イギリスで3代にわたって受け継がれる庭園「キフツゲイト・コート・ガーデンズ」

庭好き、花好きが憧れる海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。今回旅したのは、イギリスの美しい田園、コッツウォルズ地方に、母から娘へと、3代にわたって受け継がれてきた庭園「キフツゲイト・コート・ガーデンズ(Kiftsgate Court Gardens)」です。
その始まりは1920年頃。キフツゲイト・コートに住まうヘザー・ミュアは、お隣にある名園、ヒドコート・マナーをつくったジョンストンの良き友人でした。ヘザーは彼から多くの刺激を受けて庭づくりに励み、この庭園の原形をつくり上げます。その後、庭は1950年代に娘のダイアニー・ビニーに受け継がれて発展し、一般公開されるようになりました。現在は、孫娘のアン・チャンバースの手によって、時代の流れに沿った新しい庭が加えられ、さらなる魅力を持った庭園へと進化しています。

人々をまず出迎えるのは、屋敷のジョージ王朝様式のポルチコ(柱廊玄関)の前に広がる整形式庭園です。ツゲに縁取られた4つの四角い花壇の中央に日時計が置かれたテラスで、初代ヘザーの手によって生まれました。
整形式庭園のスタイルではあるものの、「きっちり計画するよりも、ある程度自然に任せる」のがヘザーの流儀でした。その流れを受けてか、おおらかさが感じられる植栽です。ピオニーやバラ、ゲラニウムが、生き生きと茂っています。

花壇には、年間を通じて楽しめるようにと、さまざまな種類の珍しい灌木や宿根草が植えてあります。6月上旬は、ピオニーの大株が花盛りを迎えていました。これほど状態のよい開花を、日本では見たことがありません。こんな大株に育つのに、どれほどの年月がかかったのだろうかと、先人に想いを巡らせます。

芝生の縁がカーブを描き、その両側をリズミカルに宿根草が彩る、ダブルボーダーの庭。小木や灌木もある、変化に富んだ植栽です。夏の花壇のテーマカラーは、ピンク、藤色、紫で、アクセントに銀葉が加えられています。一歩進むたびに現れる愛らしい花々は、どれも興味深いものばかり。芝生もフカフカと優しい踏みごこちで、ゆったりした気分になります。

花壇にはゲラニウム、ヒューケラ、ホスタ、ハクセンなどの宿根草に混じって、コンパクトに仕立てられたつる植物のハニーサックルも見られました。真紅のマルタゴンリリーの繊細な花姿に、目を奪われます。

周囲より数段下がるようにつくられた、このサンクン・ガーデン(沈床庭園)は、初代ヘザーによりつくられ、2代目ダイアニーの時に再設計されました。庭にあるウツギなどの主な灌木がすべて白花を咲かせるため、ホワイト・ガーデンの名が付いていますが、下生えの宿根草はカラフルでチャーミング。大きな紫のアリウムは、こぼれ種で増えたものです。

ホワイト・サンク・ガーデンを抜けると、その先にはまた違った景色が広がります。
白い縁取りのホスタを白花のゲラニウムが包み込む脇で、鮮やかなピンクの一重のピオニーが目を引きます。その奥は、蕾をつけたアジサイと銀葉のホスタ。季節が進むと、この区画はまた違った色に染まるのでしょう。

バンクとは斜面のこと。じつは、キフツゲイトの庭は、イヴシャムの谷を西に見下ろす崖の上にあります。屋敷から離れて庭の外れに来ると、急斜面を切り開いてつくられた階段に行き当たります。吹き上げる風を受けながら、導かれるままに下へ下へと降りていきます。

すると、その先にキラキラと輝く半円形のスイミング・プールが見えてきました。
オープンスペースに芝生と水面で構成される、端正なこのロウワー・ガーデンは、2代目ダイアニーの手によるものです。断崖という難しい立地を最大限に生かしたデザインから、彼女の豊かな創造性が感じられます。

芝生に囲まれた池の先には、イヴシャムの谷ののどかな風景がどこまでも広がります。遠くに小さく羊の群れも見える、開けた景色を前に、清々しい気分。
地面は池の先で突然切れますが、その先にも景色は続いて見えます。これは、見晴らしを妨げないように地面を掘り下げて垣根をつくる、ハーハーと呼ばれる構造に似ています。

下りてきたのとは別の石造りの階段を上っていくと、大きな屋根のサマーハウス(東屋)がありました。4人は座れる大きなブランコがあって、そこからまた違った景色が眺められるので、つい長居をしてしまいます。
1930年代のヘザーの時代には、もうこの階段とサマーハウスがつくられていました。高低差が激しいこの敷地に階段を作り、池を掘り、芝を張って、粗野な空間を、植栽豊かな空間に変えていく。それには相当の体力と精神力を要したことだろうと、感動を覚えます。

ツゲの生け垣に囲まれた四角い池の端に、ブロンズ製の葉っぱが浮かぶ、モダンな空間です。2000年に、現オーナーのアンによって、古いテニスコートがあった場所につくられました。
この庭は閉ざされていて、ツゲの生け垣にあけられた小窓から覗き見るような仕掛け。時折、噴水が上がって、静かな水音を楽しむこともできます。白、黒、緑を基調とした、抑制の効いたデザインの庭で、他の区画で見られる豊かな色彩の庭と、とても良いコントラストを見せています。

膝丈以下に低く仕立てられたピンクのロサ・ムンディが、両側を鮮やかに彩るという、ローズ・ボーダー。しかし、残念ながら、バラの時期には早すぎました。
彫像が置かれている、シダやグラスの茂る奥のエリアは、以前はガーデンの突き当たりでしたが、今は右に行くとロートアイアンの扉があって、新エリアへと続きます。

扉の先には、咲き終わったアリウムのまん丸の花殼も可愛い、メドウがありました。季節が合えば、黄色いキンポウゲと紫のアリウムの、対照色のキュートな競演が見られます。
メドウはなかなか管理が難しく、この庭はまだまだ発展途上とのこと。試行錯誤の結果、今後は二年草の野草を育てていくそうです。

メドウを進んで10段ほどの階段を上ると、今年オープンを迎えたばかりの新エリアが出現します。馬蹄形に築かれた土手には芝生が張られ、その周りに、ピンクと白の半八重の花を咲かせるロサ・ルゴサの垣根が巡らされています。シンプルな構造ですが、遠くまで見渡せて気持ちのよい庭です。じつは、この土手は、2000年にウォーター・ガーデンをつくった際に出た、大量の土を使ってできたもの。果樹園に置かれたままだった土は、数年かけて有効利用されました。
構想を着実に形にしていく、アンのエネルギッシュな庭づくりは、急斜面を切り開いてこの庭園をつくった、先の2人に通じるものがあります。
Kiftsgate Court Gardens(キフツゲート・コート・ガーデンズ)
キフツゲイトは、美しい村が点在するコッツウォルズ地方の北に位置し、すぐ隣に、英国ナショナル・トラストの名園、ヒドコート・マナーがあります。シェイクスピアで有名なストラットフォード・アポン・エイボンにも近く、楽しい旅程が組める場所です。
ロンドンからは車で約2時間。電車で行く場合は、ロンドン・パディントン駅からハニーボーン駅(Honeybourne)まで1時間50分程度、駅からタクシーで約15分、というのが庭園お勧めのルートです。
入園料は£8.50。開園期間は4~9月の夏季のみで、開園する曜日と時間は月によって変わります。
庭をゆっくり見て回るには、1時間半は欲しいところ。下の庭に下りる階段は相当急なので、足に自信のない方は無理のないようにご注意ください。併設のティールームでは、手作りのスコーンやケーキ、サンドイッチが頂けます。また、ガーデングッズを取り揃えたショップに立ち寄るのも、どうぞ忘れずに。
*2017年の情報です
詳細情報
- 店舗・施設名
Kiftsgate Court Gardens(キフツゲート・コート・ガーデンズ) - 住所
Chipping Campden, Gloucestershire GL55 6LN - 電話番号
01386 438 777
+44-1386-438777 - 営業時間
4月と9月:月、水、日の14~18時。
5~7月:月、火、水、土、日の12~18時。
8月:月、火、水、土、日の14~18時。 - ホームページ
http://www.kiftsgate.co.uk/
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