植物を育てる時、あなたは苗を買いますか? 種子を播きますか? 「私は断然、種まき派」という文筆家で園芸家の岡崎英生さんにとって種まきとは、「希望のタネを播くということ。美しく花が咲き、美味しい野菜が実った時のことを想像すれば、今、辛いことがあっても何とか頑張れるもの」。昨年からスタートした種まき観察の楽しみと記録をレポートしていただきます。

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小さな種子に隠された力

植物のタネ

指先を使って、花や野菜の小さな小さな種を播く。

それは未来への希望の種を播くということ。

 

種子はどれも、とっても細かく小さいけれど、

必ず芽を出し、花を咲かせ、実りをもたらしてくれる。

 

ああ、何という感激! 何という喜び!

 

その感激と喜びを一度でも味わってしまったら、

種まき栽培は、もうやめられない、止まらない。

ペチュニア

ペチュニア
去年の10月に種をまいたペチュニアに、ようやく花が。

去年の10月にペチュニアの種子を播いた。

発芽後1〜2カ月は、草丈数cmのひょろひょろとしたひ弱そうな苗だったが、今年に入って急速に成長。かなりの大株になった。だが、花芽がなかなかつかない。ペチュニアのタネを確かに私は播いたのだが、家族の間では雑草なのではないかという疑念が生まれ始めた矢先、4月の上旬に花芽がついた。

そして今、種まきから花が咲くまでに半年かかったわけだけれど、縁が白くて内側が濃いピンクという、覆輪で八重咲きのたいそう豪華な花が咲いて驚いた。こんな花色のペチュニアは、これまで見たことがない。ハンギング用のコンテナに入れてフェンスに吊るしてあるので、夏から秋にかけて我が家の外観を華やかに彩ってくれることだろう。

ニゲラ

ニゲラ

去年の秋にはニゲラの種子も播いた。

ニゲラは和名がクロタネソウ、英名はラブ・イン・ア・ミスト(love in a mist)。

花期は5月から7月にかけてで、高さ40cmほどの茎の先にヒゲ飾りのついた白や空色の花を咲かせ、咲き終わるとそこに真ん丸い球果ができる。その形がとても可愛らしいので、刈り取って壁に吊るしておくと、お洒落なインテリアになる。

ニゲラ
ニゲラの球果。

そして、その球果の中に黒い小さな種子がたくさん入っているので、花茎を振って採種し、それを9〜10月頃に種まき用土に播く。去年播いたのも夏に栽培したものから採った種。発芽率は非常によく、今はポットの中で草丈30cmほどになり、フサフサと葉を繁らせている。

それにしても、英名の「ラブ・イン・ア・ミスト」とは、いったいどういう意味だろう? 霧の中の愛。ぼんやり霞んでいる愛、先行き不透明な愛ということだろうか?

太長中辛こしょう

太長中辛こしょう

今年は長野県松本市の高木農園から取り寄せた太長中辛こしょうの種子を2月27日に播いた。

「こしょう」は青唐辛子の別名。東北地方や北陸では青唐辛子のことを「なんばん(南蛮)」と呼ぶのに対し、九州ではほぼ全域で「こしょう」と呼ぶらしい。美味抜群の調味料「ゆずこしょう」は大分県の日田地方が発祥の地といわれているが、この「こしょう」もじつは青唐辛子のことだ。

クラインガルテン
定期的に通っていた農園の春。

私が「こしょう」を知ったのは、松本市郊外の山あいに農園を借り、定期的に通うようになってからのことだ。

長野にはピーマンのような形をした「牡丹こしょう」など、4種類ぐらいの「こしょう」があるらしい。春先になると、ホームセンターや園芸店にはその苗が必ず出回る。

牡丹こしょうは、栽培してみたことがあるけれど、辛さがいまいちで、私には少々物足りなかった。で、栽培するようになったのが太長中辛こしょう。かなり辛いが、激辛というほどではなく、焙って食べるのにちょうどよい。

私はこの太長中辛こしょうで唐辛子醤油や自家製のゆずこしょうをつくったりもする。

トマトの斜め植え

トマト栽培

トマトはこれまでは「桃太郎」という品種を栽培してきた。けれども今年は、埼玉飯能市の野口種苗研究所が販売している「ポンデローザトマト」という珍しい品種に挑戦してみることにした。

種の袋の説明によると、これはアメリカで家庭菜園用に育種された品種で、1981年に日本に導入。かなり不格好な実ができることもあるけれど、従来種のようなトマト臭がなく、味のよい大玉トマトだという。

ポンデローザトマトの種子は、3月9日に播き、5日後の14日に無事発芽した。それを3号ポットで育苗し、その後一回り大きいポットに植え替えした。草丈が35cmくらいになったところで自宅の近くに借りた畑に定植したが、今年はちょっと面白い実験をしてみることにした。いくつかはまっすぐ普通に植え、いくつかは斜めに苗を植え付けてみた。斜めに苗を植え付ける方法は、以前テレビでイタリアの農家が「トマトのスパルタ栽培」として行っていた方法で、この方が強く丈夫に育ち、味もよいのだという。

トマトは全部で6株もある。これだけあると、生食だけではとても食べ切れない。そこで我が家では毎年、大鍋で煮詰めてトマトペーストをつくり、冷蔵庫や冷凍庫で保存するようにしている。

このペーストがあると、パスタやひき肉料理をつくるときに大変重宝する。

ナスタチウム(金蓮花)

ジヴェルニーのモネの庭
Eric Valenne geostory /Shutterstock.com

パリ郊外の小村ジヴェルニーにあるモネの庭を訪ねたのは、もう10年ほど前のことになる。6月の末、ちょうどバラとクレマチスの美しい季節で、つるバラのトンネルの足元にはナスタチウムが列植され、黄色やオレンジの花を咲かせていた。

ナスタチウム
Tatyana Mi /Shutterstock.com

ナスタチウムは私も長年,毎年必ず栽培している。色鮮やかな花もいいけれど、丸みをおびた浅緑色の葉も美しい。そして少しずつ伸び広がり、庭の一角を彩っていく風情が何とも好もしい。

今年は4月10日に種子を播まき、1週間後の17日に発芽した。

ご存知の方も多いだろうが、ナスタチウムはいわゆるエディブル・フラワー、食べられる花の一つだ。実際、花や葉にピリリとした風味があって、サラダに入れると美味しいし、見た目にも美しい。

ナスタチウムとバジルのサラダ
ナスタチウムとバジルのサラダ。

タイム

タイムは3月20日に種子を播まき、12日後の4月1日に発芽を確認した。

カレーやハヤシライス、シチューなどをつくるときにタイムやローズマリーをほんの少し加えると、味が格段にアッップする。また、タイムは常緑なので庭の縁どりとしても使える。枯れ込むのを防ぐために時々刈り込む必要があり、そのとき刈り取った葉を保存しておくと料理に使える。

タイム
発芽したタイム。

小かぶ

小かぶは4月2日に種子を播き、9日後の11日に発芽を確認した。

我が家にはもう10年以上使い続けているヌカ床があるが、その面倒を見るのは私の担当になっている。妻と娘は私がナスやキュウリのヌカ漬けを食卓に出せば「美味しい!」といって食べるけれど、ヌカ床に手を入れることは絶対にしない。

セロリや新ごぼうもヌカ漬けにすると美味しいし、小かぶを漬けたのもまた旨い。今回種子を播いた小かぶも、いずれヌカ漬けにして食べる予定だ。

花畑の計画

タネから育てた苗
タネを播いて育てた苗。

去年、自宅近くに借りた畑は2区画あり、1つは野菜用、もう1区画はいろいろな花を混植したナチュラルガーデン風の花畑にしようと思っている。

そこではすでに、去年の秋に種子を直まきした、ラークスパーが発芽して勢いよく生育し、去年植えたカモミールはこぼれ種で繁殖中。長野の農園から移植したホリホック、ラムズイヤー、フランネル草なども順調に育っている。

先日はそこに園芸店で購入したエキナセア2株と、白花のフジバカマの苗を植えつけた。どちらも私の好きな花。とくにフジバカマは、刈り取ってドライフラワーにすると素晴らしい香りがするので気に入っている。

花畑にはこれからジニア(百日草)とマリーゴールドも育苗して植える予定。どちらも花期が長くて、秋の終わりまで楽しめるし、エキナセアは切り花にも向いている。

やはり花畑に植えたいと思っていたアグロステンマ(麦ナデシコ)は、4月9日に種子を播いたけれど、発芽しなかった。残念だけれど、今年は諦めるしかない。

これから播く種子

種まき

これから播こうと思っているのは、パクチーやバジル、そして朝顔の種子だ。播き時は5月の中旬頃だ。

朝顔は去年、素晴らしく美しい青色の花が咲く品種を栽培し、夏の終わりに種子を採取しておいた。いずれそれを播いてみようと思っている。もちろん、去年と同じ青色の花が咲くとは限らない。一度咲かせた花から採取した種子は先祖返りしてしまい、前年とは別の遺伝子が優勢になっていることもあるからだ。しかし、どんな花が咲くのか、逆に楽しみだ。

パクチーは私自身は苦手だが、妻と娘からの熱烈なリクエストがあったからだ。大好物なのだから一度くらいは自分たちで育ててみればいいと思うが、二人はもっぱら食べるだけだ。私に栽培を依頼し、すでにもう、パクチー食べ放題だと言って喜んでいる。まあ、いい。バジルは孫娘の依頼だ。中学2年生になる彼女は自家製バジルソースがあると、食パンにそれを塗って朝ごはんを自分で食べる。バジルソースが切れると、いささか不機嫌だ。思春期の孫娘がバジルソース一つで気持ちが穏やかになるのだから、バジルは偉大だ。作らないわけにはいかない。

家庭の平穏のためにも、私はタネをまく。

それはまさしく、希望のタネなのだ。

Credit

文/岡崎英生(文筆家・園芸家)
早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアーヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。

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