夏の鮮やかなグリーンが、秋にはまっ赤に染まっていくさまが美しいカラーリーフ、コキア(別名・ホウキグサ)。こぼれ種からでも育つほど丈夫で、夏の暑さにも強い一年草です。樹高50~100㎝まで大きくなるため、地植えが適していますが、鉢植えで育てることもできます。元気なコキアを作るための肥料の与え方やちょっとしたコツ、気をつけたい点などを、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
コキアを育てる前に知っておきたいこと
コキアは、ユーラシア大陸に広く分布する植物です。日本へはアジアから中国経由で渡来し、1000年以上前から栽培されていたという記録が残っています。江戸時代には広く栽培され、枯れ枝はホウキの材料に、若い枝や果実は食用として使用されてきました。和名の「箒木(ホウキギ)」は、ホウキとして利用していたことに由来しています。
コキアの基本データ
学名:Bassia scoparia(Kochia scoparia)
科名:ヒユ科
属名:ホウキギ属
原産地:西アジア、中央アジア
和名:箒木(ホウキギ)、箒草(ホウキグサ)、
英名:Bassia(kochia)
開花期:8月上旬~9月上旬
発芽適温:15℃以上
生育適温:20~35℃
観賞期は6~11月と非常に長いうえ、10~11月は紅葉により、まっ赤に色づいた様が楽しめます。コキアは主に、葉と草姿を愛でる植物ですが、夏~初秋には花が咲きます。1~2㎜程度の小さな花で、茎の葉のつけ根に2~4輪まとまって咲きます。花はあまり目立たないため、観賞には向きません。
樹高は50~100㎝と大きくなりすぎないので、庭などに低めの生垣を作りたいときにおすすめです。
コキアは大別すると、樹形が丸くまとまるタイプと、細長く伸びるタイプの2種類があります。
コキアには栄養を補うための肥料が必要です
コキアをはじめ、植物は土、水、光、空気、養分を得ることで元気に生長します。植物は土中に根を張り、そこから水分や養分、空気を摂取します。そのため、土は非常に大切です。その土に、植物が元気に育つための養分を補うこと、それが肥料の役割です。
家庭の庭や鉢植えで植物を育てる場合は、基本的に肥料が必要です。
自然界では、落ち葉や枯れた植物、昆虫の死骸などが微生物の働きによって分解され、養分になります。一方、庭や鉢植えの土では養分が十分ではないため、コキアの生育に影響を及ぼすことがあります。足りない栄養素は、肥料で人工的に補う必要があるのです。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料には化学的に合成して作られた「化成肥料」、自然の動植物素材などを発酵させて作る「有機質肥料」の2種があります。有機質肥料はゆっくり時間をかけて土質を変える効果がありますが、化成肥料には即効性があります。
化成肥料は、固形タイプと液体タイプがあります。まずは固形タイプから紹介します。
緩効性化成肥料
緩効性化学肥料は、徐々に溶けるように加工された肥料です。肥料の表面が樹脂などでコーティングされたもの、錠剤型や球状で成分が溶け出す量をコントロールしているものなどがあります。
追肥(植えつけ後に施す肥料、不足した栄養分を補う)に適した大粒と、元肥として使う小粒の2種類があります。肥料の効果は数か月から数年と幅広く、必要に応じて使い分けます。
速効性化成肥料
速効性化学肥料は、数種類の単肥を配合し、粒状にしたものです。低濃度から高濃度まで段階があり、文字どおり速効性に優れています。
一方、すぐに溶けるため、肥料障害が起こる可能性があり、使用量に注意する必要があります。
もう一方の液体肥料は、固形タイプよりもさらに速効性に優れ、追肥に適しています。液体肥料には水で薄めて使用するもの、そのまま使用するものの2種類があります。
水で薄めるタイプは、生育ステージなどによって濃度を変えられるという利点があります。通常、7~10日ほどで効果がなくなるので、定期的に与える必要があります。また、液体性肥料には、水やりのときに水と一緒に肥料を与えるという方法もあります。
このほか、葉から養分を吸収させるための葉面散布用のスプレータイプの肥料があります。葉色が悪い、根が弱って肥料を正常に吸収できない…といった場合に使います。ほかには、鉢やプランターに直接差し込むスティックタイプの肥料、肥料と殺虫剤を混合し、いちどでふたつの効果が得られる薬剤入り肥料もあります。アブラムシなどの被害が発生したときには、この種の薬剤入り肥料を使用します。
覚えておきたい液体肥料の薄め方
水で薄めるタイプの液体肥料は、決められた量を正確に守ることが大切です。ピペットと計量カップ(購入時の肥料に付属していることもあり)、目盛りつきのバケツを用意しましょう。少量を作る場合は、バケツの代わりによく洗った牛乳パックやペットボトルを代用すると便利です。肥料は一般的に500倍、1000倍、2000倍に薄めます。
目安としては水1ℓに対し、500倍なら肥料は2㏄、1000倍なら1㏄、2000倍なら0.5㏄となります。
なお、肥料は作り置きできません。水で薄めた状態で長期間放置しておくと、成分が変質する、菌が繁殖するなどのトラブルが生じます。ちょっと面倒でも毎回、必要な分量を作りましょう。
植物に必要な、肥料の三大要素
植物を育てるのに必要な栄養素のなかでも、“肥料の三大要素”と呼ばれるのが「チッ素(N)」、「リン酸(P)」、「カリウム(K)」の3つです。略して「N-P-K」と呼ばれています。
植物を育てている間は、この三大要素をバランスよく与える必要があります。それぞれの役割を説明します。
N:窒素(nitrogenous) 一般的に「チッ素」と呼ばれます。タンパク質を作り、葉緑素の元になるのが窒素です。「葉肥」といわれ、葉や茎を大きく育てます。不足すると葉が黄色く変色したり、クキの伸びが悪くなったりするなどの障害が起きます。
P:リン酸(phosphate) 一般的に「リン」あるいは「リン酸」と呼ばれます。植物の細胞質を作る成分です。「花肥」「実肥」といわれ、花つきや実つきをよくする働きがあります。リン酸が不足すると、植物自体が弱くなってしまいます。
K:カリウム(kalium) 一般的に「カリ」と呼ばれます。植物全体の成育を調整し、根の発達を促進する「根肥」です。葉や茎を丈夫にする働きがあります。不足すると植物自体の抵抗力が低下し、害虫の被害に遭いやすくなります。
三大要素の次に必要なのが、“中量要素”と呼ばれる「カルシウム(Ca)」、「マグネシウム(Mg)」、「イオウ(S)」の3つです。ただし、カルシウムやマグネシウムは土に含まれているため、基本的に不足することはありません。
ほかには、人間にとってのビタミン類にあたる“微量要素”が「鉄(Fe)」、「銅(Cu)」、「亜鉛(Zn)」などの7種類あります。
特定の成分だけを施しても、植物は正常に育ちません。人間の食事のバランスと同様に、バランスのとれた肥料が大切です。これらを適した時期に与えることで、植物は健全にすくすくと育つことができます。
コキアには、こんなタイプの肥料がおすすめ
コキアに適した肥料は、カリ(カリウム)成分の多い肥料です。コキアは根が途中で分かれることなく、まっすぐに伸びる性質をもつ「直根性」の植物です。このまっすぐな根を育てるために必要なのが、根の発達を促進する「根肥」=カリです。コキアにカリ成分の多い肥料を与えると、草姿がしっかり育ちます。
植えつけのときの緩効性肥料、追肥、ともにカリ成分の多い肥料を選びましょう。
肥料を与えはじめる、時期とタイミング
肥料には「元肥(もとひ、もとごえ)」と「追肥(ついひ、おいごえ)」があります。元肥とは、植えつけや植え替えを行うときに前もって土に混ぜておくもので、土自体に栄養を与える効果があります。一方、追肥は植えつけた後に与える肥料です。追肥には植物の生長期間、足りなくなった養分を肥料で補うという役割があります。
元肥の適期
鉢植えの場合、植えつけのときに、緩効性肥料を均等になるよう土に混ぜ込みます。市販の培養土を使用する場合は、もともと土に肥料が入っているので、元肥は必要ありません。
追肥の適期
鉢植えの場合、生長期には3か月に1回ほど、元肥と同じ緩効性肥料を株の周りの土の上にばらまきます。カリ成分の多い肥料を与えると、しっかりした草姿に育ちます。
地植えの場合は、肥料を施さなくても育ちますが、大株に育てたいときは、6月、または7月に置き肥をしておきます。
コキアへの肥料の与え方が知りたい
植物は生育ステージによって、それぞれ必要とする養分が異なります。必要な時に必要な養分を与えることで、植物は健やかに生長することができます。実際にコキアを育てる過程での肥料の与え方を見てみましょう。
鉢植えの場合の与え方
鉢植えの場合、苗の植えつけに適した時期は5~6月頃です。植えつけの際、元肥として緩効性肥料を均等になるよう混ぜ込んでおきます。
その後、1か月半から2か月に1回、株の周りの土の上に追肥として緩効性肥料をばらまきます。追肥の目安は、用土1ℓ当たり8gです。追肥は生育の様子を見て、株に元気がないときに施しましょう。
地植えの場合の与え方
地植えの場合は、日当たり、水はけのよい場所を選べば、基本的に肥料なしでも十分に育ちます。株を大きくしたいときは、6月か7月に置き肥を施します。置き肥の目安は、1㎡当たり250gです。
コキアに肥料を与えるときの注意点は?
養分、栄養素として与える肥料ですが、肥料のあげすぎはトラブルの原因となる場合があります。特に化成肥料をいちどに大量に使うと、かえって土壌が劣化してしまいます。これは、土壌中の微生物が食糧としていた有機物の減少が原因です。
土壌の微生物は、有機物が豊富にあることによって増えていきます。この微生物が活発に活動することで、柔らかく上質な土壌ができるのです。化成肥料をいちどに大量に使用すると、有害な硝酸体窒素が蓄積され、その結果、土壌の微生物が減ってしまうことがあります。化成肥料は、必ず適量を守って使いましょう。
肥料をあげすぎると、「肥料やけ」がおきます。
株元近くに肥料を与えると、株が枯れてしまうことがあります。これは地上部に近いところにある根の細胞が、濃度の高い肥料成分によって破壊され、根が養分と水分を吸収できなくなってしまうためです。これを「肥料やけ」と呼びます。
株元から少し離れたところに肥料を施せば、濃度の薄くなった肥料成分が深いところにある根にゆっくりと届くため、肥料やけを起こす可能性を減らすことができます。肥料は株元から少し離れたところに施しましょう。
万が一、肥料やけを起こした場合、土壌の養分を洗い流すように鉢穴から流れ出るくらいたっぷり水やりをします。その後、しばらくは肥料を施さずに水だけで管理します。根や新芽が伸び始めたのを確認してから、再び肥料を与えるようにしてください。
肥料の管理と購入の際の選び方
肥料は基本的に劣化しにくく、特に使用期限はありません。その理由として、水に溶けることで分解、変性するように設計されているので、そのままでは変化しないからです。化学肥料はもちろん、有機質肥料も劣化しません。
ただし、極端に保存状態が悪いと、変質してしまうことがあります。湿気や水分に触れることで、分解、変性が起こり、有機質肥料はカビが生えてしまうことも。また、日光などの強い光により、劣化や変質が起こることがあります。
肥料は直射日光が当たらない冷暗所で保管し、開封後はきちんと密閉しておきます。また、開封後はなるべく早く使い切ったほうが安心です。購入の際は、製品に記された製造年月日をチェックし、あまりにも古い製品は買わないように気をつけてください。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・角山奈保子
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