花が少ない冬の時期に開花する、貴重な植物のひとつ、サザンカ(山茶花)。花木として、庭や生け垣、盆栽など広く植栽されています。日本固有種で、山口県から沖縄県にかけての山林で自生しています。園芸品種は300種ほど。ピンク、濃ピンク、斑やぼかしが入ったものなどバリエーションに富みます。ここでは、サザンカ(山茶花)を上手に育て、美しい花を咲かせるために必要な肥料とその施し方を、恵泉女学園大学准教授の宮内泰之さんにお聞きしました。
目次
サザンカ(山茶花)を育てる前に知っておきたいこと
サザンカは花木として、庭木や生け垣、盆栽など広く植栽されています。花の少ない冬に花をつけるため、ぜひ育ててみたい花木のひとつです。古くは、花も葉もその姿が似ていたことから、ツバキと厳密に区別されていなかったよう。ここではサザンカに必要な肥料とその施し方を学ぶ前に、基本情報を知っておきましょう。
サザンカの基本データ
学名:Camellia sasanqua
科名:ツバキ科
属名:ツバキ属
原産地:日本
和名:サザンカ
英名:Sasanqua camellia
開花期:10〜12月
花色:赤、ピンク、白
植えつけ時期:3月中旬〜4月中旬、9月中旬〜10月上旬
耐寒気温:−5℃
サザンカは、花芽がその年に伸びた枝の先端付近に1〜数個つき、10〜12月に開花し、晩秋〜初冬の花として親しまれています。基本的な性質はツバキに似ています。ツバキよりやや寒さに弱く、ほとんどのツバキが花弁をまとめて落とすのに対し、サザンカは花弁が基部で癒合していないため花が終わると花弁が1枚ずつ散ります。自然樹形は卵形。水はけがよく、適湿で肥沃な場所を好みます。本来、日当たりを好みますが、日陰でもよく育ちます。
サザンカ(山茶花)には栄養を補う肥料が必要です
自然界では生物に必要な養分が循環
自然のなかでは、生物に必要な養分は、基本的に大地をベースとして、それぞれの生物の間を循環しています。
大地に生えている植物は、草食動物のえさです。植物を食べて育った草食動物は、肉食動物に補食され、その動物の栄養となります。動物はやがて死骸となって、土中にいる小型の動物や微生物によって植物が必要とする成分にまで分解され、土の中に含まれるようになります。動物の排泄物や枯れた植物、落ち葉なども、最終的には土の中の養分となります。植物はその土の中の養分を根から吸収し、成長するのです。このように自然界では、植物や動物が生きて成長するために必要な養分が循環しています。
なぜ肥料を施すことが必要なの?
ところが、人間が植物を育てる場合は、前述のとおりにはいきません。野菜や果樹などは、育ったものを収穫して人間が利用してしまいます。草花や樹木は、枯れれば引き抜いてゴミになります。剪定した枝葉も、そのまま放置するわけにはいきません。
人の手による収穫や剪定、伐採は、循環すべき養分をその場所から持ち出してしまい、植物が成長するために必要な養分を不足させてしまうのです。そのため植物を育てるときに、人為的に栄養分を施さなくてはならなくなります。それが肥料です。
サザンカを育てる場合も、例外ではありません。特に鉢でサザンカを育てる場合、成長に必要な養分を鉢の中の土から吸収するため、成長に伴って鉢土の中の養分は減っていきます。不足した養分は、肥料として施さなくてはならないのです。
植物が成長するために必要な栄養分
植物のからだは、さまざまな元素によって作られています。そのなかで成長のすべての過程で必要となり、外から補給しなくてはいけないものを「必須元素」といい、17の元素が知られています。それらの必須元素は、植物が必要とする量によって、「多量元素」と「微量元素」とに分けられています。多量元素は、水素、炭素、窒素、酸素、マグネシウム、リン、硫黄、カリウム、カルシウムの9つ。
このうち、チッ素(N)、リン(P、肥料分としてはリン酸という化合物)、カリウム(K、カリと略される場合が多い)は、植物のからだをつくり、成長していくうえで特に重要な元素で多くを必要とするため、「肥料の三要素」と呼ばれます。市販されている肥料はこの三要素を基本としたもので、その3種類の成分がどのような割合で含まれているかが表記されています。たとえば、「N-P-K=8-8-8」と書かれているものは、重量比で、チッ素が8%、リン酸が8%、カリが8%含まれていることを表します。
チッ素の働き
葉や茎など植物のからだを育てるために欠かせない養分で、葉肥とも呼ばれます。肥料成分の主体としてチッ素を含んでいる肥料をチッ素肥料といい、無機質のものと有機質のものがあります。硝安、硫安、尿素などが無機質のチッ素肥料で、油かすや魚粉などが有機質のチッ素肥料の代表です。
リン酸の働き
光合成やエネルギー代謝に重要な役割を果たしている物質です。また、根や茎の発育にも大切であると同時に、開花や結実にも大きく関わっているため、花肥あるいは実肥と呼ばれることがあります。過リン酸石灰、溶成リン肥などが代表的なリン酸質肥料で、骨粉や魚かすなどにもリン酸分が多く含まれます。
カリの働き
植物体内で細胞のpHと浸透圧の調整や、さまざまな酵素の活性化、たんぱく質の合成、光合成などに大きく関わっています。とくに葉で作られた炭水化物(糖)を運ぶ際に重要な役割を果たし、カリウムが不足すると糖がうまく運ばれなくなるため、果実や根の肥大が悪くなります。とくに根でそれが顕著なために、カリウムは根肥とも呼ばれます。カリ肥料として用いられるものには、硫酸カリ、塩化カリなどいくつかあります。草木灰にもカリ成分が多く含まれます。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料とは、植物が必要とする養分を1種類または数種類含んでいるものをいい、さらに、土壌の酸性土を調整するために施される石灰なども肥料として扱われます。肥料は、もとになる原料と製造方法によって、化学肥料と有機質肥料に分類されます。さらに肥料は、その形状によって、固形肥料と液体肥料に分けられることもあります。また、肥料の効果の現れ方の違いによって分けることもできます。
化学肥料
無機質の原料をもとに、化学的操作によって化学工業的に作られた肥料を化学肥料といいます。ほとんどが無機化合物ですが、尿素のように無機物を化学合成して作られた有機化合物の化学肥料もあります。化学肥料は、含まれる主成分がチッ素、リン酸、カリのどれか1種類である単肥と、チッ素、リン酸、カリのうちの2種類以上を含んだ複合肥料に分けられます。
広く一般に使われる化成肥料は化学肥料のひとつで、チッ素、リン酸、カリのいずれか2成分以上を含み、その成分を化学反応させて作られた複合肥料です。ちなみに、化学反応によらず、単に固形の原料どうしを配合して、肥料の三要素のうちの2成分以上含んだものは配合肥料といいます。ほとんどの化学肥料は無機質であるため、施すとすぐに土の中の水分に溶けて素早く効果を発揮します。
有機質肥料
動物や植物などに由来する有機物を原料として作られた肥料が、有機質肥料です。原料によって、動物質肥料と植物質肥料に分けられます。魚かすや豚骨粉などを原料とするのが動物質肥料で、チッ素やリン酸を多く含みます。菜種やダイズなど植物種子から油を絞った残りかす、植物性食品の製造かすなどが、植物質肥料です。
有機質肥料は、施されたあと、土のなかの微生物によって分解されることによって無機物となります。それから植物の根に吸収されるので、ゆっくりと効果を発揮することが特徴です。
固形肥料
粉末や粒状、あるいはペレット状になった肥料です。一般に粒が大きいものほど効果がゆっくりと現れ、その効果が持続します。
液体肥料
液体の形状をした肥料です。種類によってそのまま、あるいは水で希釈して用います。固形肥料よりも効果が現れるのが早い反面、効果はあまり持続しません。
速効性肥料
肥料の主成分が水溶性である肥料で、施されるとすぐに水に溶け、植物に素早く吸収されます。効果が速く現れる肥料です。
遅効性肥料
施肥後すぐには効果が現れず、あとになって効いてくるタイプの肥料をいいます。
緩効性肥料
一般には、肥料の効果が少しずつ比較的長期にわたって現れるタイプの肥料をいいます。
サザンカ(山茶花)に肥料を与える、時期とタイミング
肥料は、植物を育てる際に、どのようなタイミングで与えるかによって、元肥と追肥に分けられます。
元肥と施肥のタイミング
苗木や苗の植えつけの際、あらかじめ植えつけ場所に施しておく肥料を元肥といいます。植えつけ後、ゆっくりと長い間効果を発揮するように、緩効性や遅効性の肥料を用いるのが一般的です。土の水はけや通気性を改良する効果を兼ねて、動物質を含んだ堆肥など、有機質肥料を中心に施します。
春先になって生育が始まる頃に肥料の効果が出るように、晩秋から冬の間に施す有機質肥料など、緩効性の肥料を寒肥といいます。寒肥は新芽や花芽を充実させ、丈夫に育つように与える肥料で、これも元肥の一種と考えてよいでしょう。
追肥と施肥のタイミング
植物が育つためには、植えつけ時の元肥や休眠期に施した寒肥だけでは、肥料分が十分とはいえません。生育に伴って、土の中の肥料分が吸収・消費されてしまうからです。生育途中で不足した肥料分を補う目的で施す肥料を、追肥といいます。元肥と違って、追肥は効果がすぐに現れてほしいため、速効性の肥料を施すのが一般的です。
追肥には、充実した芽を育てるための「芽出し肥」、開花後や結実後に、開花や結実で消費された養分を補う目的で施される「お礼肥」などがあります。
サザンカ(山茶花)への肥料の与え方が知りたい
元肥はサザンカを植えつけるときに、植え穴を掘った土に混ぜて埋め戻して施します。寒肥は2月に油かすや骨粉といった有機質肥料など、ゆっくりと効果を発揮する肥料を施すと効果的です。地植えの場合は、枝の広がりの下に何か所か浅い穴を掘ったり、土の表面で軽く土と混和させたりして施すとよいでしょう。鉢植えの場合は、鉢土の表面全体に施して、根を傷めないようにしながら土と混和するようにします。
地植えでは追肥を行う必要はありません。鉢植えの場合は肥料を保っておく土の量が限られているうえ、水やりで肥料分が流れ出てしまいます。それを補う目的で、緩効性の肥料を春と秋の2回、土の中に混ぜずに置き肥として施すとよいでしょう。
肥料を与えるときのポイントや注意点は?
肥料は、与えれば与えるだけ効果を発揮するというものではありません。必要なときに、必要な量を与えることが大切です。必要以上に肥料を施すのは無駄なばかりか、植物の根を傷め、生育を阻害する原因となるので注意が必要です。速効性の肥料を追肥する場合は、植物の生育の様子(葉色や成長の勢いなど)を見ながら、施肥のタイミングや量を判断するようにします。
根が広がる範囲に施して
植物は、基本的に根の先端付近で肥料成分を吸収します。地面を掘って根の広がりを確認するわけにはいきませんが、一般に樹木は広がった枝の先端の下あたりまで根を伸ばしているといわれます。
元肥は植え穴を掘った土に混ぜて埋め戻しますが、追肥は、広げた枝の先端の下あたりに、土の表面や穴を掘って施すと効果的です。ただし、鉢植えの場合は、根が鉢土のなかで回っていることが多いので、鉢土全体に施すようにします。
肥料を与えすぎると、肥料やけが起きます
不適切な施肥によって、肥料に含まれる成分が植物に悪影響を及ぼし、生育が阻害されたり枯れたりすることを「肥料やけ」といいます。施肥量が多すぎた場合には、土のなかの肥料成分の濃度が高くなり、根、特に若い根が傷んで枯れてしまったり、根が水分を吸収することができなくなったりして、地上部が萎えて、ひどい場合には植物そのものが枯れてしまうことがあります。速効性の化成肥料では注意が必要で、有機質肥料、家畜糞尿から作った堆肥が原因となることも少なくありません。
Credit

監修/宮内泰之
1969年生まれ。恵泉女学園大学人間社会学部社会園芸学科准教授。専門は造園学。とくに庭園等の植栽デザイン、緑化樹の維持管理、植生や植物相調査を専門とする。最近は休耕田の再生活動に取り組み、公開講座では自然観察の講師を担当。著書に『里山さんぽ植物図鑑』(成美堂出版)がある。
構成と文・童夢
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