日本庭園巡りの旅へ 京都・東山「永観堂禅林寺」

神奈川・横浜で30坪(約99㎡)の庭を持ち、15年庭づくりをしてきた前田満見さんが、2016年に友人と初めてイギリスを訪ねました。湖水地方からコッツウォルズ、ロンドンなど、数々の憧れのガーデン巡りを終えてから日本庭園を巡ると、違った角度で庭の魅力が見えてきたという前田さんによるガーデンエッセイ。
東山の古刹 永観堂禅林寺
永観堂禅林寺は、東山のふもとに建つ歴史ある古刹。古今和歌集に「もみぢの永観堂」と詠まれる京都屈指の紅葉の名所で、境内には、約3,000本ものイロハモミジやヤマモミジが植えられています。
植栽と一体となった長い回廊

このお寺には、御影堂や釈迦堂、阿弥陀堂といった諸堂が点在しており、それらすべてが、経年変化の檜の滑らかな木肌と、滴るような青モミジに囲まれた長い回廊で結ばれていました。
また、所々に設えられた縦格子の建具の端正な佇まいは、翠緑を切り取る額縁のよう。

内外を曖昧に仕切る和の建具の美しい意匠が、味わい深い風情を醸し出していました。雨風をしのぎ、強い陽射しを遮るだけでなく、四季折々の自然の景色を屋内からも愛でることができる和の建具は、自然への敬愛と日本人ならではの繊細な感性が生み出した伝統建築。わが家にも取り入れたくなりました。
圧巻の臥龍廊

数ある回廊の中でも圧巻だったのが、山の斜面に建てられた開山堂へ続く臥龍廊です。その廊下は、急斜面の地形に合わせて曲線を描く特殊なつくりとなっていて、その名の通り、あたかも龍が臥せているような形状でした。一瞬、足がすくむほどの迫力に圧倒されながら上っていくと、畳4帖ほどの小ぢんまりした開山堂がありました。

このお堂には、永観堂の開山の像が祀られていました。そういえば、古来より龍は神様の化身、もしくは使者といわれています。この臥龍廊は、開山の像(神)を拝むなら、ここを通って心身を清めよという意味合いがあるのかもしれません。また、お堂の窓から、荘厳な屋根瓦に映えるモミジと、遠くに京都の山並みが垣間見え、初夏の爽やかな風に擦れるモミジの葉音や、時折聞こえる野鳥の声が、なんとも心安らぐ空間でした。
自然の景色を凝縮した庭園

諸堂の中心にある御影堂には、深い軒下の縁側に腰掛けると、庭全体が見渡せる程よい広さの日本庭園があります。目を惹くのは、いぶし銀の瓦を施した壁面に、清然と植えられたモミジの高木と赤松。いかにも日本庭園らしい組み合わせですが、不思議と堅苦しさを感じないのは、山の中に自生しているような樹形と、型にとらわれない剪定にあるような気がしました。また、その足元には、自然石を配した池と白い玉石を敷いた枯山水を彷彿とさせる景色が。

白い玉石は、山間から緩やかに流れる湧き水のように木漏れ日に輝き、池には白いスイレンが、水辺にはハナショウブとカキツバタが季節の彩りを添えていました。
そんな、自然の景色が凝縮したような庭を眺めていると、ふと、「無作為の作為」という言葉が脳裏に浮かびました。「無作為の作為」とは、自然な雰囲気を生かして、かけたのが分からないような手間をかけること。ある京都の老舗造園屋さんがおっしゃっていた言葉です。そして、「われわれのモットーは、庭ではなく景色を売ること。そのために、無作為の作為を行う」と。
人知れず手間をかけ真心を込める庭仕事。だからこそ、こんなにも心が和むのですね。
日本庭園の奥深さを、またひとつ目の当たりにしたような気がしました。

3,000本もの青モミジが紅葉する秋。どんなにか素晴らしいことでしょう。いつか、赤く染まるモミジの永観堂も訪れてみたいものです。
併せて「イングリッシュガーデンを巡る旅」のシリーズや、『イングリッシュガーデン旅行を終えて〜日本庭園への想い〜』もご覧ください。
Credit

写真&文/前田満見
高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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