ガーデナーにとって欠かせないツールの一つ、剪定バサミ。どんなに優れたハサミでも、手入れを怠れば、使い物にならなくなってしまいます。でも、「お手入れ法もよく分からないし、どうしていいのか……」という方も多いよう。そんな困った! に役立つ、剪定バサミのお手入れ法を「庭道具屋toolbox」の店長、黒田明雄さんに教えてもらいました。今回は、多くのガーデナーに愛されているFELCO(フェルコ)の剪定バサミを使ってのレクチャーです。
目次
「切れる」を「維持できる」のが魅力
FELCOの剪定バサミ
樹木類の手入れのなかで最も重要な「剪定作業」。この作業次第で、以降の植物の成長や見た目が左右されます。きちんと、そして気持ちよく作業ができるように、「切れるハサミ」を使いたいものです。理想は「切れる」と同時に「切れるのを維持できる」こと。その両方を兼ね備えているのが、皆さんご存知の「FELCOの剪定バサミ」です。
FELCOは精密機器を得意とするスイスの刃物メーカーの製品。ここのハサミは「切れ味がよい」ことはもちろんですが、それにプラスして「すべてのパーツに分解して手入れができ、壊れたパーツを交換できること」が、大きなポイントです。
ヨーロッパの庭文化は、庭の管理を職人に任せる日本の庭文化とは異なり、自身で作業しながら楽しむという歴史があります。一般家庭でもガーデンツールは自分で手入れして大切に長く使う習慣が根付いているので、FELCOは各家庭できちんと手入れができるように設計されているのです。
レッツ トライ!
年に1回は行いたいスペシャルケア
剪定バサミを使う頻度にもよりますが、バラなど剪定作業が多い植物を多く育てているガーデナーは、年に1回を目安にスペシャルケアを行いましょう。
通常は使用後、毎回布で水分と植物のヤニをふき取るだけで大丈夫。ヤニは粘りがあるなどしてこびりつきやすいので、ヤニクリーナー(下写真参照)を吹きかけて取り除くといいでしょう。でも、数年するとネジ周りの油が劣化して固まってしまったり、併せてヤニも混ざっていたりするので、ハサミを分解して、通常のケアでは取り切れない汚れを除くようにします。これがスペシャルケアです。
【まず道具を準備しましょう】
作業に必要なもの/①ボックスレンチ、②モンキーレンチ、③真鍮のワイヤーブラシ、④ヤニクリーナー、⑤刃物手入れ用オイル、⑥シャープナー(砥石)、⑦千枚通し、⑧メッシュサンドペーパー(100番)
【黒田さんにスペシャルケアをしてもらう、古びたハサミ】
このハサミは20年以上前に使われていて、長年放置されていたもの。当時こまめな手入れがなされていなかったため、刃の部分に植物のヤニが分厚くつき、やや開きにくくなってしまいました。しかし、サビはほとんど見られません。このハサミ、よみがえるのでしょうか?
※ここでお手入れするハサミは現在ほとんど出回っていないモデルFELCO4。現在のモデルとネジ周りの仕様は若干異なりますが、手入れ法は同じです
一つひとつ丁寧に分解して
お手入れスタート!
【分解・手入れ】
- まずスプリングを外す。引っ張ると簡単に外すことができる。
- ハサミの表裏のナットをレンチで外す。
- ナットが外れると、これらのパーツに分解できる。ネジとナットが入る向きを覚えておこう。
- 購入当初からつけられていたグリースとヤニなどの汚れが、刃以外の部分にもこびりついているのが分かる。
- 刃の平らな面をサンドペーパーに軽く押さえつけるようにしてこすり、汚れやサビを落とす。汚れだけを削るような感覚で力を入れる。
- カーブが効いた刃面や側面などは、サンドペーパーを当ててこする。
- ワイヤーブラシで、軽い汚れやサンドペーパーでこすって剥げた汚れを落とす。
- サンドペーパーで落とせない凹凸部分などは、千枚通しで丁寧にこすって落とす。
- ワイヤーブラシで汚れを払い落として、全体をチェックする。
- スプリング部分の汚れやサビも、ワイヤーブラシでこすって落とす。
【組み立て】
- 組み立てる前に、ナットが入る中心部分にオイルをさす。
- 合わせる側の穴にも油をさす。
- ボルトを元の穴に通す。
- ハサミをひっくり返してナットをはめ、レンチで締める。固く締めすぎないように注意。
- ハンドルの開き具合を確かめる。開いた上側のハンドルが、ゆっくり落ちるぐらいの締め加減が◎。
- スプリングを取り付け、仕上げに砥石で刃を研ぐ。フェルコの切り刃は刃先部分の幅が2~3mmとなっている。
- 刃の裏面は水平に砥石で研ぐ。
- 研ぎが終わったら終了! 見違えるようにきれいな姿になり、古びていたのではなく汚れていただけで、見事によみがえった。
販売されている
FELCO専用のお手入れアイテム&パーツ
FELCOは、スペシャルケアに必要な専用の道具を揃えています。アイテムは、砥石とグリース、破損やひどいサビが発生してしまった刃やスプリングのための交換パーツの4つ。ホームセンターに行けばいろいろな道具類がありますが、砥石とグリースは専用のアイテムを使うと安心です。
左からハサミ用砥石、グリース、替え刃、スプリング。砥石はダイヤモンドコーティングの鋼鉄製で、コンパクトで使いやすいのがGood。グリースはハサミの潤滑な動きを安定的に維持してくれます。
【グリースを注入する部分】
現在出回っている剪定バサミは、レクチャーで使ったFELCO4と異なり、ネジ部分で2段構造になっており、締める強さの微調整が簡単にできます。グリースをここの内側に注入することで、潤滑性が高まります。
ハサミを分解したら、ネジの穴周りのくぼみにグリースを注入します。購入当初から塗られているグリースは、ヤニと混ざって劣化していることもあるので拭き取ります。
toolboxでオススメする
FELCOのハサミはこの6本!
ショップオススメの、現在販売されているハサミ6種です。よく見ると少しずつハンドルや刃の大きさ、形態が異なります。
◆FELCO6
軽量・コンパクトで使い勝手がよく、特に女性など手の小さい人に向いている。ホームユースタイプ。
(全長:19.5㎝/重さ:210g)
◆FELCO8
標準的なサイズ。ハンドルから切刃に力を伝えやすいフォルムに、フィット感抜群のハンドルと、機能性が非常に高い。
(全長:21cm 重さ:245g)
◆FELCO100
切刃には、切断した茎や枝を落とさずつかむことができるプレートが付いており、バラの剪定や果樹の収穫に向く。
(全長:21cm 重さ:255g)
◆FELCO12
コンパクトで軽量なハンドルが回転式のタイプ。力が刃に効率よく伝わるので疲れにくく、相当数剪定する人に向く。
(全長:20cm 重量:265g)
◆FELCO31
両刃仕上げの切刃と枝の滑りを抑えるアンビル(受台)を採用しており、枝を切断した時の衝撃を軽減。 両手兼用。
(全長:21cm 重量:225g)
◆FELCO13
全長が長く、両手で握って力を入れて作業できるロングハンドル。太い枝の剪定などの時に活用する。両手兼用。
(全長:27cm 重量:310g)
大切なのは日々の手入れ
念願かなって手に入れた高価なハサミも、そのつどの手入れをしなければ、次第に仕事の精度も低下してしまいます。使い終わったらすぐにヤニクリーナーでヤニを取り除き、水分もふき取った状態で保存をするようにしましょう。普段からきちんと手入れをしておけば、スペシャルケアも楽にできます。
「庭道具屋toolbox」でFELCOの剪定バサミを購入された方は、黒田さんがショップにてメンテナンスをしてくれます。その他の場合は、FELCO剪定バサミの輸入代理店による「FELCOメンテナンス工房」があるので、以下にご相談ください。
昭和貿易株式会社「FELCOメンテナンス工房」 http://www.showa-boeki.co.jp/felco/
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庭道具屋 toolbox
世界のこだわりのガーデンツールやアイテムを扱う、園芸ショップ。逸品がずらりと並ぶ品ぞろえに、本格派ガーデナーの熱い支持を得ている。2019年1月、世田谷・用賀から移転して、埼玉県越谷市にオープン予定。
住所:埼玉県越谷市恩間413-10
TEL: 048-971-7814/FAX: 048-971-7815
URL: https://www.rakuten.co.jp/toolbox/
Credit
写真&文/井上園子
ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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