イングリッシュガーデン旅案内【英国】男爵夫人のデザインした庭 ヘルミンガム・ホール・ガーデンズ
庭好き、花好きが憧れる、海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。今回訪ねたのは、サフォーク州に500年続くトルマッシュ男爵家の屋敷、ヘルミンガム・ホールの庭です。赤レンガづくりの美しい屋敷とともに、先祖代々、受け継がれてきた庭園は、ガーデンデザイナーとして活躍する現在の男爵夫人の手によって、花にあふれた、より魅力あるものへと発展してきました。
目次
赤レンガの屋敷を背景に広がる庭
名園として人気の高いヘルミンガム・ホールの庭。駐車場からガーデンに向かうと、濠に囲まれた赤レンガづくりの屋敷が見えてきます。
トルマッシュ家は大変古い家柄で、1066年のノルマン征服以前からサフォーク州に住んでいたといわれます。ジョン・トルマッシュがハーフティンバー様式の屋敷を建て始めたのは1480年。それから何度も改修が重ねられ、1760年頃に現在のような赤レンガとタイルを使ったつくりになりました。
幅18mの濠にかかる跳ね橋は、1510年以来、毎晩引き上げられて、朝になると下げられるとか。屋敷は夜間は濠に守られた「島」となるそうです。中世の習慣が脈々と続いているとは、驚きますね。
濠の脇を通る芝生の道には、セイヨウイチイの丸いトピアリーが並びます。モコモコと、森の妖精のようなユーモラスなトピアリーです。
きれいに刈り込まれたトピアリーに、メドウのような下草を合わせているのがおしゃれ。ナチュラルな雰囲気を醸し出しています。先を行く老夫婦の姿が、素敵でした。
さて、屋敷の西側に広がるメインのウォールド・ガーデンへと向かいます。
パーテアとハイブリッド・ムスク・ガーデン
屋敷の西側は、レンガ塀にぐるりと囲まれた、大きな長方形のウォールド・ガーデンになっていて、その中は、パーテア部分とキッチン・ガーデン部分に分かれています。
私たちをまず出迎えるのは、ツゲの低い生け垣が幾何学模様を描くパーテア。間には、サントリナが植わります。ツゲの生け垣自体は古くから残るものですが、現在の男爵夫人によって1978年に再設計され、今のような形になりました。
屋敷に伝わる資料によれば、15世紀末に屋敷ができる以前から、ここには家畜を守る場として、柵に囲まれた庭があったそう。ウォールド・ガーデンのレンガ塀は1745年にできたといわれ、長い歴史が感じられます。つるバラの絡んだアーバー(あずまや)がいい雰囲気。
レンガ塀に沿った花壇には、ラベンダー‘ヒドコート’に縁どられて、ハイブリッド・ムスク種のバラが植わっています。この花壇はハイブリッド・ムスク・ガーデンと呼ばれ、1965年につくられました。男爵夫人は、このような古い部分を守りつつも、より美しい庭となるよう、長い年月をかけて新しい要素を加えてきたといいます。
ユニークなトピアリーがいっぱい
さて、パーテアとキッチンガーデンを分けるアイアン製のガーデンゲートをくぐり、キッチンガーデンの区画に入ります。まずは右へ進むと……カタツムリ発見! 面白いトピアリーが並ぶ、トピアリー・ボーダーです。
イヌツゲやセイヨウイチイのトピアリーを、ガーデナーが熱心に刈り込んでいます。トピアリーの間には、ラベンダーやデルフィニウム、アイリスなどが植わります。
ミツバチのトピアリーも! 羽根の立体感が見事です。かなり複雑に刈り込まれていますね。
花にあふれたウォールド・キッチンガーデン
ガーデンゲートからの景色。ウォールド・キッチンガーデンの中心を芝生の小径が貫いていて、その両側に宿根草花壇がずっと伸びています。
小径を少し進んで、振り返ると、こちらには、ガーデンゲートと屋敷が背景となる、美しい庭景色がありました。宿根草花壇では、‘アルベルティーヌ’や‘ニュー・ドーン’、‘フェリシテ・エ・ペルペチュ’などのバラが、ワイヤーに誘引されて目の高さに咲いています。
そして、足元には、ポピーやアリウム、ゲラニウムなど、さまざまな宿根草や球根花が、優しい色合いで混ざり咲いています。
私たちが訪れた6月の花壇は、ピンク系のオールドローズに合わせて、ピンクやブルー、紫やクリーム色などの、柔らかな色合いでまとめられていました。ですが、盛夏に向かうにつれて、真っ赤や黄色、銅色など、インパクトのあるカラースキームに変わっていくとのこと。
中央の小径から脇に伸びる、スイートピーの長いトンネル。いろんな色のスイートピーが咲いていて、楽しさ満点です。他に、サヤインゲンとヒョウタンのトンネルもあります。ウォールド・キッチン・ガーデンは、芝生の小径とトンネルによって、8つのブロックに区切られています。
トンネルの先の壁際には、きっちりと刈り込まれたツゲの生け垣に囲まれて、優美なベンチが置かれていました。整形式庭園の要素とキッチンガーデンのナチュラルな要素が、うまく混ざり合っているのがこの庭の面白いところです。
この辺りは、野菜や果物を育てている区画です。たくさんの実をつけたスグリの木を発見。
こちらは、サラダによさそうな葉物。しっかりと葉を茂らせています。
園内には、来園者にも花の名前が分かるように、こんな看板が掲げてあります。気になった植物はこの看板でチェック。
そしてこちらは、花壇にどんな植物が植わっているかが分かる、デザイン図。各所に掲げられていました。
さて、キッチンガーデンを抜けて塀の外に出ると、小さな橋がありました。じつは、屋敷と同じように、ウォールド・ガーデン全体も濠でぐるりと囲まれています。この橋は、その濠にかかっているのです。
橋を渡った先には、男爵家の人々が楽しむのであろうテニスコートがあって、その周りは、グラスが軽やかに揺れるワイルドフラワー・メドウになっています。風を感じる、優しい花景色です。ここからは見えませんが、ヘルミンガムの庭園の外にはアカシカの棲む広大な草地が広がっていて、メドウとともに、野生生物の生態系を守るのに一役買っています。
華やかさ満点のスプリング・ボーダー
今度は、屋敷に戻る方向へ。ウォールド・ガーデンの外側を、南側のレンガ塀に沿って歩いてみます。すると、塀にはたくさんのつるバラが絡まり、その株元にはピオニーの見事なコレクションが! スプリング・ボーダーと呼ばれるこの花壇では、じつに豪華なバラとピオニーの競演が見られました。
ピンク、白、赤と、華やかなピオニー! 花心が盛り上がった大輪など、珍しい形もあります。重い花首が垂れないように、しっかり支柱がしてありました。5月から6月にかけてのピオニーの見頃に来られたのは、とてもラッキーでした。
クラシカルなノットガーデン
次は、屋敷の反対に回って、東側の庭に行きます。屋敷の正面、濠の脇道から階段を数段降りたところに、1982年につくられたという、ツゲのノットガーデンがあります。
手前の4つの正方形では、三角形の模様を埋めるように、ミントやタイムなどのハーブが低く茂っています。奥の4つの正方形には、トルマッシュ家にまつわる模様やイニシャルがデザインされています。
緑のツゲと赤レンガの屋敷が、美しいコントラストを見せています。歴史ある屋敷にふさわしい、クラシカルな雰囲気のノットガーデンは、屋敷の窓からも眺められるそうです。
甘い香りに満ちたローズガーデン
ノットガーデンの先、紫のキャットミントが群れ咲く奥には、女神像を中心に、サークル状にバラが植わるローズガーデンが待っていました。
花と春の女神、フローラの像に見守られる、エレガントな雰囲気のローズガーデン。外側の大きな花壇には、さまざまな古い品種の、香りのよいシュラブローズが植わり、円を構成する内側の花壇には、たくさんの花をつけるデビッド・オースチン社作出のイングリッシュローズが植わっています。
セイヨウイチイの高い生け垣に囲まれている場所なので、バラの香りがとどまっているように感じます。辺りが甘い香りに満たされていました。
屋敷を背にした花景色。ヘルミンガム・ホールの庭は、やはりこの屋敷がポイントですね。赤レンガの美しい建物は、ヘルミンガム・ホールの庭を最も特徴づける要素といってよいでしょう。
さて、ガーデン散策を楽しんだ後は、ステイブル・ショップという小さなショップでハーブコーディアルのジュースを買って、ちょっと休憩。ショップでは、地元産の食べ物やクラフト、ガーデン用品などを扱っています。また、キッチンガーデンで採れた野菜なども販売。オーガニックとして登録されてはいませんが、伝統的な栽培方法で、化学肥料はほとんど使っていないそうです。
時間の都合で、一番外側にあるウッドランド・ガーデンなどは回れませんでしたが、ぐるりと巡って1時間半、充実の庭散歩でした。とてもよく手入れの行き届いた、花の風景が満喫できるガーデンでした。
〈ヘルミンガム・ホール・ガーデンズ〉 庭園情報
ロンドンから車で北東に約3時間。電車では、ロンドン、リバプール・ストリート駅からイプスウィッチ駅(Ipswich)まで約1時間。イプスウィッチ駅からタクシーで30分(約10マイル)。タクシーを使う場合はかなり距離があるので、往復を頼めるかなど、ご確認を。
イプスウィッチ駅から路線バスを使う場合は、駅近くのバス停(Railway Station)から、町中のオールド・カトル・マーケット・バス・ステーション(Old Cattle Market Bus Station)までバスで約8分移動。フラムリンガム(Framlingham)行きに乗り換えて、シェルター(Shelter)、もしくは、ホール(Hall)で下車、所要時間は約25分。庭園までは、徒歩約6~8分。乗り換えが複雑で、また路線バスのルートが変わることもあるので、事前によくお調べになってお出かけください。
2018年の開園期間は、5月1日~9月16日。火、水、木、日、祝(バンクホリデー)の11:00~16:30。料金は大人£7。
2019年は、5月1日から再び開園します。屋敷は非公開。
*2018年12月現在の情報です。
併せて読みたい
・玄関を花でコーディネート! 海外のおしゃれな玄関先8選
・一年中センスがよい小さな庭をつくろう! 英国で見つけた7つの庭のアイデア
・世界のガーデンを探る旅15 イングリッシュガーデン以前の17世紀の庭デザイン
Information
Helmingham Hall Gardens
Helmingham, Stowmarket, Suffolk IP14 6EF
+44(0)1473 890 799
https://www.helmingham.com/
Credit
写真&文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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