花が少ない冬の時期に開花する、貴重な植物のひとつ、サザンカ(山茶花)。花木として、庭や生け垣、盆栽など広く植栽されています。育て方がそれほど難しい樹木ではありませんが、丈夫に育て、美しい花を咲かせるためには、いくつかの大切な育て方のポイントがあります。ここでは、サザンカ(山茶花)への正しい水やりの方法について紹介しましょう。恵泉女学園大学准教授の宮内泰之さんにお聞きしました。
目次
サザンカ(山茶花)を育てる前に知っておきたいこと
サザンカは、ツバキ科の常緑小高木です。花も葉もツバキと似ていることから、古くは両者が厳密に区別されていなかったよう。
サザンカは日本固有種で、本州の山口県、四国、九州、沖縄の山林に自生しています。もともとの花色は白ですが、数多くの園芸品種が作り出され、いまや花色も花姿もバラエティに富んでいます。花の少ない冬に花をつけるため、ぜひ育ててみたい花木のひとつです。ここでは、正しい水やり方法を学ぶ前に、サザンカの基本情報を知っておきましょう。
サザンカの基本データ
学名:Camellia sasanqua
科名:ツバキ科
属名:ツバキ属
原産地:日本
和名:サザンカ
英名:Sasanqua camellia
開花期:10〜12月
花色:赤、ピンク、白
植えつけ時期:3月中旬〜4月中旬、9月中旬〜10月上旬
耐寒気温:−5℃
サザンカは、花芽がその年に伸びた枝の先端付近に1〜数個つき、10〜12月に開花し、晩秋〜初冬の花として親しまれています。基本的な性質はツバキに似ています。ツバキよりやや寒さに弱く、ほとんどのツバキが花弁をまとめて落とすのに対し、サザンカは花弁が基部で癒合していないため花が終わると花弁が1枚ずつ散ります。自然樹形は卵形。水はけがよく、適湿で肥沃な場所を好みます。本来、日当たりを好みますが、日陰でもよく育ちます。
植物を育てるときの、水の役割とは
植物のからだには多量の水分が含まれ、細胞のひとつひとつが水で満たされています。植物に含まれる、この水が失われてしまえば、植物は萎んで、枯れてしまいます。
植物は単に、水分として蓄えるためだけに水が必要なわけではありません。植物が必要とする栄養素は、根が水を吸収するときに一緒に植物内に取り込まれます。つまり水がなければ、土中の栄養素を植物は取り込めないのです。さらに根から吸収された水は葉に届けられ、二酸化炭素ともに光合成に利用されて、植物に必要な糖に変換されます。作られた糖は水によって植物体のすみずみにまで運ばれ、生育に利用されるのです。水がなければ、植物は生きていけないのです。
降雨量が比較的多い日本では、地植えの植物は基本的に水やりの必要がありません。必要に応じて根を広く、地中深く伸ばして水を吸収できるからです。しかし、人の手によって植えられた植物は、必ずしも植えられた場所の環境が生育に適しているとは限りません。そのような植物をしっかりと育てるには、やはり人による管理が必要となります。水やりもそのひとつです。
鉢植えの場合は、適切な方法とタイミングで水やりを行います。土の量が限られている鉢の場合は土が乾燥しやすく、また植物が根を張る範囲が限られているため、水やりを怠るとすぐに水分が不足し、植物の生育に影響を及ぼします。
次の項では、具体的に水やりのコツを説明しましょう。
水やりの方法と、そのタイミング
植物によって、たっぷりの水分を必要とするものと、乾燥に比較的耐え、それほど多くの水分を必要としないものがあります。サザンカは適度に湿り気のある場所を好みますので、土が過度に乾燥することは避けなければなりません。
水やりの意味
植物への水の補給、土の中の養分を溶かして根が吸収できる状態にするなど、水やりは植物にとって、とても重要な意味をもちます。また、水が土の表面から下へ移動することで、鉢などの内部にたまった二酸化炭素など古いガスを追い出し、土の表面から新しい空気を供給するという役割ももっています。水やりは簡単な作業ですが、植物にとって重要な意味をもつということを意識して、適切な方法とタイミングで行うようにしましょう。
水を与える位置
水やりをするときに花や葉に直接水がかかると、それが原因となって病気になる可能性があります。そのため、基本的に水やり時は、花や葉に水がかからないようにします。水は、広げた根の先端あたりから株元にかけて、たっぷりと与えてください。
タイミングは土の乾燥状態を目安に
土の表面が乾いてきたら、たっぷりと水やりをするのが基本です。特に鉢植えの場合、乾燥してしまうことはもちろん、過度に水やりをして鉢の中がいつも湿っている状態では、根の周囲が酸素不足になり、その状態が続くと根腐れを起こして根が傷んでしまいます。植物の根は水分がなくなって乾燥し、新しい空気に触れている期間も必要なのです。水やりは「乾いたらたっぷりと」を心がけてください。
地植えの水やりは高温乾燥期のみ
地植えでは土の量が多く、よほど水はけのよい場所でない限り、土壌中に水分が蓄えられているので、基本的に水やりの必要はありません。ただし、空梅雨で日照が多い時期や夏の高温乾燥期、雨の降らない日が続いた場合には水やりが必要となります。地面に水やりをする場合、土の表面が湿っても、意外と土の中までしっかりと水が届いていない場合があります。水はけが悪い場所でない限り、たっぷりと水やりをしても根の周りに水が溜まった状態になってしまうことはありません。地植えでは土の中まで十分に水が届くよう、特にたっぷりと水を与えましょう。
水やりの時間は午前中
1日のなかでは、できるだけ午前中の早い時間に水やりをするようにします。夏の気温が高い時期では、気温が上がった日中に水やりをすると、鉢の中に溜まった水の温度が上がって蒸れ、根を傷めてしまうことがあるので注意が必要です。
鉢で育てている場合の、サザンカ(山茶花)の水やり
水やりのタイミング
サザンカはやや湿った場所を好みます。鉢植えの場合、鉢土の表面が乾き始めたら水やりをします。鉢が受け皿に置いてある場合は、水やり後、鉢受け皿に溜まった水は必ず捨てます。鉢受け皿に水を溜めたまますにすると、根腐れの原因となります。
水やりのコツ
鉢植えのサザンカの場合、鉢の底から水が流れ出るまでたっぷりと水やりをします。ウォータースペースに水がいっぱいに溜まった状態で鉢底から水が流れ出てきたらいったん水やりを止め、水がすっかり引いたところで再び水やりをします。こうすることで鉢の中いっぱいに水が溜まり、十分土が水を含みます。その後、鉢底からすっかり水が流れ出るのを待つことで、鉢土の表面からたっぷりと新鮮な空気が取り込まれ、土の隙間に行き渡ります。
地植えの場合の、サザンカ(山茶花)の水やり
日本は降雨量が比較的多いので、地植えのサザンカの場合は特に、水やりをする必要はありません。
ただし、植えつけ後、根がしっかりと張るまでは土を乾かさないよう、頻繁に水やりをします。また、成長した後でも空梅雨で日照りが続く場合や夏の高温乾燥期には水やりが必要になります。水やり時には、土の表面近くだけでなく、根の広がりや深さまで考慮し、十分水が行き渡るよう、たっぷりと水を与えましょう。
サザンカ(山茶花)の水やり、注意点が知りたい
泥はねは病気のもと
水やりの際、土に勢いよく水をかけると泥はねを起こします。土の中にはさまざまな微生物がいて、なかには病気の原因となるものもあります。泥はねで葉などに病原となる微生物が付着すると、病気が発生しやすくなります。水やり時には、ジョウロの注ぎ口やホースの口先に手を当てて水の流れをやわらげたり、ジョウロやホースの先にハス口をつけたりして水の勢いを弱め、泥はねをしないよう注意しましょう。
土が硬くなったらほぐして
水やりを重ねていくと、水の勢いでだんだんと土の表面が締まって硬くなっていきます。表面が硬くなった土では、水がしみこみにくくなります。そのような状態になった場合には、移植ゴテや棒などを使って、土の表面を軽くほぐすようにします。
水やりは、一見簡単な作業です。しかし、植物にとっては、とても重要で意味のある作業なのです。正しい水やりの方法を知って、丈夫で美しい花をつけるサザンカに育てましょう。
Credit

監修/宮内泰之
1969年生まれ。恵泉女学園大学人間社会学部社会園芸学科准教授。専門は造園学。とくに庭園等の植栽デザイン、緑化樹の維持管理、植生や植物相調査を専門とする。最近は休耕田の再生活動に取り組み、公開講座では自然観察の講師を担当。著書に『里山さんぽ植物図鑑』(成美堂出版)がある。
構成と文・童夢
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