本場フランスでも再注目の家庭菜園「ポタジェ」を解説
おうち時間を楽しく過ごすために、自宅の空いたスペースを利用して野菜の栽培をスタートする人が増えています。それは日本に限らず、「ポタジェ」発祥の地であるフランスでも同様に、オーガーニックで野菜を自ら育てる人が増えているといいます。今フランスで再ブーム到来のポタジェ事情を、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんに教えていただきます。
目次
ポタジェって何?

「ポタジェ」や「ポタジェガーデン」という言葉、耳にしたことがあるでしょうか。ポタジェ(Potager)という呼称はフランス語のポタージュ(Potage, スープのこと)からきたもので、スープの材料となる野菜を育てる場所、つまり菜園のこと。野菜だけでなく、果樹やハーブや花なども栽培する美観を備えた庭を意味します。
「ポタジェ・ガーデン」の魅力

実用的な野菜や果実を栽培するにしても、いわゆる畑とは違った、オーナメンタルなガーデンとして景色に馴染むのがポタジェのよさ。植栽の仕切りには果樹のエスパリエを仕立てたり、レイズドベッドにも野菜や花を取り混ぜてみたりと、自由な発想で庭づくりの楽しさと収穫の喜びの両方を満喫できるのが嬉しいところです。
ポタジェの歴史

「ポタジェ」の歴史は古く、果樹や花々が美しくあふれる聖書のエデンの園もポタジェの祖先といわれます。中世の修道院ではすでに薬用や食用になる植物を育てるハーブ園があり、17~18世紀のフランスの王侯貴族の城館の庭には、必ず「ポタジェ」がありました。

もっとも名高いポタジェは、17世紀、太陽王ルイ14世の食卓のために野菜や果樹を栽培したヴェルサイユの「王の菜園(ポタジェ・デュ・ロワ)」でしょう。完璧なフレンチ・フォーマル・スタイルで構成されたこのポタジェは、果樹栽培に関心を寄せていた王自らがしばしば散策に訪れ、お気に入りの庭師と語らったという場所。当時最先端の栽培技術でさまざまな珍しい野菜や果樹を生産するばかりでなく、散策が心地よいものになるような美観を備えた場所でした。さすが美オタクのフランス人の矜持を感じさせる「ポタジェ・デュ・ロワ」ですね。

もちろん、ポタジェが営まれた城館や宮殿はヴェルサイユにとどまりません。現在もフランス各地の城館にポタジェがありますので、庭園見学の際にはぜひ覗いてみたいものです。実用と装飾を兼ねた、まさに用の美ともいえるガーデニングは、美オタク的かつケチケチ精神もたくましいフランス人の性格にしっくりきたのでしょうか。この習慣はブルジョワ階級に受け継がれ、広く一般化していきます。
フランスでも「ポタジェ」がブーム

このように伝統あるフランスのポタジェですが、じつはこのところ特にフランス人たちの間で、再び「ポタジェ」人気が高まっています。きっかけは、コロナ禍による数カ月のロックダウン。自宅に引きこもらざるを得ない厳しい外出制限下で、フランス人の10人中6人、なんと人口の半数以上がガーデニングに勤しんだという調査結果があります。

ロックダウンの中で、期せずして、庭で、あるいはテラスやバルコニー、キッチンの窓辺でも、とにかく植物を育てて親しむ人が増えました。そして、それは植物との触れ合いが生活にいかに潤いを与えてくれるかということに多くの人々が気付き、深く実感するきっかけになったのです。

じつは何を隠そう、フランスの田舎にある我が家でも、やはり2年前のロックダウン中に、パートナーが突如としてポタジェづくりを始めました。試行錯誤を重ねつつ、2期目に入ろうとしているところです。
また一方で、温暖化対策の一環としてパリなどの大都市では都市緑化が推進され、都会暮らしのパリジャン・パリジェンヌの間でも、ガーデニングへの関心が高まっています。オーガニックへのこだわりも一般化していることから、初心者ガーデナーたちにとっても、自宅でガーデニングを始めるにあたり、安心して食べられる緑を育てられれば一石二鳥。満足度も高く、子どもの教育にもよい、と「ポタジェ」ブームがどんどん広がっています。
さまざまなポタジェ

例えば庭がなくとも、バルコニーやテラスの限られた空間でも、コンテナや植木鉢を上手に使って小さなポタジェを楽しむことができます。最近、パリの街中では、市民のためのシェア・ガーデンとしてのポタジェを方々で見かけるようになりました。シェア・ガーデンでは、隣り合う人々の間でコミュニケーションが生まれ、人の繋がりが自然と育まれていく、そうしたことも都会では貴重な収穫と捉えられています。また、ある有名百貨店の屋上には社員の福利厚生目的でつくられた、とってもお洒落なポタジェがあったりもします。ちょっと羨ましいかも。

一方、ポタジェが大ブームになる以前から、ガストロノミーな高級レストランの間では、こだわりの採れたてオーガニック野菜を使った料理という最高の贅沢を追求するために、自前のポタジェを持つのが流行っていました。そんな訳で、ミシュラン星付きレストランのポタジェというのも、珍しくないほどになっています。
ポタジェはオーガニックが基本

これらのポタジェに共通するのは、いわゆるオーガニックな栽培です。なるべく環境に負荷をかけない自然な方法を志向するガーデニングが当たり前になっているフランスでは、食卓に直結する食物を育てるポタジェではことさら、化学肥料や農薬を使わないナチュラル・ガーデニングが主流。自然素材のマルチングを使ったり、コンポストを利用したり、廃品パレットでアウトドア・ファニチャーを作ってみたり。ポタジェは、さまざまな創意工夫の場でもあります。

ところで、ポタジェで目にするアイテムの一つに、昆虫ホテルなるものがあります。受粉を媒介する昆虫たちは、ポタジェの植物にとって大切な存在。ポタジェでは、植物たちの美観と実用のみならず、その周りの昆虫やらさまざまな自然の働きにも目が向くようになってきます。ひいては生き物の多様性やエコロジーの大切さに思いを馳せるきっかけにもなる、まさに人と自然をつなぐ、日々の癒やしの場がポタジェ。収穫の後の食卓の料理に思いを馳せながら、あなたの「ポタジェ」を、さっそく始めてみませんか?
Credit
写真&文 / 遠藤浩子 - フランス在住/庭園文化研究家 -

えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。2026年10月14日に初めての著書『名画の庭 拡大でみる60の庭園文化事典』(創元社)を発売。
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