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庭好き、花好きが憧れる、海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。今回旅したのは、イギリス南東部のエセックス州にある世界的名園、ベス・チャトー・ガーデンです。故ベス・チャトーは20世紀を代表する英国のガーデンデザイナー。彼女が1960年代から生涯をかけてつくった庭は、園内の異なる環境に、約2,000種の植物が適材適所で植えられていることで有名です。周囲と美しく調和する、ナチュラルでのびやかな庭を訪ねます。

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20世紀の偉大なガーデンデザイナー

イギリスのベス・チャトー・ガーデン

ベス・チャトー(1923-2018)は植物の特性をよく知るガーデンデザイナーとして、また、経験に基づく豊富な園芸知識を伝えた作家、講師として活躍しました。その功績により、2002年に大英帝国四等勲爵士を授与されています。

晩年も電動カートに乗って庭に出て、ガーデンスタッフとの会話を楽しんだというベス。2018年5月、94歳で亡くなると、英国の主要メディアで訃報が報じられ、その死が惜しまれました。現在、ベスがつくり上げた庭園は孫娘のジュリア・ボルトンに引き継がれ、ベスとともに働いた有能なガーデナーチームによって管理されています。

乾燥に挑戦するグラベル・ガーデン

ベス・チャトー・ガーデンのグラベル・ガーデン。

来園者をまず迎えるのは、グラベル・ガーデン(砂利の庭)です。風になびく柔らかなグラス類の穂や、すっと伸びるリナリアのピンクやバーバスカムの黄色の花穂。リズムを与える、紫の丸いアリウム。砂利が敷かれた広々とした区画に、さまざまな植物が茂る、軽やかで美しい植栽です。

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内グラベル・ガーデン

じつは、この庭には秘密があります。それは、1991年につくり始めてから27年間、一度も人工的な水やりがされていないということ。この辺りは年間降雨量が少ない、英国でも最も乾燥している地域で、実際、2018年の夏は50日間も雨が降りませんでした。この庭の土は水を保たない貧しい土で、水を引き込むこともされていません。にもかかわらず、この素晴らしい庭景色は存在し続けています。

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内グラベル・ガーデン

ここは、庭づくりには到底向かない乾燥した荒れ地で、かつては駐車場として使われていました。しかし、1991年、ベスはあえてこの場所に、実験的に庭をつくります。英国では日照りが続いて水が不足すると、庭の水やりに制限がかかります。そんな乾燥した状況にも対応できる、最低限の湿り気で育つ植物は何なのか、彼女は庭を愛する人々のために、模索を始めたのです。

適材適所、ローメンテナンスな庭づくり

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内グラベル・ガーデンの植栽

ベスの夫、故アンドリュー・チャトーは、世界の植物の生態系について研究を続けた人物でした。20歳で結婚したベスは、夫の影響でガーデニングに興味を持つようになります。ベスが新しい植物を持ち帰ってくると、アンドリューは、それが地球上のどこから来た植物なのかを教えたといいます。

ベスの庭づくりの合言葉は‘Right Plant, Right Place’(ふさわしい植物を、ふさわしい場所に)というものでした。野生の姿において、その植物はどんな場所に育っているのか。それを教えてくれる夫の知識に絶対の信頼を置いていたベスは、植物の性質を見極め、その植物にふさわしい環境に植えることを、基本理念としました。

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内グラベル・ガーデン

ベスは、英国ガーデンデザイン界の巨匠であった、故クリストファー・ロイドと親交が深かったことでも知られていますが、2人はグラベル・ガーデンの水やりを巡って激論を交わしたといいます。今にも干からびそうな植物に水やりをしないのは、ペットに餌をやらないようなもの、と非難するクリストファーに対し、ベスは決して妥協をしませんでした。しおれそうな草花を見て苦痛を感じても、乾燥に強い植物を突き止めたいという情熱のほうが勝っていたのです。

若い頃、フラワーアレンジメントで草花に親しんだベスがつくったのは、さまざまな形や質感の草や葉が、流れるような美しいハーモニーを見せる庭。けれどもそれは、ローメンテナンスを突き詰めた庭でもあったのです。

高山植物を集めたスクリー・ガーデン

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内スクリー・ガーデン

同じく、乾燥に強い植物を集めているのが、グラベル・ガーデンより前につくられた、スクリー・ガーデンです。スクリーとは、斜面に岩や石が転がっている、がれ場のこと。この庭は日当たりのよい小高い場所にあって、水はけのよい砂利の多い土が敷かれています。その状況に似た、がれ場で育つような乾燥に強い植物や高山植物が、ここには植えられています。

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内スクリー・ガーデン
紫の花をカーペット状に咲かせるタイムの間から、ニョキッと頭を出すのは多肉植物。真似してみたい組み合わせ。

高山植物は高い山々でしか育たないと思われるかもしれませんが、英国で高山植物と呼ばれるものには平地でも育てられるものがあり、ロックガーデンやドライガーデンによく用いられます。日照りによる渇水が増える昨今、水やり不要のローメンテナンスの植物として、注目を集める存在です。

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内スクリー・ガーデン
イギリスのベス・チャトー・ガーデン内スクリー・ガーデン

日本で高山植物と聞くと、維持管理が難しい植物のイメージがありますが、この庭に植わる高山植物には、アネモネやゲラニウム、フロックス、オダマキ、ナデシコ、ソリダゴ、タイム、エリゲロンなど、ガーデニングでよく耳にする植物の仲間であるものが、多々あります。

セダムの中にも、育てやすい高山植物に数えられるものがあります。他にも、陽光が好きで乾燥に強い多肉植物の鉢が、ここには並べられています。

イギリスのベス・チャトー・ガーデン内スクリー・ガーデンの多肉

ベスの庭は、敷地全体が一つにつながって、無数の植物が、周囲と調和する美しい組み合わせを見せながら、それぞれ環境に適した場所に植えられています。生け垣などで仕切られた、小部屋が連なるスタイルの、いわゆるイングリッシュガーデンとはだいぶ趣が異なった、ナチュラルな庭です。ゆったりとした道幅の小径をのんびり進むと、砂利の庭から水辺に出たり、森の中にいたり。時間をたっぷりかけて行き来したい庭です。

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