植物を育てていると、病気や害虫への対策など、さまざまな壁に出くわしますよね。そんなお悩み解決を、皆さんにとって一番身近な園芸のプロ「街の園芸店」にお願いしました。今回は誰もが聞きたい「花」に関するお悩みです。
目次
人々の心を潤す、花
植物を育てているとさまざまな問題にぶつかりますが、花に関するお悩みもたくさん耳にします。なかでも多いのが、やはり「なぜ咲かないの?」というお悩み。咲くと思っていた花が咲かないことほどショックなことはありませんよね。今回はそんな花に関するお悩みを、当連載でもうお馴染みの、街の園芸店「フラワーガーデン・セキ」の関ヨシカズさんに解決していただきます。
今回も答えてくれる街の園芸店「フラワーガーデン・セキ」(目黒区祐天寺)
今回も読者の皆さんのお悩みに答えていただく『フラワーガーデン・セキ』の関さん。東京は目黒区祐天寺に古くからお店を構え、近隣住民から愛される、地域に根ざした園芸ショップです。2代目の関ヨシカズさんは、花に精通した園芸のエキスパート。お店には花を買い求めるお客様だけでなく、花に関するお悩みを関さんに相談しようと、大変多くの方々が訪れます。もちろん皆さんからのご相談にも分かりやすく答えてくれますよ。さて、今回はどんなお悩みが寄せられているのでしょうか? さっそく関さんに伺ってみましょう。
【お悩み1】花が咲かないのは栄養状態に問題アリでしょうか?
花が咲いている苗を購入し、日当たりのよいベランダのプランターで育てているのですが、花が咲きません。肥料をあげないといけないでしょうか? 今まで、ラベンダー、羽衣ジャスミンなどを育ててきました。(近畿 50代 女性)
葉ばかり元気で花がつかない。栄養が多いのか足りないのか分からないです。(関東 50代 女性)
関さんの答え
お二方とも、何の花についてかが分かればより的確にお答えできるのですが、最初の質問の方の「肥料をあげないといけないのでしょうか?」に関しては、あげたほうがいいです。むしろあげるべきです。肥料にはチッ素・リン酸・カリという3大要素があって、ざっくり言えば、チッ素は葉っぱとか茎を作り、リン酸やカリは花や実に効果があります。これら3大要素が均等に、8-8-8とか10-10-10とかの比率で入っている肥料をあげておけば、とりあえず問題はないと思います。あげすぎると肥料焼けを起こすので、多くてもダメですが、少なすぎるのも効果がありません。さじ加減は、植物やプランターの大きさにもよるので、肥料のパッケージに記載の使用方法を参考にしてください。
もうお一方の質問のほうですが、「葉ばかり元気で花がつかない」というのは、肥料以外にも、日当たりの問題や、根っこが詰まりすぎていないかなど、他の要因も考えられます。おすすめは『リン・カリ肥料』。
これは、チッ素が0、リン酸19、カリ10、マグネシウム3と、この2つの栄養素に特化した肥料なのですが、お花に直接効くので、これもおすすめです。ちなみに、木や葉に元気がない時は、チッ素が多い油かすをあげると改善が期待できます。でも葉は元気なんですもんね。であれば、やはり『リン・カリ肥料』がベストです。という感じで、何の花かが分からない以上、施肥で改善を図るというのがよいのではないかと思いますね。根の状況も分からないので、コレだ! という確実な解決策を提示できませんが、施肥は試す価値はあると思います。
【お悩み2】豪雪地帯でのクレマチスの冬の管理方法を教えてください
4年前にクレマチスを買い求め、購入2年目は偶然かもというぐらい綺麗に咲きましたが、豪雪地帯のために外には置かず、家の中で管理するので、その方法が難しく、毎年綺麗に咲きません。どういうふうに管理すると安心して冬を越せるのでしょうか?(東北 60代 女性)
関さんの答え
この豪雪地帯ってのがね…。ウチは東京の目黒なんでね、正直なところ、豪雪への対処で的確な答えを出すのは難しいかも。ただまぁ、室内でどういうふうに管理するのか、ということにお答えすると、基本的にはなるべく外の環境に近づけるというのが一番だと思います。室内管理で重要になるのは風なので、日当たりのよいところでサーキュレーター(送風機)を回し、室内の空気を循環させ対処するという感じでしょうか。
豪雪地帯って確か、部屋と玄関の間にもう一個玄関があったりするところが多いと思うので、部屋を暖めるということに関しては、知識、技術共に、東京の人よりも圧倒的に長けているでしょうから、温度に関して言えば、部屋に置いておけば即ち温室栽培みたいな感じになると思うので、あえて必要以上に加温する必要はないと思います。
ただ、クレマチスに関して言えば、置いてある部屋を暖めすぎないほうがよいですね。でも話を伺うかぎり、一応冬越しはできているということなので、冬の寒さに当てすぎず暖めすぎずという感じがよいと思います。常に程よく暖かいという状態を保ちつつ、クレマチスは日光が大好きなので、日にもちゃんと当ててあげて、そして新緑の時期を迎えたら強めの肥料をあげる、そういう感じでいいと思います。
より確実なのは、クレマチスにもいろいろ種類があるので、購入したお花屋さんに行って品種を確認した上で適切な冬越しの仕方を聞いてみるのが一番だと思います。豪雪地帯のお花屋さんなら、僕ら東京の園芸店よりもその辺の知識はずっとあると思いますよ。
【お悩み3】羽衣ジャスミンの剪定の仕方を教えてください
羽衣ジャスミンを剪定せずに長年育てていますが、枯れ木の上にどんどんかぶさるように葉が出て花を咲かせている状態です。剪定するにも、どこをどう切ったらいいのか分からずに悩んでいます。(関東 50代 女性)
関さんの答え
これはね、これ言っちゃうと元も子もないのですが、どこでもいいんですよ、切りたいところを切ってください。って、答えになってないか(笑)。
ただ、どうしたいのかにもよりますね。例えば、地植えで壁に這わせたいという場合だと、地植えで根が存分に張れるため、あえて剪定をする必要もないと思います。
鉢植えの場合は、“株を更新”するという意味では剪定も有効ですが、それでも僕個人的には、伸びたいだけ伸ばしてやればいいと思います。鉢の場合はツルも綺麗に巻かれて行灯になって販売されているケースが多いのですが、結局、そう時間も経たないうちに行灯からどんどんツルが飛び出ちゃって、購入時の形は崩れるんですよ。で、それをどう巻いていくかという問題になってくるんです。コンパクトに仕立てて、花をそこだけに咲かせたいのか、あるいはそれを地面に下ろして、バーっと繚乱に咲かせたいのかで、方法も変わってくると思うんで。質問者さんの場合は、察するに地植えだと思うので、そして花もちゃんと咲いているようだから、そのままでいいかなと僕は思います。
どんどんかぶさるように葉が出るのは、これはジャスミン的にはしょうがないことなので、単に邪魔なところは切る、これ以上伸ばしたくないのであれば切る、これでいいかと思います。あるいは一度、翌年の花は諦める覚悟で強剪定する、という手もあります。その場合、ここを切っちゃったらまずい、というのは特にありません。ただし、一番下でガッツリ切っちゃうっていうのはやめてくださいね。
とにかく、羽衣ジャスミンはめちゃくちゃツルが伸びるんで、切れば切ったでそこからまた芽が出るため、あまり考えずに、これはもう直感で剪定しちゃって大丈夫ですよ! そして切ったあとはちゃんと肥料をあげてください。肥料をあげるにしても、冬の休眠期前に切ってからの施肥はあまり意味がないので、適期は2〜3月くらい。その時期に剪定して、直後に液体肥料でもあげて新芽を促す、という感じでやれば、ちゃんと元に戻りますよ。下のほうの枯れているようなところに葉を芽吹かせたいとなってくると、またちょっと別の話になってくるんですけど、そこはもう経年劣化部分なんで、あまり気にせず、上が生きていれば何の問題もない、って考えて、ガシガシ切っちゃって大丈夫です。
【お悩み4】バラに使用する薬剤の安全性について知りたいです
庭でバラを15株ほど育てています。バラ以外にもいろいろな花が花壇にあります。バラを育てていく上で、ある程度の薬剤散布はやむを得ないと思っていますが、オーガニックに関する記事を目にするたびに、薬剤散布について罪悪感を抱いてしまうことがあります。使用する薬剤の安全性(環境にどう影響するのか、生物に対してどう影響するのか)について詳しく知りたいです。(中国地方 50代 女性)
関さんの答え
15株ですよね? 農薬散布のヘリコプターで広大な農地に薬を散布するわけではないので、15株のバラに使用するぐらいの使用量で罪悪感を抱かなくても僕はいいと思います。ただ、そのように環境に配慮しようという気持ちを持つことはとても意義のあることだと思います。一人の“ちょっとなら大丈夫”が、塵も積もればで地球規模での環境汚染につながることもあるかもしれませんよね。ただ残念ながら、環境にどう影響するのか、生物に対してどう影響するのかに関しては、僕はそのあたりの研究者ではないので分かりません。そこを知りたいのであれば、住友化学園芸など、薬剤の販売元に聞くのが一番ではないかと思います。
同社のこちらのページでもそのあたりが説明されています。
https://www.i-nouryoku.com/agora/anzen/index.html
僕もこのURLを見てみましたが、そもそも影響を与えるようなものを、民生品には使わないでしょう。家庭園芸用なわけですから。市販されている化学薬剤は、いわゆる劇薬ではないので、取り扱い免許を持っていない僕らが使ったり、一般のお客様が使うことを想定して作られています。生物に対して影響があるようなものを売るはずがありませんよ。まして、バラは確実に虫は来るし、病気のリスクも高い植物なので、ちゃんと安全性を確認してから商品を市場に出しているはずです。
少なくとも僕は気にしたことはないですよ。当店の狭い環境で『ベニカX』まいたからって、地球に悪いことしたな、って僕は思わないし、むしろ植物育ててCO2吸収してますよ、くらいに思っています(笑)。
それでも気になるのでしたら、オーガニックな殺菌剤などを使えばいいと思います。木酢液など、天然由来の物は、決して商品数は多くはないでしょうが、どこの園芸店でも販売しています。ただ、それが化学薬品に比べてどの程度の効果があるかは分かりません。とにかく、栽培農家というわけでもなく、家庭園芸なわけですから、あまり神経質にならずに美しい花を楽しんでください。
【お悩み5】買ってきた花がセンスよく見えるコーディネートを教えてください
センスがなくて、プランターばかりが増えていきます。とにかく花を買ってきて、植えて、飾って、水をあげる、そんな感じ…。
コーディネートが難しいです。(関東 30代 男性)
関さんの答え
関東30代男性、素晴らしいじゃないですか(笑)! 30代の男性からの質問は、この連載始まってから初じゃないですか? レアです。素晴らしい!
プランターばかりでセンスがない、とおっしゃいますが、センスって基本的に人が決めるものじゃないですか。別に自分が、素敵だな、かっこいいな、と思ったらそれで僕はいいと思うんですけど。
ものすごいざっくりと言うならば、例えばプラスチックの鉢と、ちょっとアンティーク感のあるモスポット(素焼き鉢)を2つ並べると、99%の人がモスポットのほうがおしゃれ、と言うでしょう。つまり、そちらのほうがセンスがよいと思うわけです。
であればまず、もしプラ鉢を使っているのであれば、鉢を違う素材のものにしてみるだけでも一つコーディネートがよくなったといえます。
あと、よくありがちなのが、横長のプランターに花だけを統一感なく植えているケース。あれはいただけませんね。そもそもコーディネートという意味でいえば、横長のプランターって難しいんですよ。凄くセンスが問われるんです。この場合は、丸いプランターに変えてみて、今まで「花-花-花」だったところに「グリーン-グリーン-花」というふうに、ちょっと変化球でカラーリーフを入れてフォーメーションを変えてみるとよいでしょう。これは花だけで作るよりもセンスよく見えるので、おすすめの手法です。
花の集合体にちょっとグリーン物を使うとね、センスよく見えるんですよ。花束を人にあげたことがある人は分かると思いますが、切り花屋さんはよく使う手法です。ハイビスカスばかりだと芸がないので、ソテツの葉を一本加えただけで、ガラッとセンスがよくなる。あの手法をプランターで使うのは、ぜんぜんアリなんですよ。
ちょっとやってみましょうか。
このように、ちょっとした変化球でコーディネートの腕も上がるはずです。がんばってください!
最高なコーディネートができたらGS編集部に写真でも送って披露してください(笑)。
【お悩み6】野放図に育ってしまった庭のバラを綺麗にしたい
庭のバラが野放図に育ってしまって…どうしたらいいのか? しかも植えた覚えのない八重のバラまで咲いてしまい、色も一色になってしまいました。綺麗にするにはどうしたらいいでしょうか?(関東 60代 女性)
関さんの答え
植えた覚えのない八重が? う〜ん、どうなんだろ。(タネが)飛んで来たのかな? 植物には「先祖返り」とかもあるので。そもそもバラ自体交配種なんで、交配される前のやつが出てきちゃう、ということも考えられるのかな…。僕の周辺ではあまり聞いたことはないですが。
【先祖返りとは】
植物が品種改良のため交配を何代も重ねていくうちに、偶発的に原種とよく似た遺伝子を持つ品種ができて、原種に近い状態に戻ってしまうことを「先祖返り」といいます。花以外にも樹木など、植物全般に起こりうることであり、また、品種改良の有無にかかわらず、植物に過度のストレスがかかることによって起こるともいわれています。
おそらく、剪定せずに放置して、葉っぱも落ちちゃったりとかして、ワサワサ〜ッてなってるような状況が思い浮かぶので、これは一度、強剪定をするのが一番じゃないかな。強剪定とは、根元に近いところで切っちゃって、株を一から更新するということです。ワサワサと野放図になっているのが我慢できないのであれば、1〜2年くらいは開花を我慢して、強剪定をかけるのが最善の策だと思います。
大人の背丈くらいまで伸びているのであれば、腰とか膝ぐらいのところまでで止めちゃって。そうしないと、おそらく下のほうから上がってきません。株を作り直すのだったらそれぐらいしちゃってもいいと思います。上を切ったところで、根さえ生きていれば植物は死なないんで。それにより、切られたところからまた脇芽が出て、株が徐々に大きくなり、1〜2年ぐらいでこんもりさせて完成させる、というイメージでしょうか。
庭とか花って、そうすぐには完成しないものなんですよ。植えてからだいたい2〜3年経って完成するものなんです。なので、ここは心を決めて強めに切っちゃいましょう!
関さんから愛のメッセージ
皆さん、なかなか苦心しているようですねぇ〜。花は、基本的には世話をしてあげなければうまく咲かないものです。もちろん、自然に咲く花もたくさんありますが、要は「園芸」なわけですから、芸を施さないと、強く美しい“よい花”は咲きません。もちろん、この質問で取り上げた方々は、どう世話をしよう、どのように管理しよう、という模索をしておられる方ばかりなので、それはとてもよいことなのですが、じつはここで取り上げなかった他の質問の多くは、いかに手間をかけずに花を咲かせることができるか、というような内容で、正直僕は悲しい気持ちになりました。
普段よくいわれる「戦い」とまでは言いませんが、生ける物を扱うにあたり、世話をする「心」が欲しいものです。日頃仕事や家事が忙しく、なかなか花の世話もできないのは確かでしょう。でも思い出してみてください、園芸店の軒先で、その美しさ、可愛さに誘われてその花を家に連れ帰ったわけですから、そうして加わった“家族”に対し、手間をかけない方策を模索するのは、僕はどうかと思います。
確かに、今は通常の園芸品種に比べて手間のかからない改良された品種も多く販売されています。でも結局、手間を惜しむ人って、そういう品種でさえ簡単に枯らしてしまうんですよ。憚りながら園芸に携わる身としては、お買い求めになった商品が、そのお客様の心を潤すものであり続けてほしいと思います。花が美しさを保つには、その潤った心でお返しする愛情こそが最良の肥料なんです。ぜひとも手間は惜しまないでくださいね。そこで分からないことがあれば、どんどんこのコーナーで聞いてください。共に芸を磨きましょう!
おわりに
いかがでしたか? 今回の“愛の叱咤激励”は、何やらご本人のイメージに合わず(といっては失礼ですが)、ジ〜ンと来てしまいました。花って、関さんが言われるように、栽培する人の愛情の結晶だと思います。その結晶が実を結ばない時は、正直がっかりすることもしばしばですが…。でも、産みの苦しみがあってこそ、花開いた時の感動もひとしおというものです。元来、人間よりも儚い命ですからね。日々学びながら、その命を大事に育んでいきましょう。
ガーデンストーリーでは、引き続き関さんにさまざまな質問をぶつけていきます。次回も乞うご期待です!
植物に関するお悩み募集中!
植物を育てる上でのお悩みを募集しています。お寄せいただいたお悩みは、こちらの連載『街の園芸店がお悩みを解決!』にて、園芸のプロが丁寧に回答してくれるかもしれません。
※取り上げるお悩みは編集部にて選定させていただきます。お答えできない場合もございますので、ご了承ください。
お悩み入力フォームはこちら↓↓
https://forms.gle/vi7LXzPMD51Qgb5g9
取材協力
※現在(2024年5月)一時休業中。新店舗にて再開次第お知らせいたします。
Credit
取材・文/ガーデンストーリー編集部
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