おうち時間が増えて、ガーデニングをする人が増えた今。20年前のブームの際に土に親しんでいた人が、子どもたちに触発されて、2世代、3世代で庭のある暮らしを楽しむ傾向が見られます。神奈川の自宅で長年ガーデニングをしてきた経験から、現在「あざみ野ガーデンプランニング」のガーデンプロデューサーとして活躍する遠藤昭さんが、その新たな潮流についてレポートします。
目次
一昔前のガーデニングブーム
今、コロナ禍でガーデニングブームが到来していると盛んにいわれているが、一昔前のイングリッシュ・ガーデンブームとは、かなり様子が異なるように感じる。一昔前とは、「ガーデニング」という言葉が流行語大賞に選ばれた、1997年頃からの約10年間である。「庭いじり」がガーデニングという言葉になり、『BISES』をはじめ多くの園芸雑誌が、盛んにイングリッシュ・ローズやイングリッシュ・ガーデンを特集し、英国式ガーデニングを普及させた。そして、当時の専業主婦層を中心にガーデニングブームが起きた。毎年5月には西武ドーム(現メットライフドーム)で花のイベント「国際バラとガーデニングショウ」が開かれたり、ホテルオークラでは「大使夫人のガーデニングショー」が開かれたり、各地でガーデニングショーやガーデニング・コンテストなどのイベントも盛んに行われた。
私自身、2003年に雑誌『園芸ガイド』のコンテストでグランプリをいただき、ハワイ旅行の賞品をゲットした。翌年の2004年には、浜名湖花博のコンテストでもグランプリ賞品でニュージーランド旅行をゲットするなど、ガーデニングブームの恩恵を受けた一人だ。結果として、サラリーマン卒業後に趣味だったガーデニングからプロの道に進んだので、当時のガーデニングブームは私の人生にも大きな影響を与えたと言わざるを得ない。
あのブームから20年近くが経ち、ガーデニング雑誌の休刊や、恒例行事だった大規模な花のイベントも数年前に終了した。これは誠に残念ではあるが、時代の流れなのだろう。
コロナ禍で火がついたガーデニングブーム
さて話を戻すが、昨今のコロナ禍でのガーデニングブームについて。私自身が「ガーデンレッスン」を10年余り実施してきて感じることが、今まであまり興味をもっていなかった若い世代、特に男性にガーデニングを楽しむ人が増えたことである。コロナ禍でリモートワークになり、家で過ごす時間が増え、気分転換に緑や花を求めるというのは当然であろうと思うのだ。
内容的にも、かつてのイングリッシュ・ガーデンへの憧れではなく、屋内やベランダでも楽しめる観葉植物や多肉植物、そして、私の得意とするオージープランツやドライガーデン系のスタイリッシュな植物が人気である。若い世代が先進的なスタイリッシュ系のガーデニングを求めるのは当然だが、さらに最近は、新たな潮流として、その若い世代のガーデニングに刺激され、親である、かつてのガーデニングブーム世代が、自分の庭を今風にリニューアルするというケースが出始めていることだ。
コロナ禍が生んだガーデニングの新しい潮流
今年になって3件ほど、私もこのパターンを経験した。コロナ禍が生んだ新しい潮流だ。
新しい現代のガーデニグが親子共通の趣味になり、孫も加わって3世代でガーデニングを楽しむ姿は、なんとも微笑ましい限りである。
そこで今回は、そんな潮流の最先端を行く、70代のかつてのイングリッシュ・ガーデンの洗礼を受けたご婦人の庭のリニューアルをご紹介しよう。
まずは、このストーリーは40代の娘夫婦の庭のリニューアルから始まる。
玄関前の植え込みをリニューアルしたいという、在宅勤務になったご主人からの要望で、幾度かのガーデンレッスンを経てリニューアルをした。
左奥のコルディリネが大きくなり、さらに今後も大きくなりすぎることが予測されるので、バッサリ切ることをアドバイスした。
左奥、鉢植えのジャカランダが開花中。そして、以前はパンジーが植わっていたレンガの花壇には、添え木をしたグレヴィレア‘ロビンゴードン’、アガベ‘白閃光’、ニューサイランなどを植えてスタイリッシュに変わった。とても研究熱心でセンスのあるご主人で、積極的にリニューアル。それぞれの植物は、以下にご紹介しよう。
ひと夏を越え、それぞれがすっかり茂った。鉢植えのストレリチアが開花中。
銅葉のイポメアやコリウス、そして右側のハーデンベルギアが茂っている。
70代のお母様がレッスンを希望
このように、花壇が1年で雰囲気を変えていった娘夫婦の庭の変化に刺激されて、70代のお母様からガーデンレッスンのご要望をいただいた。
聞くところによると、ご婦人は20年ほど前にはガーデニングに燃えていたが、次第にブームも去り、その後はだんだんマンネリ化とのこと。人生、その時々でいろいろと趣味も変化するのは当たり前で、よくあるパターンですね。
「家の鏡」といわれる玄関付近。かつて草花で飾っていたこともあったが、いつからか紫御殿に占領されてしまったという。まずは、ここから着手。たくさんのオーナメントがあり、昔のガーデニングへの熱の入れようがうかがえる。
ガーデンレッスンをやっていて、「庭は主の生活態度が反映される鏡」のようだと感じることがある。実際、私自身にもいえることだ。油断していると、日々の植物の変化に気づかず、庭が荒れていくのに麻痺してしまう。そして、やがてマンネリ化してしまう。着るものなどの日々のお洒落には気を遣っても、庭のお洒落は後回しになってしまう。
グレヴィレア‘サパーブ’の樹木を中心に、周囲にはニューサイラン、ユッカを配置。グラウンドカバーにはヒューケラとセダムを使用。施工して数カ月で下草がしっかり育ってきた。
当初は、玄関だけリニューアルの予定だったが、やはり一部をきれいにすると他が目立ってきて、メインの庭の一部もリニューアルすることになった。
園芸が好きな人は、どうしてもいろいろな植物を植えたり増やしたりしてしまうものだ。
とてもセンスと実行力、パワーがあるご婦人で、幾度かのガーデンレッスンを受けただけで、今風のスタイリッシュな庭に変身することが叶った。さすがにガーデニングは“昔取った杵柄”で、私もご婦人の情熱が、とても刺激になった。
枯れてしまったバラや増えすぎた宿根草を整理して、グレヴィレア‘ムーンライト’、ユッカ・ロストラータ、リューカデンドロン‘レッドデビル’、ニューサイラン、そして玄関脇で割れた鉢に植わっていたコルディリネも再利用した。それぞれの植物をご紹介しよう。
庭を若々しくスタイリッシュに明るくスッキリさせると、気分も明るくスッキリ! 元気溌剌となるもの。ガーデニングの仕事をしていて、いつも感じることだ。
長いコロナ禍で鬱々としているなら、これからの時期、ちょうど庭の見直しにいいタイミングですので、思い切って庭のリニューアルに着手することをおすすめします。
そして、コロナに負けない「自分の人生」をしっかりと生きたいものです。
Credit
写真&文 / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -
えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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