ミニトマトにニンジン、チャイブ、ルッコラ、バジル…。十数種類の野菜やハーブが育つプランターの背景に、ビル群が立ち並ぶ「ののあおやま おくじょう菜園」。都会の真ん中にあるこの菜園は、美味しい野菜を育てるだけでなく、100年先の未来のために知性や感性を育む場でもあります。夏野菜が育つ東京・青山の菜園を訪ねました。
青山に生まれた新しい街「ののあおやま」

ケヤキやコナラ、サクラにモミジ。豊かな木々が梢を広げ、重なり合う枝葉の間からキラキラと木漏れ日が射す「ののもり」の木道。足元にはツワブキやシラン、ギボウシ、ジャノヒゲなど日本に古くから自生する植物が緑のタペストリーのように広がり、細く流れる小川の水面は森の緑を鏡のように映し出しています。

澄んだ水の上をトンボが軽やかに飛んでいきます。その先に見えるのは、25階建ての高層ビル。街の喧騒から遠く離れた自然の中にいるようですが、ここは東京メトロ表参道駅から徒歩5分。国道246、通称青山通りからわずか100mほどのところにある新しい青山の街「ののあおやま」です。

2020年に誕生した「ののあおやま」は、老朽化した都営住宅団地、青山北町アパートを高層・集約化させ、創出した用地に豊かな森を作り、住まいや商業施設と一体化させた複合施設。高台の地形や水脈を活かした約3,500㎡の大規模な緑地空間と、229戸の賃貸マンションやサービス付き高齢者住宅、保育所、地域交流拠点、レストランやショップなどで構成されています。緑地には人が集えるベンチや芝生広場なども設けられており、住民はもちろん、近隣で働く人々やショッピングを楽しむ人もホッと一息つける、まさに都会のオアシスです。

講師による有機栽培レクチャー付きの屋上菜園

2022年からは「ののあおやま おくじょう菜園」がスタート。半年を1期間とし、現在2期目9組の参加者が野菜づくりを楽しんでいます。菜園ではレイズドベッドプランター「ベジトラグ」が1組に1基ずつ提供され、個々で作業ができるようになっています。種苗や資材はすべて月9,000円の会費に含まれ、ジョウロやバケツなど必要な道具も貸し出してもらえます。参加者は「ののあおやま」の住民のほか、近隣の人、幼児のいる家族、サービス付き高齢者住宅で暮らす人などさまざま。野菜づくりが初めての人がほとんどですが、月2回の講座で栽培のノウハウを専門家から教えてもらえるので、初心者も安心してチャレンジしています。
誰でも作業しやすいベジトラグ

野菜を育てているレイズドベッドプランター「ベジトラグ」は、足付きでテーブル状になっているのが特徴です。立ったまま、また椅子に座ったままでも野菜の手入れができ、成長する様子を間近に観察しながら作業できます。プランターの底板は中央に向かって傾斜し深くなっているので、ダイコンなど地中に実る根菜類も栽培できます。6月、プランターの中で育っていたのは、ニラ、シソ、インゲン、枝豆、ニンジン、チャイブ、ルッコラ、バジル、ミニトマト、ハツカダイコン、カブ、甘長トウガラシ、オクラ、モロヘイヤなど十数種類。子どもたちもプランターの中をのぞき込んで興味津々。でも、どちらかというと野菜より、もっぱら土の中をほじくって虫を捕まえるのに夢中です。
●ベジトラグの詳しい情報はこちら。
https://homeuse.takasho.co.jp/vegtrug
生き物と共生しながらの有機栽培

子どもたちの虫取りは、菜園の大事な手入れの一つ。これまで虫が苦手だったという人も、「ここで野菜づくりをしているうちに、もうすっかり慣れました」と、イモムシをヒョイとつまみ上げてバケツへ。「ののあおやま おくじょう菜園」は有機栽培で薬剤を使わずに野菜を育てているので、手で取る以外にも害虫対策として食品由来の手作りスプレーを使ったり、忌避効果のあるハーブと組み合わせたり、さまざまな工夫をしています。講師の鈴木富樹子さんは、小さな子どもにも楽しく理解できるように、野菜ができるまでの過程を絵にまとめて紹介したり、菜園を訪れる昆虫たちの写真をパネルにしたりして、参加者に有機栽培を丁寧にレクチャー。益虫や害虫の種類、目には見えない土壌微生物たちの働きなどについて、理解を深めながら作業をしています。

「ここへ来て、先生に土壌の成分や昆虫のことなどを教えてもらって、とても勉強になっています。マンションのベランダで1人で育てていたときは分からなかったことも、先生のお話を聞いて解決できたりしています」と参加者の1人は話します。また別の参加者は「とにかくできた野菜の味にびっくり。子どもなんかブロッコリーを生でパクパク食べるほど。どれも味が濃くて美味しいんです」と話し、2期連続でこの菜園での野菜づくりを楽しんでいるといいます。

野菜づくりを通して知性や感性、コミュニティを育む

「野菜を育てるということを通して、生き物のサイクルを知ってもらうのもこの菜園の目的です。だからこそ有機栽培であることが大事なんです」と話すのは、水野成美さん。「ののあおやま」全体のエリアマネジメントを行っており、菜園は新しい青山の街づくりの中で大切な意味を持っていると言います。
「100年後の未来を見据えて街づくりを考えたとき、自然との共生は不可欠なテーマです。有機栽培で野菜を育てるなかでは、植物そのもの以外にも、いろいろな生き物の存在や働きを知ることができ、それらがすべて私たち人間の暮らしに関わっていることを体験できます。利便性だけを追求する再開発ではなく、学びの場を提供し、知性や感性を育むのも、未来へ続く街づくりにとって大事なことです」(水野さん)

未来を見据える一方で、「ののあおやま」の街づくりでは過去の記憶も大切にしています。青山北町アパートは、戦後建てられた仮設住宅がその始まり。
「青山というと、おしゃれな都会の街というイメージですが、かつての青山北町アパートの住人にとっては暮らしの場。野菜を育てて季節の実りを住人同士で分け合ったりしながら暮らしていたんです」(水野さん)。そうした暮らしの記憶を今につなぎ、コミュニティを育む場としても、菜園は街づくりに欠かせない役割を担っています。

この日の講義の終わりに、講師の鈴木さんが子どもたちにポップコーンとスイカの‘シュガーベイビー’のタネを手渡し、一緒に播きました。どちらも固定種という品種です。大量生産に向くF1品種はタネ採りができないのに対し、固定種は自家採種でき、性質を次世代へ受け継ぐのが大きな特徴です。
「ここではなるべく固定種を使うようにしているんです。タネがいっぱいできたら交換会をするつもりです。ここでみんなで育てた野菜が、街へ広がっていったら楽しいですよね」と水野さん。
街へ未来へ、希望のタネがつながっていきます。
Information
「ののあおやま」
東京都港区北青山3-4-3
*「ののあおやま おくじょう菜園」の2023年春夏期の会員受付は終了。次期募集についてはHPの「催しもの」よりご確認ください。
Credit
写真&文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。「ガーデンストーリー」書籍第1弾12刷り重版好評『植物と暮らす12カ月の楽しみ方』、書籍第2弾4刷り重版『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(2冊ともに発行/KADOKAWA)発売中!
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