葉の縁に鋭いトゲがあるヒイラギ(柊)は、邪気を払うとされ、古くから庭木として植えられてきました。節分の日には、厄除けとして、ヒイラギの枝にイワシの頭を刺したものを門口に立てる風習がいまも残ります。名前は、ヒリヒリ、あるいはズキズキと痛むことを表す「ひいらぐ(疼)」に由来。洋風、和風どちらの庭にも向き、自然樹形をいかしたり、仕立てたりして育てられます。ここでは、ヒイラギの増やし方について説明しましょう。恵泉女学園大学准教授の宮内泰之さんにお聞きしました。
目次
ヒイラギを育てる前に知っておきたいこと
ヒイラギは、古くから庭木とされる代表的な樹木のひとつです。増やし方を学ぶ前に、立派な庭木に育てるための基本情報を知っておきましょう。
ヒイラギの基本データ
学名:Osmanthus heterophyllus
科名:モクセイ科
属名:モクセイ属
原産地:日本、台湾
和名:ヒイラギ
英名:False holly、Holly olive
開花期:11~12月
花色:白
植えつけ時期:4〜10月
耐寒気温:0℃
ヒイラギは、本州の関東地方より西、さらに四国、九州、沖縄の山地に自生する常緑の小高木で、庭木や公園樹として植栽されます。株には雄と雌があり、雌株では、秋、葉の付け根に芳香のある白い花が咲き、翌年の夏に黒紫色の小さな実をつけます。若木では葉の縁にある2〜5対の歯牙状のトゲが特徴的ですが、老木ではこのトゲがなくなり、先が尖った楕円形の葉となります。
植物を増やすには、いくつかの方法があります
ヒイラギの増やし方を説明する前に、植物はどのようにして増やすことができるのか、その方法について知っておきましょう。
一般的な植物の増やし方は、「種子繁殖」と「栄養繁殖」とによる方法に大別できます。「種子繁殖」による増やし方とは、その名のとおり、種子によって繁殖させる方法、つまり種まきによって増やす方法です。一方、「栄養繁殖」による増やし方は、種子ではなく、葉や茎、根などの植物の一部を使って繁殖させる方法です。
「栄養繁殖」による植物の増やし方には、以下のような方法があります。
挿し木
植物の葉、茎、根などの一部を切り取り、用土や水に挿して発根させて新たな個体を得る方法です。
株分け
植物を、根とともに分けて株を得る方法。大株になったものをいくつかに分けることで、株をコンパクトにすることができ、老化した株の更新にも用いられます。
接ぎ木
植物の一部を、台木となるほかの株に接いで増やします。病害に強い丈夫な個体を得るために、バラや、トマトやキュウリ、ナスなどの果菜類にもよく用いられる方法です。
取り木
植物の幹や枝を傷つけ、発根させたあとに、そこを切り離して新たな個体を得る方法です。挿し木でうまくいかない植物でも、増やすことが可能です。観葉植物や樹木などで多く用いられます。
分球
球根が分かれて増えることをいいます。これは、一般的な球根植物の増え方です。
ヒイラギを増やす、最適な方法と時期
ヒイラギを増やす一般的な方法は、「種まき」と「挿し木」です。挿し木とは、増やしたい植物の一部(枝など)を切り取り、その切り取った部分を土に挿して発根させ、増やす方法です。
種まきの適期
多くの植物の増やし方で、広く行われるのが種まきです。草花や野菜では一般的な方法で、ヒイラギも種まきで増やすことができます。
晩秋から初冬に開花した両性花が結実、翌年の6~7月に熟します。熟した果実から種を取り出し、すぐにまいて増やします。たくさんの苗木が必要な場合は、種まきで増やすのが経済的でよい方法といえます。
挿し木の適期
ヒイラギを挿し木で増やす場合は、6〜7月が適期です。春に芽吹いて伸びた枝を、挿し穂(穂木)とします。挿し木後、乾燥させないように管理すれば発根し、苗木として植えつけられるようになります。
知りたい! ヒイラギの増やし方「種まき」
ヒイラギは、晩秋から初冬に開花した両性花が結実、翌年の6~7月に熟します。その熟した果実から種を取り出してすぐにまき、増やします。
準備するもの
種まきには地面に直接種をまく方法(直まき)と、鉢やビニールポットなどに種をまいて育苗してから移植する方法(移植栽培)があります。ヒイラギは鉢などに種をまいて、苗木を育ててから移植する方法がよいでしょう。
・ヒイラギの種
・育苗ポット(鉢やビニールポット)
・赤玉土(小粒)、種まき用の土
・ジョウロ
・新聞紙など
種まきの手順
①種を取り出す
6~7月頃、黒く熟した実から種を取り出し、水洗いして果肉を落とします。果肉を落とした種は乾かないように管理し、早めにまきます。
②用土を準備する
育苗ポットに種まき用の土を入れ、ジョウロでたっぷりと水をかけて十分湿らせておきます。
③種をまく
指先で土に浅いくぼみをつけて種をまき、土を被せて上から軽くおさえます。被せる土の厚さは、種の2倍程度が基本です。
④水やりをする
種まき後に水やりをして土を十分に湿らせる必要がありますが、ジョウロで勢いよく水やりをすると覆土が流れ、まいた種が土の上に出てきてしまうことがあります。水やりはハス口を使って、やさしくしましょう。また、大きめの容器に水を張り、種をまいた鉢ごと水に浸して土に水を含ませるようにすれば安心です。この方法を腰水といいます。
⑤乾燥させないように管理
種をまいたまき床は、乾燥させないように日陰で管理します。毎日の水やりが難しい場合は、濡らした新聞紙でまき床を覆うようにして、湿度を保つとよいでしょう。ただし、発芽が始まったらすぐに覆いは取り除き、日当たりのよい場所に移動。日光不足にならないようにします。
種まき後は2〜3年そのまま移植せずに育て、苗木を成長させます。発芽後1年めの成長はゆっくりですが、2年め以降は勢いよく成長します。成長した苗木は、4〜5月に植えつけをします。
知りたい! ヒイラギの増やし方「挿し木」
準備するもの
挿し木は、増やしたいヒイラギの枝の一部を切り取り、切り取ったものを土に挿して発根させる方法です。挿し木をする前に、次のものを用意しましょう。
・増やしたいヒイラギの枝
・ハサミ
・よく切れるナイフ
・発根促進剤
・赤玉土(小粒)やバーミキュライト、挿し木専用の土を入れた鉢
・割りばし
・ピンセット
・ジョウロ
・ビニール袋
土は赤玉土(小粒)かバーミキュライト、または市販されている挿し木専用の土を使うとよいでしょう。
挿し木の手順
挿し木の時期と方法
挿し木は、6~7月の新梢が充実しきる前のものを採取し、挿し穂にします。
穂木の採取方法
①時間帯
朝、夕、雨天時などに行います。
②株の選び方
日当たりのよい場所で、健全に育った株を選びます。
③枝の選び方
日当たりのよい場所にあり、病虫害がなく、節間が間延びしていないものを。葉が小さめで、形が揃った部分の少し硬くなった新梢を選び、ハサミで長さ10~15㎝に切ります。
④水に浸す
穂木は、切り口を直ちに水に浸します。
挿し穂の調整と挿し木
①葉を整理する
穂木は上葉を4~5枚残すようにして、下部の葉を取り除きます。残す葉が大きい場合は、葉を半分に切ります。
②切り口を斜めに切り戻す
吸水しやすいように、切り口をナイフで斜めに切り、 1〜2時間水につけます。
③挿し床の準備
赤玉土や挿し木用土を鉢などに入れて挿し床とし、たっぷりと水やりをします。
④発根促進剤をつける
穂木を水から取り出し、発根促進剤を切り口に薄くつけ、余分な粉は軽くたたいて落とします。
⑤挿し木する
用土に割りばしで挿し穴をあけてから、挿し穂の1/3~1/2を挿し、周りの土をピンセットで押さえて安定させます。
⑥水やり
たっぷりと水やりして、ビニール袋などで密封し、日陰に置きます。
挿し木後の管理
①挿し木後から夏の間
直射日光を避けて、湿度が高く保てる場所に置きます。挿し床ごとビニール袋で覆ってもよいでしょう。
②秋
ビニール袋で覆っていた場合は取り除き、朝夕の弱い光や外気に当てるようにします。
③冬
玄関や軒先などのなるべく暖房のない暖かい場所に置き、乾かさないように管理します。
鉢に苗木を植えつける場合
翌年の4月頃、新芽が発芽する前に苗木を植えつけます。その後の成長を考え、鉢は少し大きめ(8号以上)のものを用意します。赤玉土(小粒〜中粒)7、腐葉土3の割合で混ぜた用土を準備。へらなどで苗木を丁寧に掘り出して、用土に植えつけます。鉢の底から水が垂れるまで、十分に水やりをします。
ヒイラギを増やすときのコツや注意点
ハサミやナイフは清潔に
挿し木は、環境や条件によっては、うまくいかないことがあります。成功の秘訣は、ハサミやナイフの切り口から雑菌などが入り込まないようにすること。そのため、枝や幹を切るハサミやナイフは、よく切れる清潔なものを使うようにします。また、使う前に火であぶったり、消毒液などに浸したりして、殺菌しておくと安心です。
乾燥が大敵!
挿し木の場合、挿し木をした枝は、発根するまで乾燥させないようにしましょう。挿し木は、土の表面が乾燥してきたら、水やりをします。用土を乾燥させてしまうと発根しにくくなってしまいます。種まきの場合も発芽まで、乾燥は厳禁です。
挿し木はむやみに触らないで
挿し木の場合、土に挿した穂木をむやみに触ったりしないようにしましょう。根が出てきたかどうか確認するために、穂木を抜くのは絶対にやらないようにしてください。
Credit
監修/宮内泰之
1969年生まれ。恵泉女学園大学人間社会学部社会園芸学科准教授。専門は造園学。とくに庭園等の植栽デザイン、緑化樹の維持管理、植生や植物相調査を専門とする。最近は休耕田の再生活動に取り組み、公開講座では自然観察の講師を担当。著書に『里山さんぽ植物図鑑』(成美堂出版)がある。
構成と文・童夢
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