暖かく過ごす冬の園芸作業! 夢も広がるセミトロピカルレアプランツの種まき[実践編]
屋外の植物たちが休眠中の冬。あなたは、ガーデニングはお休み? もしくは極寒に耐えながら作業派? これからは、暖かな室内でのレアプランツの種まきがおすすめ! 分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、冬にぴったりの園芸作業の一つ、セミトロピカルなレアプランツの種まきについて解説。実践編をお届けします。
目次
暖かく過ごす冬の園芸作業!
夢も広がるセミトロピカルレアプランツの種まき 実践編
年間を通じてみると、園芸作業に余裕がある冬の期間、安定して暖かい屋内の環境を利用して、春に向けて「苗では手に入りにくい」レアなセミトロピカルプランツの種まき・苗作りをする提案。前回の概要編に続き、今回が実践編となります。
今回は、乙庭でも2019年12月に種まきしてみた、アメリカ南西部、モハーヴェ砂漠の奇観プランツ、ユッカ・ブレビフォリア (Yucca brevifolia)と、南米チリのアンデス高地原産の大型ブロメリア2種、プヤ・ライモンディ(Puya raimondii)とプヤ・アルペストリス(Puya alpestris)を例に解説します。
これらの植物は、小さい苗でも流通量は極めて少なく、あったとしても高価なものです。
冬のヒマな時期を利用して、これらの植物を暖かい屋内で比較的安価な種子から苗作りすることができます。屋外で寒くツラい思いをせずに園芸の楽しみを享受でき、その上、珍しく・夢があり・カッコいい植物も手に入れることができて差別化も図れると、いいこと尽くめですよね。
今回は、一般の方にも気軽に手がけていただけるよう、道具などもできる限り手に入りやすい簡便なものを使用しました。
冬の園芸作業の新しい選択肢として参考にしていただけたら幸いです。
セミトロピカルレアプランツの種まきに準備するもの
・種子
国内通販で手に入る小袋入りの量で十分です。
上写真は、今回播いた植物種子の小袋。乙庭で販売しているもので、右下の黒い大きな種子がユッカ・ブレビフォリア、左上の2つがプヤです。趣味利用でしたら、このくらいの量で十分楽しめます。
たくさん苗ができてしまうと、のちのち管理が大変になるので、必要十分の量をしっかり見極めましょう。また、種子の鮮度が重要なので、収穫時期や入荷時期を記載しているショップで購入すると、より安全です。
・フードパック
お祭りの出店の焼きそばや、スーパーなどで惣菜のテイクアウト用に使われる、2つ折りのフタ付き透明フードパックです。
100円ショップやホームセンターでも手に入ります。もちろんスーパーのお惣菜持ち帰りで使ったものを再利用することも可能ですが、菌の繁殖を防ぐため、よく洗って清潔なものを準備しましょう。
今回は、種まきトレー用と受け皿用で2個使用します。
・種まき用土
今回はシンプルで手に入りやすい赤玉土小粒を単用しましたが、清潔で水はけ・水もちのよい用土であればよいので、他の用土や配合など、いろいろ好みやこだわりに応じて試してみてもよいでしょう。
・殺菌剤
乾燥しないように高湿度を保ちながら管理していくので、カビの繁殖を防ぐのが肝要です。播種時と、日々の観察でカビの発生が見られたら、適宜殺菌剤をスプレーして防除します。
今回は微粉キャプタン水和剤を使用しました(希釈倍率などは薬剤に記載されている用法・要領を正しく守りましょう)。
・ハンドスプレーボトル
細かい種子の流出や浮き沈みなどを防ぐため、水やりもスプレーで行うと安全です。
100円ショップやホームセンターで手に入ります。水やり用と殺菌剤散布用の2つを用意すると万全。
・付箋(お好みで使用)
種まきした後に植物名を書いてフードパックにセロテープで貼ります。乙庭では家庭や事務用で使うごく一般的な付箋を使用しています。
3カ月以上に及ぶ長期戦にならない限り、概ね上写真のようなタイプの付箋で十分です。あるいは、種まきしたフードパックのフタに油性マジックで植物名を書いてしまうという、付箋を使わないテもあります。
では、種まきしてみましょう
前述の道具や材料が揃ってしまえば、あとは楽しい種まきタイムです。難しくはありませんが、ところどころコツがあるので、順を追って説明します。
1.種子の事前処理
今回播くもののうち、ユッカ・ブレビフォリアは種皮が厚く硬いため、播く前日から一晩種子を水に浸して種皮をふやかしておきます。
それ以外にも、熱湯に浸したり、一定期間冷蔵庫や冬の寒い屋外で低温にさらすなど、発芽のスイッチを入れるために特殊な処理を必要とする種子もありますので、各植物の播種方法については事前にできる限り調べておきましょう。
2.フードパックの下準備
2枚用意したフードパックの片方は、フタの折り目のところで2つにカットし、フタと本体に切り分けます。
このフタのほうを種まきトレーの水受け皿として使用します。
ちなみに、2トレー播くときには、余った本体のほうも受け皿として使えます。
まとめると、写真上のフタ付きのパックを種まきトレーに、写真下の切断されたフタを受け皿として使うということですね。
次に、種まきトレーとして使用するフタ付きのフードパックは、下から水が抜けるように、細めのドライバーなどを利用して底面に穴をあけます。
写真のフードパックで20カ所くらいあけています。
3.用土の準備
無菌に近い清潔な用土を必要量準備します(今回は赤玉土小粒単用)。屋内の20~25℃程度で湿潤を保つ環境だとカビも発生・繁殖しやすいので、カビの防除が大きなポイントになります。
乾燥した用土をトレーにセットしてから殺菌剤の希釈水をかけると、底面から水が出て後のひと手間が増えるので、乙庭ではビニール袋に土を入れて、殺菌剤液で土を湿らせてからフードパックに7~8分目程度土を敷き詰める方法をとっています。
4.種子を播く
小袋入りくらいの粒数の種子であれば、発芽適温が近いものなら、1つのフードパックに数種類播けます。今回の3種類、ユッカ・ブレビフォリアとプヤ2種は、下の写真のように1つのトレーに播きました。
種子販売分の余りで、プヤ・アルペストリス200粒程度、ユッカ・ブレビフォリア青葉選抜種80粒程度、プヤ・ライモンディ40粒程度です。乙庭は園芸店なので、多めに播いていますが、通常の趣味利用でしたら15〜20粒ずつ播けば十分です。
ここで重要な注意事項が一つ。種子の並び順と間隔です。見た目がそっくりな植物を隣同士にして播くと、勢いよく水やりしたり、何かの拍子で土がちょっとでも動いてしまったときに種子が移動して混ざってしまい、せっかく発芽しても種が特定できなくなって、のちのち厄介なことになります。特にプヤは、ある程度大きくなっても区別がつかないほど似通っているので要注意。
今回の3種類だと、プヤ-プヤ-ユッカの並びで播くのは厳禁で、上写真のように、プヤ-ユッカ-プヤの並びで播けば、種子も芽の形状も全く異なるので一目瞭然です。
今回の種子はどれも「好光性」なので、覆土はせず、湿った用土の上に直に播きます。乙庭では、几帳面に「溝をつけてすじ播き」したりせずにパラパラッと播いてしまっています。ただ一点、種が混ざらないようにすることには細心の注意を払いましょう。種類ごとに間を詰めず、境界の間隔をしっかり空け、区切りをつけます。種が混ざってしまうのを避けるためと、種によって芽が出るタイミングが異なるので、鉢上げする際に隣の種を傷めないためです。
5.スプレーで灌水、仕上げに殺菌剤液をスプレー
用土の上に種子を播いたら、スプレーで十分に湿るように水やりし、仕上げに殺菌剤液をスプレーします。最初に土を湿らせておいたのは、スプレーする程度で水やり完了できるようにするためなんですね。ここで、ジョウロやコップでたっぷり水やりすると、種子が流れて移動してしまい、ここまでの作業が水の泡になってしまいます。
6.付箋をつけて、適切な場所で管理
発芽までは乾燥しないように湿潤管理が必要なので、フードパックのフタをします。フタが開かないようにセロテープでとめてあげるとよいでしょう。
フードパックのフタの折り目のところに、植物名(と日付)を書いた付箋を貼ります。付箋も、念のため取れないようにセロテープで補強留めしておくと安全です。
今回播いた3種は好光性なので、屋内でも窓際の明るく暖かい場所に置いて管理します。夏場だと、このような環境に置くと高温で蒸れてしまい失敗しやすいので、冬の屋内のマイルドな環境のほうが適しているといえるでしょう。
種まき後の経過を観察してみましょう。
乙庭で種まきをしたのが、2019年12月7日。それ以降、約1カ月間の経過を追ってみました。
種まきした2日後の2019年12月9日には、早くもユッカ・ブレビフォリア ‘ブルー’ の種子から発根が始まりました。
種まきから1週間足らず、2019年12月13日には、下写真のように、ユッカ・ブレビフォリア ‘ブルー’ のほとんどの種子が発根したため、根を傷めないようにピンセットで丁寧に抜き取り、3号ポットに10芽程度ずつ鉢上げしました。
フードパックはフタを閉めて内部の温度を上げるようにしています。フタをすることで、同時に水分の蒸発も防げるので、スプレーでの水やりは週2回程度。カビの菌糸が確認できたら殺菌剤もスプレーしました。
プヤ2種は、ユッカよりは発芽日数がかかり、播種から2週間ちょっと経過した2019年12月24日頃からちらほらと発芽が始まりました。いっぺんに芽吹くというよりは、スイッチの入った種子から徐々に芽吹いていくという感じです。とはいえ、発芽率は上々で、2020年1月11日には下写真のように概ねすべて芽吹きました。
プヤの芽はとても小さく、この大きさでの鉢上げ移植はリスクが高いので、この種まきトレーのまま、薄い液肥を与えてもう少し育て、移植可能なくらい安定したところで鉢上げします。
このペースでいけば、寒さも和らぐ春には、鉢上げした状態でタイミングよく育苗ステージに入れますね。
2019年12月中旬にすでに鉢上げしてあった ユッカ・ブレビフォリア ‘ブルー’ も、下写真のように順調にスクスク生育しています。
時を同じくして基本種のユッカ・ブレビフォリアも200粒ほど種まきしていたため、ブレビフォリア2品種合わせて、300芽近い苗ができました。
200粒播いたプヤ・アルペストリスも上写真のように、ほぼ全数発芽したので、全てを鉢上げしていったら、結構なスペースを取るのが容易に想像できますね。
ちなみに、上写真は、3芽ほどをまとめて植えた実生5年程度のプヤです。多頭個体のような見た目に育ち、立派に「オーナメンタルプランツ」と呼べる風格を漂わせています。
フードパック1つに播いただけでも、鉢上げ、鉢増しするごとにスペースを膨大に取っていきますので、ご家庭の園芸ではくれぐれも、種まきは「本当に欲しいものを必要十分なだけ」を心がけましょう。
いかがでしたでしょうか。図鑑でしか見ることができないと思われた珍しい植物でも、冬の暖かい室内で、難しいことなく種子から育て始められることがお分かりいただけたと思います。「苗が売っていなければ自分で作る」。私が素人園芸家だった頃から普通にやってきたことなのですが、「種まき育苗は難しい、あるいはとても面倒なこと」と思っている方も多いようなので、ご紹介しました。
私にとって種まきは、苦労や費用を多くつぎこまずに夢を育んでいく、現実的かつ戦略的かつ創造的な園芸作業です。小さな一歩でも踏み出して進んでいけば、夢はだんだんと叶えられるもの。また、容易には達成できないことだからこそ、夢を追う醍醐味がある。人生もまた然りですよね。
「僕は一日中夢を見ている。生きるために夢を見るんだ。」
(スティーヴン・スピルバーグ 映画監督 1946 – )
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -
おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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