上野ファームの庭便り「秋こそ美しい! 表現広がるオーナメンタルグラス」
母娘で17年間、北海道の大地にガーデンをつくり続けている上野砂由紀さんは、楽しみながら自然と親しむ方法をよく知っている女性です。そんな彼女が北海道旭川の「上野ファーム」を舞台に、庭づくりをしながら感じたこと、発見したこと、感動したことを季節の写真とともにご紹介します。ガーデンは思いがけない感動をくれる、心の栄養補給ができる場所ですよ。
目次
庭で発揮するオーナメンタルグラスの魅力
「オーナメンタルグラス」という言葉も、少しずつ聞く機会が増えてきたように思いますが、まだまだあまり知られていないようです。葉や穂の美しさなどを含めて装飾的にも美しいグラス類(草)の総称をオーナメンタルグラスと呼び、上野ファームでもガーデン全体にたくさんの種類を植えています。美しい花を咲かせる植物とはまた違い、オーナメンタルグラスの美しさは、葉と穂にあります。
秋になるとたくさんの穂があがり、オーナメンタルグラスはさらに美しさを増してきます。秋風とともにしなやかに揺れる穂の動きも、庭デザインの一部としてとても魅力的なのです。シンプルながら、庭に新鮮な動きを与えてくれるグラスは、一見ナチュラルな庭に合いそうなイメージですが、都会のコンクリート建築などともとても相性のよい植物。固い素材と対照的なやわらかさとシンプルさが、モダンなデザインとしても魅力的な表現を可能にしてくれます。
ガーデンにグラスを入れるだけで、表現の幅はどんどん広がります。シンプルに風に揺れることを意識してデザインしたり、葉や穂の色でグラデーションをつくることもできます。植物の引き立て役としても優秀で、背景にオーナメンタルグラスがあるだけで、手前の花やシードヘッドの輪郭がくっきりと浮かび上がるため、ほかの植物を最大限に魅力的に見せてくれます。
例えば、背景にグラスがあることで手前のエリンジウムのシルエットがはっきりと分かるように。お互いの魅力を引き立て合うことも可能です。
タネだけになった植物のシードヘッドも、グラスと合わせることで、まるでモダンアートのように美しいシーンをつくり出せます。
穂が風で踊るように揺れる姿は、ガーデンに動きと感動を与えてくれます。表情豊かなオーナメンタルグラスは秋が見頃です。
上野ファームで秋の庭を盛り上げるグラス類をご紹介
・ミスカンサス&カラマグロスティス
葉は似たようなものが多いですが、穂は多彩な表情を持っています。左はミスカンサス、右はふわふわの穂がシッポのようなカラマグロスティス。
・斑入りフウチソウ
斑入りの葉が春から秋まで美しく茂り続ける、斑入りフウチソウ。
・ワイルドオーツ
まるで小判がいっぱいぶら下がっているような雰囲気が愛らしいワイルドオーツ。
・パニカム‘シェナンドア’
小さなビーズのような赤い穂と葉先がワインレッドになるのが魅力のパニカム‘シェナンドア’。
・モリニア‘バリエガータ’
涼しげな斑入りの葉から、明るい黄色の茎が放射線を描く、モリニア‘バリエガータ’。
草花との組み合わせや植え方で多彩な表情に
グラスと花を混ぜ合わせるように植えると、野原のようなメドウガーデンに。シンプルに植えるとモダンなアートのようにも表現が可能です。場所の雰囲気、合わせる草花によって、本当に多彩な表現ができるのがオーナメンタルグラスです。
まるで雲のように細かな穂が出るデスチャンプシアと、トリカブトやアキレアなどを混ぜ合わせて野原のような自然な庭に。
札幌の商業施設屋上で植栽デザインを担当した「そらのガーデン」でも、オーナメンタルグラスは大活躍。葉の微妙な色の変化をグラデーションのように組み合わせて、屋上という厳しい環境にも耐えています。ビルの間ならではの強風さえも、穂が美しく揺れるというデザインの味方になっているグラスガーデン。西日が当たる時間は、穂が光で透けて輝いて見えて別世界のようです。
カラマグロスティス・ブラキトリカ一種だけを使って、生け垣のようにシンプルに仕切りをつけるとモダンな雰囲気に。コンクリートの塀や板塀などでは表現できない柔らかさが出ます。
デザインを担当した子どもたちのためのキッズガーデン「くるみなの庭」では、草むらをくぐり抜けるようなワクワク感を楽しんでもらおうと、さまざまな種類のオーナメンタルグラスを使ってグラス迷路をつくりました。グラスが成長するつれ、難易度も変化していきます。かくれんぼもできる人気コーナーに。
まだまだ使い方や魅力は知られていないオーナメンタルグラスですが、栽培も簡単で管理もしやすく乾燥に強い品種が多いので、いろんなシーンで気軽にデザインに取り入れていくことができると思います。デザインの新しい可能性が広がる魅力的なオーナメンタルグラス、ぜひあなたの庭でも挑戦してみてはいかがでしょうか。
Credit
写真&文 / 上野砂由紀 - ガーデナー -
うえの・さゆき/北海道旭川にある「上野ファーム」のガーデナー。大学卒業後、アパレル会社に勤務し、園芸を学ぶため退社して渡英。2001年から実家である「上野ファーム」で庭づくりを始め、旭川ではいち早くオープンガーデンをスタート。2008年に放送されたTVドラマの舞台となった富良野の「風のガーデン」や「大雪 森のガーデン」の植栽デザインのほか、全国で講演会・トークショーなども行う。二男の母。
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