すっきりした姿と可憐な花姿で、春の訪れを告げてくれるフリージア。好きな香りランキングの上位に選ばれる芳香も魅力です。種類豊富で育て方も難しくないため、ガーデニング初心者にもおすすめ。そんなフリージアの花を美しく咲かせるには、土が重要です。それほど神経質になる必要はありませんが、いくつか注意したい点はあるため、フリージア栽培に適した土について、詳しく紹介します。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
フリージアを育てる前に知っておきたいこと
フリージアは球根植物の多年草です。原産地は南アフリカで、数種類の原種が知られています。自生地の多くは夏に乾燥し、冬に湿潤となる地中海性気候。ですから、フリージアは温暖な気候を好み、寒さにはそれほど強くないのが特徴です。その性質をよく理解して育てれば、栽培はそれほど難しくありません。
フリージアの基本データ
学名:Freesia
科名:アヤメ科
属名:フリージア属
原産地:南アフリカ
和名: 浅黄水仙(アサギズイセン)、香雪蘭(コウセツラン)
英名:Freesia
開花期:3月中旬~5月上旬
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、紫、複色
発芽適温:20~25℃
生育適温:10~20℃
切り花の出回り時期:11~4月
花もち:7日前後
フリージアは球根から育てるのが一般的で、日当たりと風通しのよい場所を好みます。日当たりが悪い場所で育てると、茎が徒長し、花つきが悪くなってしまうので注意しましょう。
鉢植えでも地植えでも栽培できますが、冬は3℃以下にならない場所が理想です。鉢植えの場合は軒下や室内など霜の当たらない場所へ移し、地植えの場合は霜が下りたり土が凍ったりするようなところでは、腐葉土などで防寒する必要があります。
球根は、9月下旬から11月中旬に植えつけます。鉢植えの場合は9月下旬から植えつけて構いませんが、地植えの場合は寒い時期に茎が長く伸びていると寒害を受けやすいので、11月上旬から中旬に植えつけます。その際、フリージアは連作を嫌うので、同じアヤメ科の植物を植えた土壌を避けることが大切です。
秋植え球根のフリージアの生育サイクルは、秋に定植して発芽、生育し、春に開花したあと、夏に地上部が枯れて休眠します。葉が枯れるまで十分に日に当てて育てることで、翌年に備えられるようになります。休眠期間は、球根を掘り上げて乾燥させ、新たな球根を冷暗な場所で保管すれば、翌シーズンも楽しめます。
よい土は、水はけ、水もちに優れています
植物を育てるために“用”いる“土”を「用土」といいます。用土にはさまざまな種類があり、それらを何種類かブレンドしたものを「培養土」といいます。
土は“植物のベッド”とよくいわれます。フカフカと柔らかく、湿りすぎでも乾きすぎでもなく、快適に呼吸できる――それが“よいベッド”です。
具体的には、栄養分に富み、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた土が「よい土」です。
そして、このような土は、“団粒構造”になっています。団粒構造とは、小さな土の粒子が集まり固まって、団子のような小さな固まり(団粒)を形成して重なっている状態を指します。団粒の中には小さな隙間が、団粒と団粒の間には大きな隙間があります。それらの隙間が、排水、通気、保水、保肥に役立つのです。
園芸店やホームセンターには、あらかじめブレンドされた培養土のほかに、赤玉土や黒土、腐葉土など、さまざまな用土が販売されています。初めてガーデニングに挑戦する場合は、どの用土を買えばいいのか、途方に暮れてしまうかもしれません。次の項で紹介する用土の特性を参考に、育てる植物や環境に合わせて、よい土を作ってください。
種類を知ることが、適した土作りへの近道
土の種類やその特徴を知ることは、植物栽培に必要な「よい土」作りに役立ちます。ここでは、園芸店やホームセンターでよく見かける用土について紹介します。
【基本用土】
土をブレンドするときに、ベースになるものです。
黒土
一般的に畑用の土として知られている、黒い土。柔らかく、保水性と保肥性に富みますが、排水性と通気性はやや劣るため、単体で使うことはあまりありません。
赤玉土
関東ローム層の赤土を玉状に乾燥させたもので、粒の大きさも大・中・小があります。通気性、保水性、保肥性に優れているため、ガーデニング用の基本の土として親しまれています。
鹿沼土
その名のとおり、栃木県鹿沼地方でとれる、火山性の玉土。通気性、保水性、保肥性に富んでいます。酸性なので、山野草やブルーベリー、サツキ、ツツジなどと相性がよいとされています。
【改良用土】
基本用土をよりよい性質にするために、加えるものです。
腐葉土
広葉樹の落ち葉を腐熟させたもの。有機質に富んでいるため土中の微生物の働きを高め、土を肥えさせてくれます。また、排水性、保水性、保肥性も高めてくれるので、土質改良に有効です。
ピートモス
水ゴケなどが泥炭化したもので、腐葉土とよく似た性質。軽くて、排水性、保水性、保肥性に富むため、室内園芸によく使われます。酸度が強いので、酸性の土を好む植物には「酸度未調整」のもの、一般的な草花には「酸度調整済み」と袋などに表記されたものを使い分けるようにしましょう。
堆肥
わらや落ち葉、枯れ草などを腐熟させたもので、通気性、排水性をよくする働きがあります。腐葉土よりも有機質の肥料分が含まれているので、花壇や畑によく用いられます。
【調整用土】
バーミキュライト
蛭石(ひるいし)を焼いて発泡させたもので、軽いのが特徴。通気性、保肥性に優れ、保水性もよいとされています。
パーライト
真珠岩(しんじゅがん)を高温高圧で焼成したもので、軽くて無菌。通気性と排水性に富むため、水はけの悪い用土に混ぜて使います。
砂
排水性や通気性を高めるために使います。桐生砂(きりゅうすな)、矢作砂(やはぎすな)、富士川砂など種類はいろいろありますが、川砂が一般的。
【特殊用土】
水ゴケ
湿地に自生する水ゴケを乾燥させたもので、保水性と通気性に優れています。水をたっぷり含ませてから使います。
※「○○用」として市販されている培養土は、これらの用土の特性を生かして、配合割合を各社で研究してブレンドしたものです。
元気に育てるための、フリージアの土作り
温暖な南アフリカが原産地のフリージアは、日本の梅雨時のようなジメジメした湿気は苦手です。したがって、水はけと通気性に富み、適度に保水性のある土を好みます。その点さえ気をつければ、土作りはそれほど難しくないので安心してください。
フリージアを鉢植えで育てる場合は、市販の草花用培養土で問題ありません。元肥が入っているものなら、そのまま使えて重宝します。フリージア栽培に限りませんが、清潔で新しい培養土を用意してください。以前に草花を育てたときの土が、まだ鉢やコンテナに残っているから、と使い回すと病原菌が潜んでいることがあるからです。
特にフリージアは連作を嫌うので、同じアヤメ科の植物を植えた土壌を避けることが大切です。
自分で用土をブレンドして作る場合は、赤玉土(小)と腐葉土を6:4の割合で混ぜるか、赤玉土(小)、腐葉土、バーミキュライト(パーライト小粒)を6:3:1の割合で混ぜるとよいでしょう。
地植えする場合は、川砂やパーライトなどを混ぜるなどして、水はけをよくします。
フリージアは、ほかの多くの草花と同じく弱酸性の土を好むので、中和のために、苦土石灰(くどせっかい)か消石灰を混ぜたりするのも有効です。球根植えつけの2週間前までに行いましょう。ただし、市販の草花用培養土はあらかじめ酸性度の調整がされているので不要です。いずれの場合も、あらかじめ元肥として緩効性肥料を施しておきましょう。
フリージアの、植えつけの時期
種を鉢で育てる場合や、市販の苗から育て始めるときは、植え替え作業(定植)が必要になります。また、種類によって、植え替えの時期と頻度が異なります。
フリージアは秋植え球根植物なので、球根苗から植えつけて育てます。鉢植えの場合も地植えの場合も、株間を適切に保って植えれば、生育途中に特に植え替える必要はありません。
植えつけの適期は9月下旬から11月中旬ですが、鉢植えと地植えでは多少異なります。なぜならフリージアは暖かい気候でスクスク育つ一方、寒さには強くないという性質があるからです。
鉢植えの場合は、寒害を受けない場所へ移動させることが可能なため、9月下旬から植えつけても問題ありません。
地植えの場合、9月下旬に植えてしまうと、冬までに茎が大きく伸びて寒さの被害を受けやすくなるので、なるべく遅めの11月上中旬頃に植えつけるとよいでしょう。寒害を受けにくくきれいに育ちやすくなります。植えつけが多少遅れても地温が上がってくる頃にぐんと根をのばすので、あまり心配はいりません。早く植えすぎるよりも、芽の小さい状態で冬を越すほうがベターです。
ただし、フリージアは基本的に植えっ放しで育てるのには向かない植物です。特に地植えの場合は少なくとも2~3年にいちどは球根を掘り上げて、植え替えを行います。連作障害が出ると、病気になりやすく、生育が悪くなります。
掘り上げの適期は、葉が黄色くなってしおれてきた6月上旬頃です。地植えは葉が腐ると土中の球根の位置がわかりにくくなるので、葉が残っているうちに棒などを立てて目印にしましょう。「掘り上げ」については、「フリージアを増やしたい! 最適な時期と方法、注意点を知っておきましょう」で詳しく説明しているので、そちらを参考にしてください。
土のほか、植えつけ時に準備したいもの
フリージアの球根を鉢や庭に植えつけるときは、土以外にも必要なものがあります。事前に以下のものを用意してきましょう。
準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・適した土(前述のとおり)
・フリージアの球根
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
・支柱
・ラベル
*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・5号(15㎝)以上の鉢、または横長プランター
・鉢底ネット
・鉢底石
品種によっても異なりますが、フリージアは切り花として品種改良されているため、草丈は40~80㎝と長くなります。風が吹くと茎が倒れたり折れたりすることも。また、小さな球根のわりには大きな花をつけるので、開花時にぐらついたり、株元から折れたり倒れる心配があるので、支柱を添えて折れないように育てましょう。
フリージアの植えつけ方法が知りたい
実際に、植えつけの手順を見ていきましょう。球根の植えつけは、鉢植えの場合は9月下旬から、地植えの場合は11月上旬から中旬が最適です。
鉢植えの場合の手順
①鉢に鉢底ネットを入れ、排水性をよくするために鉢底石を多めに敷き、培養土を鉢の上端から8~10㎝くらい入れます。
②培養土の上に球根を並べます。深さは球根1個分ほど。5号鉢に5~8球程度、65㎝プランターなら15~20球が目安です。
③球根の上に覆土をします。
④鉢底から水が出るまで、たっぷりと水やりします。
⑤品種名や植えつけ日を書いたラベルを挿しておきましょう。
地植えの場合の手順
①元肥を施しておいた土に、球根を植えていきます。深さは球根の上に3㎝ほどの土がかかる程度、10~15㎝の間隔で植えます。
②球根の上に覆土をします。
③たっぷりと水やりをしましょう。
④品種名や植えつけ日を書いたラベルを挿しておきます。
植えつけをするときの注意点はこちらです
フリージアの球根は、らっきょうのような形をしています。植えつけの際は、先が細くなっているほうが上向きになるように植えます。
また、植えつけ時は、鉢植えも庭植えも、まずは“浅め”に植えることがポイントです。最初は覆土を薄くしておき、春になって発芽し、葉が数枚出たところで茎が倒れないように増し土(株元に土を盛ること)します。このときに“あんどん”状に支柱を立てて、誘引しておくと、草丈が高くなっても倒れるのを防げます。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・岸田直子
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