雨に濡れた草木の緑が鮮やかさを増す初夏。神奈川県横浜市で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんの庭では、そこここに白い花が次々と咲き始めます。それは、つるバラやクレマチス、ウツギ、ヤマアジサイ…。どんよりと湿った空気さえ清々しく感じられる白い花たちは、雨の季節の救世主です。小さな庭に咲く白い花たちをご紹介します。
目次
庭へと誘うつる性の花
〜つるバラ、クレマチス、スタージャスミン〜
6月上旬〜中旬。庭の入り口は、つるバラとクレマチス、スタージャスミンの溢れんばかりの白い花と甘い香りで満たされます。
まず最初に咲くのは、クレマチス‘白万重’。数あるクレマチスの中でも大人気の品種です。幾重もの花びらの中心にうっすらと黄緑色を湛え、姿を変えながら咲く様はとても優雅で魅惑的。まさに「白万重」という名前に相応しい花姿です。花もちもよいので、後に咲き始めるつるバラやスタージャスミンとの競演も長く楽しめます。
そして、‘白万重’が散る頃に咲き始めるのが、クレマチス‘カイウ’。庭の入り口からメインガーデンまでの細い通路の木塀に絡んでいます。花径は、わずか2cmほど。クルンと反り返った花弁とコロンとした雫形のつぼみがとびきり愛らしく、特に、雨粒をまとった姿は惚れ惚れします。庭に出られない雨の日も、その姿をダイニングの窓から見ることができるので、毎朝、ブラインドを開けるのが楽しみで仕方ありません。
小さくて可憐な‘カイウ’ですが、意外にも生育旺盛。花もちがよく、つるも花茎も硬くて丈夫なので、切り花にも最適です。つる性植物らしいしなやかな動きを堪能できる吊り花器や、細口のガラスの器に活けて楽しみます。
つるバラ、ロサ・フィリペス‘キフツゲート’は、原種系の一重咲き。可憐な花が房となって花束のようです。じつは、その見た目とは裏腹に、非常に樹勢が強く鋭いトゲもある暴れん坊。わが家の小さな庭にはちょっと不向きな品種です。
けれども、北東の半日陰で育つ強健さと耐病性に優れていることと、原種らしい一重の花、秋のローズヒップの可憐さに惹かれました。植えてからもう15年以上経ちますが、一度も病害虫に悩まされたことはありません。でも、追肥も与えていないのに、放っておくと直ぐに手に負えなくなるので、こまめに剪定をして樹形を整えています。
そして、最後に咲き始めるスタージャスミン。数え切れないほどの純白の小花が満開になる様は、まるで雪のよう。艶のある深緑の葉がその美しさを際立たせています。そして、何より嬉しいのが濃厚な甘い香り。つるバラのロサ・フィリペス‘キフツゲート’の香りとブレンドされて、この時季にしか味わえない極上の香りが漂います。その香りは、ミツバチやハナクマバチにも大人気。庭の入り口は、朝から大勢の来客で賑わいます。
涼やかな風情の落葉低木
〜アジサイ〜
雨の季節といえば、アジサイ。わたしも大好きなので、庭にたくさんの品種を植えていますが、白花のアジサイは、‘アナベル’とヤマアジサイ‘白舞妓’、‘伊予白’です。
中でも、ひと際存在感を放っている‘アナベル’は、日向でも日陰でもよく育ち、手間いらず。繊細さと華やかさを併せ持つ装飾花は、退色してなお美しく、初秋まで観賞できます。これほど優秀なアジサイは、他にありませんね。
ただ一つ残念なことは、大輪の花が雨の重みで倒れてしまうこと。支柱を立てて解決することもできますが、なんとなく窮屈で不自然な姿になるのが忍びなく、ありのままにしています。とはいえ、茎が折れたり、周りの植物に覆いかぶさって成長の妨げになっているものは、迷わずカットして切り花で楽しみます。
例えば、大輪花は、一輪挿しでも見応え十分。球のような形の美しさや繊細な装飾花を存分に堪能できます。また、大ぶりの器に数輪をワサッと活けたり、ニワナナカマドの白い花や、タカノハススキの葉物を添えると、より涼しげな印象に。和洋問わず、どんな空間にも馴染む‘アナベル’は、ジメジメしたこの時季の庭と室内に、華やかさと清涼感を与えてくれる頼もしいアジサイです。
小ぶりの装飾花と葉が特徴のヤマアジサイは、狭い場所や半日陰〜日陰の場所で育ち、サイズ感も小さな庭に最適です。シェードガーデンに植えているヤマアジサイ‘白舞妓’は、白い手鞠のような装飾花。日本髪に挿す花かんざしのような風情があります。この‘白舞妓’を見ると、娘の七五三の時の晴れ姿を思い出し、とても懐かしくなります。
ギボウシやシダ類の茂るシェードガーデンに、華を添える‘白舞妓’。その姿は、清楚で凛とした佇まいです。
そして、もう一つの‘伊予白’は、ヤマアジサイの中でも特に装飾花が大きく、ギザギザの縁取りが特徴です。一見すると、西洋ガクアジサイに見えますが、葉は小さく深緑色。真っ白な装飾花とのコントラストがとても美しいヤマアジサイです。
涼やかな落葉低木
〜ウツギ、ニワナナカマド〜
北海道から九州、奄美大島まで広範囲に自生しているウツギは、アジサイと同じく馴染み深い落葉低木。野山や森林はもちろん、道端の茂みなどでも見かけますが、花が咲かないと目立たない、ちょっと地味な存在かもしれませんね。
庭に植えているウツギは、シセンウツギと屋久島コンテリギ、ショウキウツギの3品種。白花は、シセンウツギと屋久島コンテリギです。
シセンウツギは、何といっても花の可愛らしさが特徴。1cmに満たない星形の小花ですが、ふんわりと一斉に咲く姿に、思わず目を奪われます。そういえば、数年前にこのウツギに出合った時も、「こんな可愛い形のウツギがあるんだ!」と、一目惚れでした。
そして、もう一つの屋久島コンテリギも、去年、一目惚れして迎えたウツギです。じつは、初めて出合った時、名前のラベルがなかったので、見た目からてっきりヤマアジサイだと思っていました。後に、ネットで調べてみたところ、屋久島コンテリギというガクウツギだということが分かりました。コンテリギはガクウツギの別名だったのですね。
それにしても、屋久島コンテリギの楚々とした白花と、細く枝垂れた茎の調和の何と美しいこと。残念ながら、地植えに適した場所がなく鉢植えにしていますが、斜面や高所に地植えすると、野趣溢れる風情が存分に堪能できるかと。
今春は、嬉しいことに、地際から新たな花茎も伸びてきました。秋になったら、ひと回り大きな鉢に植え替えようと思っています。
ニワナナカマドは、別名「チンシバイ(珍珠梅)」。昔、習っていたいけばなで、花材としてよく使っていた花木で、その頃からずっと好きでした。
穂状の花のつぼみは、極小の真珠を散りばめたようで、5枚の花弁を持つ5mmほどの花は、シベの雰囲気といい梅の花によく似ています。「チンシバイ(珍珠梅)」という名前は、この「珠」のようなつぼみと「梅」に似た花に着目しているようです。
そんな清楚な花の満開時の美しさはもちろんですが、真珠のようなつぼみを湛えた咲き始めの姿が大好きです。
また、スッキリとした端正な細葉も魅力的。ふわふわした穂状の花と相まって、とても涼しげな雰囲気を醸し出しています。
次々と花を咲かせるニワナナカマドは、切り花にも。サイズ感の同じ‘アナベル’と合わせると、華やかで見応えがあり、仄暗い玄関に設えると、ふわっと辺りが明るくなります。
さらに、夏のいけばなの花材に欠かせないタカノハススキとも好相性。しなやかな斑入りのススキを添えると、より涼やかで、一服の涼風さえ感じられます。
足元を爽やかに彩る多年草
低木の足元を彩る白花の多年草は、バラ科のミツバシモツケとヤマブキショウマ、キョウカノコの3品種。
分岐した花茎の先に細長い星形の小花を咲かせるミツバシモツケは、その儚げな風情から茶花として好まれています。わずかな風にたゆたう姿は、目にするだけで不思議と心が安らぎます。どちらかといえば地味で目立たない花ですが、根強い人気があるのは、そんな癒やしを感じるからかもしれませんね。
ヤマブキショウマは、自然の野山に生えている自生種ですが、小花が密集して大きな穂状になり、草丈も1m以上になるのでとても見栄えがします。庭のヤマモミジと西洋ニンジンボクの木陰に植えていますが、梅雨の晴れ間の木漏れ日の下で見るヤマブキショウマの清々しさは格別。思わず深呼吸したくなります。
そして、もう一つのキョウカノコ。自生種のシモツケソウによく似ていますが、日本産の園芸種で、流通が多いのは赤花種だとか。白花種は別名ナツユキソウと呼ばれています。雪のようにふわふわした花姿にぴったりの名前です。
そんなナツユキソウは、庭のフォーカルポイントになっているバードバスの足元に植えています。水を張ったバードバスとナツユキソウの景色は、爽やかで特にお気に入り。ダイニングとリビングの窓からもよく見えます。
そして、この3品種は、花だけでなく葉の造形美も魅力。花が終わった後もみずみずしい緑葉が庭の植栽を支え、晩秋には黄葉となって輝きを放ちます。
雨空に映えるクリーム色のシャンデリアリリー
6月下旬になると、庭の主役はアジサイからユリの花へ。
昔からユリが大好きなので、数種類のユリを植えていますが、最初に咲き始めるのがカノコユリの仲間のシャンデリアリリー。その名の通り、うつむき加減に小ぶりの花が7〜8輪も咲く、シャンデリアのように華やかなユリです。
徐々に色褪せていく庭の景色の中、ひときわ優美な存在感を放つシャンデリアリリー‘スイートサレンダー’。その姿を目にすると、一瞬で晴れやかな気分になります。
そして、クリーム色の最後の花が散る頃は、雨の季節もいよいよ終盤。
夏を告げるヤマユリが、大きなつぼみを膨らませて開花の時を待っています。
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