すっと伸びた茎の先に、甘い香りを漂わせる筒状の長い花をいくつも咲かせるキルタンサス。花姿に特徴がある球根植物の多年草です。フラワーアレンジにもよく使われるため、切り花として見かけたことがある人も多いことでしょう。一見繊細そうな見かけとは裏腹に、丈夫で初心者にも育てやすいと注目を集めています。キルタンサスを上手に育てるための水やりの方法を、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
キルタンサスを育てる前に知っておきたいこと
キルタンサスは、南アフリカに45~50種が自生する球根植物です。種によって形態や性質が大きく異なり、変化に富んでいます。そのため、開花期は大きく分けると、冬咲きと初夏・夏咲きがありますが、なかには春に花を咲かせる品種もあります。花の形は、細い筒形から壺形、盃状に大きく開くものがあり、下垂するものから上向きに咲くものまで多彩です。
キルタンサスの基本データ
学名:Cyrtanthus
科名:ヒガンバナ科
属名:キルタンサス属
原産地:南アフリカ
和名: 角笛草(ツノブエソウ) 、笛吹水仙(フエフキスイセン)
英名:Fire lily
開花期:12月~2月(冬咲き種)、5月~8月(初夏・夏咲き種)
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、複色
発芽適温:20~25℃
生育適温:10~20℃
切り花の出回り時期:11~5月
花もち:7~14日
種類が多いキルタンサスのなかで、もっとも一般的で代表的なのは、「マッケニー」とその交配種です。特に断りなくキルタンサスと呼ぶ場合は、このマッケニーのことを指すことがほとんどです。主な開花期は、冬から早春。ほかにも初夏・夏咲きの「エラタス」や「サンギネウス」があります。
植えつけ適期は、夏咲き種は3月中旬~4月中旬、冬咲き種は9月中旬~10月下旬です。
種類によっては球根を3月に植えると、暑くなる前に葉よりも先に花茎だけを伸ばして開花するものがあります。
南アフリカ原産のキルタンサスは、寒さにはそれほど強くありません。しかし、半耐寒性なので、通常の球根植物のように掘り上げて“冬越し”させる必要はありません。手間をかけなくてもどんどん増えていく生命力に溢れた多年草なので、栽培難易度の低いガーデニング初心者向けの植物といえるでしょう。
水やりの方法と、そのタイミング
キルタンサスの原産地は南アフリカ。夏は高温で雨が少ないため乾燥し、冬は温暖で雨が多いという地中海性気候です。そのため、キルタンサスは日当たりと風通しがよく、水はけのよい土が好きで、常に土が湿った状態の過湿は苦手。キルタンサスを上手に育てるには、この環境になるべく近づけてあげることがポイントです。
ただし、前述したように、キルタンサスは品種が多く、それぞれに形態や性質が大きく異なり、変化に富んでいます。キルタンサスのなかでももっとも一般的で代表的な「マッケニー」は水が好きなので過湿に適応力がありますが、「エラタス」や「サンギネウス」は多湿を嫌うので注意が必要です。
基本的には、球根の植えつけ時に水やりしたあとは、葉が伸び始めるまで控えめにします。「マッケニー」はほかの植物に比べて水を欲しがりますが、それでも絶えず土がジトジトと濡れている過湿状態では、球根が腐りやすくなってしまいます。また、水を与えすぎると軟弱に育ち、徒長(ひょろひょろとムダに長く伸びること)しやすくなります。
そこで、キルタンサスは、“土が乾いたら”水やりのタイミング。土の状態を見て、表面が白っぽく乾いているようなら、水を与えます。乾いていないうちは、水やりの必要はありません。
水やりは、日が高くならない午前中が原則。できれば朝に行います。特に冬場の気温が低い夕方以降に水やりをすると、キルタンサスが苦手な霜などの寒害を招くことになるので注意しましょう。
キルタンサスは鉢植え、地植えのどちらでも栽培できますが、それぞれ水やりの頻度は異なります。次の項からは、植えつけ別の水やりを紹介します。
鉢で育てている場合の、キルタンサスの水やり
水やりの頻度
毎日必ず水やりが必要なわけではありません。土の状態を確認して乾いているようなら、日が高くならない午前中、できれば朝に水やりをします。天候によって土が湿っている状態であれば、乾くまで水やりは不要です。
水やりのコツ
水やりをするときのポイントは、品種によって異なります。水が大好きな「マッケニー」の場合は、鉢底から水が“流れ出るまでたっぷり”とあげましょう。乾いた土の表面が湿る程度のちょろちょろとした水やりでは、土中に張った根まで水が行き届きません。たっぷりの水で、土の表面を覆うくらいでOKです。
一方、過湿を嫌う「エラタス」や「サンギネウス」の場合は、鉢底から水が“しみ出す程度”でOKです。
いずれの場合も、鉢受け皿にたまった水をそのままにしておくと球根が傷むもとなので、忘れずに捨てるようにします。
水やりの確認方法
水やりのタイミングを確認するには、土の状態を観察しましょう。土が白っぽく、硬そうに見える、指で触ってカラカラに乾燥している、などです。
両手で持てる大きさの鉢植えであれば、持ち上げて重さで判断してもいいでしょう。水をあげたときの鉢の重さを確認しておけば、乾燥したときに軽いと感じるはずです。もちろん、キルタンサス自体の様子を見ることも忘れずに。鉢植えは土自体の量が少ないため、栽培環境によっては意外と乾燥しやすいので、油断は禁物です。そのためにも、水やり前後の土とキルタンサスの状態の違いをよく観察し、把握しておきましょう。
地植えの場合の、キルタンサスの水やり
水やりの頻度
地植えの場合は、雨水が当たる場所であれば、基本的に水やりの必要はありません。鉢に比べて土の量が多く、地中に水分が蓄えられているからです。ただし、晴天が続いて土が乾きすぎると、株や花が小さくなります。晴れた日の午前中、できれば朝に水をやって土が乾きすぎないようにします。
水やりのコツ
土の中に水がしみ渡るように水をあげましょう。土中深く張っている根の先端まで水を届かせるイメージです。
水やりの確認方法
極端に雨が降らない日や乾燥する日が続いて、土がカラカラに乾燥していたり、キルタンサスの茎や葉に元気がなかったりしたら、上記の方法で水やりをします。
水やりは、季節によっても多少変わります
水やりの具合は、天候のほか、植物の生育状態や季節で多少変わります。そこで、この項では季節ごとの違いを見ていきましょう。
春(鉢植え、地植え)
春に球根を植えた場合、植えつけ時にたっぷり水やりしたあとは、葉が伸び始めるまで控えめにします。土が乾いていれば水やりをして、土が乾きすぎないようにします。その後は土が乾いたら、「マッケニー」はたっぷりと、「エラタス」や「サンギネウス」は土が湿る程度に水やりをします。
キルタンサスがぐんぐん育つ生長期なので、水切れには注意してください。過湿は禁物と、まったく水やりをしない“放任”は禁物。土の状態をしっかりとチェックし続けることが大切です。秋に球根を植えた場合も同様です。
夏(鉢植え、地植え)
春に植えた夏咲き種は開花期です。花を咲かせるためには水が必要なので、土の状態を見ながら、継続的な水やりを続けましょう。開花中は特に乾燥に注意してください。秋に植えた冬咲き種は、梅雨明け後から9月中旬頃まで休眠期に入ります。水をあまり吸わないので、水やりの回数は控えめに。過湿にならないよう、土の表面が乾いたら与える程度にとどめます。地植えの場合は、極端に暑い日が続いたとき以外、ほとんど水やり不要です。
秋(鉢植え、地植え)
春に植えた夏咲き種は開花を終え、休眠期に入っています。水をあまり吸わないので徐々に水やりを控えめにします。
秋に球根を植えた場合は、植えつけ時にたっぷり水やりしたあとは、葉が伸び始めるまで控えめにします。土が乾いていれば水やりをして、土が乾きすぎないようにします。その後は土が乾いたら、「マッケニー」はたっぷりと、「エラタス」や「サンギネウス」は土が湿る程度に水やりをします。
冬(鉢植え、地植え)
冬咲き種は開花期を迎えます。花を咲かせるためには水が必要なので、土の状態を見ながら、継続的な水やりを続けましょう。開花中は特に乾燥に注意してください。
夏咲き種は、土の表面が乾いたら与える程度にとどめます。特に地植えの場合は、冬に水を与えすぎてしまうと土中に残った水分が霜になり、キルタンサスを弱らせてしまうので注意を。
キルタンサスの水やり、注意点が知りたい
鉢植えの場合の注意点
キルタンサスの水やりでもっとも注意したい点は、与えすぎないことです。水の与えすぎは株を弱らせたり、根を腐らせたりします。特に、朝に夕にちょびちょびとした水やりをこまめにしてしまうと、土の表面が常に湿った状態になり、キルタンサスが苦手な過湿状態に陥ります。水が好きな「マッケニー」は適応力があるため大丈夫ですが、過湿を嫌う「エラタス」や「サンギネウス」にはNGです。鉢受け皿を使っている場合は、鉢受け皿に溜まった水は必ず捨てましょう。
地植えの場合の注意点
基本的に自然の雨水だけで大丈夫、ということを忘れないようにしましょう。過保護は禁物です。ただし、高温期の夏は、土も乾燥しやすくなります。外に出ると暑いからと水やりをさぼっていると、根の生長に必要な水分が足りなくなり、きちんと育ってくれません。指で土を少し掘ってみて、下のほうまで乾いていたら水やりを行いましょう。
栽培環境によって多少の違いはありますが、キルタンサスは絶えず土がジメジメしている過湿が苦手ということを忘れずに、土が乾いてからの水やりを心がけてください。頻繁な水やりは不要だからといって、ほったらかしは厳禁です。日々、キルタンサスの状態や、土の乾き具合をよく観察することが大切です。
根腐れを招く“過保護”と、水切れを招く“放任”に気をつけて、元気なキルタンサスを育てていきましょう。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・岸田直子
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