ラズベリーはキイチゴの栽培種のグループのひとつで、古くから欧米北部で栽培、改良されてきました。管理にそれほど手がかからず、果実をたくさんつけるので、家庭でも育てやすい果樹です。果実は、酸味と甘みのバランスがとれ、優れた風味をもち、ジャムや洋菓子、リキュールなどに利用されています。ここでは、おいしい果実を豊富に実らせるために、欠かすことができない剪定の方法を紹介します。千葉大学環境健康フィールド科学センター助教授の三輪正幸さんにお聞きしました。
目次
ラズベリーを育てる前に知っておきたいこと
ラズベリーは寒さにも強く丈夫で育てやすい果樹で、ポイントやコツを覚えて、適切な剪定を行えば、たくさんの果実を収穫できるようになります。ここではまず、剪定の方法を知る前に、ラズベリーの基本情報を押さえておきましょう。
ラズベリーの基本データ
学名:Rubus spp.
科名:バラ科
属名:キイチゴ属
原産地:ヨーロッパ、北アメリカ
和名:ラズベリー(ヨーロッパキイチゴ)
英名:Raspberry
開花期:4月中旬〜5月中旬(一季なり性の品種、二季なり性の品種)、8月下旬〜9月中旬(二季なり性の品種のみ)
花色:白
植えつけ時期:2月下旬〜3月下旬
収穫期:6〜7月(一季なり性の品種、二季なり性の品種)、10〜11月(二季なり性の品種のみ)
耐寒気温:−35℃
ラズベリーは、バラ科キイチゴ属に分類される落葉低木です。一般に栽培されているものは、ヨーロッパや北アメリカ原産のものを改良したもので、品種によって果実の色には赤、黄、黒、紫があります。
また一季なり性の品種と二季なり性の品種があって、二季なり性の品種は夏の初めと秋の2回、収穫を楽しめるため人気があります。栽培にあまり手間がかからず、1本でも果実がつくため受粉樹を植える必要がなく、初心者向きの果樹といえるでしょう。
ラズベリーは、もともとどんな植物?
ラズベリーは、キイチゴの栽培種のひとつのグループで、欧米で品種改良が進められた果樹です。他の栽培種のグループとしてブラックベリーがあります。ラズベリーとの違いは、果実が熟したとき、果実が花托から離れて内部が空洞になっているのがラズベリー、花托がついたまま果実の芯となって詰まった形でとれるのがブラックベリーです。果実の様子だけでなく、その味わいもラズベリーとブラックベリーでは異なっています。
なお、ラズベリーには黒色の果実がなる品種があり、果実が小さいキイチゴを、ブラックベリーと呼んでいるわけではありません。
キイチゴってどんな植物?
キイチゴとは、一種類の植物を指すわけではなく、バラ科キイチゴ属に分類され、木になるイチゴの総称名です。日本には、ナワシロイチゴ、カジイチゴ、モミジイチゴ、ニガイチゴなど、いくつかのキイチゴが自生しています。しかし、これらはラズベリーではありません。
ラズベリーの原種は欧米原産
ラズベリーは欧米で栽培、改良されてきました。ヨーロッパでは、Rubus idaeus L.など、アメリカでは、R. idaeus L.とR. Occidentalis L.などから改良されたといわれています。
ラズベリーを剪定する目的、メリット
樹木の枝を切ることを剪定といいます。一般に剪定には、大きな3つの目的があります。
・枝を切ることで木の大きさや樹形を整え、栽培しているスペースに合わせて、高さや枝の広がりを維持したり、大きく育ちすぎた木をコンパクトにしたりできます。
・病害虫の被害を抑え、木を健康に保つこと。剪定によって枝や葉の数を減らすと風通しがよくなり、また木の内側まで日光が入るようになります。そのことによって、病害虫の被害や、内側の枝が枯れることを防ぎます。
・枝を充実させること。古い枝を切ると新しい芽がたくさん出ます。切った部分から伸びた枝は勢いがよく、木全体が若返ります。
さらに、ラズベリーをはじめ果実を収穫する樹木では、剪定によって枝が若返ることで、花がたくさん咲き、果実が豊富に実る、ということも、剪定の大きな目的のひとつといえます。
剪定にあたっては、剪定ばさみや剪定用のノコギリを用意するとよいでしょう。
剪定すべき枝は、生育に不要な枝です
剪定では、不要な枝(不要枝)、樹形を乱すじゃまな枝や混み合った部分の枝が間引きの対象となります。また、徒長した枝(おおむね30㎝以上の長い枝)や、間引きせずに残した枝などは切り詰めの対象となります。
不要な枝(不要枝)
枯れた枝、折れた枝、病害虫の被害を受けた枝、交差枝(ほかの枝と交差する枝)、細く貧弱な枝などは不要枝といわれ、不要枝はその付け根から切り取ります。
じゃまな枝
横に大きく張り出した枝、高く伸びた枝、混み合った枝、株の内側に伸びる枝、伸びて葉が茂ると株の内側の風通しや日当たりを悪くする枝などは、じゃまな枝として付け根から切ります。
ラズベリーの剪定に適した時期はいつ?
剪定のメインは、冬の剪定
ラズベリーは、落葉果樹です。落葉果樹は葉のある時期に、たっぷりの日光を葉に受けて養分を作り出し成長しています。そのため、落葉果樹では、葉のある時期に大量に枝を切り取ることはせず、葉を落として休眠している時期に本格的な剪定をするのが理想的です。また、葉を落としている時期には木の形や枝ぶりを確認しやすいため、枝が混み合った部分や不要な枝を見つけやすく、その点からも剪定の適期といえます。
ラズベリーは、落葉期となる12〜2月が剪定の適期です。場合によっては、夏に摘心を行うこともあります。
ラズベリーの剪定方法を知りたい
ラズベリーの生育サイクル
花芽と葉芽
芽には、花をつける〈花芽〉と、葉をつける〈葉芽〉があります。さらに花芽には、萌芽し伸びた枝に花だけがつく〈純正花芽〉と、花と葉がつく〈混合花芽〉とがあります。ラズベリーの花芽は混合花芽です。
生育サイクルに合わせた剪定が必要
適切な剪定をするためには、ラズベリーの生育サイクルを知る必要があります。混合花芽がつくラズベリーでは、春に花芽から伸び出た新梢に、花と葉がつきます。受粉した花が結実するわけで、一季なり性の品種では、6~7月に開花、結実した枝の多くは冬までに地際近くまで枯れてしまいます。春になると、地際の株元から新しいシュート(新梢)が伸び出てきます。成長したシュートには夏、花芽が分化し、翌年の春にその花芽から伸びた新梢に葉と花がつき果実がなるのです。前述したように一季なり性の品種は、開花結実した枝が冬までに枯れてしまいます。
一方、二季なり性の品種では、春に株元から伸び出た枝に秋になって果実が実り、その枝の多くは冬に枯れることなく、翌年の夏にも開花結実します。以上のようなラズベリーの開花、結実の習性を理解したうえで、適切な枝の管理をすることが、果実をたくさん収穫するために必要となります。
冬の剪定
①結実後の枯れたシュートを株元から切る
12月上旬〜2月下旬に行います。その年の夏に果実をつけた枝の多くは、冬までに地際付近まで枯れてしまいます。冬、枯れている枝は株元から切ります。
②生きている枝を剪定する
春に株元から伸び出たシュートは、冬になって落葉しますが、枯れずに残ります。この枯れずに残ったシュートや、果実がならなかった枝は、混み合っている場合は間引きます。残した枝については、先端を軽く切り詰めます。
二季なり性の品種では、春に株元から発生し秋に果実をつけたシュートは枯れずに生き残り、翌夏には果実をつけるので、そのシュートは切らずに残します。ラズベリーでは、このように果実をつけた枝を、毎年株元から出る新しい枝に更新していく作業が必要となります。
夏の摘心
5〜6月に株元から伸びたシュートのうち、果実がついていない枝の先端を3分の1ほど切り返す(摘心する)と、その後に枝分かれして枝の数が増加します。翌年にはこれらの枝の先端に果実がつくので、摘心を行うことで収量増加の効果が期待できます。ただし、摘心の時期が遅れると、逆効果になることがあるので注意が必要です。また、二季なり性の品種では、摘心すると、9月頃の収穫ができなくなるので、摘心は行いません。
剪定するときのコツと注意点
側枝の発生を促します
春に地際から勢いよく伸びたシュートは、5月になったら長さ60〜70㎝ほど残して先端を切り詰め、側枝の発生を促します。
果実をつけた枝をカット
夏に果実をつけた枝は、遅くても冬までには株元から枯れてしまいます。収穫が終わった枝は、冬の剪定を待たずに、早めに株元から切り取ってしまっても構いません。
果実がならなかった枝は翌年利用
先端付近に果実ができた枝の多くは冬までに枯れますが、果実がならなかった枝は枯れずに残ります。この残った枝は、間引いたり先端を切り詰めたりして、翌年果実をならせる枝として利用します。
Credit
監修/三輪正幸
1981 年岐阜県生まれ。千葉大学環境健康フィールド科学センター助教。専門は果樹園芸学。NHK「趣味の園芸」の講師をつとめ、家庭でも果樹を気軽に楽しむ方法を提案している。著書に『かんきつ類―レモン、ミカン、キンカンなど (NHK 趣味の園芸12 か月栽培ナビ(6))』(NHK 出版)、『果樹&フルーツ 鉢で楽しむ育て方』(主婦の友社)、『おいしく実る! 果樹の育て方』(新星出版社)、『果樹&フルーツ 鉢で楽しむ育て方』(主婦の友社)などがあり、監修書に『からだにおいしい フルーツ便利帳』(高橋書店)、『小学館の図鑑 NEO野菜と果物』(小学館)などがある。
構成と文・童夢
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