クチナシ、キンモクセイと並んで三大香木(さんだいこうぼく)とされるジンチョウゲ。早春に小さな花が手毬状に集まって枝先に咲き、甘い香りを漂わせます。育てやすい植物なので、花と香りを楽しんだ次はきっと増やしたい!と意欲が高まることでしょう。ここでは植物の増やし方についての基本とともに、ジンチョウゲを増やすのに適した時期や注意点などを詳しく紹介します。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
ジンチョウゲを育てる前に知っておきたいこと
ジンチョウゲは、1年じゅう緑色の葉をつけている常緑の低木で、樹高は1~1.5mほど。ゆっくり生長し、まめに剪定してなくても丸くこんもりした樹形を保つことから、生垣にも向いています。丈夫で育てやすいため、ガーデニング初心者にもおすすめです。ただし、花木のなかでは寿命はそれほど長くなく、20~30年ほどといわれています。
ジンチョウゲの基本データ
学名:Daphne odora
科名:ジンチョウゲ科
属名:ジンチョウゲ属
原産地:中国中部から雲南省、ヒマラヤ地域
和名: 沈丁花(ジンチョウゲ)、輪丁花(リンチョウゲ)
英名:Daphne,Winter Daphne
開花期:2月下旬~4月中旬
花色:ピンク、白
生育適温:15~25℃
ジンチョウゲは苗から育てるのが一般的で、鉢植えでも地植えでも栽培できます。植えつけは、新芽が伸び始める前の3月下旬~4月下旬、または9月下旬~10月下旬が適期です。ただし、耐寒性は-5℃程度。植え替えを嫌うため、寒冷地では鉢植えにして管理したほうがよいでしょう。
ジンチョウゲは、室町時代以前に中国から日本に渡来したといわれています。花の香りが“沈香(ちんこう)”に似ていること、十字形の花が“丁子(ちょうじ/クローブ)”に似ていることに、その名は由来します。雌雄異株で、雄株と雌株がありますが、日本で流通しているものの多くは雄株なので、実を見る機会はめったにありません。
花びらのように見える部分は、ガクが筒状に変化したもので、本来の花弁ではありません。よく見かける内側が白色、外側がピンクのものは「ウスイロジンチョウゲ」と呼ばれ、ほかにも外側まで白い品種「シロバナジンチョウゲ」、葉の外側に黄白色の斑が入る「フクリンジンチョウゲ」などがあります。
植物を増やすには、いくつかの方法があります
植物を育てる楽しみのひとつに、大切に育てた株をどんどん増やすことがあります。ジンチョウゲの増やし方を説明する前に、植物はどのようにして増やすことができるのか、まずはその方法について知っておきましょう。
一般的な植物の増やし方には大きく分けて、種による「種子繁殖」と、胚や種子を経由せずに、根・茎・葉などの栄養器官から繁殖する「栄養繁殖」があります。耳にする機会が多い、挿し木や接ぎ木などは「栄養繁殖」です。そのほかにもいろいろな方法があるので、簡単に説明していきましょう。
【種子繁殖】
種まき
植物の種を土にまいて苗を作る方法です。庭や畑などに直接まく「直まき」と、ポットやトレイなどにまく「移植栽培」があります。直まきは成長したものをそのまま育てますが、移植栽培はある程度成長して苗の状態になったら、庭や鉢に植えつけを行います。
【栄養繁殖】
挿し木
成長期の植物の茎や葉などの部分を切り取って、用土や水に挿して発根させ、新たな株を作る方法。
取り木
枝や茎など親となる植物の一部に傷をつけて、そこから発根させたあとに切り離して、新たな株を得る方法。挿し木での繁殖が難しい場合でも、この方法で増やすことができます。観葉植物や樹木などで多く用いられます。
接ぎ木
植物には、2本の枝が強く交差して接していると、くっついて1本になるという性質があります。この性質を利用して、品種が同じか近縁の枝をつないで増やす方法です。主に果樹や果菜類に用いられます。
株分け
その名のとおり、親となる植物の株を根とともに分けて、複数の株を得ること。冬になっても根は枯れず、毎年花を咲かせる植物(宿根草)に向いている増やし方です。株が育ちすぎて大きくなったものや、老化してしまった植物を若返らせる効果があります。
分球
スイセンやチューリップなどの球根植物に用いられる方法です。文字どおり“球”根を“分”けること。球根類は成長すると、親球から小さな子球(しきゅう)ができます。その子球を切り離して、数を増やしていきます。子球が増えすぎると、親球がやせたり花が咲きにくくなったりするので、何年かにいちど、この作業が必要になる植物もあります。
ジンチョウゲを増やす、最適な方法と時期
ジンチョウゲには雄株と雌株がありますが、日本で流通しているものの多くは雄株なので、種を採取できることはありません。増やす場合は、前述の方法の「挿し木」を使います。
「挿し木」とは植物から切り取った枝や茎、葉、根などを土に挿して発芽させることです。いちどに同じ苗をたくさん増やしたいときに最適な方法で、種まきと違って短期間に成株にすることができます。親木と同じように育つこともポイント。剪定で切り取った枝を利用することができ、親木のクローン苗を手軽に作れることが魅力です。
挿し木には、植物の先端部分を使う「天芽挿し」、先端以外の枝の途中部分を使う「管挿し」があり、ジンチョウゲは「天芽挿し」を用います。
挿し木の適期
ジンチョウゲの挿し木の適期は4月、または7~8月。4月に行う挿し木は“春挿し”といい、前年に伸びた枝を利用します。7~8月に行う挿し木は“夏挿し”で、その年に伸びた枝を利用します。
ジンチョウゲは花木のなかでは寿命はそれほど長くなく、20~30年ほどといわれています。また、水切れをしやすく、植え替えを嫌うため、枯れて株がダメになってしまうことも。丹精込めて育てたジンチョウゲを、ある日突然失ってしまわない“保険”の意味でも、あらかじめ挿し木で、株を残しておくとよいでしょう。
知りたい! ジンチョウゲの増やし方「挿し木」
準備するもの
・増やしたいジンチョウゲの枝
・鉢
・挿し木用土(鹿沼土や赤玉土の小粒、挿し木専用の土など肥料分のない新しい土)
・清潔な剪定用バサミ(枝の切り口を潰してしまわないよう、よく切れるもの)
・穴あけ用の細い棒
・ラベル
・ピンセット
・発根促進剤
挿し木の手順
ジンチョウゲを挿し木にする場合は、以下の手順で行いましょう。4月に行う場合は前年に伸びた枝を、7~8月に行う場合はその年に伸びた枝を利用します。その点だけ間違えないように注意してください。
①挿し木を行う前日の夕方に、たっぷりとみずやりをします。翌日、健やかに伸びた枝を先端から10~15㎝ほどの位置で切り取ります。この切り取った枝を“挿し木”といいます。
②上葉を2~3枚残し、残りの葉を切り取ります。
③挿し木の切り口をよく切れるハサミで切り取り、さらに吸水しやすくなるようにもういちど斜めに切ります。その後、60分ほど水に浸します。
④発根促進剤(※)を③の切り口に薄くつけ、余分な粉は軽くたたいて落とします。鉢に細い棒で穴をあけてから、挿し木を1/3~1/2の長さまで挿し、周りの土をピンセットで押さえて安定させます。
⑤切り口から発根するまでは水を吸い上げる力が弱いので、土が乾燥しないように水やりをします。
⑥2~3か月後、10㎝ほど根が伸びたら、2号ポットに鉢上げします。その後はひと株ずつ鉢に植え替えて育て、地植えにする場合は翌年に植えつけを行います。
※発根促進剤とは、挿し木や苗の発根を促す一種のホルモン剤のこと。ホームセンターなどで購入できます。
コツと注意点
挿し木を挿すところを、挿し床といいます。前述のとおり、挿し床に用いる土は、赤玉土や鹿沼土などの水はけのよい土を1種類、もしくは混合した挿し木専用の土とします。清潔なことが大切なので、必ず新しいものを使いましょう。
また、肥料を入れると、根が出る前に枝が腐ってしまうことがあります。土に有機質や肥料分があると雑菌が繁殖しやすく、挿し木の切り口から雑菌が入り込み、腐らせてしまうからです。必ず新しい土を使うのも、同じ理由からです。
挿し木の葉を少なくするのは、切り口からしっかり水分を吸収させ、葉の蒸散(呼吸に合わせて水分が蒸気となって出ていくこと)による水分損失を少なくするためです。挿し木は、これまで根から供給されていた水分が絶たれるため、挿し木内の水分が不足するとしおれてしまいます。そのため葉の枚数を減らして、切り口から効率よく水分を吸収できるようにする必要があります。
挿し木をしたあと、半日くらいは半日陰に置いて、切り口からしっかり水が吸収できるようにしてあげましょう。すぐに日なたに置くと、やはり葉からの蒸散量が増えてしまうので、要注意です。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・岸田直子
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