アジアのみならず、世界の中でも存在感を示すシンガポール。じつは緑豊かな国でもあります。それと同時に、ランいっぱいの国でもあるってご存じでしたか? 今回は、世界最先端の植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」と、世界遺産にもなっている「シンガポール植物園」を、ランを中心にご紹介します。
目次
国花のランを使った、「シンガポール植物園」のランのガーデン
シンガポールは通年、一日の気温が25〜30℃程度と、熱帯植物が育つにはうってつけの気候。そんなシンガポールだけに、「国花」もやはり、熱帯植物のランです。
シンガポールの国花はバンダという種類のランですが、その中でも特に、‘ミス・ジョアキム’という品種が国の花として定められています。この‘ミス・ジョアキム’は、19世紀の末にシンガポールで作出された品種。作り出したのは、品種名にその名を残すアグネス・ジョアキムという女性です。
ヴァンダ・テレスとヴァンダ・フーケリアナの2つの種類を交配してつくられた‘ミス・ジョアキム’は、両親の性質を受け継いだ、濃淡のピンクの花色が美しい品種。栽培に適した環境では草丈2mにも及ぶ大株になり、旺盛に花を咲かせます。また、‘ミス・ジョアキム’は、単にシンガポールで生まれただけでなく、シンガポールから初めて品種登録されたラン。歴史的な花でもあります。
ユネスコ世界遺産にも登録されている「シンガポール植物園」には、有料エリアであるナショナル・オーキッド・ガーデンの一角に‘ミス・ジョアキム’をフィーチャーしたコーナーを設けているほか、無料エリアにも「バンダ・ミスジョアキム・ガーデン」がつくられています。
「バンダ・ミスジョアキム・ガーデン」は、ヨーロッパの整形式庭園を思わせる整然とした植栽をされていて、周囲の斜面に植えられているのも、その多くがラン。日本国内ではバスケット仕立てや着生仕立てにして育てることが多いヴァンダの仲間ですが、ここでは2m近い草丈の‘ミス・ジョアキム’が地植えにされており、ほかではなかなかお目にかかることができないランのガーデンになっています。
※ヴァンダ・テレス(Vanda teres)、ヴァンダ・フーケリアナ(Vanda hookeriana)は現在はパピリオナンテ属(papilionanthe)に分類が変わっています。 ‘ミス・ジョアキム’も正しくは「パピリオナンテ・‘ミス・ジョアキム’」ですが、現在でも「バンダ‘ミス・ジョアキム’」として親しまれています。
今でもランの品種改良の取り組みは、国を挙げて行われており、ボタニックガーデンの一角にあるボタニーセンターには、ランの交配や繁殖を行う研究所が置かれています。ここでは日々、新しい魅力的なランの作出を目指して研究が続いていますが、その様子を見学することもできます。
「ナショナル・オーキッド・ガーデン」も必見!
これだけランとの深いゆかりを持つシンガポールの植物園だけに、ランを集めた「ナショナル・オーキッド・ガーデン」もあり、こちらも見逃せません。園内の各所にはその時期に咲いている種類のポットが配置されているだけでなく、樹木やオブジェに着生させたものもあり、ほかの熱帯植物に囲まれ、自然な姿で咲いている景色を見ることができます。
日本では、ランを育てる場合には一鉢に一株だけを植えたり、あるいはランばかりをたくさん並べてディスプレイとして使ったりするのを目にすることが多いはず。しかしこのガーデンでは、ほかの植物と調和するように、ランが使われている姿を楽しむことができます。
また、株姿や草丈に合わせて、ガーデン草花のような使い方をしているコーナーもあるのは、さすが南国ならではの使いこなし方といえそうです。運よく訪れる時期が合えば、ランがプルメリアなどのほかの花と咲き競っているのを目にすることもできます。
花盛りのオーキッド・ガーデンでひときわ目を引くのは、色とりどりのバンダの仲間。お気に入りのバンダを探すもよし、‘ミス・ジョアキム’以来、ここまでバリエーションを増やしてきた歴史に思いをはせるもよし。百花繚乱のバンダを楽しんでみてはいかが?
人気の「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」にもランがいっぱい!
シンガポールのベイエリアに2012年にオープンした植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」。園内に建てられた樹木のようなオブジェ「スーパーツリー」はたびたびメディアで紹介されているので、見かけたことがあるという方も多いのでは?
このガーデン・バイ・ザ・ベイでは、あちこちでランの花を見ることができますが、なんといっても注目は「クラウド・フォレスト」。
「クラウド・フォレスト」は、いわば大型のガラス温室です。
その内部には高さ30mにも及ぶ人工の小山がつくられており、山の各所からは滝が落ちているというダイナミックなもの。温室内部はミストやファンで湿度や通風がコントロールされており、標高0〜2000mまでの熱帯植物が育てられています。また、山の周囲には空中回廊が巡らされており、山の内部からだけでなく外からも植物を観察できるようになっています。
この山の外壁には、アンスリウムやフィロデンドロンなどのサトイモ科の観葉植物やネペンテスなどの食虫植物、ブロメリア科の植物、ベゴニアやシダなどが着生させてあり、もちろんランもあります。
「クラウド・フォレスト」の壁面に植えられた植物は、花壇のように簡単に株の入れ替えができないので、一般的な栽培品のように常に万全の状態で開花しているわけではありません。しかし、ほかの植物と混ざり合って育ちながら、けなげに花を咲かせる姿は、ランもまた本来は野山に咲く花なのだということを思い出させてくれます。
また、温室内ではランの特設展示を行うコーナーが設けられています。展示はシーズンごとに切り替わるので、訪れる度に違うランと出合うことができます。写真は2019年の初めに行われた展示、「Orchids of Andes(アンデス山脈のラン)」のもの。
こうして「クラウド・フォレスト」の植物を見て回った後は、出口に通じる地下の通路に向かいます。
すると、最後に姿を見せるのが、「シークレットガーデン」です。「シークレットガーデン」は熱帯雨林の林床をイメージしてつくられた、石灰岩が立ち並ぶ屋内庭園。ひんやりとした風がゆっくりと流れ、熱帯高地の雨林に迷い込んだかのような空間が広がります。
このガーデンにも、こうした環境に自生するシダやベゴニアなどとともに、ランが展示されています。その多くはミニチュア・オーキッドと呼ばれる、レパンテスやプレウロタリス、スカフォセパルムなどの小型のラン。いずれも花の直径が数cm、ものによっては1cm未満という極小の花を咲かせるものばかり。
でも、ご心配なく。花のそばにルーペを添えて展示してあるので、小さな花の細部までじっくり観察することができるようになっています。
ランで巡る、シンガポール植物園とガーデンズ・バイ・ザ・ベイ、いかがでしたか?
ここでご紹介したのは、あくまでも2019年1月に訪れたときの様子。時期によっては異なる種類の花を楽しむことができるはず。シンガポールを訪れた際には、ぜひランを楽しんでみてください。
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