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母娘で17年間、北海道の大地にガーデンをつくり続けている上野砂由紀さんは、楽しみながら自然と親しむ方法をよく知っている女性です。そんな彼女が北海道旭川の「上野ファーム」を舞台に、庭づくりをしながら感じたこと、発見したこと、感動したことを季節の写真とともにご紹介します。ガーデンは思いがけない感動をくれる、心の栄養補給ができる場所ですよ。

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積雪前に植えつける秋の大切な大仕事、球根計画

どれも同じ形のチューリップの球根だが、すべてに色や形、開花期の特徴がある。

秋になると、上野ファームの庭仕事は一年で最も忙しくなります。それは来春のための球根をしっかりと計画して植えつけなくてはならないからです。秋に植える球根によって理想のデザインをし、どれだけ作業を進めるかで、春のガーデンの美しさが変わるといっても過言ではありません。これから立ち枯れた冬に向かう気候の中で、頭の中のイメージを“春いっぱい”にして想像を膨らませながら球根計画を考えます。北海道はどの地域よりも積雪が早いため、球根の植栽はいつも急ぎ足です。雪が積もってしまうと植える予定の場所も見えなくなってしまうのです。積雪が早い年は、雪をかき分けながら必死で植えたこともあります。

昔とは違う! 個性豊かな球根たち

八重咲きが豪華でキュートなチューリップ‘ラズベリー・アイス’。

チューリップの世界はどんどん広がっています。昔の赤、白、黄色のイメージとは全く異なり、個性的な形や色が多くなって、選べる種類がぐんと増えました。今注目の開花が楽しみなチューリップたちをご紹介しましょう。

黒い羽のようにシックで大人なチューリップ‘ブラック・パーロット’。

かわいいリップを引いたような‘キャンディ・コーナー’。コンパクトなサイズは寄せ植えにも向いています。

開花が進むにつれて、変身を続ける不思議系チューリップ‘ハーバーライト’。

枝分かれしてブーケのように咲くチューリップ‘アントワネット’。咲き進むにつれてピンクの縁取りが現れる変化咲き。

宿根草の間に球根を植えつける上野ファームの栽培スタイル

上野ファームの球根デザインは、ほとんどが宿根草と宿根草の間に植えるスタイルです。植物が茂っている時期はなかなかこの作業ができないので、上野ファームのガーデンの閉園後が球根を本格的に植え始めるタイミングになります。冬には地上部が枯れる宿根草を根元からきれいに刈り取って、株と株の間を分かりやすくしてから取り掛かります。色のバランス、草丈、個数、開花期のバランスなど、球根の位置はとても重要なので、すべて自分で一球一球ていねいに配置をしていきます。その作業は透明な絵の具で絵を描くような感覚で、チューリップやスイセン、アリウムなどが開花したときのイメージを、すべて頭の中で想像しながら配置を考えていきます。

刈り込みが終わったノームの庭。咲いたときの自然な雰囲気を想像しながら、アリウムの球根を配置していく。

同時期に成長を始める宿根草とのバランスもとても大切です。頭を使う作業ではありますが、イメージ通りの風景が春に広がる瞬間は、何度経験してもとても嬉しいものです。秋の球根選びや植えつけ作業は大変ではありますが、この嬉しさと楽しさがあるからこそ、上野ファームの庭にとって欠かすことのできない秋の庭仕事なのです。多くの宿根草は開花まで時間のかかるものが多いのですが、球根は、秋に植えれば、春に必ず結果を出して応えてくれる点も球根の魅力の一つだと思います。

翌年の初夏に咲いたアリウムの花たち。この風景を秋の植えつけ時に具体的にイメージできるかが大切。想像力をフルに働かせて秋の球根を植えていきます。

流れるように芝の中にムスカリの球根を一つひとつ丁寧に植え付けていきます。3色が混じり合うように配置していることは、この時、パッと見には分かりません。

春の開花シーズンになると、秋に描いた絵が庭に浮かび上がります。ブルーを中心に水色と白をチラチラと混ぜ合わせて、川のように流れるムスカリ。植える大変さはあるけれど、この瞬間があるからこそ、球根栽培は楽しい。

球根の開花リレーで、春の庭に変化をつくる

5月の前半は早咲きの白のチューリップからシンプルにスタート。

宿根草に開花期があるように、春に咲くというイメージしかない球根にも、開花期がしっかりとあるのをご存じですか? チューリップも早咲き、中生咲き、晩生咲きと大きく3つのシーズンに分けることができます。それは時間が進むにつれて色の組み合わせやグラデーションの色を増やすなどの開花期の時間差がつくり出すデザインとしても楽しむことができます。

前出の写真から10日後には、中生咲き、晩生咲きのチューリップが開花を始め、華やかにイメージチェンジ! 開花期を絶妙に計算することで、表情がどんどん変わる春の球根ガーデンに。

原種系チューリップや小球根たちは、早春から咲き始めますが、開花期がそれほど長くはありません。その後、さらに開花をつなげるような球根があれば、春の球根バトンリレーを長い期間楽しむことができます。

晩生咲きのチューリップを意識して植えることで、後半になって伸びてくる宿根草の葉や花と重なって、とても素敵な春のガーデンになります。

レースのような花が咲く宿根草のコンロンソウや球根花のシラーが揃って伸びてくる5月下旬は、早春の宿根草とチューリップの競演が見られる貴重な季節。

開花期の異なる球根を数種類混植して、ガラリとイメージを変えるのも楽しいものです。白樺林には、スイセンと合わせてチューリップもたくさん植えているので、清楚なスイセンが終わりかけた頃、ポップなカラーのチューリップが咲き始めて、一気に雰囲気が変わります。その後、隙間からムスカリやフリチラリアなどが開花を続けます。

スイセンの後は、かわいい色合いのチューリップやムスカリが開花を初めて、雰囲気が変わります。

球根というとチューリップやスイセンがすぐに頭に浮かぶ方も多いと思いますが、秋植え球根は、ムスカリやフリチラリア、アリウム、カマッシアなど、さまざまな種類があります。それぞれの特徴や色、草丈などを考えながら、地面にポンポンと配置して植え込むだけ! 秋の球根植えほど楽しい作業はありません。地面に描いた球根がまるで魔法のように春に開花を始めて、華やかな景色をつくってくれます。球根類には驚くほどの種類がありますが、品種を選ぶのも楽しい作業です。

上野ファームのムスカリ。ムスカリだけでもさまざまな色のバリエーションがあり、毎年少しずつ増やしながらコレクションする楽しみも広がります。

中でもお気に入りは、ムスカリ‘マウントレディ’。まるで小さな富士山みたいです。

自然風な植栽にも活躍するカマッシア。

チューリップが終わる頃、アリウム‘パープルセンセーション’と同じくらいの時期に開花するので、一緒に植栽すると涼し気な色合いの球根コーナーになります。

球根の植え時となる秋はガーデンシーズンも終盤で、ちょっと庭仕事にくたびれかけている時期ですが、春の素敵なガーデンをイメージして、もうひと頑張り! 地面に描いた球根が、ときめくような春を連れて来てくれます。球根は忘れた頃に届く自分へのプレゼントのようなもの。ぜひ、いろんな球根にチャレンジしてみてください。

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