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アセビに必要な肥料について、正しい与え方と注意点を知りましょう

アセビに必要な肥料について、正しい与え方と注意点を知りましょう

春先に、鈴のような小さな花を枝いっぱいに咲かせるアセビ。白い花がおなじみですが、最近では赤やピンクのかわいらしいものも、よく見かけるようになりました。山間部に自生しているほど、アセビは丈夫で育てやすいため、初めて庭木を育てるという人にもおすすめです。鈴なりの花を上手に咲かせて楽しむには、ちょっとしたコツがあります。そこで、アセビの肥料の与え方や気をつけたい点などを、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。

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アセビを育てる前に知っておきたいこと

アセビは常緑性の低木です。アシビ、アセボとも呼ばれ、日本の山地にも自生しています。半日陰でもよく花が咲く丈夫な常緑樹なので、庭木や生垣などにもよく利用されています。

常緑樹としては寒さに強く、大気汚染、潮風、乾燥にも強いため、条件の悪い場所にも植えることができるのが特徴です。成長は早くなく、株は株立ち状にこんもりして自然とまとまるので、管理の手間が少なくてすむこともガーデニング初心者には魅力です。

アセビの基本データ
学名:Pieris japonica
科名:ツツジ科
属名:アセビ属
原産地:日本、中国東部、台湾
和名: 馬酔木(アセボ)
英名:Japanese andoromeda
開花期:2月下旬~4月中旬
花色:赤、ピンク、白
発芽適温:15℃前後
生育適温:15~25℃

アセビは苗から育てるのが一般的で、鉢植えでも地植えでも栽培できます。植えつけは、新芽が伸び始める前の3~4月、または10~12月上旬(寒冷地では10月~11月中旬)が適期です。

シェードガーデン(日陰を活用する植物栽培)としても人気を集めるほど、アセビは日陰でもよく育ちます。しかし、日照が少ないと、やはり花数が少なくなるため、午前中は日が当たる半日陰か、日なたで育てるとよいでしょう。また、暑さや乾燥が苦手なので、西日が当たる場所や冬に、乾風が当たる場所もおすすめしません。

アセビは株全体に、アセトポキシンという有毒成分を含んでいます。そのため、和名の「馬酔木」は、葉を食べた馬が毒にあたって酔っ払ったようにふらふらしてしまったことに由来するとされています。昔はこの有毒成分を害虫駆除のために利用していたほど。葉や茎を食べない限り接触しても無害ですが、ペットや子どもがいる家庭は、誤食にはくれぐれも注意してください。

アセビには栄養を補うための肥料が必要です

日本の山間部に自生しているくらいなら、そんなに手をかけなくても勝手に育ってくれるのでは?と思うかもしれません。でも、どの植物も生きていくためには、光、水、栄養は欠かせません。

なかでもアセビをはじめ、花を咲かせる植物は開花のために栄養をたくさん使うので、栄養不足になりがちです。土耕栽培の植物は、土に含まれるさまざまな栄養素を根から吸収します。そして、土にもいろいろな種類があるため、その質も含まれている栄養素も異なります。園芸店やホームセンターに並んでいる市販の培養土も同じです。

土に植えたアセビは、私たちが食事をするのと同じように、根から必要な栄養素を吸収し続けます。土はそれらの栄養素を生産できるわけではないので、次第に栄養素に偏りが生じたり、栄養不足になったりしてアセビの生育に影響を及ぼすことがあります。その足りない栄養素を補うのに欠かせないのが、肥料なのです。

種類を知ることが、適した肥料選びの近道

肥料とひと口にいっても、さまざまな種類があります。植物の種類によって必要とする養分の種類や成分の割合が異なるため、それに合わせて多様な肥料が作られています。アセビに必要な肥料を入手する前に、まずは肥料について知っておきましょう。

肥料は大きく分けて、有機質肥料と無機質肥料の2種類があります。

有機質肥料
油かす、骨粉、魚かす、鶏ふん、牛ふんなど、動植物由来の有機質を原料とした肥料です。そのため、独特のにおいがします。土壌中の微生物によって分解されてから植物に吸収されるので、効果はゆっくりと現れます。

無機質肥料(化学肥料)
鉱物などの無機質を原料として、化学的に合成した肥料です。化学肥料、化成肥料ともいいます。におわず、初心者にも扱いやすく、効果が早く現れるのが特徴です。

肥料は、その効き方から、緩効性(かんこうせい)肥料、遅効性肥料、速効性肥料の3種類があります。

緩効性肥料
成分の溶け出すスピードが“緩やか”で、一定期間“効きめ”が持続する肥料です。

遅効性肥料
施してからしばらく時間が経って、“ゆっくり”と“効きめ”が出始める肥料です。土中の微生物が分解することで成分が溶け出すため、それまでに時間がかかるからです。有機質肥料のほとんどがこの遅効性です。

速効性肥料
与えると“速やか”に成分が吸収され、すぐに“効きめ”が現れる肥料です。そのぶん、効果がなくなるまでの時間も早く、持続性はありません。

肥料は形状も粒状、粉状などさまざまですが、大きく分けると固形と液体の2タイプがあります。

固形肥料
粒状や粉状、小石ほどの大きさのものなどで、有機質肥料と無機質肥料のどちらにもあります。土に混ぜ込んだり、上からまいたり、置いたりして使います。

液体肥料
無機質肥料の一種で、水で希釈して使う液体タイプの肥料です。液体肥料と混同しやすいものに活力剤がありますが、これはいってみれば、人間にとってのサプリメントのようなもの。栄養のベースになる“食事”=肥料の代わりにはならないので、間違えないようにしましょう。

植物に必要な、肥料の三大要素

人間の成長に欠かせない栄養素と同じく、植物にも育つためにはさまざまな栄養素が必要です。なかでも特に大切なのが、「チッ素(N)」「リン酸(P)」「カリ(K)」の3つで、肥料の“三大要素”といわれています。

N:窒素(nitrogenous) 一般的に「チッ素」と呼ばれています。枝や葉の生育に欠かせない養分で、“葉肥(はごえ)”ともいわれます。

P:リン酸(phosphate) 一般的に「リン」あるいは「リン酸」と呼ばれています。花や実のつきをよくするのに欠かせない養分で、“花肥(はなごえ)・実肥(みごえ)”ともいわれます。

K:カリウム(kalium) 一般的に「カリ」と呼ばれています。根の生長を促し、茎や葉を丈夫にする働きがあり、“根肥(ねごえ)”ともいわれます。

この3つは上記の順で「N-P-K」と示され、市販されている肥料の袋には、その配合比率だけを数字で大きく「6-6-6」などと書かれたものがあります。これはチッ素(N)、リン酸(P)、カリ(K)が6%ずつ含まれた肥料であることを表しています。

N-P-K以外に必要な要素は?

三大要素が植物に欠かせない“多量必須要素”であるのに対し、必要量は少ないものの極端に不足すると生育に影響する養分として、“中量必須要素”と“微量必須要素”があります。中量必須要素の代表的なものは、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg・苦土)、イオウ(S)など。微量必須要素の代表的なものは、亜鉛(Zn)、塩素(Cl)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)などです。三大要素にこれらを加えた肥料が、いろいろ市販されています。

こんなタイプの肥料が、アセビにおすすめ

植物は原産地の気候や環境に則して育てると、すくすくと生長します。肥料についても同様で、よく生えている土地や場所の“土”の状態、つまり含まれている栄養分になるべく近づけることが大切です。

アセビの場合、山間部に多く自生しています。山の土をちょっと想像してください。枯れ葉や枝、樹皮などが土の上に落ち、それらが土中の微生物によって分解されていきます。そのような“腐植質”に富んだ土壌は、まさに自然が生み出す“堆肥(堆積した肥料)”が豊かで栄養たっぷりの状態。アセビが好む土壌も、このような栄養分を含むものだということを、まずは知っておいてください。

では、具体的にどのような肥料がアセビによいかというと、リン酸とカリが多めの緩効性肥料です。リン酸とカリは茎や根が丈夫に育ちますが、チッ素が多すぎると葉や茎が軟弱になり、徒長(必要以上に間延びして伸びること)したり、花つきが悪くなったりします。

肥料を与えはじめる、時期とタイミング

肥料の与え方には、大きく分けて「元肥(もとごえ)」と「追肥(ついひ)」の2種類があります。

元肥
種まきや植えつけ時の土に混ぜ込んで与える、最初の肥料です。元肥には、緩やかで長く持続する緩効性肥料を使います。

追肥
元肥は、植物の生育とともに効果が薄れてきます。そのため、生育途中で補う肥料のことを、追肥といいます。

アセビへの肥料の与え方が知りたい

実際に、アセビを育てる過程での肥料の与え方を見てみましょう。

アセビの苗木の植えつけは3~4月、または10月~12月上旬(寒冷地では10月~11月中旬)が適期です。鉢植えや地植えを問わず、植えつけ時には元肥として緩効性肥料(N-P-K=10-10-10)を加えて、土をよく耕しておきます。ただし、鉢植え栽培など市販の培養土を使用する場合は、あらかじめ、元肥が入っているものがあります。よく確認して、入っていない場合だけ加えるようにしてください。

植えつけ以降の肥料は、春と秋の年2回与えます。春は、花が終わって新芽が伸び出す前の3月下旬から4月上旬に、ゆっくりと穏やかに効く緩効性化成肥料を施します。秋は、花芽分化が終わって涼しくなる9月下旬~10月下旬に、春と同様の肥料の“半量”を施します。

アセビは、秋に花穂(長い花軸に稲穂のように集まった花の集団。花序ともいう)ができるのでそれまでに十分栄養を与えると立派な花穂が育ち、花つきがよくなります。そのため、春の生育期は多く与え、秋は控えめにするのがコツ! 1年で与える肥料の量を10とした場合、春:7.5、秋:2.5の割合です。

アセビに肥料を与えるときの注意点は?

アセビに限らず、植物は基本的に根から肥料成分を吸収します。そのため肥料を施す際は、幹に近いところだけではなく、根が広がっている範囲に施すのがポイントです。

一般的に、根の広がる範囲と葉の広がる範囲は同じような傾向があるので、地植えの場合は、葉が広がっている範囲の土の部分全体に肥料を施すとよいでしょう。鉢植えの場合は、鉢土の全体に均一に施せばOKです。

肥料をあげすぎると「肥料やけ」が起きます

アセビに限らず、どの植物も肥料を多く与えすぎると、土中の肥料成分の濃度が高くなって、根が傷む「肥料やけ」が起こる可能性があります。肥料やけになってしまうと、場合によっては枯れてしまうことも。そんなトラブルが起こらないように、肥料を与えるときは、袋に記載されている説明書を確認し、使用量の目安と使い方(土に混ぜる、水で希釈するなど)を守りましょう。

鉢植えも地植えも追肥の頻度に、特に決まりはありません。日々、アセビをよく観察し、栄養状態を見ながら、水やりと同様に“過保護”にならないよう注意して行いましょう。

Credit

記事協力

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。

構成と文・岸田直子

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