小さな庭と花暮らし「雨の季節の愉しみ〜ヤマアジサイの咲く庭で〜」
つるバラやクレマチスが見頃を終える頃、徐々に色付き始めるヤマアジサイ。これから迎える梅雨の季節も、「潤んだ深緑とこの花のおかげで、庭はしっとりと色鮮やかです」と話すのは、神奈川県で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さん。なかなか外に出ることができないけれど、梅雨の晴れ間には、この時期ならではの庭時間の愉しみもあります。今回は、雨の季節を彩るヤマアジサイと日々の愉しみを前田さんにご紹介いただきます。
目次
深緑に映えるヤマアジサイ

雨粒を纏った深緑が目に鮮やかな6月。
小さな庭のそこここで、数種類のヤマアジサイが彩りを添えています。
中でも、ひと際存在感を放っているのが古株の「藍姫(あいひめ)」。「藍姫」は、マンションに住んでいた頃から鉢植えで育てていました。庭に地植えするとすぐに大株になり、かれこれもう20年以上、毎年花を咲かせています。装飾花が大きく、咲き揃うと青〜紫のグラデーションがとても華やか。「藍姫」という名に相応しいヤマアジサイです。

じつは、この「藍姫」の挿し木が、実家や友人の庭やベランダにいくつもお嫁入りしています。「今年も咲いたよ〜」と、花便りを受け取る度にホッとして嬉しくなります。

そして、この「藍姫」とほぼ同じ時期に植えた水色のヤマアジサイは、植木市で手に入れました。残念ながら当初から名前が分かりませんが、水色とレモンイエローの爽やかな色合いに一目惚れしました。ジメジメした空気に一服の清涼剤となるような装飾花は、目にするだけで気分爽快。こんな淡い色合いは、どんよりとした曇りや雨の日にこそ美しさが際立ちますね。

ヤマアジサイの中で唯一、桃色の「アジアンビューティー」は、西洋アジサイとの交配種。双方の長所を受け継いだ優等生です。例えば、生育旺盛で日当たりの良し悪しのどちらでも植え付け可能なこと。中輪多花性で、土壌のpHを気にせずとも安定した桃色の装飾花を咲かせてくれること。

さらに、褐色の花茎と銅色を帯びた中葉はカラーリーフとしても観賞価値が高く、まさに好いこと尽くし。下草に銅葉やシルバーリーフをあしらうと、シックでおしゃれな雰囲気の植栽になります。春の芽吹きから紅葉まで見応えのあるヤマアジサイです。

そして、「これ以上ヤマアジサイは増やさない!」と心に誓っていながら、出合った瞬間、心が折れてしまった「津江のコデマリ」。小さな手毬咲きのこのヤマアジサイは、透明感のある水色に絞り模様が特徴で、花茎も細くしなやか。何ともいえない楚々とした風情が魅力です。あまりに繊細なので鉢植えで育てていますが、不思議なことに、その年によって装飾花に桃色や濃青色が混ざります。初めは土のpHか肥料の影響かなと思っていましたが、どうやら違うようです。

もしかしたら、微妙な気候の変化や温度などを感知しているのかもしれませんね。
とてもデリケートな「津江のコデマリ」ですが、意外と花期が長く、装飾花は退色が進むにつれさらに素敵なニュアンスカラーに。この色合いを何と表現したらいいかといろいろ考えてみましたが、例えるなら「しとしと降る雨の色」。何とも曖昧ですが、それが一番しっくりします。

ヤマアジサイの花あそび

ヤマアジサイは、庭の景色として楽しむだけでなく、時には、雨間を見て剪定しがてらブーケにしたり、切り花にして室内にあしらいます。
ササッと束ねただけのブーケも、ヤマアジサイに葉物を少し添えるだけで形よく仕上がり、彩りも豊か。たっぷり雨水を吸っているので、しばらくそのままで楽しめます。ガーデンチェアにさりげなく置くだけで、何となく絵になりますね。

そして、室内に飾る時は、しっかり水揚げをして、さまざまな器に活けて楽しみます。
例えば、吊り花器には、しなやかなつる性のクレマチスと五色ノブドウを添えて。ガラスの器には、楚々とした「津江のコデマリ」を一種。

清々しい白磁の古伊万里には、「藍姫」にホタルブクロと十和田アシを一枝。フランスアンティークのスーピエールには、「アジアンビューティー」と残花のつるバラを。さらに、水を張った平皿に装飾花を浮かべるだけでも涼やかな花あしらいなります。

こんなふうに、器の素材や形、添える草花によって、ヤマアジサイの見え方もさまざま。庭では気付かなかった表情に、思わず目を奪われます。
雨の季節は、室内で庭の草花と花あそび。雨音をBGMに過ごすこんなひとときが、何よりの癒やしです。
雨の季節の手仕事の愉しみ

梅雨の晴れ間、庭時間の愉しみは、毎年恒例の梅仕事とらっきょう仕事。どちらも木陰のテラスで下準備をします。
流水で洗った青梅は、竹ザルに移し、一粒一粒竹串でヘタを取り穴をあけます。細かな手仕事ですが、潤んだ深緑と瑞々しい青梅の色と香りがリンクして、何と心地よいのでしょう。梅仕事をしていると、まとわりつくような湿気も何処かへいってしまいます。

また、土付きのらっきょうも、皮を剥く時の匂いが強烈なので、キッチンよりテラスで下準備をするのが一番。目は痛くなるし手はベタつくし、なかなか厄介ですが、つるんと白肌になったらっきょうは目にも涼やかで、ひと仕事終えた達成感も格別です。

ガラスの密閉ビンの中で、氷砂糖や甘酢を纏って徐々に艶やかになっていく青梅とらっきょう。キッチンに並んだ季節の手仕事が、暮らしの風景に新たな彩りと豊かさを与えてくれます。
Credit
写真&文 / 前田満見

まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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