自宅の庭の写真を提出し審査を受ける「ガーデニングコンテスト」の応募をきかっけに、本当のガーデニングの素晴らしさと楽しさに目覚めたという遠藤昭さん。1999年から2010年まで数々のガーデニングコンテストに応募し、受賞歴も多数あります。今回は、応募したコンテストの経験や作品、必勝法まで解説していただきます。
目次
ガーデニングコンテストに参加するということ
先日、職場の植物園で、秋の緑化フェアーで「コンテナガーデンコンテスト」を主催者として企画・実施した。その様子は当サイトの連載で先日書いたが、ふと、昔、自分が応募者の立場だった時代のことを思い出した。
振り返ると改めて、「ガーデニングコンテスト」が僕自身のガーデニング人生に大きな影響を与えたと実感する。定年退職後に、趣味だったガーデニングを仕事にしてしまい、気がつけば約10年経ったが、自分では充実した楽しい老後だと満足している。そして、そもそも、そのきっかけは「ガーデニングコンテスト」だったと思うと感慨深いものがある。そこで、実体験をもとに、その参加する楽しさと、コンテスト必勝法を通して、僕のガーデニングに対する考え方を書き綴ってみたいと思う。
まず実体験のご報告から。
初めてのガーデニングコンテストに応募
コンテストに初めて応募したのは1999年、かなり昔のことだ。ガーデニングという言葉が「流行語大賞」に選ばれたのは1997年で、日本中がガーデニングブームに沸いていた頃だった。
当時、僕は、まだ現役で多忙なサラリーマンだったが、ちょうどマイホームを購入して、週末には園芸店に通い、少しずつ庭づくりを始め、楽しんでいた。そんなある日、園芸店の店頭で「コンテナガーデンコンテスト募集中」のポスターを見つけた。軽い気持ちで初めて作った寄せ植えを写真に撮って応募したのだ。すると、まさかのグランプリ受賞! 確か3万円分の商品券をいただいた。ガーデニング初心者の自分が受賞するなんて夢のようだったし、とても嬉しかった。
これに味を占めて、その翌年の2000年、東京・世田谷の玉川髙島屋S・Cガーデンアイランドが開催した「ガーデニングコンテスト」に庭の写真を応募した。これも優秀賞を受賞して5万円分の旅行券をいただいた。同じ頃、NHK出版(?)のガーデニングエッセイでも、審査員特別賞を受賞し、確か副賞が5万円分の食事券だった。それぞれ家族で楽しむことができた。その後も、いくつかのコンテストにトントン拍子で入賞した。
当時も男性で趣味がガーデニングという人は少なく、孤独だったが、こうしてコンテストで自分の庭を発表して第三者に認めてもらうということは、とても励みになった。当時からインターネットでも自分の庭を公開し、ガーデニングの仲間が増えていった。また、新聞や雑誌などのメディアでも取り上げられるようになり、だんだんとガーデニングにはまり込んでいったのだった。
賞品でハワイ旅行へ
極めつけは、2003年発行の雑誌『園芸ガイド』主催のガーデニングコンテストで、グランプリを受賞したことだ。副賞が「ハワイ熱帯植物の旅」だった。2人分の賞品だったので、追加して家族4人でハワイ旅行を楽しんだ。当時、子どもたちは、高校生と大学生だったが、その後、家族旅行は実現していない。なので、なおさら我が家のとてもよい思い出になっている。このコンテストは20枚の写真を送ることで審査された。
僕は得意とするオーストラリアンガーデンだけでは「勝てない」と思い、オーストラリアを原産とする「オージープランツ」を中心に、 妻のバラやデルフィニウムの咲き乱れる華やかな写真をはじめ、マニアックなブラックキャットや苔盆に至るまで、多様で個性的な写真を20枚厳選して応募した。
まずメインの2枚。
『園芸ガイド』という雑誌の読者受けもするようにと、花いっぱいの写真をメインにした。
この時期、デルフィニウムなどの鉢植えが50個くらいあったので、鉢を並べて臨時花壇を作った。そして、流木やシダをプラスして野生味を出した。
上の2枚に、ガーデンシーンの幅を広げる以下の写真を追加。
当時、僕は毎朝、庭で感動した風景を数枚デジカメに収めてネットにアップしていた。そのおかげで、手持ちの写真データは膨大な量になっていた。応募要項の対象期間の写真から候補を約50枚程度にまで絞り、ラボで紙焼きをし、その中から応募した訳である。
この時の審査員は室谷優二先生と中山正範先生だったが、それぞれ
「植えられた植物の美しさが生かされ、非常にレベルの高い個性的な庭に仕上がっている」
「グランプリへのキーポイントは、明確で個性的なテーマ性でした。飾る庭ではなく育てる庭という強い意思による栽培力とデザイン力が相まって見事な……」
という講評をいただいた。
また、「イングリッシュガーデンスタイルを踏襲したものが多い中で、 自分らしさが出る庭をつくるためにはしっかりとしたテーマのもとで個々の植物をまとめて見せるデザイン力が必要であることを認識していただけたと思う」 というコメントも付け加えられていた。
僕が常日頃考えていることが、20枚の写真を通して審査員の先生に伝わったのは嬉しい。
そして翌年は副賞でニュージーランド旅行へ
翌年の2004年には、浜名湖花博でグランプリの副賞がニュージーランド旅行ペアご招待という「ガーデニングコンテスト」を実施していることを知り、前年にハワイ旅行ですっかり味を占めてしまった貧乏父さんは、賞品の旅行目当てで、浜名湖花博のガーデニングコンテストにも挑戦。なんと最優秀賞を受賞してしまった。「ニュージーランド・ガーデニングツアーにペアでご招待!」だ。全国規模のコンテストで2年連続日本一! 海外旅行つき!
日本一になることは、そう簡単ではない。この時は、勝つための戦略をいろいろ考え実践した。
この浜名湖花博のガーデニングコンテストだが、コンテストのテーマは「夏から初秋の庭」で、予選は「庭全体のわかる、昨年の初秋、ないし今年の最近1カ月以内の写真4枚」と「庭の見取り図」、そして簡単なコメントで審査され、7名が最終審査に残った。その後、NHK放送さんが庭のビデオ収録にまで来られ、最終審査はこのビデオを3分程度に編集されたもので行われた。
僕が応募した4枚の写真は下に掲載した通りで、テーマの季節が秋なので、あまりオージーを前面に出さず、 巨大輪ダリアのある風景を入れたり、「和と豪の調和」をテーマに表現してみた。
写真は、特に栽培力とデザイン力、そして個性と創造性に裏付けられた「テーマ」が明確に審査員に伝わるものを選んだ。
4枚の予選応募写真をご覧いただこう。
2階から写した毎度お馴染みの定点観測の写真。絵画的表現に挑戦!
オーストラリアレンガとユーカリの枝でデザインしたテラス。ペアグラスやカレックス、そしてフウチソウなどのグラス類で秋らしさを表現した。
また、シダやジャカランダ、ニューサイラン、グレビレアなどの変わった葉形と、チョコレートネムやフラッシュダンサーなどの色葉形で変化をつけ、25cmある超巨大輪ダリアの‘天涯の花’や、真っ赤なグレヴィレアの花をアクセントにした。
そして、僕のお宝植物で誰にもマネできない個性を表現。
上の写真位置から少し前進した場所で、右にバンクシア、奥の銀葉はグレヴィレア、左列はグラスやニューサイランの剣葉。そして、のっぺりした壺でコントラストを出した。
自宅の敷地、東から西方向を撮影。「実りの豊かさ」と「和と豪の調和」を表現している。
右手前にはブドウの巨峰、オベリスクにはトマト、その上にはレモン。
中央にオージーレンガとガーデンストーンと御影石。隙間にリュウノヒゲを植え込み、和と豪を調和させた。左の大きなシダの葉は1.5mある。
胞子から育てたオーストラリアのツリーファーンや左のネグンドカエデの斑入り葉、さらにはサルスベリの幹で右の白樺とバランスをキープ。
脚立を立てて、グレヴィレア‘ムーンライト’の花も、栽培40年以上になるサボテンなども含め、全体が分かるように上目から撮影。
これらの写真応募で8名が本選会に選ばれ、僕の本選会用のNHK放送の収録日は9月23日だった。ちょうど花のない時期である。おまけに、その年は猛暑と2度の台風で、庭の状態は最悪といってもいいくらいひどかった。
ただ、この花のない時期の取材は、その数年前に雑誌『Yomiuri Weekly』で経験しており、花なしでカラーリーフや葉のカタチを生かした表現方法に「目覚めて」いたので、この時もその路線を踏襲した。
ある意味、とてもハングリーな状態で十分な素材がなかったからこそ、窮地に立たされ新しい表現を見いだせた気がする。
これは、本選会前にNHK放送さんがビデオ収録に来た時の写真。
ペニセツム‘パープルマジェスティ’、ニューサイラン、マンデビラ、メラレウカなどが見える。
なお、この年も、5月には前年のようなデルフィニウムが咲く庭だったが、秋には僕の個性で応募写真のような直球勝負に出たのだ。
ビデオ収録では、今までの何回かのテレビ収録の経験を生かし、はっきりと収録のポイントを言わせていただいた。
というのは、やはりディレクターは園芸が専門ではないので、お任せにしてしまうとパッと見に綺麗なミニバラやペチュニアのようなシロウト受けする花に視点が行ってしまい、本来写してほしい審査員受けする「芸術的シーン」が抜けてしまったりする。
今回はわざわざ名古屋から収録に来てくださって、約3時間かけ、主たるシーンは収録していただいた。
ただし、本選会では何しろ3分に編集したビデオなので、庭のすべてが判断できるとは思えない。応募写真や、応募時のコメントが審査する上で重要な判断基準になったような気がする。
応募書類のコメントを書く欄はきわめて小さく、「庭は主の人生を映す。オーストラリアでの豊かな生活を再現したく、和と豪の調和の庭作りを目指す。栽培力と個性と創造性がアピールポイント」というようなことを書いたと思う。
また、審査会のインタビューでは、他の庭が大きく豪華な庭ばかりで、「とても太刀打ちできない」と思ったので、「狭い庭」と「実生(種子から育てた植物)」をアピールした。
審査で評価されたのは、狭い庭の空間を生かした庭づくりと栽培力だった。
審査員の講評は、「狭い庭を有効に使い、きれいな色使いのデザインと、栽培の難しいオーストラリアの植物を立派に育てている研究熱心さが素晴らしい」という内容であった。
他に受賞した方々を見ても、やはり実生や育てる庭が評価されていた。コンテナ部門を見ても、厚化粧系や形から入るのはダメでしたね。
なお、このときの審査員の方々は下記の通り(敬称略)。
- 小笠原 誓(園芸研究家)
- 白井 温紀(ガーデンデザイナー)
- 高橋 永順(フラワーアーティスト・写真家)
- 玉崎 弘志(園芸研究家)
- 二宮 孝嗣(園芸家)
- 萩原 流行(俳優)
一流の園芸家の方々に認められたことがとても光栄だ。
僕は表彰式でも、つい本音を喋ってしまったが、「狭い庭でも、そして忙しいリーマンの貧乏父さんだって頑張れば最優秀賞が取れる」という事実が示せたことが嬉しい。
幾度かガーデニングコンテストを経験したけれど、作品を応募するまでの過程が楽しいのだ。「今回も優勝を狙うぞ! と目標を持つことだ。ただし、これはあくまでも最後の写真を撮ったりする作業段階のことで、作品づくりは1年継続しないと出来ない。いや、1年では無理である。草花や樹木が育ち、自分の感性が庭に反映されるには、数年はかかると思う。
僕の庭はつくり始めて約25年経つが、ほとんどを種子や苗から育てているので、ようやく成熟してきた段階だ。
僕は毎回のガーデニングコンテストで、自分の個性と創造性で直球勝負をしてきた。
花を買い足したりすると華やかで豪華な庭になるのでは……という誘惑もあるが、そうではないと思う。その時にある、自分で種子や苗から育て、知り尽くした植物と庭だからこそ、 個々の植物の魅力を最大に引き出しながら、自分自身の感性も表現できるものなのである。
ガーデニングを趣味だと捉えていると、どうしても趣味の領域から抜けられないが、ひとたびクラシック音楽などと同様に芸術であると捉えると、 自ずと要求レベルが異なってくる。
ガーデニングコンテスト用の写真を撮る瞬間は、演奏会の本番と同じような緊張感と最高の芸術的欲求がぶつかる瞬間で、なんともいえない快感である。
もちろんコンテストで受賞するに越したことはないけれど、僕は応募の段階で、それまでの過程の努力や自分の価値観の中で芸術的欲求が高められ、かつ満たされ、自分に金メダルを与えることができればそれでよいと思う。
庭の価値観は人それぞれに異なるので、庭の主やその家族にとって快適で癒される空間であればよいのである。コンテストは参加することに意義があるのである。
そして受賞した時に、こんなことを書いていた。
「受賞の秘訣は、たまたま僕が数年過ごした、メルボルンでの豊かな生活を再現したくて、オーストラリアンガーデンという独自の路線で庭作りをしたこと……つまり個性と創造性が評価されたのだと思います。
そして、力を付けさせていただいたのはインターネットの世界だったと思います。インターネットにホームページをアップし園芸の世界が広がったと思います。
特に英文ページを通して、オーストラリアを始め世界各地の園芸愛好者からエールが届いたのは大きな励みになりました。
インターネットの仲間を通してさまざまなジャンルのガーデニングに手を出し、ヘンな世界のガーデニングが、きっと審査員の先生達には新鮮だったのでしょう。
コメントでも、個性とか、栽培力とか、何をやりたいかという自分の意志のようなものを評価して下さったようです」
終わりに
最後に、今までに多くの優秀賞を受賞することができた勝因としての「必勝法」を自分なりに分析しておこう。
【必勝法1】
日々、感性を磨く努力をすること!
長年(20年近く)毎朝、欠かさずに庭の手入れと「庭の写真撮影」をして、ネット(現在はブログとFacebook)にアップしている。
これは栽培力を付け、感性を磨くトレーニングだ。ガーデニングコンテストというのは、栽培力で立派な植物を育て、それを芸術として自分の感性で表現することの勝負だと、僕は勝手に解釈している。継続は力なり。そして継続は努力なり。
ガーデニング以外にも、音楽や美術、料理などに趣味を持ち、またインテリアや毎日のファッションなどにも「こだわり」を持ち、いい加減に済ませないで真剣に取り組み、センスを磨く意識をすること。
【必勝法2】
全力投球すること
コンテストは試合であり、本番のステージである。コンテストに向けて日々、作品である庭の改良を繰り返し、最高の作品づくりに集中すること。遊びでも仕事でもなんでも真剣に取り組んだ後って、爽快で気持ちがよい。
ガーデニングは趣味で普通に楽しみながら息抜きをするのもいいけれど、真剣になって全力投球で取り組むと、いろいろな新しい世界が見えてきて面白い。
【必勝法3】
常にSNSやネットで情報発信し、ネットワークを広げること
当時、オーストラリアの園芸ウェブサイトにレポートを送っていたことで、多くのオーストラリアの人々に励まされた。オーストラリア大使館の庭づくりに参加し、その後、数年通い、大いに勉強になった。また、情報を発信することで、多くのメディアの取材を受ける機会に恵まれ、取材の度に庭を改良し、力をつけたと思う。
【必勝法4】
ある時から、ガーデングを趣味としてではなく、芸術と捉えるようになったこと
この段階でガーデニングの「美」に対する要求レベルが格段と上がったと思う。趣味だと思っているうちは趣味のレベルで終わってしまう。また、芸術はオリジナルでなければならないし、個性と創造性の表現をしなければならない。流行を追っていてはコンテストでは勝てない。
なお、芸術に対する深い追求の姿勢は、25年に及ぶバイオリンのN先生の個人レッスンを通して学ぶことができた。元芸大の凄い先生だが、今思うと間接的にガーデニングの先生でもあったのだと思う。
随分と長くなってしまった。個性と創造性の庭にコンテストで優劣をつけることに抵抗を感じた時期もあったが、やはりガーデニング文化の頂点を引き上げ、ガーデニングをする人を増やすためには有効な手段だと思う。僕自身がガーデニングを趣味としていて、コンテストがきっかけで、本当のガーデニングの素晴らしさと楽しさに目覚めた。また、定年退職後の「老後」である現在、植物園で相談員として微力ながら、園芸の普及啓蒙活動を通し社会貢献ができていることをお伝えしたく、思いを綴ってみた。
ガーデニングコンテストは参加することに意義があります。ぜひ、一度、挑戦してみましょう。きっと、新しい世界が開けます。
Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
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