アネモネは、ぱっと開いた花顔が印象的で、存在感があります。名前はギリシャ語のanemos(風)に由来し、英名で“風の花”(Windflower)とも呼ばれるアネモネ。赤や白、紫色などの鮮やかな花が風に揺れるさまは、美しく絵になります。そんなアネモネを元気に育てるための、基本のひとつが土作り。アネモネにはどんな土が適しているのか、NHK『趣味の園芸』の講師としても活躍する園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
アネモネを育てる前に知っておきたいこと
開花期が2~5月と比較的長く、花の少ない時期に楽しめるアネモネ。日当たり、水はけ、風通しのよい場所できちんと管理すれば、何年も咲き続ける多年草です。耐寒性が強く、初心者でも育てやすいことから、人気があります。
アネモネの基本データ
学名:Anemone coronaria
科名:キンポウゲ科
属名:アネモネ属
原産地:地中海沿岸
和名:牡丹一華(ボタンイチゲ)、紅花翁草(ベニバナオキナグサ)
英名:Anemone、Windflower
開花期:2~5月
花色:赤、ピンク、黄、白、青、紫、複色
発芽適温:18~21℃
生育適温:5~20℃
切り花の出回り時期:11~4月
花もち:5~7日
アネモネは、花びらと中心部の色の対比が美しく、存在感があります。この花びらに見える部分は、じつはガクで、アネモネの特徴のひとつです。育てるときは、球根が一般的。植えつけ適期は10~11月です。
よい土は、水はけ、水もちに優れています
植物が丈夫に育つための条件として、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた土が理想的です。アネモネは特に、水はけのよい土を好む植物です。
土には、4つの大事な役割があります。
①植物を支える役割
②のびのびと根を伸長させる役割
③植物を順調に生育する役割
④開花させるまでの栄養分を植物に供給する役割
この4つの役割を果たすためには、土の中に適度な空気=酸素があることが重要です。根が常に水に浸かっている状態だと、根は窒息してしまい、「根腐れ」の原因にもなります。根の窒息を防ぐためには、空気を保ち、空気が通り抜ける空間を作る必要があります。根がしっかりと呼吸できるような状態を保ち、必要な栄養分を保っている土こそが、植物にとって理想的な「よい土」になります。この理想的な土の構造を、団粒構造といいます。
植物が育ちやすい「団粒構造」とは?
植物にとって理想的な団粒構造とは、小さな土の粒子が団子のように揃った状態を指します。この状態になると、粒子と粒子の間に根の呼吸に必要な空気の隙間ができるうえ、団粒の中や表面に養分を保つことができます。
団粒構造を作るために有効なのは、腐葉土や堆肥などの有機物です。この有機物が、土の中の有用な微生物の働きを活性化してくれます。また、誤って濃度の高すぎる肥料を施してしまったときにも、有機物が緩衝材としての役割を果たしてくれます。
団粒構造は、理想的な土の条件である通気性、排水性、保水性、保肥性をすべて満たし、植物の根を健やかに育ててくれるのです。
種類を知ることが、適した土作りへの近道
土にはさまざまな種類があり、植物の種類によって適した土は変わってきます。
初心者が鉢植えやプランターで育てる場合、数種類の用土がブレンドされている市販の培養土が便利です。用土を自分で混ぜて作る手間が省けるうえ、植物ごとの専用培養土が手に入ります。
一方、市販の培養土のなかには品質表示がなく、原料が分からないもの、品質に問題があるものも存在します。そこで自分でブレンドすることを踏まえ、用土の種類やそれぞれの特徴を知っておきましょう。
ここでは園芸店やホームセンターで市販されている、代表的な用土を紹介します。
【基本用土】
基本用土は鉢土のベースとなるもので、ブレンドの配合割合が大きい土。代表的なものは以下のとおりです。
黒土
有機質を多く含む、軟らかい土です。保水性に優れる一方で、通気性、排水性が悪いので、腐葉土などを混ぜて使用します。また、酸性なので、石灰類などで酸度を調整することが必要です。
赤玉土
赤土を乾燥させ、粒の大きさごとに分けた土です。通気性、排水性、保水性、保肥性に優れ、基本用土としてもっとも多く使用されています。鉢植えには、小粒か中粒を選びましょう。
鹿沼土
有機物をほとんど含まない酸性土です。通気性、保水性に優れ、水を含むと薄黄色が黄色に変わるため、水やりのタイミングがわかりやすいという利点があります。購入の際は、みじんの少ないものを選ぶのがポイントです。
【改良用土】
上記の基本用土に改良用土を混ぜることで、通気性、排水性、保水性、保肥性を調整することができます。改良用土には有機質と無機質があり、目的によって使い分けます。
腐葉土
改良用土の代表種で、広葉樹の落ち葉を腐熟させたものです。通気性、保水性、保肥性に優れ、土中の微生物を活性化してくれます。腐熟が未熟なものは、根を傷める原因にもなるため、しっかり完熟したものを選びましょう。マツなどの針葉樹の葉が入っているものは、油脂成分が多いため避けたほうが無難です。
ピートモス
湿地の水ゴケ類などが堆積し、泥炭化したものです。腐葉土に似た性質があるものの、微生物を活性化する力が弱いという難点があります。基本的に酸性ですが、石灰を加えて中性に調整した製品もあります。
堆肥
わらや落ち葉、枯れ草などを腐熟させたもので、通気性と排水性をよくする働きがあります。腐葉土よりも有機質の肥料分が含まれていて、花壇や畑の用土に最適です。
【調整用土】
バーミキュライト
蛭石(ひるいし)を高温処理し、膨張させたものです。通気性、保水性、保肥性に優れ、非常に軽いのが特徴です。粒子の細かい重い土との相性はよくないので、ピートモスやパーライトと一緒に鉢植えやハンギングバスケットに使います。
パーライト
真珠岩を細かく砕き、高温高圧処理した人工砂礫です。通気性、排水性に優れ、非常に軽いことが利点です。粒の大きさが各種あるほか、粒の丸いタイプと四角いタイプがあります。主に鉢植えに用います。
元気に育てるための、アネモネの土作り
アネモネを、より元気に育てるには水はけ、水もちのよい土壌を選ぶことが大切です。用土は市販の培養土をそのまま使うか、または赤玉土5、腐葉土3、酸度調整済みピートモス(ココピート)2の割合で配合したものに、緩効性化成肥料を混ぜ込んでおきます。
また、アネモネは、弱アルカリ性の土を好みます。事前に市販の土壌酸度測定液などを使い、植える場所の土のpH(水素イオン指数)を調べてみましょう。
土の酸度を弱アルカリ性に整えるには、苦土石灰を適量混ぜて、pH調整を行います。鉢植え、地植えともに植えつけの2~3週間前に調整が必要になります。
pHを1上げるために必要な苦土石灰の量は、鉢植えの場合は10ℓの用土に約10g、地植えの場合は1m²当たり約200g(深さ20cmまでの土壌に混ぜる場合)を目安にします。
アネモネの、植え替えの時期と頻度
植物を鉢で育てたり、種から育てたりした場合は、植え替え作業(定植)が必要です。植物によっては根が枝分かれし、大きく育つため、定期的に植え替えを行います。
球根で育てるアネモネは、植えっぱなしでも問題はありません。鉢植えの場合、地上部の茎を切って、土の中でそのまま保存することもできます。ただし用土ごと乾燥させないと、根が腐ってしまうため、鉢植えの場合は初夏のうちに球根を掘り上げて分球し、10月頃、植え替えを行うといいでしょう。球根の掘り上げは、5月下旬~6月下旬が適しています。
球根から芽が出た状態のポット苗の場合は、購入後すぐに植え替えを行いましょう。ポット苗は、12~2月頃、園芸店などで出回ります。
土のほか、植え替え時に準備したいもの
ここでは、アネモネを植え替えるときに必要なものをまとめました。事前に以下のものを用意しておきましょう。
準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・適した土(前述のとおり)
・植え替えするアネモネの球根、またはポット苗
・肥料
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
・ラベル
*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・ひと回り大きなサイズの鉢、またはプランター
・鉢底ネット
・鉢底石
アネモネの植え替え方法が知りたい
必要なものが揃ったら、植え替えを行います。実際、アネモネをどのように植え替えるのか、手順を紹介します。
鉢植えの場合の手順
①鉢に鉢底ネット、鉢底石を入れておきます。
②培養土、もしくは赤玉土5、腐葉土3、酸度調整済みピートモス(ココピート)2の割合で配合したものに、緩効性化成肥料を混ぜ込んだものを鉢に入れます。
③土に穴を掘り、球根を植えます。その際は、球根に土が1~2cmかかる程度に浅く植えつけます。
④鉢底から水が出るまで、たっぷりと水やりします。品種名や植えつけ日を書いたラベルを挿しておきましょう。
地植えの場合の手順
①植えつける前に、土壌を弱アルカリ性にするため、pH調整を行います。20~30㎝ほど掘り起こした土に、植えつける2~3週間前に苦土石灰を適量混ぜておきます。
②土の準備ができたら、深さ3~5㎝のところに15㎝ほど間隔をあけて植えつけていきます。
③球根の上に1~2㎝ほど土をかぶせます。このとき、土を押さえつけないようにします。
④植えつけ後は水をたっぷりと与えましょう。また、品種名や植えつけ日を書いたラベルを挿しておきます。
植え替えをするときの注意点とは?
球根の上に土をかけるときは、ギュウギュウと力を入れて押しつけると、土中の空気が抜けてしまいます。球根が安定する程度に、そっとやさしく押さえましょう。
発芽のコツ
球根が完全に乾燥している場合、そのまま植えつけると急激に水を吸い上げてしまい、球根が腐りやすくなります。それを防ぐために必要なのが吸水処理です。
方法は、軽く湿らせたバーミキュライト、または清潔な砂に球根を埋めて、冷蔵庫で1週間くらい保管します。またはキッチンペーパーを水で濡らし軽く絞ってから、球根を包み込みます。さらにビニール袋に入れて、冷蔵庫の野菜室で2~3日ほど保管します。いずれもゆっくりと時間をかけて吸水することで、発芽しやすくなります。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・角山奈保子
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