石の建造物や石畳など、中世の趣をそのまま残すヨーロッパの美しい街並みや庭園。長い歴史を感じさせるその風景は、ロマンチックな魅力にあふれています。ガーデニング界でも「イギリスやフランスの片田舎」の雰囲気を求める人が多いよう。そんな憧れのシーンを手に入れるためには、まずは石の種類や性質を知っておくことが大切です。
目次
石を取り入れることの
メリットとデメリット
重厚な表情が庭の雰囲気を何ランクも上げてくれる自然石。木製品のように腐ることがなくローメンテナンスなのも大きな魅力です。

石の難点といえば、非常に重量があることと不要になった場合に処分が難しいこと。一度取り入れると変更は難しいので、雰囲気だけでなく特性についても事前に調べておきましょう。

生成の過程で性質が異なる!
自然石の種類を知ろう
【建築に使われる石材は大きく分けて3種類】
自然石にはどんな種類があるでしょうか。建築に使われる自然の石材は、生成の過程により「火成岩・変成岩・堆積岩」の3種類に大別できます。
■火成岩:花崗岩、安山岩、玄武岩など
マグマが地中で冷却して結晶化した岩石のことで、硬度が高く摩擦に強い特徴があります。花崗岩の御影石は、墓石や日本庭園などでよく使われます。
■変成岩:大理石や粘板岩(スレート)など
既存の石が熱や圧力などにより再結晶化した岩石のこと。大理石は高級な建築物でよく見かけます。
■堆積岩:石灰岩や砂岩、凝灰岩など
石灰岩は生物等による炭酸カルシウム、砂岩は砂や土など、凝灰岩は火山灰が堆積して形成した岩石のこと。一般家庭の庭で使われることが多い種類です。
- 砂岩
主に敷石や花壇などに使用される。耐火性があり酸にも強い。吸水率が高く汚れや苔がつきやすいので、汚れたらブラシでこするなどのメンテナンスが必要。その分、経年変化で豊かな表情が楽しめる。
- 石灰岩
ビルの内装や産地によっては石垣などに使用されることが多い。比較的軟らかく加工しやすい反面、やや強度が低いことから、駐車場のように荷重がかからない場所や、内装の床材などに向いている。

【石の産地ごとに国柄がある】
石には産地があり、それぞれに異なる雰囲気があります。例えばイングリッシュガーデンブーム時に人気となった蜂蜜色のコッツウォルドストーンには素朴さとあたたかみがあり、英国らしく牧歌的で草花がよく似合います。また、渋くて落ち着いた趣の日本の伊豆石には武家屋敷の雰囲気が漂うなど、地域色もさまざま。けれど、きれいにカットされた砂岩や石灰岩などは主張が強すぎないので、あまり個性に縛られずに用いることができます。

右/乱形のインド砂岩。大小さまざまなものがある。
同じ種類の石でも、採掘エリアによって少しずつ色みが異なり、空間にもたらす雰囲気は大きく変わります。青みがかる石はクールで都会的な雰囲気を、黄みがかる石は素朴さやあたたかみのある雰囲気を演出することができます。

どれも魅力的なのであれこれと使いたくなりますが、欲張るとちぐはぐになってしまいがち。ひとつのエリアでは2~3種類にとどめるほうがよいでしょう。

石は「敷く・積む」以外にもいろいろな使い方ができます。例えば、植物の周りにごつごつとした石をあしらえば、ドライエリアの雰囲気や荒涼とした雰囲気を演出することができます。無造作感を装って配したほうが、より自然に仕上がるでしょう。上手に据えるには、イメージする地域の風景をよく研究してみると、しっくりとくるシーンが作りやすくなります。また、小石や砂利は、園路などに敷いたり鉢植えの化粧としても使えます。

用途別にご紹介
石材カタログ
石を「敷く」「積む」「据える」と用途に分け、砂利と併せてご紹介します。イメージに合った石を見つけてください。
1.敷く
面積が広く庭の印象を大きく左右する敷石は、特に慎重に選びたいものです。石の売り場で床の石材として並んでいる庭用の敷石は、おもに砂岩と石灰岩ですが、基本的に大判の石灰岩は砂岩に比べて衝撃に弱く割れやすいので、駐車場には適していません。また石灰岩は、濡れていると砂岩よりもやや滑りやすいことも。しかし、タイルほど滑るわけではないので、砂岩・石灰岩どちらもアプローチなどに敷いても問題はありません。
【整形石】


ミストラル・イエロー・セッツ(インド・砂岩)
クラウディー・TANZAKUシアンブルー(インド・石灰岩)
フォレスト・ペイビング(インド・砂岩)
【整形石(石畳向き)】


ノルディック・スライス(ベルギー・花崗岩)※アンティーク
ルールモント・スライス(オランダ・花崗岩)※アンティーク
フォレストセッツ・オールド色(インド・砂岩)
※アンティークのアイテムは、石畳で実際に使われていたものなので数に限りがあります。
【乱形平板】


オールドクレイジー(インド・砂岩)
ペンシルバニア・クレイジー(アメリカ・砂岩)
ヨーク・クレイジー(イギリス・砂岩)
2.積む
積み石は表現したい構造物によって選ぶ石の形が大きく異なります。薄めで表面が平らなものは花壇などにおすすめ。一方、ゴツゴツした立体感のある岩・ロッカリーは、重厚感が出てお城の石垣のような雰囲気も出せます(野面積み)。これはやや難易度が高く、専門的な技が必要です。


カナディアン・グレイ・バサルト・ウォーリング(カナダ・玄武岩)
アルデンヌ・ウォーリング(ドイツ・硬質砂岩)
コッツウォルド・ウォーリング(イギリス・石灰岩)

ロゼ・ピエール・ウォーリング(フランス・硬質石灰岩)
クラウディー・ウォーリング・ブロック(インド・硬質石灰岩)
クール・ストーン・ウォーリング(日本・石灰岩)
3.据える・置く・景石
シーンをより印象的にしたいときは、岩のような石を据えてみましょう。花壇や植栽の中に配して自然の風景を再現したり、アクセントを出したりするのにおすすめです。自然石ならではの存在感や風合いが楽しめます。コロンとしているものより、ややごつごつとした荒々しい雰囲気を持つ石のほうが合わせやすいでしょう。


ハイランドグレイ・ロッカリー(イギリス・石灰岩)
コッツウォルド・ロッカリー(イギリス・石灰岩)
カナディアン・グレイ・バサルト・タクアン(カナダ・玄武岩)
4.砂利を敷く
地面への色づけは、周りの石や植物を引き立たせる大事なポイント。広いスペースの場合は、防草シートの上に敷くとメンテナンスが楽で美しい状態が保てます。また、大きめの砂利や玉石(コブル)を使うとロック・ガーデンのような雰囲気が作り出せます。



【石が見られるショップ・場所】
■青桃社 鯉江(SEITOSHA KOIE)

ここまでご紹介してきた自然石を多く扱っている会社が「おしゃ楽」(愛知県安城市)です。そのショールームが、2022年9月に愛知県の常滑にオープンしました。営業日は木・金・土曜日のみで、石のサンプルが置いてあるほか、自然石を使った雑貨などを販売。庭づくりをする人にとって石選びや庭づくりの相談に乗ってもらえる頼もしい場所です。またカフェが併設されているので、気軽に立ち寄ることができるのも嬉しいポイント。

建物は、昭和の古い味わいを残す築60年の製陶工場だったものをスタッフでリフォーム。定期的に石材・ガビオンを使ったワークショップを開催するなど、多目的スペースとなっています。

右/石張りのワークショップに使われるキット。「おしゃ楽」オリジナルのこの木枠があると広範囲でもずれにくく、仕上げやすくなる。
ここで提供しているコーヒーは、こだわりの豆を常滑焼で焙煎したものを使用し、一杯一杯丁寧にドリップしています。「ここでコーヒーを飲みながらガーデンの相談が気軽にできたり、石材を使ったワークショップを通じて自然石と触れ合えたりする場所にしていきたい」とスタッフの小西吉祐さん。

右/小西さんは庭づくりの専門家だが、有名コーヒー店で腕を磨いた経験もある。
奥のギャラリーでは石材を使った作品や、アメリカで仕入れたアンティーク商品を展示販売。
店内は石のアートが飾られた空間。石を屋外だけでなく、ちょっとしたインテリアアイテムとしての石の楽しみ方を提案しています。



■おしゃ楽常滑資材センター・展示場
「青桃社 鯉江」で相談後、実際に石を購入したい場合は、近くにある「おしゃ楽常滑資材センター・展示場」に寄ってみましょう。ここは石材の置き場兼業者用の展示場ですが、一般の人でも1個から購入することが可能。一見雑然としていますが、全ての石に石名、産地、分類、金額などを記載したラベルがあり、購入しやすくなっています。



敷地内には、使用例をあちこちに点在させ、実際の使い方や雰囲気を分かりやすく提案。経年変化による味わいも確認できます。
石の魅力やアイデアを伝える「青桃社 鯉江」と、実際に購入できる「常滑資材センター・展示場」。この流れで訪れると、石選びがスムーズです。また東京のモデルガーデン(「世田谷ガーデン倶楽部」内)でも石・施工例の展示が見られます。ぜひ訪れてみてください。
【SHOP DATA】
青桃社 鯉江
所在地:愛知県常滑市鯉江本町4丁目65
TEL:0569-89-8665 ※営業日のみ
営業時間:10:00~16:00
定休日:日・月・火・水曜日(盆・年末年始・GW 休み あり)
https://www.seit-osha.jp/
【SHOP DATA】
おしゃ楽常滑資材センター・展示場
所在地:愛知県常滑市金山西石田51
営業時間:9:00~17:00
TEL :0566-73-6881(おしゃ楽本社)
定休日:日曜・祝日(盆・年末年始・GW休み あり)
www.osharaku.com
写真協力/おしゃ楽
Credit
写真&文/井上園子
ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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