自宅で庭づくりをしている人にとって、「住み替え」は、庭の移転という大仕事も同時進行になります。このたび転居を機に、新しい庭づくりに一から着手することになった神奈川県在住で「日本ローズライフコーディネーター協会」の代表を務める元木はるみさんによる庭づくり奮闘記第4話。冬の間に移植したバラ苗が根づき、いよいよ開花直前のシーズンを迎えた頃のお手入れについて解説していただきます。
目次
順調に生育するバラたち
以前の庭から冬の間に移植したバラは、生育には個体差はありますが、なんとかほぼ順調です。
2020年の春は、関東地方でも暖かく気温の高い日が多いかと思えば、突然雪が降ったりと気温の変化が激しい毎日でした。そんな中でも4月になると、さまざまな草花が花開き、バラもつぼみを膨らませています。
この時期は、いよいよもうすぐ始まるバラの開花シーズンに向けて、楽しみながら、バラが少しでもご機嫌よく、美しく咲いてくれるよう、少し手を貸しながら引き続き見守っていきましょう。
生育の個体差の原因とは?
庭を見回ると、とても順調に葉を展開し、つぼみをたくさんつけているバラの中に、つぼみどころか葉の展開が遅く、心配なバラを見つけることがありました。
このような心配なバラを見つけたら、どうしたらよいのでしょう。
まず、展開が元々ゆっくりな性質の品種かどうかを調べ、そうであれば安心してそのまま成長していくのを待ちます。しかし問題なのは、展開が元々ゆっくりな性質の品種ではないのに、展開が遅いバラです。
まず考えられる原因は、
- 移植の際、根を切り過ぎたなど、根が傷み、水分や栄養分を上手く吸い上げられない。
- 短くなった根に対して、枝の長さが長過ぎたり、本数が多いなど、根と地上部とのバランスが悪い。
- 移植した場所が、そのバラの適地ではない。
- 雨が降ったとしても、軒下などに植えられているため雨が当たらず、水分不足になっていた。
- 根が肥料焼けを起こしてしまった。
- 植えた場所の土が粘土質など、固すぎる。
- 移植時期が間違っていた。
- 冬剪定が遅かった。
などが挙げられるかと思います。
私の庭の成長が遅いバラは、1、2、4が原因かと思いました。そのため枝の本数を減らし、芽を1枝に対して5~8芽ほど残して切り戻しを行い、雨が降った日の次の日であっても、そのバラには水をしっかり与えるようにしました。
では、この他に、具体的に行った作業をご紹介いたします。
「出開き」症状への対策
花芽ができる時期に寒さに当たってしまったり、日照や栄養が不足すると、「出開き」と呼ばれる、葉が2~3枚ほどのまま、いつまでたっても増えない状態になってしまうことがあります。株が弱々しい場合は、光合成のためにそのままにしておきますが、生育が順調な株なら、病気や蒸れの予防のためにも出開きを元から手で抜き取ります。
「ブラインド」症状への対策
「出開き」に比べて葉が展開したのにもかかわらず、いつまでも先端につぼみがつかない状態を「ブラインド」と呼びます。この場合、ブラインドの下の大きな5枚葉の上の部分(写真内赤い印)をソフトピンチ(手で折り取る)または、ハードピンチ(ハサミで切り取る)を行い、つぼみができるのを待ちます。ただし、病気や蒸れの予防のために必要ない小枝と判断した場合は、ブラインドのある小枝を元から除去することもあります。
※枝の先端がまだ新しく柔らかい場合は、手で行うソフトピンチをおすすめします。理由は、新しい枝のダメージを最小限に抑えたいからです。
「シュートピンチ」で株を充実させる
エネルギーを分散させて枝数を増やすことで葉や花数を増やしたい時、また、バランスのよい株に育てたいなどの際に、勢いのあるシュートや株元から発生したべーサルシュートの下から5~6枚の葉を残して、その上の5枚葉の上でピンチすることを「シュートピンチ」と呼んでいます。
順調に生育していけば、しばらくするとピンチした部分や、その下の段からサイドシュートが発生し、枝数が増え、葉や花数も増えます。
ただし、枝を長く伸ばしたいなどの場合は、シュートピンチは必要ありません。
開花前に施す「追肥」
この時期、生育が順調な株には、花数を増やすのが目的で、リン酸分の多い即効性のある液肥も有効ですが、移植などにより生育が芳しくない株には、リン酸分の多い液肥は控えめにし、花数よりもまずは株の充実を図ることが大切です。
また、固形の肥料は、液肥よりもゆっくり効果が表れるため、4月下旬前までには施肥を済ませます。
この時期に行う「病害虫予防」
4月は引き続き、つぼみをだめにしてしまうゾウムシに要注意です。また、徐々にうどん粉病も発生し始めますので、ご自身のバラを育てる目的に合わせた予防と対策を行ってください。前回も記しましたが、私はバラの花びらを暮らしに活用したい目的から、農薬を使用せずに栽培、または、化学殺虫成分不使用の有機農産物栽培に使える有機JAS対応資材を選んで病害虫予防に使用しています。
また、土壌改良とそれによる根張り、バラの健全な生育を期待して、活力液を土壌や葉に散布しています。
バラと一緒に育てる草花
上記のようなバラのお世話を日々行いながら、バラの株元に植える草花を選ぶのも、この季節の楽しみの一つです。バラに組み合わせて育てている植物をピックアップしてご紹介します。
黄色い花色のバラ‘ゴールデン・ボーダー’の株元には、レウカンセマム‘デイジーメイ’やビオラ、フランネルフラワー、カレックス‘エバーシーン’、ラベンダーなど。
バラが主役のボーダー花壇には、アガパンサス、ヤロウ、ネメシア・メーテル、リクニス・コロナリアなどが、優しい花色でバラを引き立ててくれることでしょう。
すでに花穂をあげているのは、ルピナス・テキセンシス。
ふわふわと花穂が光に輝くボリジとフローレンス・フェンネルが寄り添っています。このようなハーブ類も無農薬栽培のバラの庭には似合うと思うのです。
斑入りシャガを背景に、ビオラとリシマキアの組み合わせの一画。
シルバープリペットの緑もみずみずしく。
大輪ネメシアのネシアと赤葉のヒューケラ・ドルチェ‘チェリーコンポート’が彩り鮮やかに。
もうあと少しでバラが咲き誇る嬉しい季節がやってきます。
今年は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、バラ園は休園になるところが多く、本当に残念でなりません。せめて、日々のお手入れの時間から、その一瞬、一瞬をかけがえのないものと思い、大切に過ごしていきたいと思います。
併せて読みたい
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・バラの大敵・黒星病の予防&対策をバラの専門家が解説
・【バラの育て方】初心者さん必見!バラの基本的な育て方と種類・病気を解説
協力
株式会社花ごころ 村田高広、住友化学園芸株式会社 草間祐輔
Credit
写真&文 / 元木はるみ - 「日本ローズライフコーディネーター協会」代表 -
神奈川の庭でバラを育てながら、バラ文化と育成方法の研究を続ける。近著に『薔薇ごよみ365日 育てる、愛でる、語る』(誠文堂新光社)、『アフターガーデニングを楽しむバラ庭づくり』(家の光協会刊)、『ときめく薔薇図鑑』(山と渓谷社)著、『バラの物語 いにしえから続く花の女王の運命』、『ちいさな手のひら事典 バラ』(グラフィック社)監修など。TBSテレビ「マツコの知らない世界」で「美しく優雅~バラの世界」を紹介。
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