ヒイラギ(柊)は、古くから邪気を払うとされ、庭木として植えられてきました。節分の日には、厄除けとして、ヒイラギの枝にイワシの頭を刺したものを門口に立てる風習がいまも残ります。葉の縁に鋭いトゲがあるヒイラギ。その名は、ヒリヒリ、あるいはズキズキと痛むことを表す「ひいらぐ(疼)」に由来するともいわれます。ここでは、ヒイラギの水やりの方法を、恵泉女学園大学准教授の宮内泰之さんにお聞きしました。
目次
ヒイラギを育てる前に知っておきたいこと
ヒイラギは、古くから庭木とされる代表的な樹木のひとつで、鉢で育てることもできます。水やりのコツを学ぶ前に、立派な庭木に育てるための基本情報を知っておきましょう。
ヒイラギの基本データ
学名:Osmanthus heterophyllus
科名:モクセイ科
属名:モクセイ属
原産地:日本、台湾
和名:ヒイラギ
英名:False holly、Holly olive
開花期:11~12月
花色:白
植えつけ時期:4〜10月
耐寒気温:0℃
ヒイラギは、本州の関東地方より西、さらに四国、九州、沖縄の山地に自生する常緑の小高木で、庭木や公園樹として植栽されます。株には雄と雌があり、雌株では、秋、葉の付け根に芳香のある白い花が咲き、翌年の夏に黒紫色の小さな実をつけます。若木では葉の縁にある2〜5対の歯牙状のトゲが特徴的ですが、老木ではこのトゲがなくなり、先が尖った楕円形の葉となります。
植物を育てるときの、水の役割とは
植物のからだには多量の水分が含まれ、細胞のひとつひとつが水で満たされています。多くの植物は基本的に、根、茎、葉という3つの基本的な部分からなり、一般に水分量の多い葉では、重量の6~7割を水が占めているとされます。この植物に含まれる水が失われてしまえば、植物は萎んで、枯れてしまいます。
植物は単に、水分として蓄えるためだけに水が必要なわけではありません。植物が必要とする栄養素は、根が水を吸収するときに一緒に植物内に取り込まれます。つまり水がなければ、土中の栄養素を植物は取り込めないのです。さらに根から吸収された水は葉に届けられ、二酸化炭素ともに光合成に利用されて、植物に必要な糖に変換されます。作られた糖は水によって植物体のすみずみにまで運ばれ、生育に利用されるのです。水がなければ、植物の生命活動は不可能といえます。
基本的に、地植えの植物には水やりの必要はありません。必要に応じて根を広く、地中深く伸ばして水を吸収できるからです。しかし、人の手によって植えられた植物は、必ずしも植えられた場所の環境が生育に適しているとは限りません。そのような植物をしっかりと育てるには、やはり人による管理が必要となります。水やりもそのひとつです。
鉢植えの場合は、適切な方法とタイミングで水やりを行います。土の量が限られている鉢の場合は土が乾燥しやすく、また植物が根を張る範囲が限られているため、水やりを怠るとすぐに水分が不足し、植物の生育に影響を及ぼします。
次の項からは、具体的に水やりのコツを説明しましょう。
水やりの方法と、そのタイミング
植物によって、たっぷりの水分を必要とするものと、乾燥に比較的耐え、それほど多くの水分を必要としないものがあります。ヒイラギは適度に湿り気のある場所を好みますので、土が過度に乾燥することは避けなければなりません。
水やりの意味
植物への水の補給、土の中の養分を溶かして根が吸収できる状態にするなど、水やりは植物にとって、とても重要な意味をもちます。また、水が土の表面から下へ移動することで、鉢などの内部にたまった二酸化炭素などの古いガスを追い出し、土の表面から新しい空気を供給するという役割ももっています。水やりは簡単な作業ですが、植物にとって重要な意味をもつということを意識して、適切な方法とタイミングで行うようにしましょう。
水を与える位置
水やりをするときに花や葉に直接水がかかると、それが原因となって病気になる可能性があります。そのため、基本的に水やり時は、花や葉に水がかからないようにします。水は、広げた根の先端あたりから株元にかけて、たっぷりと与えてください。
タイミングは土の乾燥状態を目安に
水やりの基本は「乾いたらたっぷり」。土の表面が乾いてきたら、たっぷりと水やりをします。特に鉢植えの場合、過度に水やりをして鉢の中がいつも湿っている状態だと、根の周囲が酸素不足になり、その状態が続くと根腐れを起こして根が傷んでしまいます。植物の根は水分がなくなって乾燥し、新しい空気に触れている期間も必要なのです。水やりは「乾いたらたっぷり」を心がけてください。
地植えの水やりは高温乾燥期のみ
地植えでは土の量が多く、よほど水はけのよい場所でない限り、土壌中に水分が蓄えられているので、基本的に水やりの必要はありません。ただし、空梅雨で日照が多い時期や夏の高温乾燥期、雨の降らない日が続いた場合には水やりが必要となります。地面に水やりをする場合、土の表面が湿っても、意外と土の中までしっかりと水が届いていない場合があります。水はけが悪い場所でない限り、たっぷりと水やりをしても根の周りに水が溜まった状態になってしまうことはありません。地植えでは土の中まで十分に水が届くよう、特にたっぷりと水を与えましょう。
ジョウロにハス口は必要?
ふだんの水やりでは基本的に、ジョウロの先にハス口をつける必要はありません。ただし、土が軟らかい場合や、苗木に水やりをする場合などは水の勢いを抑えなくてはいけないので、ハス口をつけて水やりをします。ハス口は、下向きにつけると水圧が弱く、上向きに取りつけるとさらに水圧が弱くなります。状況に応じて使い分け、水圧を調整するようにしてください。
水やりの時間は午前中
1日のなかでは、できるだけ午前中の早い時間に水やりをするようにします。夏の気温が高い時期では、気温が上がった日中に水やりをすると、鉢の中に溜まった水の温度が上がって蒸れ、根を傷めてしまうことがあるので注意が必要です。
鉢で育てている場合の、ヒイラギの水やり
水やりのタイミング
ヒイラギはやや湿った場所を好みます。鉢植えの場合、鉢土の表面が乾き始めたら水やりをします。鉢が受け皿に置いてある場合は、水やり後、鉢受け皿に溜まった水は必ず捨てます。鉢受け皿に水を溜めたまますにすると、根腐れの原因となります。
水やりのコツ
鉢植えのヒイラギの場合、鉢の底から水が流れ出るまでたっぷりと水やりをします。ウォータースペースに水がいっぱいに溜まった状態で鉢底から水が流れ出てきたらいったん水やりを止め、水がすっかり引いたところで再び水やりをします。こうすることで鉢の中いっぱいに水が溜まり、十分土が水を含みます。その後、鉢底からすっかり水が流れ出るのを待つことで、鉢土の表面からたっぷりと新鮮な空気が取り込まれ、土の隙間に行き渡ります。
地植えの場合の、ヒイラギの水やり
日本は降雨量が比較的多いので、地植えのヒイラギの場合は特に、水やりをする必要はありません。
ただし、植えつけ後、根がしっかりと張るまでは土を乾かさないよう、頻繁に水やりをします。また、成長した後でも空梅雨で日照りが続く場合や夏の高温乾燥期には水やりが必要になります。水やり時には、土の表面近くだけでなく、根の広がりや深さまで考慮し、十分水が行き渡るよう、たっぷりと水を与えましょう。
水やりは、季節によっても多少変わります
晩秋から冬にかけては、ヒイラギは休眠状態にあります。根からの水の吸収が減りますので、鉢植えであってもこの時期に頻繁な水やりをすると、根腐れを起こしやすくなります。冬の時期は、夏よりもやや控えめな水やりを心がけましょう。
ヒイラギの水やり、注意点が知りたい
泥はねは病気のもと
水やりの際、土に勢いよく水をかけると泥はねを起こします。土の中にはさまざまな微生物がいて、なかには病気の原因となるものもあります。泥はねで葉などに病原となる微生物が付着すると、病気が発生しやすくなります。水やり時には、ジョウロの注ぎ口やホースの口先に手を当てて水の流れをやわらげたり、ジョウロやホースの先にハス口をつけたりするなどして水の勢いを弱め、泥はねをしないよう注意しましょう。
土が硬くなったらほぐして
水やりを重ねていくと、水の勢いでだんだんと土の表面が締まって硬くなっていきます。表面が硬くなった土では水がしみこみにくくなります。そのような状態になった場合には、移植ゴテや棒などを使って、土の表面を軽くほぐすようにします。
一見簡単そうな水やりという作業ですが、植物にとってはとても大切な作業です。ポイントを押さえて正しい水やりを心がけてください。
Credit

監修/宮内泰之
1969年生まれ。恵泉女学園大学人間社会学部社会園芸学科准教授。専門は造園学。とくに庭園等の植栽デザイン、緑化樹の維持管理、植生や植物相調査を専門とする。最近は休耕田の再生活動に取り組み、公開講座では自然観察の講師を担当。著書に『里山さんぽ植物図鑑』(成美堂出版)がある。
構成と文・童夢
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