常緑高木で銀色の葉が美しいオリーブは、庭木としても人気のある果樹のひとつです。海外ではイタリア、国内では小豆島がオリーブの産地として知られています。生の果実が出回ることはあまりないので、自分で育てれば収穫・加工を楽しむことができます。ここではオリーブを増やす方法を紹介します。監修:三輪正幸(千葉大学環境健康フィールド科学センター助教)
目次
オリーブを育てる前に知っておきたいこと
オリーブは、初心者にも育てやすい果樹のひとつですが、栽培を始める前に、上手に育てるための基本情報を知っておきましょう。
オリーブの基本データ
学名:Olea europaea
科名:モクセイ科
属名:オリーブ属
原産地:地中海沿岸〜中東一帯
和名:オリーブ
英名:olive
開花期:5月中旬〜6月中旬
花色:白
植え付け時期:2月中旬〜3月(関東以西の温暖地)
収穫期:10〜11月
耐寒気温:−12℃
オリーブは地中海沿岸地域、中東一帯が原産といわれる常緑高木で、紀元前3世紀には栽培されていたといわれています。日本には江戸時代に伝えられました。温暖な気候を好みますが、比較的寒さに強く、−12℃までの寒さにも耐えるという報告もあります。関東以西の温暖地では庭に植えて栽培できます。高冷地や寒冷地では鉢植えにして、寒さの厳しい時期には室内に置きます。ただし、ある程度寒さに当てないと花・果実をつけないため、1月の平均気温が10℃以下になるような場所で管理しましょう。また、剪定しないで放任すると木が大きく育って8m以上になることもあるため、幼木の頃から剪定して高さ2.5m程度に仕立てるとよいでしょう。
オリーブの果実は生のままでは渋くて食べることに適していません。そのため、収穫した果実は塩漬けやピクルスなどで楽しみます。果実に含まれるオイルの割合(含油率)は5〜30%ほどなので、ボトル1本(500ml程度)のオリーブオイルを集めるためには、非常にたくさんの果実が必要になります。
オリーブを増やすために必要な準備
挿し穂を準備する
挿し木に使う挿し穂は、剪定で切り落とした枝を低温で保存したもの、あるいは挿し木の直前に切り取った枝から作ります。いずれの場合も挿し穂に使う枝は、前年に伸びた若い枝を用います。剪定で切り取った枝を利用する場合は、剪定後、長い枝のまま乾燥させないようにしながら低温の場所で保存します。濡らしたキッチンペーパーなどに包み、ポリ袋などに入れて冷蔵庫の野菜室で保存してもよいでしょう。
挿し木をするための道具
剪定ばさみ:枝を切り出すときや切り分けるときに使う
切り出しナイフ:切り口をきれいに整える
バケツ:切り出した枝を水につけるときに使う
大きめの平鉢:挿し穂を挿すための鉢
鹿沼土小粒・挿し木用土:挿し穂を挿すための用土
軽石:平鉢の通気性などを高めるために敷く
鉢:根が出た苗木を1株ずつ移植して育苗するときに使う
栽培用土:育苗するための用土。オリーブ専用のもの、またはブレンドしたものを利用する。
オリーブを増やす方法と適切な時期は?
オリーブは挿し木で増やす
オリーブは一般的に挿し木で増やしますが、挿し木を行う時期によって〈休眠枝挿し〉と〈緑枝挿し〉があります。休眠枝挿しは剪定で切り落とした枝を保存したものから挿し穂を作ります。また、春、挿し木直前に切り取った枝から挿し穂を作って用いることもできます。緑枝挿しでは、初夏になって成長が止まった新梢から作った挿し穂を用います。
休眠枝挿しが一般的
オリーブは一般的に〈休眠枝挿し〉が適しています。オリーブの芽吹きはサクラの開花と同時期です。休眠枝挿しは芽吹き直前の3~4月(温暖地)または4~5月(寒冷地)、つまりサクラの開花直前が適期となります。緑枝挿しをする場合は、枝の成長が止まった6月中旬〜7月が挿し木の適期となります。
挿し木(休眠枝挿し)で増やすための具体的な手順
挿し木の手順
①枝を剪定する
剪定で切り落とした枝のうち、充実した徒長枝(幹や太い枝から上向きに勢いよくまっすぐに伸びた枝)を選び、花芽の付いた可能性がある先端から中間の枝は取り除きます。
②枝を保管する
切り取った枝は、挿し木を行うときまで長い枝のまま、乾燥させないようにして温度の低いところで保管します。濡らしたキッチンペーパーなどに包み、ビニール袋などに入れて冷蔵庫の野菜室で保存するとよいでしょう。
③枝を切り分ける
オリーブの芽吹きの時期の直前になったら、保存しておいた長い枝を長さ10cmほどに剪定ばさみで切り分けます。切り分けた挿し穂の元に近い側を、よく切れるナイフで斜めに切り、切り口をなめらかに整えます。また、挿し穂は挿し木の適期に切り取った枝から作ることもできます。挿し穂は切り口を乾燥させないように、調整したらすぐに切り口を水に浸けることが大切です。
④湿らせた鹿沼土(かぬまつち)などに挿し穂を挿す
大きめの平鉢に通気性を高めるために軽石を敷き、その上に鹿沼土の小粒を入れ、水をかけて落ち着かせます。挿し木用の用土を使ってもよいでしょう。用意した挿し穂を葉芽が2芽かくれる程度に5cm間隔で挿します。
⑤育苗する
挿し終わった鉢は木漏れ日があたる程度の半日陰の場所に置くと、1か月ほどで萌芽して、およそ3か月で発根します。枝が伸びてきても十分に発根するまでは掘り上げないほうが無難なので、翌年の3月頃まではそのままの状態で育苗するとよいでしょう。
育苗した苗木を鉢に植え付ける
①苗木の準備
苗木は鉢から抜いて根鉢を軽くほぐしておきます。
②用土の準備
鉢で栽培する場合は、市販されているオリーブ用の土を使います。鉢に鉢底ネットを敷いた上で鉢底石を3cmほどの厚さに入れ、用土を使って植え付けます。
③用土を調整
最終的に用土の表面が鉢の縁より3cmほど下がるように用土を調整し、苗木の株元が用土の表面とそろうように植え付けます。用土の高さを鉢の縁より下げるのは、水やりの際、この部分に水がたまるようにするためで、ウォータースペースといいます。
④水やり
植え付け後、必要に応じて支柱を立てて固定し、たっぷりと水やりをします。
鉢植えで育てる場合、植物の生育は植え付ける鉢の大きさで決まります。コンパクトに育てたいときは小さな鉢で、ある程度の大きさに育てたい場合は大きな鉢を選ぶようにします。基本は苗木の根鉢の大きさより一回りほど大きな鉢、具体的には7〜10号程度(21〜30cm)のものを用意するとよいでしょう。あまり大きなものを使うと、移動や植え替えなどの作業時に負担が大きくなります。
鉢の材質にはさまざまなものがあります。安価で軽く扱いやすいのはプラスチック製ですが、通気性や水はけといった植物の生育を考えると素焼き鉢が向いているといえます。
庭への植え付けの方法
①穴を掘る
植え付け1〜2か月前までに、植え付け場所に深さ・直径ともに50〜70cmの穴を掘ります。
②土の準備
掘り上げた土には、pH6.5〜7.0になるように苦土石灰をまきます。さらに、腐葉土などの有機物を18Lほどまいて、苦土石灰とよく混ぜ合わせて一度土を戻します。
③植え付け
苗木の根鉢を軽くほぐし植え穴に入れて、残りの土を使って植え付けます。このとき、苗木の株元が地面の高さになるように調整をします。
④水やり
植え付け後は支柱を立て、軽く枝先を切り戻し、たっぷりと水やりをします。
挿し木をするときのコツや注意点は?
はさみやナイフは清潔にする
挿し木の場合、切り口から雑菌などが入り込まないようにすることが大切です。ですので、枝や幹を切るハサミやナイフは、清潔でよく切れるものを使うようにします。使う前に火であぶったり、消毒液などに浸したりして、殺菌しておくとよいでしょう。
乾燥が大敵
挿し木は、発根するまで乾燥しないように注意してください。乾燥してしまうと発根しにくくなってしまうからです。土の表面が乾燥してきたら、水やりをしましょう。
挿し木はむやみに触らない
挿し木は、土に挿した穂木をむやみに触らないようにしましょう。根が出てきたかどうか確認するために穂木を抜くのは絶対にしないでください。
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Credit

監修/三輪正幸
1981 年岐阜県生まれ。千葉大学環境健康フィールド科学センター助教。専門は果樹園芸学。NHK「趣味の園芸」の講師をつとめ、家庭でも果樹を気軽に楽しむ方法を提案している。著書に『かんきつ類―レモン、ミカン、キンカンなど (NHK 趣味の園芸12 か月栽培ナビ(6))』(NHK 出版)、『果樹&フルーツ 鉢で楽しむ育て方』(主婦の友社)、『おいしく実る! 果樹の育て方』(新星出版社)、『果樹&フルーツ 鉢で楽しむ育て方』(主婦の友社)などがあり、監修書に『からだにおいしい フルーツ便利帳』(高橋書店)、『小学館の図鑑 NEO野菜と果物』(小学館)などがある。
構成と文・新井大介
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