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ひと口に園芸店といっても、今やさまざまなスタイルのショップがあります。それぞれのショップの個性が色濃く反映されたこだわりの空間は、私たちのイマジネーションを刺激し、ガーデニングのセンスを磨ける最高の場所。今回は、他では入手困難なレア植物などのユニークな品揃えと独特な雰囲気のディスプレイで評判の園芸ショップ「苔丸」を訪ねました。

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鎌倉の住宅街にある園芸ショップ「苔丸」を訪ねる

シンボルツリーの大木のサクラ

鎌倉駅からバスに乗り、長谷観音や大仏を通り越して揺られること約15分。緑豊かな住宅街の中のローカルなバス停で下車し、1~2分歩いたところに「苔丸」があります。ショップのシンボルツリーとなる大木のサクラが目印で、その奥に佇む古い平屋が店舗。どこか懐かしさ漂うノスタルジックな雰囲気が、訪れた人を奥へと誘います。

身近にあるものを使った
独創的なディスプレイが魅力

苔丸入り口

季節の草花が並ぶ店先の陰に隠れたショップのエントランスから、苔丸の世界が楽しめます。建屋の壁を利用して木を組んだ棚には、ノコギリやハサミなどの古びた道具類や、山に転がっているような木片や動物の骨などが、ディスプレイ。一見ガラクタに見えるようなものでも植物と巧みに合わせて、遊び心あふれる見ごたえのあるシーンをつくっています。丁寧なディスプレイからは、オーナーの細やかな人柄がうかがえます。

苔丸ディスプレイ
小動物の頭蓋骨に色をつけ、店名を書いてディスプレイ。シックなパインのオーナメントと合わせるセンスには驚かされます。
苔丸ディスプレイ
定休日を書いた木の板を古びたポストにのせた、素朴でひなびたシーン。
飾り棚
緑の脚立は木の板を渡して飾り棚に。エントランスのアイストップです。

マニアも身震いする
珍奇植物がずらりと揃う

苔丸店内

中庭の建物側に設置した手づくりのサンルーム内は、オセアニアやアフリカ、南米などのユニークな植物がずらり。マニアもうなるこの品揃えは、オーナーの赤地光太郎さんのこだわりの一つです。仲買い人を通すこともありますが、多くはプランツハンターである知人に依頼して入手したもので、一般的な園芸店には出回らないようなものばかり。珍奇植物を知らなかった人も十分楽しめる空間です。

サンルーム風の空間

冬の寒さが苦手な植物が多いので、2018年春にサンルームのような空間を製作。雨の日も、ゆっくり買い物ができます。

棚に並ぶ鉢植え

建屋の掃き出し窓を取り除き、木の素朴な扉を自身で設置。ちょっとした棚を付けて、盆栽のような仕立ての珍奇植物をかわいらしくディスプレイ。

ニュージーランドでの出合いを
きっかけに、自身の世界が花開く

苔丸の庭
親子で訪れる人も多く、庭は子どもの遊び場に。

植物にまつわることなら大抵こなせるという器用な赤地さんは、もともと切り花業界の出身で、花の販売だけでなく室内装飾なども幅広くこなしていました。数年働いたのちに見聞を広めるべくニュージーランドに渡り、園芸店でアルバイト。そこのオーナーの独特なセンスと植物の世界の奥深さに触れた時間は、とても衝撃的で意義深いものだったといいます。その経験が赤地さんを大きく前進させ、‛苔丸’をオープンさせるきっかけとなりました。

店奥にある陳列コーナー
シマトネリコとサラサドウダンが枝を広げる奥のコーナーにも、季節の草花苗が陳列。隅まで見どころたくさん。

今から約15年前に自宅から近い古い民家を借り、園芸植物や資材、切り花を扱う‘苔丸’をオープン。「好きに改装していい」という大家さんの好意で、さっそく知人の手も借りながら建物を大改造。ニュージーランドの体験をもとに、自由な発想でコツコツと自身の世界をつくり上げていきました。

シダ・アオネカズラとミシン台
古いミシン台を花台に見立て、赤地さんイチ押しのシダ、アオネカズラをのせてディスプレイ。

もともとお母さまが自然な庭をつくっていたことから、植栽のセンスも備わっていた赤地さん。店の奥に広がる庭も見ごたえたっぷり、必見です。そよそよとした植物が多い植栽は、世界各地原産の植物が盛り込まれていているのに、とても自然な趣。茂みの中にさりげなく配した古道具などの雑貨類が庭におもしろみを与えていています。その気負いのない自然なスタイルが心地よさを生んでいるのか、ここ数年で庭づくりの依頼が急激に増加。「ここに植わっているものを使って、庭をつくってほしい」という依頼も多く、そのたびに植物が持ち出されるので、庭は頻繁につくり替えています。半年に1回のスパンで変わることが多いので、ショップを訪れるたびに新たな風景が楽しめます。

多肉植物のディスプレイ
木製のパンこね台だったというイギリス製のアンティークに多肉植物を植栽。まだ作業の途中ですが、それも絵になっています。パーゴラの柱についた菊のオーナメントは、かつて瓦に使われていたもの。

赤地さんの真骨頂!
創意工夫を凝らしたサンルーム

店内のディスプレイ
あたたかみを感じさせるしつらえの中に、クールな印象のライトがアクセントになっています。

赤地さんがデザインを考え、知人に形にしてもらったというサンルーム。よく見てみると、大きさも雰囲気も違う窓枠が使われています。フランスの木製の窓やアイアンの窓、イギリスのステンドグラス、日本の古民家の扉など、どれも古くて味わいのあるものばかり。すりガラスも使われていましたが、見通しをよくするために透明のガラスに交換。また、レトロモダンなデザインのライトは、ノルウェーのプールサイドで使われていたものだそうです。雰囲気の異なるアイテムをしっくりと馴染ませながら味わいを出す空間づくりは、赤地さんだからこそなせる業といえるでしょう。

サンルームのハンギンググリーン
手づくりのサンルーム内には、瑞々しいグリーンが程よいボリュームとバランスで飾られています。
古民家風の空間とグリーン
知人としつらえた、味わい深いエントランス。解体する古民家などから譲り受けたものも多く、古びた引き戸が魅力的な空間を演出。
窓辺にはラン類をハンギング
窓辺には、板に着生させたラン類をハンギング。ラン類は赤地さんが今注目しているプランツ。

珍奇な植物だけでなく
ナチュラルな草花も揃う

花苗も並ぶ
銅葉やシルバーリーフ、グラス類など、庭の表情を深めてくれるカラーリーフも充実。

苔丸では、楚々とした山野草や草花も販売しています。これらは、赤地さんが自然な庭づくりをする際に、あるといいなと思うもの。花色は白や青、パープルが多く、ラインの細いものがメインです。古びた雑貨や構造物、野趣を感じさせる樹木などとナチュラルに調和する草花が選ばれています。

店先の草花
店先に並ぶ草花の風にそよぐ姿が、道行く人の目を楽しませています。

植物以外のアイテムも充実
ギャラリーのような陳列も魅力

ナチュラルな印象の小鉢
いびつな形、ざらざらとした質感のユニークな小鉢が並ぶ木の棚。木の実やドライフラワーなどを飾っても◎。

雰囲気のある店内には、鉢や雑貨類が整然と陳列されています。アイテムはいずれも渋い雰囲気で、アイアン製のものは日本やインドなどの古い道具類がメイン。鉢はひとひねりしたデザインが多いので、個性的な植物と合わせれば、アートな世界が楽しめそう。

アンティークがメインのアイアン雑貨
何に使われていたのか、何に使っていいのか分からないようなアイテムがいろいろ。ここにいると、庭づくりは既成概念に縛られなくていいことに気づかされます。

がらりと趣が異なる
やさしく上品な雰囲気漂う切り花

生活全般を彩る提案をしている苔丸では、切り花も販売。花は白やライムグリーンをメインにした、シックでノーブルな印象のものが並びます。こちらは奥様がメインで担当。苔丸らしい渋い空間にマッチしつつ、女性的で上品なエッセンスも感じられる、ナチュラルなセレクトです。

白い切り花と冬イメージのリース
左/清楚な白い花、シックな秋色アジサイなど、落ち着いた雰囲気の花が揃う。 右/リースやスワッグなども販売。こちらはルリタマアザミを主役にした、冬を感じさせるような静かなデザイン。

より個性が際立つ
ショップ兼作業場(アトリエ)

サンルーム出入り口
サンルームへの出入り口は、かつては普通の掃き出し窓でした。室内外の明るさのギャップが、異空間にワープした雰囲気をより高めています。

サンルームに併設するやや薄暗い部屋は、アンティークや古道具が並ぶショップ兼クラフト用のアトリエ。古代の土器やインドの古い生活道具、ヨーロッパのアンティーク瓶などが個性的な植物に合わせて飾られ、不思議な世界を織りなしています。

展示棚
押し入れと天袋(左側)、床の間(右側)だったコーナー。それぞれの仕切りの板を展示の切り替えとして生かし、雰囲気のある展示棚として活用しています。

かつて住居だったとは思えない空間。和風だった古い壁面には工事現場の足場で使っていたという長い木板を貼りつけ、山小屋のようにワイルドに仕上げました。庭側の掃き出し窓は取り外してアーチ状の出入り口を設け、スムーズな動線をおしゃれに確保。押し入れや天袋だった形跡が見受けられるものの、それがかえって面白みとして生かされています。思い切ったリノベーションを重ねた空間は赤地さんの感性が凝縮され、個性を表現するキャンバスになっています。

水槽を利用したディスプレイ
ガラスの水槽を熱帯植物の展示に活用し、サラセニアとネオゲリアを並べて。実験場のような冷たさを感じさせる、独特な雰囲気を醸しています。
アンティーク雑貨のコーナー
アンティークに明るい知人が現地で仕入れたという、日本やインドの古道具を並べたコーナー。
ヨーロッパアンティーク
女性が好きなヨーロッパのアンティークもガラスのケースに並んでいます。

申し込みがやや困難
大人気のクラフト講座

ドライフラワー
秋冬はドライフラワーが一気に増える時期。左奥は販売するためのスタッフ専用の作業台。

アトリエでは、月の第1・3・4週目の木曜日、午前1回・午後2回の一日3回、クラフトの講習会が催されています。作るものはリースやスワッグなどが主で、その時の気分で選べます。花材はここにあるものから自由に選ぶことができ、でき上がりは人それぞれ。寄せ植えレッスンをお願いすることも可能です。少人数制で、すぐにいっぱいになってしまうそうなので、気になる人は事前に問い合わせを。

ナチュラルなリース
販売している秋色のナチュラルなリース。ここ数年、レストランやアパレルショップからの注文が非常に多い。

赤地さんイチ押しはコレ!
他ではまだ見られない植物 ベスト4

かなりマニアックで購入する人は限られてくるかもしれませんが、一見の価値ある植物4種をご紹介します。

ビカクシダのリドレイ
ビカクシダのリドレイ。胞子葉の切れ込みが細かく、まさに鹿の角のよう。こんもりと張った貯水葉の葉脈もユニーク。
パキポディウムに接いだ‛恵比寿笑い’
一般的なパキポディウムに接いだ‘恵比寿笑い’。パキポディウムの接ぎ木なんて、滅多に見られない代物。
パキポディウム・グラシリス
パキポディウム・グラシリス。黄色い花が愛らしい。
パキポディウム・ブレヴィカウレ
パキポディウム・ブレヴィカウレ。こんなに大きい塊根のものは、なかなか出合えないそう。

見慣れない異国情緒漂う植物、昔ながらの素朴な草花、日常で使われていた味わいのある古い道具に、ひんやりとした質感の無機質な道具――古今東西、あらゆるものが混在し、独特な世界感が広がっている園芸ショップ「苔丸」。個性的だけどどこか懐かしさを感じる空間は、鎌倉山の立地と相まって、ここでしか感じられない居心地のよさがあります。ぜひ鎌倉観光を兼ねて訪れてみてください。アクセスは、鎌倉駅より鎌倉山行きバスで約15分、旭ヶ丘停留所下車徒歩約2分。

【GARDEN SHOP DATA】

苔丸
神奈川県鎌倉市鎌倉山2-15-9
TEL/FAX: 0467-31-5174
URL: http://www.kokemaru.net

営業時間:10:30~18:00
定休日:火曜日

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Credit

写真&文/井上園子
ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。

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