肥料の必要性とは? 有機質肥料と化学肥料の違いについて解説

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草花や野菜を育てるときに肥料を与えますが、肥料にはどんな役割があるかご存知ですか? 肥料は植物にとって大切な成分を含んでいますが、それぞれの成分がどんな働きをしているのか。また、肥料には有機質肥料と化学肥料がありますが、どんな特徴があるのか。育てている植物がもっとしっかり育つよう、知っておくと差がつく肥料のことをご紹介します。
目次
肥料の必要性

例えば、野山に生えている植物は、人間が肥料を与えなくても育っています。それは、水やりをしなくても雨が降って野山の植物に水が供給されるように、自然環境の中で生きている植物や、動物の死骸やフンなどが微生物に分解され、植物の栄養分として利用されているからです。
しかし、人が暮らす生活環境の周囲では、落ち葉や枯れ枝、動物の死骸などは取り除かれることが多く、植物が利用する栄養分は不足しがちです。
特に、鉢植えやプランター植えの場合は、自然環境による栄養分はほとんど補給されません。そのため、育てている人が意識的に肥料を与える必要があります。
肥料の役割について

植物が元気に育つためには16の元素が必要だとされています。それは、
「炭素、水素、酸素、チッ素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、塩素、銅、鉄、マンガン、モリブデン、亜鉛」。
この中で、酸素、炭素、水素の3つは、水や空気として根や葉から吸収します。自然界では特に人が与えなくても供給され、これ以外の元素が、いわば人にとっての栄養素に当たります。
主に根から吸収される成分のうち、植物の生育に特に重要なのがチッ素、リン酸、カリ(カリウム)の3つです。
この3つは植物がたくさん利用するために不足しがちで、大きな葉や果実を付ける植物の場合は特にたくさん必要になります。この不足しがちな3つをはじめとして、不足しがちな成分を補うのが肥料です。
肥料の3要素「チッ素・リン酸・カリ」

植物が生育するために特にたくさん必要となる3つの要素を「肥料の三大要素」と呼びます。
それぞれの主な働きと、使いこなしのポイントや注意点をご紹介します。
チッ素(N)
植物体全体の発育に関わる要素です。
チッ素が不足すると株が十分に大きくならなかったり、花が咲いたり実をつけたりするのに必要な体力が足りなくなる場合があります。
十分なチッ素があると葉の色が濃くなり、不足すると下葉の色が黄色っぽくなることがあります。このように過不足が葉に表れることから、「葉肥(はごえ)」とも呼ばれます。
与えすぎると節の間が間延びする徒長(とちょう)になったり、病気や虫の害を受けやすくなることがあります。また、トマトなどの野菜では「ツルぼけ」と呼ばれる、果実がつきにくい状態になることがあります。これは株が体を大きくするための成長を続け、次の世代のタネをつくるための成長を行わなくなってしまうためです。
花芽ができる時期にチッ素が多すぎると、花芽ができずに花が咲かないこともありますので、施す時期と量に気をつけましょう。
リン酸(P)
花や実の発育に関わるため、「花肥」「実肥」などとも呼ばれます。
植物体の組織ができ始めるときにも多く使われ、植え付け直後の発根の際などにも必要になる要素です。
ほかの要素では与えすぎると害が出ることがありますが、リン酸はあまり害が出にくい要素です。
また、関東地方に多く見られ、園芸用土にもよく使われる赤土や赤玉土などの火山灰土は、リン酸を吸着してしまい、せっかく施しても植物が利用できる量が限られます。
そのため、リン酸を常にやや多めに施すこともあります。
カリ(K)
根や茎を丈夫にするので、「根肥」とも呼ばれます。カリが十分にあると、病気や虫の害も受けにくくなります。
チッ素、リン酸、カリは、肥料に含まれる主要な成分であることから、肥料のパッケージにもそれぞれどのくらいの分量が含まれているのかが書かれています。
チッ素、リン酸、カリそれぞれ単体の肥料も販売されていますが、家庭園芸向けには三大要素があらかじめ配合された肥料もポピュラーです。
そうした肥料では「N-P-K=6−10−5」などの数字がパッケージに書かれています。これは、肥料100g中にN(チッ素)が6g、リン酸が10g、カリウムが5g含まれているという意味になります。
肥料に含まれる成分と働き

大量要素(三大要素)ほどの量は必要ありませんが、それに次ぐ必要量がある重要な成分を「中量要素」と呼びます。
中量要素としてはカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)があり、それぞれ以下のような働きがあります。
カルシウム
人間であれば、カルシウムをしっかり取っていると骨が丈夫になりますが、植物もカルシウムが十分あると組織がしっかりと丈夫になります。
カルシウムには植物の細胞と細胞を強固に結びつける働きがあり、病気や虫の害を受けにくくなります。また、根の正常な発育にとって欠かせない成分です。
雨が多い日本では、土の中のミネラルが流れ出て、酸性土壌になる傾向があり、カルシウムが欠乏しやすくなります。土壌があまり酸性に傾くと根の伸長が悪くなりますが、石灰やカキの貝殻などをまくことで中和することができます。
不足すると植物が軟弱に育ってしまうほか、トマトでは「尻腐れ病」というカルシウム欠乏症が起きることが知られています。
マグネシウム
植物が光合成を行うためには葉緑素が重要な役目を果たしていますが、マグネシウムは葉緑素を作る重要な要素です。
大豆では豆に含まれる脂肪を作る働きにも関わりがあることが知られています。
チッ素と同様、不足すると下葉が傷み始めます。
硫黄
植物体中の酸化、還元や、成長の調整などの生理作用に関わり、植物体を構成するタンパク質の材料となります。
不足すると下葉の色が黄色っぽくなります。
このほかにも、さらに微量ながら植物の生育に必要な要素として、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素などの「微量要素」と呼ばれるものがあります。
不足すると葉が黄色や茶色、白く変色したり、葉の形が変わって健全に生育できないことがあります。
肥料の種類

肥料は原料によって「有機質肥料」と「無機質肥料」の2つに分類することができます。
有機質肥料
菜種油を絞ったあとの絞りかすを発酵させた油かすのような植物由来の原料を使ったものと、鶏糞や骨粉などの動物由来の原料を使ったものがあります。
無機質肥料
一般的に化成肥料、化学肥料などと呼ばれているものです。
鉱物や石油など、生物由来ではない原料から作られたり、化学的に合成されて作られる肥料のことです。自然界に存在する鉱物から生成されるほか、大気中のチッ素を水素と反応させて作られるものもあります。
肥料成分自体は、水に溶ければ根が吸収することができる状態なので、すぐに効果が表れますが、さまざまなコーティングを施してゆっくりと長い期間効き目が続くようにしたものもあります。
有機質肥料と化学肥料の違い

肥料は素材によって有機質肥料と化学肥料に分けられます。
有機質肥料は、油かすや魚粉、鶏糞など、植物性または動物性の有機物から作られ、化学肥料は自然界に存在する鉱物や大気中のガスなどから作られます。
有機質肥料は微生物に分解されてから植物の根が肥料分を吸収し、化学肥料は水に溶け出すことにより根が吸収します。
有機質肥料はゆっくり効果が現れ長く持続するものが多く、化学肥料は即効性はあるが持続性が低いものが多いです。
以下では、それぞれのメリット、デメリットをご紹介します。
有機質肥料のメリット・デメリット

土の中や肥料自体に棲んでいる微生物に分解されたり、分解されることでできた肥料分が根から吸収されます。
そのため、肥料の効き目はゆっくりと表れ、しばらくの間持続するものが多いです。用土に施すと微生物が増え、土壌が固くなりにくいなどのメリットがありますが、未熟なものを使うと発酵の際に出る熱で根が傷んだり、エサとして食べる虫が発生したりすることもあります。
<メリット>
- 固形のものは肥料が効く期間が長く、ほぼ1カ月ほどの効果が期待できます。
- さまざまな元素が含まれており、銅、亜鉛などの微量必須要素の供給も期待できます。
- 利用することで微生物が増え、土中の環境が改善されます。
<デメリット>
- 成分が分解・発酵してから効き目が出るものが多く、こうしたものの即効性は低いです。
- 微生物の働きによって分解状況が変わるので量の調整が難しい面があり、気温によって利用できる肥料分に差が出ることがあります。
- 発酵・分解の過程でガスや熱が発生して根を傷めたり、ニオイが強かったり虫が発生するものもあります。
- 自然の素材を発酵・熟成させて作るので、肥料ができるまでに時間がかかる、原材料に限りがあるなどの理由から、大量生産しにくく、価格はやや高めです。
化学肥料のメリット・デメリット

<メリット>
- 肥料分はそのまま植物の根が利用できる形になっているので、一般に即効性が高いです。
- 微生物の分解を待たず、すぐに植物に吸収されます。
- ニオイやガスが発生しません。
- 粒の形や大きさが均一で成分も同じなので、施肥量を管理しやすくコントロールがしやすいです。
- 植物の生育に欠かせない3要素を目的や用途に応じたバランスで配合できるので、生育段階や栽培目的に応じた肥料の使いこなしがしやすい。
- 工場で大量生産が可能なため、安定した品質のものが安価に手に入ります。
<デメリット>
- 肥料分をそのまま粉末や粒にしたものはすぐに水に溶けて植物に吸収されてしまうため、持続性はありません。ただし、肥料が溶け出すのを遅らせるコーティングを施したものであれば、数カ月から1年程度、肥料効果が続くものもあります。
- 有機質肥料のように微生物を増やす働きはないので、それによる土壌改良効果は期待できません。ただし、化学肥料の効果の早さと、土壌改良効果や微量要素の供給を併せ持つ有機質肥料と化学肥料を一つにした、有機化成肥料と呼ばれるものもあります。
- 多く施しすぎたり、根に接するように施したりすると、根が傷む「肥料やけ」が起こりやすいです。
有機質肥料の種類

有機質肥料は、植物に吸収されて効果を出す肥料として以外にも、土壌に微生物を増やして土壌内の環境を改善したり、保水性や通気性がよい団粒構造を持った土作りにも役立ちます。
では、そうしたさまざまなメリットがある有機質肥料にはどのようなものがあるのか、ご紹介します。
油粕(あぶらかす)

油粕(あぶらかす)は、大豆や菜種などから油を搾ったあとの絞りかすのこと。これを発酵させ、粉末や粒にしたものが肥料として使われます。
チッ素が豊富なほか、リン酸、カリウムも含まれます。
発酵が不十分なものを使うと、ガスや熱が発生して根を傷めることがあるので気をつけましょう。
また、鉢土の表面に置き肥するとキノコバエなどの虫が集まってくることがあるので、室内に置く観葉植物に使うときは注意が必要です。
鶏糞(けいふん)

養鶏場から出るニワトリの糞に、乾燥、発酵、炭化などの加工を施した肥料です。
乾燥だけさせてあるものはあまり大量に使ったり、根に触れるように使うと根が傷んで植物が弱ることがあります。
チッ素、リン酸、カリをバランスよく含み、有機質肥料としては比較的低価格で販売されています。
魚粉(ぎょふん)

イワシなどの小魚を煮て、水分や脂分を除いて乾燥させたものを粉末や粒状にしたものです。
チッ素とリン酸を多く含み、中でもチッ素は有機質肥料としては即効性が高く、追肥としても使いやすい肥料です。
骨粉(こっぷん)

鳥や豚の骨を乾燥粉砕して作られています。
主な肥料成分はリン酸で、チッ素もわずかに含み、カリウムは含みません。
肥料の効果がゆっくりと長期間にわたって現れるため、元肥として使われます。
米ぬか

玄米を精米する際に出る粉末です。
チッ素、リン酸、カリといった大量要素のほかに、ビタミンや各種ミネラル、糖分なども含まれます。
含まれる脂質が多いため分解に時間がかかり、ゆっくりと効果が表れます。
草木灰(そうもくばい)

その名の通り、草や木を燃やしたあとの灰です。
肥料分としてはカリウムが多く、リン酸も含みます。また、石灰分も含むため、酸性に傾いた土壌を中和するのにも利用されます。
効き目が早く表れるので、追肥としても使われます。
肥料を正しく理解して使い分けよう

肥料は成分そのものの働きだけでなく、成分のバランスや、効果が表れるスピードなどにより、生育のどのようなステージに合うのか、いつ頃の季節に使うのがよいかなどが異なります。
食品やコスメでは「有機」というとよいイメージがありますが、肥料ではメリットやデメリットを正しく理解して適切な使い方をしないと逆効果になることもあります。
それぞれの肥料の特徴をよく理解して、使い分けるようにしましょう。
Credit
文 / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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