に友人と2人で初めてイギリスを訪ねました。テーマは、憧れのイングリッシュガーデンを巡る旅。湖水地方からコッツウォルズ、ロンドンと、各地で訪れた数々のガーデンは、想像と期待を遥かに超えた美しさと、言葉では言い尽くせないほどの感動を与えてくれました。
コッツウォルズ滞在2日目は、いよいよヒドコートマナーガーデンへ。ここは、アメリカ人のフローレンス・ジョンストンが40年もの歳月をかけて作庭した、20世紀のイギリスを代表する有名な庭園。現在は、ナショナルトラストが所有し一般公開されています。かれこれ20年ほど前、ガーデン雑誌でこの庭園の写真を見たときからずっと、私の憧れの場所でした。
庭園のエントランスには、蜂蜜色の石壁に白いクレマチスモンタナが絡む立派な建物があり、そこを通り抜けると、何と29もの小庭園が続いています。「The Old Garden」「The Red Border」など、一つひとつに名前がつけられた趣の異なる小庭園は、緑の生け垣で仕切られているので、外からは中の様子が見えません。迷路のような細路を進むたびに現れる別世界に、ワクワクドキドキ。目に映るすべてが夢のような美しさでした。その中で、特に印象に残った光景をご紹介します。
オリエンタルな植栽と藤の美しさ
「The Maple Garden」は、コッツウォルズ地方の古い茅葺き屋根の家を背景に、緑葉や赤葉の楓と、下草のシダ、アマドコロ、ゲラニウムが植栽された、しっとりとした風情の庭。中でも目を引いたのが、石塀に誘引された藤の花でした。花穂が短く、日本の山藤に似ています。どこかオリエンタルな植栽に、ほっと心が和みました。また、ここ以外にも藤の花をあちらこちらで見ることができました。
その一つが、庭主のジョンストンさんのガーデンシェッドの屋根を覆い尽くさんばかりに咲いていた藤。花穂が長い野田藤のようでした。長い花穂を揺らしながら優雅に枝垂れ咲き、何と美しいこと。あまりの美しさに、「わが家のガーデンシェッドにも、藤を誘引できたらどんなに素敵だろう〜」と、妄想が膨らんで、しばらくその場から動けなくなりました。
更にもう一つ、「The Rose Walk」の樹木に誘引されていた白藤です。バラは、まだ三分咲きでしたが、混植されているアリウムやジギタリス、アルケミラモリスの花と華やかに競演していました。純白の花穂の下には白いガーデンチェアーが置かれ、溜め息がでるほどエレガント。どこを切り取っても絵になるシーンに、次から次へと椅子に座ってたくさんの人が写真を撮っていました。もちろん、わたしもそのひとり。今でも思い出す度に幸せな気持ちになります。
小川が流れるナチュラルガーデン
ヒドコートマナーガーデンの真ん中に位置する「The Upper Stream Garden」は、緩やかな斜面に小川が流れる自然味溢れる庭。湿地を好むシダや大葉ギボウシ、葉の大きさが50cmほどもあるグンネラなどが、小川に沿って緑豊かに植栽されていました。
水辺には、ひと際鮮やかに色とりどりのクリンソウが。まるで森の妖精のような愛らしさに、心を奪われました。実は昔、わが家の庭にもオレンジクリンソウを植えていました。けれども、翌年には絶えてしまったのです。その後も諦めきれず、もう一度場所を変えて植えてみましたが、やっぱりダメでした。それ以来、クリンソウは片想いし続けている大好きな花。もう想いは届かないと諦めかけていたけれど、もう一度アタックしてみたくなりました。
コッツウォルズの絶景へと誘う
ナチュラルガーデン
「The Upper Stream Garden」の先にある「The Wilderness Garden」は、木々が鬱蒼と茂る野趣溢れる庭。木陰はひんやりとした空気に包まれ、小径の両脇には、庭の奥へと誘うかのように白いアストランチアや野花が群生していました。
さらに進むと、マーガレットやシレネが咲く白とピンクのメドウガーデンが。柔らかな木漏れ日に照らされて、何と清らかなこと。そこは森の中のオアシスのようでした。薄暗い小径を抜けると、緑が眩しい野原のような景色が現れました。
足元には、素足で歩きたくなるようなフサフサの芝生、その上に何気なく置かれていたブルーのベンチに座ると、見渡す限りコッツウォルズの絶景が広がっていました。そう、ここがヒドコートマナーガーデンの南端。ガーデンとコッツウォルズの原風景が一体化した素晴らしい景色に、言葉では言い尽くせないほどの開放感と幸福感で胸がいっぱいになりました。
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