つぼみはコンペイトウのようなかわいらしさで、花開くとお皿のような形になるカルミア。つぼみの濃い色が、花弁が開くと薄くなり、そこに斑点などの模様が入っているため、色や形状のコントラストが目を楽しませてくれる花木です。花つきがよいので、初めて花木を育てる人にもおすすめ。ここでは、カルミアが元気に花を咲かせるための作業、剪定について、方法などを詳しく紹介します。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
カルミアを育てる前に知っておきたいこと
カルミアは、北アメリカからキューバにかけて、およそ7種が分布する常緑樹です。日本で一般にカルミアと呼ばれるのは、ラティフォリア種(Kalmia latifolia)を指します。晩春に、コンペイトウに似た形の小さなつぼみが膨らみ、初夏から梅雨入りにかけて2㎝ほどの花が房状にびっしりと咲きます。
初めてカルミアを育てる場合は、苗木で始めるのが一般的で、鉢植えでも地植えでも栽培できます。植えつけは、3月上旬~4月上旬、9月下旬~11月上旬が適期です。
夏の暑さと乾燥には注意が必要ですが、成長のスピードがゆっくりで、放っておいても自然に樹形が整うため、初心者でも育てるのは決して難しくありません。
カルミアの基本データ
学名:Kalmia latifolia
科名:ツツジ科
属名:カルミア属
原産地:北アメリカ東部
和名:アメリカ石楠花(アメリカシャクナゲ)
英名:Kalmia
開花期:5月上旬~6月中旬
花色:赤、ピンク、白、茶
発芽適温:15℃前後
生育適温:15~25℃
カルミアの葉は、長さ7~10㎝で光沢のある濃い緑色で、通年観賞できます。その葉の形がシャクナゲやローレルに似ていることから、別名アメリカシャクナゲのほか、ハナガサシャクナゲ、アメリカンローレルとも呼ばれています。育て方は同じツツジ科のシャクナゲとほぼ同様で、シャクナゲやツツジを育てた経験があると、コツはつかみやすいでしょう。
ツツジ科の植物は、有毒物質をもつものがありますが、カルミアもそのひとつです。葉に毒素を含み、腹痛、嘔吐、下痢、神経麻痺を引き起こます。手で触れたり、ちぎったりする程度なら心配することはありませんが、誤食は危険です。花の蜜も同じような中毒症状が出るため、子どもやペットがいる家庭は十分に注意してください。特に小さな子どもは、「コンペイトウだ」と喜んで、つぼみを口にしてしまう可能性も。栽培時にはくれぐれも葉や花を口にしてはいけないと、よく説明しておきましょう。
カルミアに剪定って、じつは必要です
剪定とは、植物の姿形を整えたり、風通しをよくしたりする作業のことです。見た目を美しくするだけでなく、養分を効率よく利用して生育を促進させたり、開花や結実の調整をしたり、病害虫の繁殖を予防したりする効果があります。剪定=庭木の枝切りと思いがちですが、じつはそれだけではないのです。
ガーデニングは盆栽と違うのだから、植物には自由にすくすく育ってほしい、なるべく自然のままに、と思う人が多いかもしれません。しかし、剪定することで日当たりや風通しがよくなり、病害虫の予防になるのです。植物の健康を保つために欠かせないお手入れであると理解して、行うようにしましょう。特に鉢植えで育てる場合は、限られた容器内にしか土がなく、地植えよりは生育環境が限定されるため、植物の健康維持のためにも剪定が欠かせないことを覚えておいてください。
カルミアは生長スピードが遅く、放っておいても自然とこんもりとした樹形になるので、あまり剪定の必要はありません。その点では、初めて花木を育てる人にもおすすめです。ただ、若い木は枝の伸びがよいので、たまに枝が飛び出て樹形を乱したり、枝同士が重なって混み合ったりするような場合があります。このような場合は、樹形を整えたり、日当たりや風通しをよくしたりするために、剪定が必要になります。
また、花つきがよいことで知られるカルミアは、その分、前年はたくさん花が咲いたのに、翌年は花つきが悪くなる「隔年開花」(かくねんかいか)という現象が出やすい傾向があります。これも剪定によって、回避することができます。
カルミアに必要な剪定は、下記のとおりです。
切り戻し(※)
伸びた枝や茎を途中まで切り詰めることで、植物を美しい姿に整えるための作業です。また、余分な枝を減らすことで、風通しや日当たりがよくなり、病気や害虫の予防にもなります。
※切り花で、花の水あげをよくするために、茎の根元を新しく切り直すことも「切り戻し」といいます
摘蕾(てきらい)
つぼみのうちに花を摘み取って、開花する花数を減らす作業のことです。咲かせたい花数を厳選することで、株の栄養が消耗することを防ぐことができます。
カルミアは芽吹く力が強く、高さや幅などを整える「刈り込み」や、強剪定(枝を枝元から短く切り詰めること)にも耐えるので、大きくなり過ぎたときや樹形が乱れてしまった場合は、好きな形に剪定するか、思い切って株元近くまで切り下げても大丈夫です。芽吹く力が衰えた古い枝も、切り取って更新するのもいいでしょう。
刈り込み
生垣やトピアリー(植物をさまざまな形に立体的に仕上げた造形物)など、表面全体を伸びた枝の先端から均一に刈ることです。形を美しく保つことが目的です。
知りたい! 剪定する目的とメリット
切り戻しの目的とメリット
カルミアは自然に樹形が整うのが魅力ですが、それでも若い木は枝の伸びがよく、ぴょこんと飛び出して樹形を乱すことがあります。伸びすぎた枝を切り戻すと、すっきりして樹形が整うだけでなく、元気な脇芽が伸びることになるので、花をたくさん咲かせることができます。
また、混み合っている余分な枝を切り取ることで、風通しや日当たりがよくなり、病気や害虫の予防になります。カルミアが、元気に健康に育つ環境が整うのです。さらに体積が減るので、過酷な夏の暑さによる、カルミアのエネルギーの消耗が軽減されます。
摘蕾の目的とメリット
カルミアは花つきが、とてもよいのが魅力です。しかし、たくさんついたつぼみをそのまますべて咲かせてしまうと、株がエネルギーを使い果たして疲れてしまいます。新しい枝が伸びにくくなり、その先端につく花芽が少なくなります。これは木が若いうちによく起こる現象です。そこで、つぼみがたくさんついているときは、半分ほど摘み取る「摘蕾」を行って、花の量を調整します。つぼみを摘み取ることで栄養が株本体にもめぐり、枝が充実することで、翌年も花を楽しむことができます。
刈り込みの目的とメリット
カルミアを玄関周りや、門、塀の周りなどの目隠しとして植栽した場合や、鉢植えでも大きくなり過ぎたり、樹形が乱れてしまった場合は、高さや幅などの外形を整える作業が必要になります。それが「刈り込み」です。飛び出した枝や、根元から出てくる細い枝の「ひこばえ」などを刈り込みバサミで切り揃えることで、一定の大きさが保てます。刈り込むことで、枝先が密生して新芽が揃い、同じ位置から芽吹くというメリットがあります。
剪定に適した時期を、見極めましょう
カルミアの剪定は、その目的によって、適した時期が異なります。言い換えれば、適期ではない時期に、剪定をしてはいけません。
切り戻しの適期と方法
開花後のなるべく早い時期、6月下旬までに花がら摘みを兼ねて行いましょう。花がら摘みは、花穂をつけ根(花茎の元)から切り取ればOKです。花がらをつけたままだと、結実のために樹勢が衰え、新しい枝が伸びにくくなります。花芽は新しい枝の先端にできるので、花がらを摘むと花つきはよくなります。
カルミアは冬が来るまでに、つぼみの元をつけてから越冬します。秋以降に、伸びすぎたからといって枝を落とすと、翌年の花まで落とすことになるので厳禁です。
切り戻しの手順
①飛び出した新しい枝を、剪定バサミを使って樹冠(枝葉が茂っている部分と枝先の輪郭)内で切り落とします。
②下方の枯れた枝や重なり合った枝をつけ根から切り落として間引きし、日当たりと風通しを全体的によくします。
③太い切り口には、枯れ込むのを防ぐために癒合剤(※)を塗っておきます。
※癒合剤(ゆごうざい)とは、樹木の枝や幹を切った際、切り口からの雑菌の侵入や水分の蒸発を防ぐために使用する薬剤のこと。チューブに入ったペースト状のものが多く、園芸店などで入手できます。
摘蕾(てきらい)の適期と方法
カルミアは春から伸びた新しい枝の先端に、夏頃から花芽をつけ始め、秋口にはつぼみとして確認できるようになります。摘蕾の適期は、つぼみの全体量が確認できる10月以降、2月くらいまでです。
摘蕾の手順
①カルミアの枝先をチェックして、全体の花の量を確認します。
②花芽がたくさんついているようなら、全体のバランスを見ながら、間引きしたいつぼみの房の下で枝を切り落とします。
刈り込みの適期と方法
切り戻しと同じく、開花後のなるべく早い時期(6月下旬まで)に行います。刈り込むことで、新しい枝の先にできる花芽の位置が揃います。
刈り込みの手順
①樹形から飛び出している枝を、つけ根から剪定バサミで切り取ります。
②どれくらいの高さや幅にしたいかイメージして、側面と天面を刈り込みバサミで刈り込んでいきます。
③ある程度刈り込んだら、少し離れたところから見て、形の悪い部分を整えていきます。表面に枝の切断部が出ているところがあれば、少し深いところで枝を切るとよいでしょう。
④刈り込み後の枝に引っかかっている枝葉を取り除いて、きれいにすれば終了です。切り戻しと同じく、太い切り口には、枯れ込むのを防ぐために癒合剤を塗っておきましょう。
剪定のポイントは、枝や茎の選び方です
庭木には、ほかの枝の生長を妨げたり、見栄えを悪くしたりする、不要な枝があります。これらは「不要枝」「忌み枝」と呼ばれ、剪定の対象になりますが、カルミアの場合はそれほど難しくありません。
切り戻しは、樹冠から飛び出している枝や、内側の混み合った枝を選んで切り取ればOKです。また、株の根元から出てくる細い枝を「ひこばえ」といいますが(「ヤゴ」「ヤゴ吹き」と呼ぶことも)、これも不要な枝なのでカットしてOKです。
覚えておきたいのは、カルミアは開花後に新芽が3本くらい伸びますが、この新しく伸びる枝にはその年に咲く花芽はつきにくく、そのまま育って翌年に花芽をつけて開花するということです。混み合っているから、この枝は今年花をつけなかったから、と手当たり次第にバサバサ切ってしまっては、楽しめるはずの花が楽しめなくなることも。必要以上に神経質になることはありませんが、ハサミを入れるときは、カルミアをよく観察して考えながら行いましょう。
カルミアの剪定には、コツがあります
カルミアの剪定のコツは、樹冠から飛び出した枝を切って樹形を整えることと、内側の混み合っている枝を間引くこと、そしてつぼみの量を調整することの3点です。
せっかく育った枝やつぼみを切り取るのはかわいそう…、ハサミを入れるなんて怖い…という声を、ガーデニング初心者からよく聞きます。植物の剪定は、人間にたとえると“散髪”や“爪切り”のようなもの。傷つけたり、生命に害を及ぼしたりする作業では、決してありません。むしろ、カルミアが元気に快適に、たくさんの花を咲かせるために必要なケアだと考えて、行いましょう。
それでも初めての剪定で、失敗してしまったかも…と不安になることがあるかもしれません。しかし、株さえ元気なら、カルミアは芽吹く力が強いので大丈夫! 再び芽を出してくれるまで育てれば、復活します。
剪定をするときの注意点はこちらです
カルミアに限らず、植物を剪定するときは、よく切れる園芸用の剪定バサミを使いましょう。キッチンバサミや文房具のハサミしかないから…という初心者が少なくありませんが、ヘアカットをするのにキッチンバサミを使わないのと同じく、植物のことを思うなら、やはり園芸用のハサミを使ってあげたいもの。先が細いものは、細かな作業に便利です。
また、そのハサミを“清潔”な状態で使うことが重要です。いろいろな植物を育てている場合、道具を媒介として、病気が移ってしまうことがあります。病気にかかった植物を切ったあとには、消毒が必要です。ただし、罹病しているかどうかの判断は大変難しく、剪定作業を行った後は必ず、薬局で売られている消毒用エタノールに浸けたり、バーナーなどでハサミの刃の部分を焼いたりして、ハサミを殺菌するように心がけます。
普段のハサミのお手入れは、使用後に水で洗い、水分をよく拭き取ってから、オイルを塗っておく程度で大丈夫です。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・岸田直子
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