武蔵野の小麦畑の一角にオープンした市民のための憩いの庭「タネニハ」

東京・東久留米に2018年春にオープンした市民の庭「タネニハ」。ここは、12代続く農家が中心となってスタートさせた、花の生産者と人々をつなぐ憩いの場です。写真家でエッセイストの松本路子さんが、ガーデンの現場をレポートします。
花の生産農家が育てる「タネニハ」の庭

小麦の青い穂が初夏の風にそよいでいる。その広大な小麦畑の一角に、市民のための憩いの庭、タネニハが2017年秋のプレ・オープンを経て、2018年3月正式にオープンした。東京の多摩地区東部、東久留米市にある花の生産農家、秋田緑花農園の秋田茂良さんが3年前に企画し、自ら基本設計した庭だ。

400㎡の敷地内には、農園で生産された花苗や多摩地区に自生している野草など、多彩な植物が植えられている。タネニハという名前の「ニハ」は、古語で場を意味する。人と人、人と植物が出会い、さまざまなタネが育ってほしいという思いを込めて名づけられた。

秋田緑花農園のある一帯は、約300年前、江戸時代の半ばに開拓された農地で、茂良さんは農家の12代目にあたる。小麦やさつま芋畑は主に父親の貞夫さんが担当し、茂良さんは17年前から本格的に温室での花卉(かき)栽培を始めた。

温室ではゼラニウム、ビオラ、ヒューケラなどのポット苗が並び、中でも農園で育種し、第66回関東東海花の博覧会で金賞を受賞した極小ビオラ「多摩の星空」がひときわ可憐な姿を見せていた。
12代続く農家ならではの庭づくりを模索

秋田さんは小学生の頃、作文に「街を緑でいっぱいにしたい」と書いたが、その思いを強くしたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。その年の7月から3年間、ヒマワリなどの苗を届け、被災した多くの人に喜ばれた。花によって人々の心が和らぐのを目の当たりにして、改めて植物の持つ癒しの力を教えられたという。


そうした経験から、「誰もが訪れて庭いじりに参加でき、のんびりと散策もできる、花農家ならではの庭をつくりたい」と思い立ったのが、タネニハ誕生の物語だ。農園のスタッフや友人のガーデナーたちに、多くの市民ボランティアが加わり、園内にある自宅付近の木々を移植。芝生の庭を囲むように季節の花々が植栽された。

東久留米は「平成の水100選」に選ばれた南沢湧水のある地で、その湧水池をイメージした池も設置された。農園やタネニハの水やりも、地下深くから汲み上げた豊富な地下水を利用しており、丈夫な植物が育つ一因になっている。

花農家は卸売りが中心だが、タネニハの前には直売コーナーが設けられた。自転車や車で通りかかった人たちが、鮮やかなゼラニウムの色に誘われるように足をとめ、時間をかけて花苗を選んでいく。

庭は人をつなぎ、新しい街の形を創造していく

植物の寄せ植えや、ハボタンの苗などを使ったリースづくり、またヒンメリ(麦のストロー・アート)づくりなどのワークショップも共催。農園の無農薬の小麦粉で、天然酵母のパンづくりをしているプチ・フールの宮沢ロミさんをはじめとして、東久留米の地域の仲間とのネットワークも充実し、公園でのマルシェ開催や、アートプロジェクトの実現などにも取り組んでいる。

「街と社会は人でつくられている。花から生まれた人との関係が広がってくれたら嬉しい」と語る秋田茂良さん。タネニハの芝生に寝転んで空を見上げていると「武蔵野の自然の中にいる」…そんな心地よさに包まれる庭だ。
Information
タネニハ(taneniwa)
所在地:東京都東久留米市南町2-3-19
TEL:042-452-3287(受付8:00〜17:00)
Blog: http://blog.kaobana.com/
Email:info@kaobana.com
アクセス:公共交通機関/西武池袋線「ひばりヶ丘駅」または西武新宿線「田無駅」からバスで「イオンモール東久留米南下車」徒歩約10分。
車/「イオンモール東久留米」を目指し、所沢街道「南町4丁目交差点」から約600m。
オープン期間:火~土曜日、12:00〜16:30
閉園:日・月曜日、雨天・荒天日
季節閉園:1〜2月、7〜8月
Credit
写真&文 / 松本路子 - 写真家/エッセイスト -
まつもと・みちこ/世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2024年、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルム『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』を監督・制作し、9月下旬より東京「シネスイッチ銀座」他で上映中。『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。
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