クリスマスローズと小さな花々が競演する春の可愛い庭
鳥取県米子市で、クリニックの庭を丹精する面谷ひとみさん。春先の庭では、長年のコレクションのクリスマスローズがあちこちで花開き、ビオラや原種シクラメンとの可憐な競演を見せています。クリスマスローズと似合う草花の選び方や寄せ植えのコツ、ブーケ作りまで、クリスマスローズの楽しみ方を教えていただきました。
目次
丈夫でこぼれ種でも増える宿根草、クリスマスローズ
クリスマスローズは早春の庭に欠かせない花です。山陰ではクリスマスローズは、チューリップが咲く1カ月ほど前に開花期を迎え、およそ1カ月庭を彩ってくれる丈夫な宿根草です。この頃はクロッカスやムスカリ、原種シクラメンなどの小球根が地面をポツポツと彩り、ビオラもまだ草丈が低い時期なので、それらより草丈がやや高く、1株から何輪も咲くクリスマスローズは、春まだ浅い庭を華やかに彩ってくれる貴重な存在です。
数年前から可愛いと思う花を集め出し、一重からセミダブル、ダブル、花弁の縁に糸のように色が入るピコティ、プチプチ模様のスポットまで、いつの間にか庭中にクリスマスローズが増えました。最近のお気に入りは、‘プチドール’や‘ピンクアイス’、‘氷の微笑’、英国アシュウッドナーセリーの品種などいろいろありますが、一番は、なんといっても‘ヨシノ’です。淡いピンク色に染まるふっくらとした一重の花は、可憐で素朴。希少品種で、鉢で大事に育てられることが多いようですが、私はこのあどけない少女のような雰囲気の花を庭に咲かせたくて、地植えにしています。以前、クリスマスローズ愛好家の方が庭にいらした際に、「こんな貴重な花を地植えにするなんて…」と呆れられたことがありましたが、地植えにしたところ株が太って花数が増えたので、私としては嬉しい限りです。
クリスマスローズの中には、そのような希少品種がいくつもありますが、希少だからといって必ずしも特別難しい管理が必要なわけではなく、適所で育てれば丈夫に育ち、年々株が太って花数が増えるのも魅力です。また、品種によってはこぼれ種でも増え、敷石の隙間や樹木の間など、少し日陰になるようなところにいつの間にか花が咲いていることがしばしばあります。
苗は、地元米子の園芸店「ラブリーガーデン」に厳選されたクリスマスローズがあるので、多くはそこで入手しています。また、毎年東京・池袋で開催されている「クリスマスローズの世界展」にも、飛行機に乗って花を見に行くのが恒例になりつつあります。魅力的な新品種が次々に登場するので興味は尽きませんが、私はクリスマスローズのコレクターというわけではなく、ほかの草花との競演を何よりも楽しみにしています。
クリスマスローズと似合う春の花々
春先のこの時期は、クリスマスローズより草丈が高くなるような花は少なく、原種シクラメンもビオラも、クリスマスローズの株元で咲きます。この2つの花は、クリスマスローズの花の雰囲気にぴったりです。
素朴で可愛らしい原種シクラメン
原種シクラメンは地際7〜8cmの高さで咲き、花も小さく素朴で可愛らしい雰囲気です。ガーデンシクラメンも小型のシクラメンで庭植えされますが、原種シクラメンは、もっと花が小さく控えめに咲くので、クリスマスローズをよく引き立ててくれます。夏は涼しい木陰など、場所さえ合っていれば、球根が分球してどんどん増えていってくれるのもお気に入りの点です。
ビオラはコンパクトな株姿をセレクト
また、ビオラも地植えにするものは、ボリュームが出すぎず、キュッとコンパクトな株姿で咲く品種を選んでいます。ビオラは本当にたくさんの品種があり、色も咲き姿も魅力的なものが豊富ですが、私が庭植えにする際に重視しているのは株姿です。草丈が高くなり、株全体が花で覆われるような育ち方をするものは、庭では目立ちすぎてしまうので、寄せ植えなどに用いています。この庭では、草丈があまり高くならず、横に広がって育ち、葉の存在感があるようなビオラが似合うのですが、こればっかりは育ててみないことには分かりません。ですから私は、前年の経験を生かして同じ系統のビオラを選ぶようにしています。
楚々とした姿が魅力的な雪割草
雪割草のような山野草も、クリスマスローズとの相性抜群です。ただし、雪割草は新潟県が原産地で涼しいところを好むため、夏越しが難しく消えていってしまうものもあります。それでも、樹木の下や日陰になる場所などではいくつか残って、毎年可愛らしい花を見せてくれるので、大事に育てています。
グラウンドカバープランツのベロニカ
地面を覆うように咲く植物のことをグラウンドカバープランツと呼びますが、ベロニカも春先に咲く、そんな花の一つです。横に広がりながら、エンジ色の葉っぱに冴え渡るブルーの小花を咲かせます。上の写真のクリスマスローズは、庭づくりの最初に買って植えたもので、ベロニカと一緒に何年も咲いてくれています。日当たりのよい花壇ですが、夏はバラの木陰になり、ベロニカも土の温度上昇や乾きを防いでくれるからでしょう。
クリスマスローズの花がうつむいて咲く姿は、株元のそうした小さな花々を見守っているようにも、話しかけているようにも見え、想像がふくらんで、とても楽しいです。花が咲くと、私は一輪ずつそっと手のひらに載せるようにして、その顔をのぞきます。立って上から眺めているだけでは、ダブルやピコティといった花の内側に隠された豊かな表情が楽しめないからです。
プロが教えるクリスマスローズの寄せ植えのコツ
コレクターの方が鉢植えにする理由の一つには、可愛い花の顔がよく見えるという利点があるのでしょうね。私もいくつかは鉢植えにして少し高い場所に置き、花の顔が楽しめるように鉢を並べています。また、クリスマスローズはこの時期の花の中では花径が大きめなので、寄せ植えの主役としても活躍してくれます。クリスマスローズの寄せ植えは、ガーデナーの安酸友昭さんにお願いしていますが、植え方にはちょっとしたコツがあるようです。
クリスマスローズは葉があまりない状態で、ほかの花苗より大きい鉢サイズで流通しています。ですから、鉢から抜き出した際の根鉢が大きいのと、草丈の違いから、普通に寄せ植えすると、クリスマスローズの株元にぽっかり空間ができてしまいます。そうならないように、株元部分では、苗を横に並べるのではなく、クリスマスローズの上に他の草花を置いて、隙間ができないようにします。その際、邪魔になる葉っぱがあればちぎってしまいますが、その後の生育には問題ありません。クリスマスローズは宿根草なので、花が終わった後も鉢で養生するか、地植えにしておけば、来年もまた咲いてくれます。
庭のクリスマスローズで作る華麗なブーケ
クリスマスローズを植えて数年経った今年、株が充実して花数も増えたので、思い切って庭のクリスマスローズを切ってブーケを作ってみました。25本ほどの花茎の、両手にこぼれるほどのブーケができ、我ながら感動です。内心、今が盛りの花を切るのはとても勇気のいることでしたが、花瓶に活けると、さまざまなクリスマスローズの花の顔をじっくり眺めることができ、これは育てている者の特権だなぁと、なんとも贅沢な気分になりました。じつは、庭の花を素敵に飾れるように、フラワーアレンジメントのレッスンでスパイラルという花束の基本スタイルを学んだのですが、その甲斐あって、手早くきれいにまとめることができました。
庭の花のブーケを作ってみて思ったのは、あまり花を吟味して選ばなくても、適当にササッと切って束ねても、美しくまとまるということです。でも、よく考えてみれば、庭に植えるときにすでに花々が調和するように選んで植えているので、当然なのかもしれません。それに、新鮮さにかけてはピカイチ。アレンジメントという新しいテクニックを覚え、ますます庭の楽しみは広がる一方です。
寄せ植えアドバイス/安酸友昭(Yasukata Tomoaki)
ガーデンデザイナー、ガーデナー。園芸専門学校を卒業後、地元造園会社にて日本庭園作庭を学んだ後、イギリス(ブライトンカレッジ・オブ・テクノロジー)で、ガーデニングを学び、NVQ(イギリスのガーデニング技術者国家資格)1・2を取得。その後、地元米子に戻り、ラブリーガーデンを設立、庭づくりを始める。2007年、ラブリーガーデンのショップをオープンする。2010年に、英国ドライストーンウォーリング協会認定の石積み技術の資格をイギリスで取得。NHK出版『趣味の園芸』テキストで面谷さんとの庭づくりの日々の連載が2020年4月よりスタート。
ラブリーガーデン http://www.lovely-garden.jp
Credit
話 / 面谷ひとみ - ガーデニスト -
おもだに・ひとみ/鳥取県米子市で夫が院長を務める面谷内科・循環器内科クリニックの庭づくりを行う。一年中美しい風景を楽しんでもらうために、日々庭を丹精する。花を咲き継がせるテクニックが満載の『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(KADOKAWA)が好評発売中!
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撮影・取材・まとめ / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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