暑さに休む花も多い時期。すっと茎を立ち上げて咲かせる鮮やかなユリの花は夏の庭の主役を務めます。小さな庭にヤマユリ、オニユリ、カノコユリなどが咲き始めると「故郷の夏景色や懐かしい思い出をも呼び起こす」と話すのは、神奈川県で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さん。この時期だからこそ会えるユリと庭景色とともに、ユリのエピソードを前田さんに教えていただきます。

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鮮やかな花姿に重なる故郷

ユリの庭

眩しい陽射しが照りつける夏庭に、鮮やかな彩りを放つヤマユリ、オニユリ、そしてカノコユリ。これらの原種ユリは、庭づくりを始めた頃、故郷を身近に感じられる景色を作りたいと思い植えた花です。強健で野趣溢れる原種ユリは、花の少ない夏庭に精彩を与えてくれる救世主。そして、故郷の夏景色や懐かしい思い出をも呼び起こしてくれる、わたしにとって大切な心の拠り所です。

夏の到来を告げるヤマユリ

ヤマユリ

毎年、梅雨明け間近に開花するヤマユリは、原種ユリの中でも特に強い芳香を放つ美しい大輪花。ある朝、ダイニングの窓を開けると、重く湿った空気に漂う濃厚な香りが、ヤマユリの開花を知らせてくれます。その目が覚めるような華やかさと堂々たる佇まいは、「ユリの女王」と讃えられるに相応しく、たった一晩で、庭の景色もわたしの心も晴れやかな夏色に変えてくれます。

ヤマユリ

そんなヤマユリも、子供の頃は、山地の青葉闇で目にする度に、毒々しい赤い斑点模様の大きな花が、口を開けて襲いかかってきそうで不気味で仕方ありませんでした。そのうえ、むせるような芳香も、仏様に供えるお線香のようで苦手でした。

夏の到来を告げるヤマユリが咲くと、ふと蘇るこんな幼き日の夏の思い出も、今では大切な心の宝物です。

万緑に輝くオニユリ

オニユリ

ヤマユリが見頃を終える頃、背丈を越える花茎の先に、幾つも鮮やかな橙色の花を咲かせるオニユリ。クルンと反り返る球形の花弁とうつむき加減に咲く様が何とも可憐です。

オニユリ

わが家のオニユリは、庭づくりを始めた頃、実家の母が地元の日曜市で球根を買って送ってくれました。出店していた農家さんが、裏山に群生しているオニユリの球根を掘り起こして売っていたのだとか。その当時も、園芸店やネットで球根を手に入れることはできましたが、故郷産直だと愛着が違います。植え込みも一番見栄えよい場所に植えたくて随分迷いましたが、結局、ダイニングとリビング、和室からも眺められる2カ所に植えました。此処なら、暑さで庭に出られない日中も室内から愛でることができます。

和室から見る庭

食卓を囲むひと時や寛ぎのひと時、また、家事の合間にふと目にするオニユリは、万緑に映えてハッとするほど色鮮やか。その姿に、故郷の夏景色が重なり郷愁に駆られます。

きっと今頃は、入道雲が沸き立つ青空に一面に広がる青田、そして、野辺では照りつける陽射しにオニユリが輝いていることでしょう。

夏の暮らしに華やぎを添える
オニユリの花あしらい

多花性のオニユリは、花丈が長くなるほど支柱をしても重みで倒れてしまうことがあります。そんな時は、思い切って切り花にして室内で楽しみます。

オニユリのあしらい

例えば、自然な花姿を生かすなら深さのある器にバサッと大胆に。斑入り模様が蛍に見えることから別名ホタルガヤといわれるタカノハススキを添えると、涼やかで写景感も増します。薄暗い玄関に設えたオニユリは、チラチラ煌くぼんぼりのよう。ホタルガヤが醸す一服の風に乗って、夏の風情が辺りに漂います。

オニユリのあしらい

そして、次第に花数が少なくなってきたら、短くカットして夏花を合わせた挿花や一輪挿しに。中でも一番の気に入りは、ナデシコ科のセンノウゲとの組み合わせです。オニユリの橙色とセンノウゲの朱色は、夏に嬉しいビタミンカラー。パッと目を引く鮮烈な色合いが、暑苦しい気分を明るくしてくれます。また、中輪の原種ユリと山野草の組み合わせは、茶花のような品のよさもあり、和室の設えに好適です。

和室の庭

亡き祖母の面影を重ねるカノコユリ

カノコユリ

原種ユリの中で一番遅咲きのカノコユリは、花弁の鹿の子絞りの模様とシベのコントラストが美しく華やか。紅花と白花のカノコユリが、8月の庭の主役です。

わたしの故郷高知県には、このカノコユリの変種のタキユリが自生しています。「タキ」とは、方言で崖のことを言い、崖から下垂して咲くのが特徴です。

子供の頃は、川遊びに行く途中でよくこの花を見かけました。今でも、林道の道路脇や山中で容易に目にするタキユリですが、絶滅危惧種に指定されている希少種なのだとか。

カノコユリ

そういえば、かの有名なシーボルトが来日した際に、ヤマユリとタキユリをヨーロッパに持ち帰り、この2種のユリを基にさまざまな園芸種のユリを作出したとも言われています。切り立った崖の隙間からすうっと細くしなやかな花茎を下垂させ、幾つも花を咲かせる様は、どこか神秘的。一度だけその群生を見たことがありますが、まるで滝のような荘厳さに鳥肌が立ちました。

庭に咲くカノコユリは、そんなタキユリの姿を彷彿とさせてくれる花。今も、あの景色と感動が鮮明に脳裏に浮かびます。

カノコユリ

そして、タキユリは、大好きだった亡き祖母が好きな花でした。

お盆の頃に見頃を迎える庭のカノコユリには、毎年、黒アゲハチョウがやってきます。1輪のカノコユリにたゆたう黒アゲハチョウは、祖母の化身でしょうか。

「おばあちゃん、今年もまた会いに来てくれてありがとう。嬉しいよ!」と、声をかけながらその姿を眺めています。

カノコユリとクロアゲハ

Credit


写真&文/前田満見
高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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