ガーデンベンチは、一休みするスペースという実用面はもちろん、ガーデンのフォーカルポイントとしても活躍する、庭に取り入れたいおすすめのアイテム。人と植物をつなぐ存在として、ガーデンに温かな表情を演出してくれます。神奈川の自宅で25年以上ガーデニングを楽しむベテランガーデナーの遠藤昭さんに、ガーデンベンチのある庭シーンの思い出を伺いました。
目次
20年もの間、共にある庭とベンチ

海外のガーデニング雑誌を見ていると、ベンチがよく登場する。ガーデニングの世界でフォーカルポイントと呼ばれる注視点、つまり目を引くポイントとしてベンチが使われることが多いのだ。一般的にガーデニングにおいて、シンボルツリーやオーナメントもフォーカルポイントに使われるが、日本の狭い庭では、実用性も兼ね備えたベンチがおすすめだ。我が家では、かれこれ20年くらい前から、一台のベンチがさまざまなシーンで活躍してくれている。
そもそもこのベンチは、現在BBQなどに使用しているガーデンテーブルセットがまだ我が家に無い時代に、庭用の折り畳み式テーブルセットの一部として購入したもの。その数年後にアイアン製のガーデンテーブルセットを購入してからは、鉢台や飾りとして使用している。

ベンチも古くなってきたので、幾度か処分しようかと思ったが、取材などの時に、「ボロ隠し」やフォーカルポイントとして活躍してくれて、最近は古さゆえに「アンティーク調」の貫禄さえ見せはじめ、そのよさを見直している。当分は庭の片隅に置いておこうと思う。
庭にストーリーを生むベンチの存在
僕は基本的にはガーデンアクセサリーは使用しない主義だ。やはりガーデンは本来の自然が持つ植物の美しさを最大限に発揮させて創り上げるもので、下手な人工物は、時として、その植物自体のパワーや美しさを阻害してしまうことがあるからだ。しかしながら、ガーデンを生活空間として考えた時、ベンチやガーデンテーブルは、人の温もりのようなものを感じさせて、そこにストーリーを創出してくれる。

実際、今回も、過去20年間に撮った何枚かのベンチの写っている写真をピックアップしたのだが、それら一枚一枚から、ベンチに腰掛けて眺めた庭風景など、その時々の思い出が蘇る。
植物だけの庭の写真よりも、ベンチが写っているもののほうが、より鮮明に思い出が蘇るのが不思議だ。やはりベンチには植物と人間を結びつけるような魔法の力があるのだろう。

実用メインからフォーカルポイントへ
我が家のベンチは、20年以上前に近所のホームセンターで購入したもの。木製で塗装もなく、ごくシンプルなもので、確か1~2万円の平均的な価格だったと思う。オイルステインでも塗ろうかとも思ったが、結局は何も塗らないままで20年が過ぎた。当初は、BBQをやるリビングの南側に置いていた。このベンチに折り畳み式のテーブルと椅子を2脚ほど加えて、家族4人でよくBBQをしたものだ。当時は、オーストラリアから帰国してあまり経っておらず、子供たちもまだ小中学生で、週末にはオージーBBQを楽しんだ。
その後、アイアン製のしっかりしたガーデンテーブルセットを購入し、このベンチは西側のダイニングルームの前に移動した。この頃から、ガーデニングでテレビや雑誌の取材を受けるようになり、実用のベンチからフォーカルポイントとしての「飾り」のベンチになった。
ベンチとたどる庭の記憶
改めて見返すと、ベンチのある写真は、その時々の庭風景を映したシーンとなっている。


この時代は我が家のモッコウバラも全盛期で、その咲き誇る季節には写真をたくさん撮っていた。改めて写真を見ると、やはりベンチが醸し出す人の気配のようなものが、庭に影響しているように思える。ちなみに現在は、モッコウバラは暴れて手に負えなくなり、処分してしまった。

ベンチに座る当時の愛犬、イングリッシュ・コッカースパニエルのメルちゃん。この頃から、ベンチは愛犬の撮影の定点スポットにもなった。
その後、たしか2009年だったと思うが、NHK『趣味の園芸』の取材を受けた。その番組の中に、プロのガーデナーが庭に手を加えて素敵にしてくださる「ビフォー&アフター」みたいなコーナーがあり、事前にベンチや小物を用意した記憶がある。

これは、その番組でプロのガーデナーさんが、手を加えてくださったアフター。赤いマットはエーゲ海の新婚旅行で買った思い出の品。

さらに2週間くらい後に、ボタンも咲き、「音楽の響く庭」とか名付けて、ガーデニングコンテスト向けに手を加えて楽しんだ。結局、応募するコンテストもなく未発表に終わった写真。

同じ年の6月、デルフィニウムが咲く時期に、イングリッシュ・コッカースパニエルの愛犬シャーロットをベンチに座らせて記念撮影。ジギタリスと共に、非常に珍しいピンクのエキウムもこの年は開花した。ベンチが愛犬のステージの役割をしてくれた。

これは2016年だったが、男性ファッション雑誌の取材があった。ちょいワルおやじモデルデビュー……ではなくて、男の趣味三昧のライフスタイルの取材だった。男性向け雑誌なので、思い切り男っぽくつくり上げた。赤い葉のグラスは、当時出始めのペニセツム・ファイヤーワーク。

これも、同じ2016年だったが、NHK『趣味の園芸』の取材用につくったコーナー。取材のテーマが羊歯だったので、羊歯を背景に。


2019年には、当時相談員として勤めていた植物園の花壇づくりにも持ち込んで、イングリッシュ花壇をつくった。やはり花壇の中に、ベンチが一つあるだけで「イングリッシュ」になるから不思議だ。

今年1月に、NHK『趣味の園芸』3月号の「大人の園芸入門」のコーナーの取材があったので、大人っぽく、スタイリッシュに! 最近のトレンドの多肉植物を取り入れたコーナーをつくり上げた。

そして、最後に、現在の愛犬、ヨークシャーテリアのココちゃん。
20年の間に、ベンチの上にお座りする愛犬も3匹が入れ替わり、周りの景色も随分と変化した。愛犬にも植物にも寿命があるが、ベンチだけは20年という歳月を乗り越えて、さまざまな庭風景をつくり出してくれた。そして何よりも、20年間の我が家の歴史を振り返るナビゲーターの役割を、今日は果たしてくれた。
「なんとなく庭が物足りない」と感じていたら、一台のベンチを置いてみませんか? 庭仕事の休憩のときにお茶を飲んだり、ゆっくり座って眺めたりすると、また新しいお洒落なガーデンライフスタイルが誕生するかもしれませんよ。
たわいもない一台のベンチだけれども、これからも大切にしたいと思う。
Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
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