耐寒性が強く、寒い場所でも栽培しやすいため、1500年代後半からヨーロッパで栽培されてきたムスカリ。どんな植物とも相性がよく、ガーデニングの引き立て役として欠かせない球根植物です。ムスカリを元気に育てるために、大事なのが水やり。そこで水やりの方法、ちょっとしたコツなどを、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
ムスカリを育てる前に知っておきたいこと
ムスカリは丈夫で耐寒性に強く育てやすい、初心者におすすめの秋植え球根植物です。日当たり、水はけのよい場所を選んで植えつければ、植えっぱなしでも毎年咲きます。
ムスカリの基本データ
学名:Muscari
科名:キジカクシ科(ヒヤシンス科、ユリ科に分類される場合も)
属名:ムスカリ属
原産地:地中海沿岸、南西アジア
和名:葡萄風信子(ブドウフウシンシ)
英名:Grape Hyacinth
開花期:3月~5月中旬
花色:ピンク、黄、白、紫、緑、複色
発芽適温:10℃
生育適温:−5~15℃
切り花の出回り時期:11~4月
花もち:10日前後
球根植物であるムスカリは、鉢植えや地植えはもちろん、水栽培でも楽しむことができます。
花色はブルー系が主流で、ピンクや白など。最近では、部分的に黄色が入った種類まで登場しています。ブドウの房のように咲く小さな花はベル形が一般的で、なかには筒状、羽毛状の花を咲かせるユニークな品種も存在します。
ムスカリを一躍有名にしたのは、オランダのキューケンホフ公園。大木の下に植えられた色とりどりのチューリップやスイセンの間に、青紫色のムスカリを川のように細長い区画に密植した、通称「ムスカリ・リバー」です。ブルーの絨毯のような美しさは、ムスカリの人気を高めました。
水やりの方法と、そのタイミング
ムスカリの水やりは、「たっぷり」が基本です。
鉢植えなら、土の表面が白っぽく乾いているときが、一般的な水やりの目安となります。このときに、なるべく朝方にたっぷりと水を与えます。夏前に葉が枯れて休眠期に入ったら、水やりは必要ありません。
地植えの場合は、根が張るまでの約1か月間は、土が乾いたら根に届くようにしっかり水を与えます。その後は、ほとんど水やりの必要はありません。
植物を枯らしてしまう原因のひとつが、「水のやりすぎ」です。植物を育てるには、水やりは欠かせませんが、水やりのタイミングや方法を間違うと、植物をダメにしてしまうことがあります。
ムスカリは乾燥には強く、過湿には弱いので、水の与えすぎには十分に注意しましょう。特に、高温多湿の時期は球根が腐る原因になるため、注意が必要です。
鉢で育てている場合の、ムスカリの水やり
水やりの頻度
球根の植えつけに適した時期は、10~11月頃です。10月の早い時期に植えると、葉が長く成長して開花期にはだらしなくなってしまい、花の見栄えが半減してしまいます。11月上旬~中旬までに植えたほうが、花がコンパクトに咲き、葉を5~6㎝の長さに抑えることができます。
鉢植えで育てる場合は、土の表面が乾き始めたら、たっぷりと水やりをします。夏前に葉が枯れて休眠期に入ったら、水やりをストップしましょう。
水やりのコツ
水やりをするときのポイントは、土の表面が湿る程度ではなく、鉢底から水が流れ出るくらいたっぷり与えることです。水が少ないと、土の中で伸びた根まで行き届きません。また、たっぷりの水は土の中の老廃物を流し出し、水に含まれる新鮮な空気を補う役割があります。鉢受け皿に溢れた水は、そのままにせず、必ず捨ててください。
水やりの確認方法
水やりのタイミングは、土の状態を観察すれば分かります。用土の表面が白っぽく乾燥していたら、水を与えるタイミングです。水やりは日中や夜ではなく、必ず朝に行いましょう。
一方でムスカリは過湿に弱いという性質があるため、水の与えすぎにも気をつけます。特に梅雨など湿気の多い時期は、注意が必要です。
地植えの場合の、ムスカリの水やり
水やりの頻度
地植えの場合、11月上旬~中旬までに球根の植えつけを行ったら、根が張るまでの約1か月間は、土が乾いたらしっかり水やりします。1か月後は、特に水やりする必要はありません。その理由は、鉢植えに比べて土の量が多く、そのぶん地中に水分が蓄えられているからです。
ただし、極端に雨が降らずに乾燥するときなどは、朝に水やりを行いましょう。
水やりのコツ
水やりをするときは、しっかりと土中に水が行きわたり、根の先端にまで水が届くよう、たっぷりと水を与えます。
水やりの確認方法
極端に雨が降らない日が続いたり、猛暑日が続いたりしたときは、上記の方法で水やりを行います。
水やりは、季節によっても多少変わります
秋~春(鉢植え)
10~11月頃、球根を鉢に植えつけたら、たっぷり水やりをします。その後は土の表面が乾いたら、その都度水やりを行います。つぼみが出てから開花までは、水切れしないよう十分に気をつけましょう。
秋(地植え)
地植えの場合は、10~11月頃に球根を植えつけたら、約1か月間は土が乾いたらしっかり水やりします。根が張るまでは、水やりが必要です。
夏(鉢植え)
6月中下旬くらいには葉が枯れ始め、休眠期に入ります。このため、6~9月は水やりの必要はありません。
その後は、基本的に水やりをする必要はありません。梅雨などの雨季に極端に降水がないときや異常な日照りが続くときなどは、状況に応じて水を与えましょう。
ムスカリの水やり、注意点が知りたい
鉢植えの場合の注意点
ムスカリは乾燥に強く、過湿に弱い球根植物です。土が濡れっぱなしの状態が長く続くと、球根が腐って枯れてしまいます。土が濡れているうちは、絶対に水をやらないように注意しましょう。土が乾いてから、水やりを再開してください。
地植えの場合の注意点
球根を植えつけてからの約1か月間は水やりが必要ですが、その後は必要ありません。水のやりすぎは球根が腐る原因になるため、注意してください。水やりをしなくても、ムスカリは丈夫に育ちます。
覚えておきたい! 水やりの基本
簡単なようでいて、じつはコツをつかむのが難しく、体得するのに時間がかかるといわれている水やり。ムスカリに限らず、植物に水やりをするうえで、頭に入れておきたい基礎知識を紹介します。
鉢植えの水やりは「たっぷりと!」
「たっぷりと水やりする」といっても、実際、どれくらいの水の量を表すのか、迷うところ。鉢底の穴から水が流れ出るくらい、たっぷり与えるのが基本です。水の量が少ないと、鉢底まで水が浸透しないうえ、土の表面から水分が蒸発し、鉢内の水分が欠乏した状態になってしまいます。水やりをするときは、鉢底から水が流れ出ても問題ない場所に移動させてから、たっぷり流れ出るくらいの水を与えるようにしましょう。
水やりは朝が基本
水やりは原則、朝に行います。日中に気温が上昇するにつれ、植物は呼吸し、蒸散が盛んになります。そのため、水分を朝方に補う必要があるのです。水分バランスが崩れると、植物はしおれてしまいます。また、夕方以降は蒸散が少なくなり、水分を必要としなくなります。
特に冬の夕方に水やりを行うと、土壌内に残った水分が植物の根を冷やし、成長を妨げてしまう場合も。「水やりは朝」としっかり覚えておきましょう。
水やりは用土が乾いてから
鉢植えの場合、「土の表面が乾いてから水やりを」といいますが、これにも理由があります。土の表面が湿っている状態で水やりすると、水が飽和状態になり、植物の根は呼吸できなくなってしまいます。また、常に水に満たされた状況では、根を伸ばし生育する必要がなくなってしまうのです。
これに対し、土が乾いてから行う水やりは、乾燥した土の表面から鉢底までスムーズに水がしみ込んでいきます。同時に、水に押し出されて鉢内の空気が入れ替わり、根に酸素を供給することもできます。水のスムーズな流れと鉢内の空気の循環のためにも、土の表面が乾いてから水やりを行いましょう。
Credit

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・角山奈保子
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