「育てたい花だけを育てたい」。当たり前のようでいて、それを叶わぬ夢にしている雑草。庭を楽しみたいと思う人に苦痛を与える草取りのストレスをなくし、植物の植え込みや植え替えなど、ガーデニングの楽しいことにだけ専念できる新しい庭づくりの工法が「ノンストレスガーデン工法」です。造園・設計施工の「かたくり工房」が開発したこの工法の手順について、開発者が詳しく解説します。
目次
雑草との戦いから解放する「ノンストレスガーデン工法」
季節ごとに移り変わる美しい花々を眺めて暮らせたら素敵…と多くの人が思うものです。しかし、いざガーデニングを始めてみたら、自分が植えた花以上に、勝手に生えてくる雑草に手をわずらわされ、「こんなはずじゃなかった…」と思っている人は少なくありません。
「育てたい花だけを育てたい」というごく当たり前でのようでいて、これまで叶わなかった夢をついに実現したのが、かたくり工房が開発した「ノンストレスガーデン工法」。草取りから解放されるだけでなく、プラスαのメリットがある画期的なガーデン工法です。
ノンストレスガーデン工法の3つのメリット
1 草取りをしなくていい!
2 育てたい植物の生育を促進!
3 育てたい植物の病気予防が期待できる!
かたくり工房所属の造園家、阿部容子さんは、「ノンストレスガーデン工法は、年齢とともに庭づくりの体力がなくなり、植物の世話ができないとお客さまから相談されたことがきっかけです」と話します。なんとか労力を少なく、大好きな花を育てることを今までどおり楽しんでほしいと生み出したノンストレスガーデン工法ですが、今では個人邸はもちろん、公共の公園など全国から多くの依頼があります。実際に、かたくり工房がノンストレスガーデン工法で施工したバラ園は、それまで草取りにかけていたメンテナンス費が1/10にまで削減され、主役であるバラの手入れにより力が入れられるようになりました。
ノンストレスガーデン工法のSTEP
この工法が正しく広がり、もっと手軽に緑を楽しめる人が増えてほしいと願う阿部さん。この工法について、詳しく解説してくれました。
【ノンストレスガーデン工法に必要な主な資材】
- カラー防草シート(植栽シート)/防草効果の高い高密度の不織布製で厚さ0.45mm程度のもの。あまり分厚いものだと扱いにくいです。色は土壌となじむブラウンがおすすめ。
- ノンストレスガーデン工法用土壌資材(以下工法解説Step3に詳細)
- ノンストレスガーデン工法専用植栽リング(*ガーデンストーリーで取り扱い)
- 防草シート用強力ガムテープ(なるべく強度の高いもの)
- モルタル
- バークか砂利(防草シートを隠すためのマルチング材)
- その他の道具/チョーク、カッター、ハサミ、スコップなど
【ノンストレスガーデン工法(土壌の下準備編)】
Step1 除草をする
●植栽しようと思っているエリアに雑草が多く生えている場合は、薬剤で除草します。特にスギナなど、地下茎で増える雑草がある場合は、除草剤を用いるのが効果的です。枯れた雑草はいったん取り除き、土の中に残らないようにします。
●宿根草など必要な植物がすでに植わっている場合は、それらをいったん別の場所に仮植えしてから除草します。宿根草は根が本格的に動き出す前の3月くらいまでは移植が可能です。
●樹木など移植が難しいものがある場合は、樹木から1m以上離して(大木の場合は上部の枝の広がり以上離して)除草剤を使います。樹木がたくさん植わっていて1m以上離せない場合は、除草剤は使わず手で除草します。
●新築の場合、敷地内に使われている土の中には発芽前の雑草のタネが含まれていることが多いので、発芽を抑制する効果のある除草剤を用います。
<除草剤の選び方&参考商品>
除草剤は商品によって効果の持続期間が2週間〜1年と大きく異なるので、植栽までの期間を計画的に考え、適したものを用いて除草します。また、除草剤には液剤や粒剤がありますが、液剤のほうがムラなく、まんべんなくまきやすいです。
●「グリーンスキットシャワー」/草花の周りで使用可能。1〜2週間で雑草が枯れた後すぐ、新たに植栽できる。液剤なので、まんべんなくまくことができる。
●「草退治メガロングFL」/スギナ・ドクダミ・ススキ・ササ・ゼニゴケなどの枯れにくい雑草を退治し、発芽抑制効果もある。ただし、効き目は8カ月残るので、植栽時期を計画的に。液剤なので、まんべんなくまくことができる。
Step2 排水勾配をつける
土壌を整地します。傾斜があると、後から用いるマルチング材が流れるため、なるべくフラットにしてから、排水勾配を1%つけます(水平器を用います)。排水勾配1%とは、敷地外の排水方向に向かって1mで1cm低くなるように傾斜をつけることで、歩道もそのように作られています。見た目も歩いた感じも傾斜があるようには感じられませんが、庭の環境を健全に維持するのに必須です。排水勾配がないと雨水が庭にいつまでも溜まってしまうため、植栽した植物が根腐れしてうまく育たないばかりか、家を傷めたり、健康被害をもたらすこともあります。
Step3 土壌改良
植栽エリア内の土壌改良をします。ノンストレスガーデン工法の土作りでは、有機物をあまり含まない土壌資材を用います。有機物はいずれ分解されてなくなり、シートが徐々に沈んできてしまうためです。前のステップで除草した雑草は有機物になるため、土の中に混ぜないようにします。以下の土壌資材は団粒構造が壊れにくく、シートの浮き沈みが少ない配合です。植物の生育に必要な養分は、植栽後にシートの上から与えます。
【ノンストレスガーデン工法用土壌資材】
- パーライト 14ℓ
- バーミキュライト 14ℓ
- 燻炭 8ℓ
- 牛フン 4ℓ
- ダイアジノン(コガネムシの幼虫などのネキリムシ用殺虫剤) 規定用法量
上記計40ℓを、1㎡に深さ20〜30cmで敷き詰めます。
【ノンストレスガーデン工法(シートの敷き方編)】
Step1 構造物をつくる
敷地の境界線になっているブロック(自身の敷地専用か共有ブロック)に防草シートをモルタルで固定していきますが、共有でない場合は、境界線のブロックから3cmセットバックして構造物を新たに設けます。シートを留めつけるためなので、高さは5cmあればOKです。
Step2 防草シートを広げる
防草シートを庭に広げます。庭の外周方向のシートの端は20cm程度余裕を持たせて配置します。この20cmは、①モルタルとののりしろ ②つっぱり防止のためのふくらみです。このふくらみがないと、人が歩いたときの重みでシートが沈んで引っ張られ、シートが破れたり、引き抜けたりする可能性があります。また、温度でシートが伸び縮みするのに対応する目的もあります。
シートは細長いロール状になっており、複数枚をつなぎ合わせながら敷くことになります。シートとシートのつなぎ目は10cmほど重ねて、つなぎ目を防草シート用強力ガムテープで隙間がないようぴったり貼り合わせます。つなぎ目に隙間があると、強風であおられシートがはがれることがあります。防草シート用のピンのみだと隙間ができるため、ピンは仮留めとして用い、最終的にはガムテープでしっかり留めつけます。
Step3 防草シートの端処理
庭の中に花壇の縁や敷石などの構造物がある場合は、シートの端を構造物に沿ってカットします。シートの端から2cmほどのところに、シート端と平行するように、ハサミやカッターで長さ10cmほどの切り込み(青のハサミ印)を入れます。モルタルで留めつける際、この切り込みの中にもモルタルを入れ込みながら接着すると、モルタルがフックのようにシートを留めつけ、複雑な形でも固定強度が高まります。カーブした箇所では赤のハサミ印のようにシートに縦に切り込みを入れると、フィットさせることができます。*直線箇所では、赤のハサミのように切り込みを入れる必要はありません。
Step4 シートを留めつける構造物の端を掘り下げる
防草シートを留めつけるレンガなどの構造物の際(きわ)を、5cm程度の深さに掘り下げます。
シートと構造物をモルタルで接着します。その際、シート端と平行に入れた横の切り込みの中にもモルタルを詰め込むのがポイント。
【ノンストレスガーデン工法(植栽編)】
Step1 植栽箇所にリングを当てて印をつける
どこに何を植えるのか、あらかじめ決めておき、シートの上にチョークで植栽ポイントを記していきます。宿根草の植栽場所には「ノンストレスガーデン工法専用植栽リング」を当てて、チョークでリングをなぞります。
*ノンストレスガーデン工法専用植栽リングとは
防草シートの上から宿根草や小型の低木類を植栽するために開発した円形状のプラスチック製リングです。植物の根張りや給排水が正常に行われ、シートの押さえとして機能し、バークで隠れる仕様になっています。防草シートとの併用で植物が健全に育つよう開発された専用アイテムですので、ノンストレスガーデン工法ではこの専用植栽リングを用いることを推奨します。植え穴をリングでしっかり抑えないと、風にあおられシート全体がめくれ上がってしまうことがあります。
サイズは6号(直径18cm)と8号(直径24cm)の2サイズがあるので、最終的に植物が生育する大きさや生育に従い変化する株元の形状に合わせて、どちらかを選んで使います。株元の形状が1本立ちで生育するタイプは6号サイズ、株元から複数茎が立ち上がって株立ちになるタイプは8号サイズがおすすめです。(植物については続編でも詳しく解説します)
宿根草以外の樹木や一年草のエリアは、チョークで植栽エリアのラインを描きます。一年草は植え替えや花がら摘みなどの作業がしやすいように、たいていは花壇の手前に配置するといいでしょう。
Step2 植え込み穴をあけ植栽
チョークで記した部分をカッターで切り取ります。植栽リングをギュッとはめ込み、シートをしっかり押さえます。植え込み穴の土を苗の根鉢の大きさ程度掘り上げ、リングの中に苗を植え込みます。
バラや樹木の植栽エリアはカッターで十字に切り込みを入れ、中央に植栽した後、切り込みに強力ガムテープを貼って留めます。
リシマキア、タイムなどのグラウンドカバー類の苗(3号ポットサイズ)を植栽する場合には、10〜12cmの円をカッターであけて植栽します。グラウンドカバー類は横に広がって地面を覆い、それ自体が押さえとして機能します。
一年草のエリアはシートをカットし、端を樹脂エッジで押さえ、樹脂エッジと防草シートを強力ガムテープで留めます。その後、一年草を植栽します。
Step3 マルチング
植栽後は穴の中にたっぷり水やりをし、防草シート部分が隠れるようバークや砂利などでマルチングをします。防草シートは紫外線によって劣化が早まるので、必ず覆い隠します。バークは堆肥に近いバークチップを敷くと雨水によって防草シートの中に養分が染み込んで植物の生育をサポートしてくれます。砂利をマルチングとして用いると、夏には日射で砂利が50℃以上になるため植栽エリアにはあまり向きません。砂利は通路など植栽をしない場所に向いています。
【ノンストレスガーデン工法(メンテナンス編)】
●水やり
初年度の水やりには注意が必要です。植栽した穴の中を意識してたっぷり水を与えます。ホースで全体的に水まきをしていると、植物に水が届いていない場合があります。また、ちょっとした雨では植物に十分行き渡らないことが多いので、初年度は乾きに注意します。可能なら自動灌水装置があると楽です。自動灌水装置の設定は朝1回(AM5時)にして、たっぷりめに。足りない場合は夕方に手灌水で水分をプラスします。2年目以降は極端に雨が降らない場合を除き、自然の降雨に任せてOKです。
●肥料
植栽の穴の中に、各植物の適期に肥料を施します。バラや樹木の箇所は、一度マルチングをどけて、ガムテープをはがして与えます。メネデール社の「バイオマイスター」をマルチングとして用いている場合は、防草シートの上から全体的にバイオマイスターを施すだけでOKです。バイオマイスターは防草シートの上から肥料成分を植物に届けることができ、マルチング材としても活躍する土壌資材です。
●マルチング
バークチップ(またはバイオマイスター)は分解されてなくなっていくため、減ってきたら植物の葉が少なくなる冬期に足します。
草取りから解放されれば、庭の大小を問わず、体力のない人も、時間がない人も、美しい庭のある暮らしが叶います。この工法についてご質問のある方(プロ)は、ガーデンストーリーinfo(https://gardenstory.jp/contact)までお問い合わせください。次回はノンストレスガーデン工法で植栽する植物の使い方について解説します。
記事協力/かたくり工房、住友化学園芸、メネデール
Credit
アドバイス / 阿部容子 - ガーデンデザイナー/造園家 -
あべ・ようこ/岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンのガーデンカフェ「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共、企業、個人の庭を全国各地でデザイン、施工。ぎふ国際バラコンクール審査員として岐阜県「花フェスタ記念公園」でも活動。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かし、病院のガーデンも施工しています。
まとめ・写真 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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