英国の名園巡り、ウェールズの誇る世界的名園「ボドナント・ガーデン」
120年ほど前のこと、英国の慈善団体ナショナル・トラストは、開発で失われていく自然や、歴史ある建物や庭といった文化的遺産を守り、後世に残そうと、活動を始めました。多くのボランティアの力によって守り継がれる、素晴らしい庭の数々を訪ねます。
緑豊かな、北ウェールズ。スノードニア国立公園の山々を見晴らす丘の斜面に、世界的に有名なボドナント・ガーデンはあります。年間19万人を集める、80エーカー(約32万㎡)の広大な庭園には、見どころがたくさん。格調高い5つのテラスガーデンや、壮麗なキングサリのアーチ、そして、小さな谷に沿って伸びる森。変化に富む庭園は、一日中巡っても見飽きません。驚きの景色が待っている、花と緑のワンダーランドです。
ボドナント・ガーデンは、ヴィクトリア朝時代の実業家、ヘンリー・ポーチンによってつくられました。1874年に屋敷と地所を買い取ったポーチンは、景観建築士エドワード・ミルナーの助けを得て、木と芝が生えるばかりの屋敷周りに庭をつくり始めます。彼の庭づくりへの情熱は、娘のローラ、そして、孫となる、第2代アバコンウェイ男爵のヘンリー・マクラレンに受け継がれ、庭園は発展を続けました。
孫のヘンリーは、屋敷の西側の、スノードニアの山々を見渡す斜面を切り崩して、階段状に5つのイタリア風テラスガーデンをつくり、庭園を現在の形に整えました。優美な2つのローズテラスや、池をうまく使ったテラスガーデンは、屋敷を見事に引き立て、風格を与えています。
孫のヘンリーは、プラントハンターの支援者となって、世界中の珍しい植物を集めることにも力を注ぎました。そのため、この庭にはプラントハンターが中国から持ち帰った、モクレンやツバキ、ロドデンドロンといった、当時の最先端の植物や、ヒマラヤ原産のブルー・ポピーといった珍しい植物がたくさんあります。
ヘンリーはまた、ロドデンドロンの品種改良にも力を入れました。園内では、大きく育ったさまざまな色合いのロドデンドロンが、春になるとじつに鮮やかな姿を見せます。森には初代のポーチンや孫のヘンリーが植えた、樹齢100年を超す針葉樹などの大木が何十本とあって、見る者を圧倒します。
庭園はヘンリーの意向により、1949年にナショナル・トラストへ寄贈されました。
花木やロドデンドロンが満開を迎える春から初夏は、庭園全体が華やぐ季節。そして、そのハイライトとなるのは、まばゆいばかりのキングサリのアーチです。初代のヘンリー・ポーチンによって1880年につくられたアーチは英国で最も古いもので、55mというその長さも英国一。5月下旬から6月上旬にかけての花の見頃には、多くの人が訪れます。このアーチは手入れがとても大変で、真冬の剪定は、熟練ガーデナー2人がかりでも3週間かかるのだとか。
ボドナント・ガーデンは秋の景色も見事で、カエデなどの木々が燃えるような赤や黄に紅葉するさまは、まさに圧巻です。冬には真っ白な霜に凍る静寂の世界があり、その後に、スノードロップやモクレンが咲き始めて、また春が来る。一年を通じて、季節ごとの楽しみが途切れることはありません。
ロンドンからボドナント・ガーデンまでは車で4時間半ほど。電車の場合は5時間ほどかかり、スランディドノ・ジャンクション駅(Llandudno Junction)からタクシーまたは路線バスで約20分(バスは本数が限られます)。ロンドンからだと長旅になるので、イングランド中部の観光都市、チェスターを経由するのもよいでしょう。
12月24~26日を除き、通年で開園していますが、時期によって開園時間が変わるので、HPで要確認。季節ごとに、ガイドウォークや家族向けのイベントがあります。食事や喫茶は、2つのティールームと園内の売店で。屋敷周辺のテラスガーデンや芝生以外なら、ピクニックもできます。併設のガーデン・センターや、ウェールズの手工芸品を扱うクラフト・センターもぜひ立ち寄りたいスポットです。
Text by Masami Hagio
Information
〈The National Trust〉Bodnant Garden ボドナント・ガーデン
住所:Tal-y-Cafn, near Colwyn Bay, Conwy, LL28 5RE
電話:+44 (0)1492-650460
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