鳥取県米子市で、クリニックの庭を丹精する面谷ひとみさん。春の庭ではさまざまな小花が咲き群れ、まるでリバティプリントのような愛らしい風景が展開します。面谷さんの庭で定番になっている育てやすく、かわいい春の草花を10種セレクトしていただきました。

Print Friendly, PDF & Email

春の庭の1カ月の様子

早春の庭
3月初旬の庭。下は同じ場所から撮影した1カ月後の風景。
春の庭
4月初旬の庭。

新しい暮らしがスタートする春という季節。人生の節目とも重なる時期ですが、庭づくりをしている私にとって、春の1カ月はいつも、とてもドラマチックです。日ごと温む空気の変化を植物は敏感に感じ取り、草花は背丈を伸ばし、つぼみを膨らませ、昨日と今日とでは明らかに庭の色が変わります。庭仕事をしながら、この花が咲いた、こっちもつぼみが上がってきたと、春の庭はうれしい発見の連続です。

クリスマスローズの小道
庭の小道もクリスマスローズから…。
チューリップの小道
4月はチューリップへ。

庭仕事の途中でふと立ち上がって庭全体を見渡すと、1カ月の間にまるで誰かが緑の絵の具でサッと色をつけたように、庭が様変わりして見えるのです。その植物の勢い、みずみずしさ、春の命のきらめきに、私は毎年飽きることなく感動せずにはいられません。

春のガーデン

私はさまざまな草花が入り混じって咲く風景が大好きです。それは幼い時に読んだ物語の影響かもしれません。『赤毛のアン』や『秘密の花園』、『大草原の小さな家』を愛読していた少女時代の私は、いつも主人公たちが寝転び、駆け回る花の草原のシーンを思い浮かべては、憧れていました。大人になってからもその趣向は変わらないようで、花柄で有名な英国のリバティプリントやローラアシュレイを愛用しています。

夫がクリニックを開院し、少し広いスペースで庭をつくれるということになったとき、私はそんな憧れの風景を切り取ったような庭をつくりたいと思いました。ですから、庭のテーマは自然の野原のような花々の調和です。春は特に、そんな野原のイメージに近い庭風景が展開し、心踊る季節。ここからは私が春の庭の定番として植えている草花10選をご紹介します。どれもガーデニング初心者でも育てやすく、よく咲いてくれる花々です。

こぼれ種で増えるワスレナグサ

ワスレナグサ

ワスレナグサはブルーの小さな花を咲かせる一年草です。小さな花が群れ咲く様子は、花柄で有名な英国のリバティプリントのようで、大好きな花の一つです。英国でも日本名と同じように、‘フォーゲット・ミー・ノット’と呼ばれます。こぼれ種で増え、写真のようにいつの間にか石の隙間などからも花を咲かせます。草丈は通常20〜30cmですが、肥料が行き届いた庭では春、暖かさが増すと、さらに草丈は高くなります。花は小さく、ビオラやチューリップなどの春の球根花との相性も抜群。花色には白やピンクもあります。

ビオラとワスレナグサ
ビオラと一緒に咲くワスレナグサ。
ワスレナグサとチューリップ
ワスレナグサとチューリップの競演。

花色豊富な春の一年草の代名詞ビオラ

ビオラ

ビオラは毎年、新しい品種が登場し、花色も咲き姿もとてもバリエーションが豊富な一年草です。花苗は秋くらいから店頭に並び始め、冬にかけて種類が増えていきます。店頭で選ぶ際は花の顔にばかり目が奪われがちですが、庭植えする際や寄せ植えする際には株姿も重要です。冬の間もきれいに咲いてくれますが、春暖かくなると一気に花数が増えて、こんもり花の茂みを作ってくれます。品種によっては驚くほどの花付きで、株全体を花が覆い尽くすように咲くものもありますが、私は庭植えにはコンパクトで葉っぱと花のバランスがよいもののほうがナチュラルな雰囲気になるように思うので、前年の経験を生かしてそのような特徴を持った同じ系統のものを選ぶようにしています。花がら摘みをすることで花の開花期間を伸ばすことができ、5月のバラの開花の頃まで咲き続けます。

ビオラ
繊細な花色が魅力的なゲブラナガトヨのビオラ‘マリア’。
庭のビオラ
庭には他の花と調和するようコンパクトな株姿のビオラをチョイス。

春風の娘、アネモネ

アネモネ

アネモネは春に咲くキンポウゲ科の球根花ですが、球根としての販売より、花苗として販売されていることの方が多いでしょう。花の大きさはチューリップほどで、花色も鮮やかなので、まだ花の少ない春の庭では存在感があります。一方、花の大きさに反して茎は細く繊細で、風に揺れる風情がなんとも素敵です。その名も風に由来しており、アネモネはギリシャ語で風を意味し、タネには長い毛があり風に乗って運ばれていきます。中でも花茎が細いアネモネ・フルゲンスという草丈20〜30cmの小型の原種系が私は大好き。一度植えると毎年春に可愛い花を咲かせてくれます。

春の庭
アネモネ、チューリップ、ネメシアが咲く庭の一角。

素朴で可憐なイングリッシュデージー

イングリッシュデージー

野の花の素朴な雰囲気をまとったイングリッシュデージーは、イギリスではまさに野の花です。本来は常緑多年草ですが、場所によっては一年草扱いになります。とはいえ、こぼれ種で増えるので一度植えると庭のあちこちで咲いてくれます。私は写真のように小道に敷いた石の間から咲く様子が気に入っているので、草取りの際に雑草と間違えて抜いてしまわないように気をつけています。草丈は10〜20cm程度で、庭の小道の際や花壇の手前に向いています。3月から5月にかけて咲いてくれます。

春の初めを彩る宿根草クリスマスローズ

クリスマスローズ

山陰ではクリスマスローズはチューリップが咲く1カ月ほど前に開花期を迎えます。この頃は地際で咲く小球根が地面をポツポツと彩り、ビオラもまだ草丈が低い時期なので、草丈がやや高く、花径も大きめのクリスマスローズは華やかな存在感で庭を彩ってくれます。一重、ダブル(八重咲き)、セミダブル、ピコティーなど花の姿は非常に豊富で、希少品種も少なくありませんが、性質はいたって丈夫。真夏は日陰ができる樹木の下などを好み、環境さえ適していれば株は年々太って花数も増えていきます。また、こぼれ種でも増え、いつの間にか敷石の間から花を咲かせていることも珍しくありません。

クリスマスローズの小道

●『クリスマスローズと小さな花々が競演する春のかわいい庭

春らしさを最も演出してくれるチューリップ

チューリップ

チューリップは花に詳しくない人でも、小さな子どもでも必ず「春」を感じられる身近な球根花です。ですから色々な方が通っていらっしゃるクリニックの庭では季節感を演出するのに欠かせない花です。原種は球根を植えっぱなしでも毎年、必ず咲いてくれますが、園芸品種の多くは2年目以降は同じように咲いてくれるとは限りません。咲いても花色が褪せてしまったり、草丈や花の大きさが小さくなったりと、イメージ通りにならないことが多いので、花後は全て引き抜いて毎年異なる品種に植え替えて、イメージチェンジを楽しんでいます。チューリップを引き抜く頃には宿根草や一年草の草丈が高くなってきていますし、ほどなくしてバラが咲き始めるので、抜いても寂しい印象にはなりません。

春のおすすめ花

チューリップの原種系(手前の黄色と赤の花、白と赤の花)は、園芸品種と異なり植えっぱなしで球根が分球し、花数がどんどん増えていきます。花茎が細くしなやかで、野趣溢れる姿も魅力的です。原種系は樹木の下に植えて、自然な雰囲気を演出しています。

庭植えでどんどん増える原種シクラメン

原種シクラメン

シクラメンというと、大輪の花を咲かせる贈答用の鉢花や一年草として扱うガーデンシクラメンなどを思い浮かべるかもしれませんが、この庭では原種シクラメンが春の定番です。原種シクラメンには秋咲きのシクラメン・ヘデリフォリウムと2月頃から咲くシクラメン・コウムがあります。クリニックではどちらも植えてあり、2つの季節を彩ってくれます。ともに草丈が10cm程度で花も小さく素朴な雰囲気で咲き、春の球根花やビオラ、クリスマスローズともよく似合います。環境さえ合っていれば、こぼれ種でどんどん増えて可愛い花をあちこちから咲かせてくれます。上の写真でも、花の手前に小さな葉っぱが出ていますよね。これがこぼれ種で増えた分で、こんな風にちょっとした石の影や夏は日陰になる樹木の下などが好みのようです。夏は蒸れに注意して、周囲の雑草をせっせと抜いています。そのほかは特別な管理をしなくても丈夫に育ち、もう何年も春の庭を彩ってくれています。「なんの花ですか?」と患者さんから聞かれることが最も多い花で、私は毎回まるで原種シクラメンの営業マンのように「かわいくて、丈夫で、よく増えて、花の少ない頃に咲いてくれて…」と、その魅力を熱弁しています。

原種シクラメン

原種シクラメンの苗は、なかなかホームセンターなどでは見かけることはありませんが、米子ではこの庭の設計者でもあるガーデナーの安酸友昭さんが営む園芸店「ラブリーガーデン」で入手できます。また、池袋のサンシャインシティで毎年2月に開催されている「クリスマスローズの世界展」も原種シクラメンとの出合いの場です。ここでは毎年、クリスマスローズと並んで原種シクラメンの生産・育種でも有名な横山園芸さんが出店されているので、そこで買い求めたものも少なくありません。

小型のルピナス

ルピナス

ルピナスはマメ科の花で、同じマメ科のフジの花のように小さな花が茎に連なって咲きます。その姿がフジを逆さにしたようなので「ノボリフジ」とも呼ばれることがあります。草丈が1mほどになる大型の宿根草が有名ですが、近年は草丈20〜30cmの可愛い小型のルピナスが登場し、春の花壇づくりに重宝しています。ルピナスの魅力はやはり、この咲き姿です。花穂状になる縦のラインがほかの花にはない個性で、繊細さもあるので、庭のよいアクセントになってくれます。

春の庭
アネモネやビオラ、スカビオサ、クリスマスローズの間をルピナスが繊細な雰囲気でつないでくれる。

明るい花色で軽やかに咲くゲウム

ゲウム

ゲウムは日本に自生しているダイコンソウの仲間で、八重咲きなどの園芸品種が多くあります。丈夫で手のかからない宿根草で、毎年春になると必ず咲いてくれます。こんもりとした葉の茂みの中から細い茎を伸ばし、その先に明るい黄色やオレンジの小花を咲かせます。ベルのように少しうつむくつぼみの姿もかわいらしく、風に揺られる風情も軽やかです。私は花選びの時に、この「風に揺れる」風情を大事にしています。風も庭の大事な演出の一つです。風にそよそよと揺れる花は、室内にいても外の空気感や気持ちよさを感じられるものです。

ブーケのように咲く宿根ラナンキュラス

ラナンキュラス

ブーケで人気のラナンキュラスですが、「ラックス」シリーズはガーデンでも一際華やかに咲いてくれます。従来のラナンキュラスは耐寒性や耐暑性が弱く、庭植えするのは難しい植物とされてきましたが、この「ラックス」シリーズはすごく丈夫で夏越しも冬越しもラクラク。1年で株の大きさは倍になり、写真のように1株でブーケのようにたくさんの花を咲かせます。大株になるので、2年目以降は株分けをしながらボリュームをコントロールして育てています。花弁がピカピカとしているのも「ラックス」シリーズの特徴で、咲き始めから終わりまで色を変化させながら長く咲いてくれるのもの魅力です。

春のガーデン

このクリニックでの庭づくりも5年以上が経過し、毎年いろいろな花にチャレンジしながらも、ここでご紹介した花は春の定番になりつつある草花です。定番になる花には「育てやすさ」、「かわいらしさ」、「個性」、「他の花との調和」という共通点があるように思います。どれも庭で機嫌よく咲いてくれるので、まだまだこれらの花とのお付き合いは長くなりそうです。

Credit

話/面谷ひとみ
ガーデニスト。鳥取県・米子市で夫が院長を務める面谷内科・循環器内科クリニックの庭づくりを行う。クリニック開院にあたり、自らも看護師として大学病院などで勤務してきた経験を生かし、患者にも医療従事者にも癒しとなる空間を作るために、バラと草花が調和する庭づくりを開始。一年中美しい風景を楽しんでもらうために、日々庭を丹精する。NHK出版『趣味の園芸』テキストで安酸さんとの庭づくりの日々の連載が2020年4月よりスタート。

ラブリーガーデン http://www.lovely-garden.jp

撮影・取材・まとめ/3and garden

 

Print Friendly, PDF & Email