屋外の植物たちが休眠中の冬。あなたは、ガーデニングはお休み? もしくは極寒に耐えながら作業派? これからは、暖かな室内でのレアプランツの種まきがおすすめ! 分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、冬にぴったりの園芸作業の一つ、セミトロピカルなレアプランツの種まきについて解説します。

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暖かく過ごす冬の園芸作業!
夢も広がるセミトロピカルレアプランツの種まき

冬の間の園芸作業というと、みなさん何を思い浮かべますか?

剪定

バラの剪定や誘引や寒肥を撒いて中耕したりといった「寒いし正直結構キツい」外作業か、

ガーデン

あるいは、昨年の庭を振り返って春以降の庭の計画を練ったりといった「暖かいけど実際植物には触れない」脳内作業を連想する方が多いかと思います。

冬のガーデニング

前者は、よい庭をつくるための「根性を必要とする能動的な」作業、後者は、寒い庭・冬枯れの寂しい庭からの現実逃避も含んだ「実働を伴わない空想的な」作業ともいえます。

冬のガーデニング

庭や園芸が好きな者なら、一年中植物と触れ合い、植物の生命力を感じていたいもの。しかし、冬というのは、園芸家に寒さ我慢や空想世界への逃避を迫る過酷な季節なんですよね。

もちろん、冬の間に行う庭の整備作業や、将来の庭へのイメージを膨らませる思考作業も大切です。

しかし、よい庭をつくるためには「厳しい冬を耐え、しっかりと下準備をすることが必要」という常識。その大前提をちょっと外してみることで、冬の園芸が「我慢・忍耐」から「快適・楽しい」ものに変わります。

冬の部屋

現代での私たちの冬の生活といえば、暖房の効いた暖かい部屋で快適に過ごせるものとなっています。

冬の園芸だって、「暖かく快適に、ちょっと土に触れて、夢を膨らませて」思いっきり楽しむという選択肢もあると、なおいいんじゃないでしょうか。

そこで、今回から2回に分けて、「あえて年数をかけて育ててみたいレアプランツの種まき育苗」をご紹介します。初回が概要編、次回が実践編となります。

種まき

冬の屋内の安定して暖かい環境を利用して冬の間に種子から小さな苗を作り、暖かくなり始める春からスムーズに本格育成に入れる実用的な方法です。

育苗

苗での流通が皆無だったり、苗があったとしてもとても高価なセミトロピカルレアプランツ。園芸的には比較的作業時間に余裕のある冬の時期を使って、これらの稀少植物を「お手頃経費で」「発芽や成長をワクワク楽しみながら」育てる提案です。

ユッカ・ブレビフォリア
アメリカ カリフォルニア州南東部に位置するジョシュア・ツリー国立公園の砂漠奇観を象徴する植物でもある、ユッカ・ブレビフォリア(Yucca brevifolia)。

今回は、乙庭でも2019年冬に実際に種子を輸入して種まき育成している、南米原産のプヤや、アメリカ南西部、モハーヴェ砂漠原産のユッカ・ブレビフォリア(=ジョシュアツリー)を例に解説します。

プヤ・アルペストリス
ペルー原産のレアプランツ、プヤ・アルペストリス (Puya alpestris)のオーナメンタルで美しい花。

たとえ栽培に年数がかかったとしても、現地写真でしかなかなか見ることができないこれらの植物を庭で育てられる、と思うと、夢やロマンが広がりませんか?

フードパック
今回、乙庭で種まきに使用した市販のフードパック。出店の焼きそばやスーパーなどで、揚げ物や惣菜の持ち帰りに使われるアレですね。

本記事では、資材も100円ショップやホームセンターで手に入るものを中心に用い、一般の方でもお手軽に、かつ本格的なプランツに取り組みやすいよう可能な限りハードルを下げて、種まきのメソッドをご紹介したいと思います。

新しい冬の園芸の選択肢として、ご参考になれば幸いです。

冬の園芸は「よいものを少なく」。
規模は小さくお手軽に、そして意義深いものにしよう

本文)

ここで、あえてセミトロピカルなレアプランツを選んだのには以下の理由があります。

  1. 気密性の高い現代住宅の冬の屋内は20~25℃程度の安定した温度環境なので、これらの植物の種子発芽適温に近く、わざわざ加温することなく、暖房熱を活用して日常生活の傍で園芸を楽しめる。ちなみに、完全に熱帯性の植物となると、発芽適温がより高いため、人工的に加温するか真夏に播くほうが効果的。
    室温
  2. これらの植物の多くが温暖期によく成長するので、春までに小苗を作っておくと、暖かくなる春~秋の長い期間をフル活用して屋外で大きく育てることができる。自然環境に発芽を大きく左右される春~夏の屋外での種まきよりも安定性が高い。
  3. これらの植物は、苗での流通がないか、苗があったとしてもとても高価なので、より安価な種子で購入して必要な分の苗を作れば、お財布にも優しい。
    貯金
  4. 栽培の楽しみが少なく、比較的園芸作業時間を取りやすい冬の時季を活用して「種子からの芽吹き」という、最高に生命の息吹きを感じられる園芸体験を楽しめる。
  5. 複数の苗ができるので、将来的に、バックアップを取っておきながら、苗を絶滅させずに耐寒・耐暑性など、いろいろな栽培実験ができる。
  6. これらの植物の種子は、日本国内では少量入りの小袋販売が多いので、規模的にちょうどお手頃。
    植物のタネ

温暖な地域原産のセミトロピカルプランツの多くは、やや高めの発芽温度を求めるので、晩春~夏に種子を播くものが多いのですが、自然の天候任せだと、温度変化の幅が大きく、せっかく芽吹いたか弱い幼苗が、急な暑さや水切れ、豪雨や蒸れなどの環境変化に耐えきれず、いっぺんに枯れてしまったりするリスクも大きいのです。注いだ愛情や労力が水泡に帰して精神的にもヘコみますよね。

枯れた苗

しかも、春~秋は、他の園芸作業も忙しい時期。そこに種まき・育苗作業が加わると、忙しさが増すばかりで、ゆとりを楽しむための園芸のハズが、苗作り作業に貴重な時間と労力を多く奪われてしまい、本末転倒にもなりかねません。

冬

なので、園芸作業的に比較的ヒマな冬の期間を利用しての、「苗では手に入りにくい稀少種」の種まき育苗は、忙しい現代人にとっては、理にかなっていて夢とロマンも味わえる、スマートでポジティブな冬園芸の絶好の楽しみ方だと思うのです。

「だったら、普通の一年草や宿根草の苗作りだっていいんじゃない?」と思われる方もいるでしょう。しかし、種まきや育苗はそれなりに場所を取ります。春~初夏咲きの宿根草などは、春の時点で地植えできるポット苗に仕立てないといけないので、かなりの場所を取りますし、自然の生育サイクルと合わないので、発芽も育苗も人工環境だとかえって難しくなります。

種まき

温室やハウスをお持ちの本格派の園芸家ならそれもありですが、一般の住宅環境だと、お家でたくさんのポット苗を育成するのは、時間も労力もスペースも必要で、結構、割に合いません。

片付けや収納の本にも多く書かれているように、家の中というのは、モノを置いておくスペースにもコストがかかっています。

一時的であっても、モノを置くのであれば、省スペースかつ自身の価値観を満たすものにしたいですよね。

花の苗

宿根草や一年草の苗は、生産者がよい苗を供給してくれますし、レアプランツの苗と比べれば安価でもありますので、こういったものは植え付け時期に合わせて必要な量だけを買うのが、かかるコストと労力に対して得られる効果のバランスがよいでしょう。

社会

社会的分業をフル活用して「他人にやってもらえること」は、それを専門にしている人にやってもらうほうが、本当に自分がやりたいことに使える時間が増え、人生の質が向上しますよね。

まずタネを播く前に、
自身の目的や価値観とも擦り合わせてみよう

冬に暖かい屋内で種まきをして、発芽や小さな苗が育っていくのを愛でる。こうすることで、冬の園芸が一気に楽しいものになるのは確かなのですが、ここで、趣味の園芸や庭づくりにおいて根本的なことを見落としてはいけません。

それは「本当に育ててみたい植物を、必要十分な量だけ手に入れる」ということです。種まきは植える植物を手にするための手段であって、目的ではありません。そこを見失わないようにしましょう。

芽吹き
植物の芽吹きは、いつでも園芸家の心をワクワクさせます。

園芸好きの方は、そもそも植物を育てることが好きです。種からたくさんの芽が出ることも、とてもうれしく、ついついたくさんの種子を播いて、ナーセリーのようにたくさんの苗をかかえることになってしまいがちです。でも、目指すところが「美しい庭、美しい植栽」であれば、植える前の苗で庭がいっぱいになってしまっては本末転倒。「栽培の醍醐味」と「植栽の美学」のバランスを心がけるのは、とても大切なことです。

種まき
いくら種まき好きといっても、家庭園芸ではこんなにたくさんの苗は必要ないですよね。

作場のように苗作りをすることがその人にとって一番楽しく、それがその人の園芸スタイルであれば、それでもよいのです。しかし、育てた植物を庭や植栽に生かしたいというのが主目的であれば、一種類につき、そんなに本数は必要ないケースがほとんどですよね。

かといって、生きた余剰苗を捨てるということは、園芸家にはなかなかできないことですし、庭友達に差し上げたり交換するにしても量に限度がありますよね。

ましてや、たくさんできてしまった苗をネットオークションで売ったりするのでは、もはや「商売」になってしまい、なんだか「趣味の庭や園芸」という目的からそもそも路線が外れてしまいますね。もちろん「商売」目的であれば、それでも理にかなっているのですが。

苗の選択

「その植物が自分にとって本当に育ててみたいものなのか?」 とか、「自分にとって長い年数かけて育てる価値があるものなのか?」 とか、「大きくなったらどこにどう植えようか?」などなど、先々のことまで考えると、いろんな疑問が湧いてきます。そういった自分への問いに対し、ある程度答えを出してからタネを播くとよいでしょう。

種まき

よく考えて種類を選び、「本当に育ててみたい植物を、必要十分な量だけ」作るようにすると、自分の好奇心や欲求や楽しみを満たしつつ、趣味であるハズの園芸作業で過剰に忙しくなることなく生活できるようになります。

種類を厳選して自分にとって大切なものを大切に育てていくことで、お金では買えない価値や喜びを得られるのではないでしょうか。

夢と実験と実用のバランスを考えて、
ジョシュアツリーとプヤを播いてみます

2019年冬、私の店でもある「ACID NATURE 乙庭」では、冬のお楽しみ種まきの提案として、ジョシュアツリーという名でも知られる憧れのオーナメンタルプランツ、ユッカ・ブレビフォリアと、「アンデスの女王」「南米のセンチュリープランツ」とも呼ばれるプヤ・ライモンディ(Puya raimondii)など、アンデス高地原産の大型ブロメリア、プヤのタネを数種、播いてみることにしました。

プヤ・ライモンディ
今回播いたものの一つ、プヤ・ライモンディ。信じがたいような奇観プランツです。

どれも、私にとっては「いつかはこの手で育ててみたい」「自分の庭にあったら夢のような」憧れの植物です。そう思える植物のほうが、俄然モチベーションも上がりますね。

私たちは園芸店なので、海外の種子卸業者から多量輸入しましたが、日本国内でもネット通販で種子を手に入れることができますので探してみてください。

植物のタネ
乙庭で販売している種子。右の大粒がユッカ・ブレビフォリア、薬包紙に包まれているのがプヤです。これくらいの粒数だと播きやすいでしょう。

ちなみに、営業トークのようでたいへん恐縮なのですが、「ACID NATURE 乙庭」のオンラインショップでも、今回播いた植物の種子を小分けで販売しています(2019年末時点)。

輸入の大株になると数万~数十万円という高値で売買されている稀少植物です。

プヤ・コエルレア
銀白葉が美しいプヤ・コエルレアの乙庭デザインによる植栽例。たいへん貴重な輸入のマルチヘッド大株。植栽するときも、相当緊張しました。

そういった高級個体であっても、輸入疲れや現地と日本との環境差で、活着せずに枯れてしまうこともありますし、そもそも流通している苗などなく、原生地の写真や植物園でしか見られないようなものもあります。そういった植物の栽培は冒険だし、未知の部分も多いです。しかし、それにまさるファンタジーとロマンがあると思いませんか?

ユッカ・ブレビフォリア
モハーヴェ砂漠の奇観プランツ、ユッカ・ブレビフォリア。

とはいえ、夢を叶えつつ、リスクを最小限に抑えたいのが正直なところ。

リスクやコスト面から考えても、タネから様子を見ながら育てていけば、日本の環境にも馴化しやすいですし、実地で「栽培のさじ加減」を体験しながら学んでいくことができます。たとえ失敗しても、ウン十万円の輸入大株ほどの痛手ではありませんよね。

大枚はたいた貴重な一株では栽培実験は到底できませんが、タネから複数の苗を作っておけば、いろんなパターンで栽培実験もできます。また、他に栽培している人も少ないので、上手に栽培できれば、その植物の第一人者になれる可能性だって広がっていきます。

数十年もかけて栽培するなんて気が遠くなるように感じるかもしれませんが、「100年に1度開花する」といわれているプヤ・ライモンディは、降水量も肥料分も極端に少ない原生地ではそれに近いライフサイクルになりますが、水も肥料も供給される栽培環境下では、より早く成長を遂げていきます。

裏を返せば、短命の植物と違って「100年も楽しめる」長寿命な植物なんですよね。

開花まで100年といっても、数年も育てれば、ボリュームあるロゼット姿になるので、オーナメンタルなリーフプランツとしてもずっと楽しんでいけます。

プヤ・ハームシィ
プヤ・ハームシィ (Puya harmsii) 。種子から育てて2〜3年程度でこのように装飾的な観賞価値を発揮します。

また、人類の平均寿命も伸びていて、日本人の平均寿命は83.7歳(2016年調べ)、50年後には平均寿命が100年になるとさえいわれています。なので、センチュリープランツの種まき栽培も、現代ではまんざら非現実的な夢でもないんですよね。夢は叶う、あるいは叶えるものですから。

平均寿命

私も思い返してみれば、イングリッシュガーデンブームの頃から考えてみても、園芸歴二十数年なんてあっという間に過ぎてしまいましたし、新成人の2.5倍近くも生きていますが、自分の成人式がそんなに大昔のこととは実感として思えません。というわけで、種子から10年かけて育てるくらいのことは、他の植物を育てる傍で同時並行でやっていれば、そんなにヤキモキするようなことでもないのです。

ユッカ・ブレビフォリア
ユッカ・ブレビフォリアの幼苗。ライフワークのように育てていけたら楽しいですよね。

私は、一般的に「成長がとても遅い」といわれているアガベなども育てていますが、こういった植物でもじわりじわりと成長していて、あれこれ成長の早い植物を育てているうちに、ふと気がつくととても立派な株に育っていたりするものです。

年末には一年があっという間に過ぎたと思いますし、もっといえば、20年30年という月日も意外とあっという間に過ぎてしまいます。2000年から数えても、もう20年経っているわけですし。

急いで庭の完成形を求める方に例え話でよく言うのですが、犬などのペットを飼う場合、多くの方が成犬ではなく子犬を欲しいと思う。それはなぜでしょう? 幼い子どもの頃から育てて、家族のように愛情を育みたいからですよね。植物だって同じことがいえるのではないでしょうか。見ず知らずの大人がいきなり同居人になるよりは、自分の手で幼い子を育て上げたほうが、かけがえのない存在になります。

長く一緒に暮らす価値観を持ってこれらの植物と向き合うというのも、園芸ライフの一つのあり方といえるのではないでしょうか。

では、次回、「暖かく過ごす冬の園芸作業! 夢も広がるセミトロピカルレアプランツの種まき 実践編」をどうぞお楽しみに。

セミトロピカルプランツ

「夢見ることができれば、それは実現できる。」
(ウォルト・ディズニー エンターテイナー、実業家 1901 – 1966)

Credit


写真&文/太田敦雄
「ACID NATURE 乙庭」代表。園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科卒業後、前橋工科大学で建築デザインを学ぶ。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
2020年 ガーデンセラピーコーディネーター1級取得。庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。
レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。「ACID NATURE 乙庭」オンラインショップ http://garden0220.ocnk.net
「ACID NATURE 乙庭」WEBサイト http://garden0220.jp

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